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六四話 文化祭を見て回ろう



 お昼ご飯がまだだったこともあり、俺と有栖はまず食べ物を買ってから他の出店を見て回る事にした。

 有栖のクラスのたこ焼きを買ったり、かなり美味しいとの評判を聞いた焼きそばを買ったりして、それを食べ終わったら次はレジャー系の出し物を見て見て回る事になる。


「色々あるけどどれに行く?」

「……全部面白そう」


 校内の地図を見ながら次の目的地を決めにかかる。

 が、各学年4クラスあるのが3学年で12個、それに加えて各部活の出し物があることも加味するとそこそこの数がある。

 一日で全てを回りきるのは、待ち時間も考えるとどう頑張っても無理なので、しっかり楽しみたいならどこに行くか考えなくてはならない。


「……三年生はお化け屋敷やってるのか――」

「絶対行かない」

「お、おう。そうだな」


 行こうと言った訳でもないのに、かなり食い気味に否定を入れる有栖。

 夏休みに行ったお化け屋敷がそんなにトラウマになっていたのか、顔も少しこわばっている。


「……そういえば、舞香は部活で何かやるって言ってた」

「ああ、豊谷さんか。ちなみに何部なんだ?」

「えーっと、漫画研究部? だったと思う」

「へぇー、ちょっと意外な組み合わせな気もするけど、面白そうだし、せっかくだから行ってみるか」

「ん」


 というわけで目的地が決まったので、今いる校舎から漫研の部室がある校舎の3階まで移動する。

 移動経路もなかなか混雑しており、この学校の生徒だけでなくこの学校の生徒の親御さんや、他校の生徒などで賑わっていた。


「かなり繫盛してるな」

「ん、人多い」


 地図を見て漫研の部室と思われる教室にたどり着いたのだが、入るまでに列が形成されておりその人気具合を感じさせられる。

 一体何がそこまでここを人気にさせているのか気になるし、せっかく来たので俺たちもその列の最後尾に並ぶ。


 そこから有栖と駄弁りながら時間を潰して20分くらいした頃、俺たちはようやく教室に入ることが出来た。




「あ、有栖さんと木戸先輩、来てくださったんですね」


 ようやく自分達の番が回ってきた時、丁度豊谷さんが対応してくれるタイミングだったようで、有栖と俺の顔を見た瞬間嬉しそうに話しかけてきてくれた。


「ん、……ちなみにここは何するの?」

「あれ、一応教室に入るところの看板に書いてたんだけどな。まあ簡単に説明すると、うちらの部活と手芸部とが合同で簡単なコスプレ体験をやってるんです」

「なる、ほど?」

「まあそうですね、聞くよりやった方が早いのでこっちに来て下さい。あ、木戸先輩は向こうでお願いします」


 と言われて俺と有栖はそれぞれ別々の場所に連れていかれる。二人が分けられたのは衣装を着るからだろう。






「コスプレは二人で合わせたやつが良いかな、となると……これなんてどう?」


 連れられた所にいた三年生の男子部員に、明らかに王子みたいな格好の衣装を体の前に持って来て合わせられる。


「彼女さんにはお姫様の格好をしてもらって、撮る。……うん、いいね」


 そう言って彼は近くにいた女子部員にもそれを伝えている、おそらく有栖の格好もそれに合わせたものにするためだろう。


「いいね、って……そもそも付き合ってないんですけど」

「え、付き合ってないの? 君たちってあの有名な二人だよね。二人で一緒に文化祭も回ってるし、それ以前に三年生の間でも付き合ってるんじゃって話になってたけど」

「有名って……話をするのは勝手ですけど、付き合っては無いですよ」


 有栖は一年生、俺は二年生なのに三年生にまでそんな話が広がっているのは、偏に有栖の話題性が強いからだろう。

 そうだとしても、まさかそんな風に思われているとは思わなかった。


「ふーん、そうなんだ。……じゃあ俺が氷室ちゃんの彼氏に立候補してもいいかな」

「……」

「おっと、冗談だって、そんな怖い顔しないでよ」


 どう考えても冗談でそんなことを言っているのなんて分かりきっていたのに、どうやら俺は顔をしかめてしまっていたらしい。


「――よし、衣装はこんな感じかな。まあ頑張ってよ、少なくとも僕は応援してるからさ。王子様」

「……からかうのはやめてください」

「ハハハ」


 そうして着替え終わった鏡に映る俺は、ザ・王子様のような服装に王冠を頭に乗せた格好になっていた。

 残念なのは、服装はかなり格好いいのに着ている本人の顔が普通なところくらいだろうか。


 有栖はどうやらまだ着替え終わっていなかったようで、それを待つ間にこの部の部員が作ったであろう漫画を買って、読んで待つことにした。

 自分と同じ高校生が描いたとは思えないほど絵が上手く、世界観もしっかりしたストーリーに感心しながら読み進めていると、不意にトントンと肩を叩かれる。


「……着替え終わった」

「ん、お疲れ様――っ!?」


 話しかけられた声も、振り向いた先にいたのも間違いなく有栖なのだが、その服装は濃い藍色の裾が長いフリフリのドレスで、まるで異国のお姫様のような美しさがあった。


「似合ってる……って言ったらありきたりになっちゃうけど、有栖の雰囲気と凄くマッチしてて良いと思う」

「……ありがとう、優佑も似合ってて格好いい」


 そうして二人で撮った写真は、自分の体験してきた文化祭の中で思い出に残る一枚となったと思う。











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