六三話 去年と変わったところ
「…………ご注文は」
確かにこの前瑠奈さんと麗奈さんは文化祭に来ると言っていたが、なぜこんなタイミングで……と言いたいところをグッとこらえる。
「おお、ホントに木戸先輩が執事服着てるんですね」
「とても似合ってる、です」
俺の執事服服姿をまじまじと見てからそんな感想を言う双子達。
「ん、似合ってる」
そんな二人と一緒になって、うんうんと頷きながらそんな言葉を漏らす有栖。
「……あの、ご注文を」
「いつもは私たちが店員側だけど、木戸先輩が店員さんをしているのは新鮮でいいですね!」
「料理もできるですし、うちの喫茶店でも働けるです」
「そうだね! 木戸先輩が執事服を着るなら私達もメイド服を……」
「私は恥ずかしいのでいつもの制服で大丈夫です」
注文をそっちのけでそんな事を言い出す二人。
有栖もそれに便乗して「なら私はお店の常連客になる」なんて言い出した。
なるほど、そっちが注文する気が無い冷やかしの客ならこちらもそれ相応の対応をしてやろう。
悪ノリしている三人を無視して裏に戻ろうと踵を返す。
「ごめんなさい、悪ノリしすぎちゃいました。えーっと、注文はパンケーキ三つとリンゴジュース三つでお願いします、有栖先輩もそれでいいですか?」
「ん、それで大丈夫。優佑ごめん」
「ごめんなさいです」
「注文承りました、では少々お待ち下さい」
仕方ない、素直に謝った三人に免じて許してやろう。
まあ冗談はさておき、注文を料理担当の人に持っていく。
誰かさんのおかげで昨日からそこそこに繫盛しているため、パンケーキは先に作り始めている。
先に飲み物を持って行って、少ししたらパンケーキも出来上がるだろう。
「ご注文のドリンクです」
「ありがとう(ございます)(です)」
「優佑、その格好の写真撮るのダメ?」
「あー、確か店では一般客も来る都合上写真撮影は一切禁止のルールがあるからそれは無しで頼む」
「……でもそれじゃあ鈴音に見せられない」
「うん、是非とも写真は無しの方向性で頼むな」
執事服を着ている姿を鈴音に見られてはどうなるか想像もしたくもない。
間違いなく両親にも見られてしまうだろうし、鈴音からは私も実物を見たいだとかそんな無茶振りをされるかもしれない、というか間違いなくされる。
「……衣装の買取ってできる?」
なにやら有栖がボソッと恐ろしい事を呟いている気がするが、気にしたら負けだ。というよりまさかそんなことが出来るはずがない。
「……コホン、とりあえずもう少ししたらパンケーキが出来上がるから、それを持ってきます」
店員としての口調もめちゃくちゃだが、そもそもやる予定も無かったし、なによりここに留まっていてはこの三人の話のネタにしかなりえないので、足早にテーブルから離れた。
「木戸君って年下の女の子に好かれてるんだね」
早々に裏に戻ってくると、一日目は一緒に料理を担当していたクラスメイトに話しかけられた。
料理担当班の中でも色々と仕切ってくれて、誰にでも分け隔てなく話している、これこそ陽キャみたいな人だ。
「語弊しか招かない発言はやめて欲しいんですけど」
「でも間違いでもないでしょ?」
「……反応に困るのでやめてください」
「ふふっ、木戸君って面白いね。去年も一緒のクラスだったけど全然知らなかったや」
去年も一緒のクラス……確かにそう言われれば居たような……居なかったような……
正直なところ、去年は印象に残るような事が何もなさ過ぎてあまり覚えていない。
「全然覚えてないんでしょ」
「……ごめん、なさい」
「まあ私も今年になるまで木戸君の印象ってほとんど無かったんだけどね、こんなに明るくなったのはやっぱりあの女の子が木戸君を変えてくれたからなのかな?」
「……」
隼人にからかわれたのなら、小突いたり言い返したりとなんとでもやりようはあるのだが、あまり関りの無い同級生、しかも女子ともなればどう返していいか分からない。
「ごめんごめん、からかいすぎちゃったね。――はいこれ、パンケーキ三つ、お客様に提供お願いします」
「……かしこまりました」
「ご注文のパンケーキです、どうぞ」
「おお、美味しそうですね!」
「ん、美味しそう」
「美味しそうです」
パンケーキを目の前にした反応は三人とも嬉しそうで、目を輝かせている。
味もレシピの試作段階の時に美味しかったのを確認しているので、問題ないだろう。
「ではごゆっくりどうぞ」
20分というのは思っていたよりあっという間で、有栖たちの対応をした後1、2組の接客をしていたら、もう隼人が帰ってきた。
後は隼人に仕事を引き継ぐだけなので、今日はこれでようやく自由になった訳だ。
有栖にはパンケーキを食べ終わった後、数分待ってもらう事になってしまったがそのお詫びも含めて、隼人には次の学食三回分は奢ってもらおう。
「ごめん待たせた」
「んーん、大丈夫」
「あれ、あの二人は?」
さっきまで有栖と一緒に仲良く喋っていた双子の姿は無く、有栖だけが待っていた。
「二人は別で他のところ回るって言ってた」
「なるほど、なら俺たちは昨日の分も含めて文化祭楽しもうか」
「ん」




