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六一話 それはまるで餌付けをしているような



 お粥を作るとは言ったものの、今から作るとなると鍋で炊かないといけない都合上、少し時間がかかる。

 有栖は熱が下がってきたとはいえまだまだ本調子ではないので、出来上がるまでは部屋で寝て待ってもらった。



「有栖、お粥出来たぞ」

「……んぅ」


 何度か有栖の部屋に入った事があるし許可ももらっているとはいえ、勝手に扉を開けて女性の部屋に入るというのは全くもって慣れない。

 部屋の主がその中で眠っているという事も相まって、なんだか少し罪悪感さえ湧いてくる。



「起き上がれるか?」

「……ん」


 有栖は寝ぼけまなこをくしくしと擦りながらゆっくりと上半身を起こす。



「一応味は薄い塩味だけにしたけど……梅干しとか入れた方が良かったか?」

「梅干し……欲しい」

「はいよ、じゃあ取ってくるけど、お腹空いてるなら少しくらい先に食べててくれていいからな」



 冷蔵庫の中に梅干しがあったのは、この前一緒にたこ焼きを作った時に確認済みだ。

 小さなお皿の上に大きめな梅干しを一つ乗せてから有栖の部屋に戻る。



「あれ、食べられなかったか?」


 部屋に戻った時、有栖は起き上がったままではあったものの、お粥には手を付けていなかった。


「……ん」



 思えばここですれ違いが発生していたのだろう。

 有栖はまだ熱くて食べられないという意図で頷いて、俺は有栖は自分で食べられないという意図で解釈した。

 後になって冷静になって考えれば有栖の解釈の仕方の方が正しいように感じられるが、この時は有栖を何とかしてあげたいという気持ちが大きく、少し早まってしまった。



 梅干しを乗せたお粥を少しスプーンですくい、ふーふーと息を吹きかけてある程度冷ましてから有栖の口へとスプーンを運ぶ。


 有栖は少し恥ずかしそうに躊躇ってはいたものの、口を開いてパクリとお粥を食べた。



「……おいひぃ」

「それは良かった……はい、じゃあ次」


 それ以降も、スプーンで一口分すくったお粥を有栖の口に運んではそれをパクパクと食べてくれる有栖。

 途中からはスプーンを持っていく前から口を開けて待っているものだから、なんだか雛鳥にご飯をあげる親鳥になった気分だった。


 もしくは小動物を餌付けしているような……



「……? どうしたの?」


 邪念を振り払うために頭を振ると、それを疑問に思った有栖が口を開けたまま首をかしげる。


「い、いや、なんでもないよ――はい、これで最後」

「……ん、美味しかった。ありがとう」

「どういたしまして、じゃあ俺は食器片付けてくるよ」



 空になった食器とコップをお盆に乗せて部屋を出る。

 それらを綺麗に洗ってもう一度部屋に戻った時には、食べた後だからか有栖はまた眠りについていた。



 有栖が眠ったからには、これ以上ここにいても邪魔になってしまうので、俺は荷物を持って帰る事にする。


「……おやすみ、また明日」

「…………ん」










 次の日、昨日の夜まで空を覆っていた雲はようやく通り過ぎてくれたようで、朝から太陽がこちらを覗いていた。


 昨日と同じく休日なのに早めに起きて学校に行く準備を済ませる。

 昨日と違うところは今から有栖にメールをする事くらいだろうか。



 熱がまだあるにしても、熱が下がっているにしても、もしまだしんどいのに文化祭に出て倒れられては心配だ。


 もしまだ体調が悪くて寝ていては悪いので、学校に行く準備をすべて済ませた後にスマホを手に取る。



『おはよう、体調は大丈夫か?』

『おはよう、大丈夫だから今日は文化祭行く』

『なら今日は一緒に学校行かないか?』

『……疑ってる?』


 昨日無理をして学校に行こうとしていたからこそ、俺が一緒に行こうといった事に対して疑っているのではないかと思ったのだろう。

 返信と共に、猫のキャラクターがジトッとこちらを見ているスタンプが送られてくる。



『完全に疑ってない……って言ったら嘘になるけど、それ以前に有栖は病み上がりだろ? だから心配なんだよ』

『……ん、分かった。一緒に行く』

『ありがとな、じゃあもう少ししたらそっちに迎えに行くよ』




 有栖からの了承も得たところで俺は家を出る。


 有栖の家に向かっている最中、昨日有栖を抱っこしていたところを見られていたおばあさんと偶然目が合い、少し気まずい気持ちになりながらも家に到着した。




 インターホンを押して待っていると、ガチャッとドアが開き、中から制服姿の有栖と英一郎さんまで出てきた。



「おはようございま、す?」

「おはよう。なぜ儂まで、という顔をしとるの? まあ簡単に言えばお礼を言いに来たのじゃよ。昨日有栖が無理しようとしたところを止めてくれてありがとう、とな。昨日は儂も仕事で家を出ないといけなかったから優佑君が止めてくれなかったらどうなっていた事か……」


「…………ごめんなさい」


 無茶をしたので英一郎さんに叱られたのだろう、有栖は顔を少し伏せて申し訳なさそうにしている。



「まあ元気になってくれたのだからとやかくは言わん、今日は文化祭を楽しんで来なさい」

「……! ん、ありがとう」

「そういう訳じゃ、有栖の事は任せたぞ?」


「任されました、では行ってきます」

「行ってきます」



 一人でいた昨日の文化祭とは一転、今日は一日楽しくなりそうだ。


 









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