五七話 文化祭準備
文化祭まで残り1週間を切り、クラスや学校全体の雰囲気が切り替わり始めた頃、俺のクラスも例に漏れず順調に準備が進んでいた。
「じゃあお客様に提供する料理はパンケーキ、飲み物は3種類くらいを目安に考えていきましょう」
「「「おおー!」」」
それぞれの班決めでは要望通り裏方に回る事が出来ていた。
メニューが決定した今は道具も無くやる事が無くなったので、装飾準備の手伝いをしに行く事となった。
ちなみにパンケーキは作るのがそう難しくなく、ホットプレートと材料さえ教室に運べば作れるので、料理をそんなにやった事が無い人でも少し練習すればなんとかなるだろう。
「んで、隼人は接客担当から逃れられなかったと」
「嫌な事を思い出させるなよ……生徒会長だから、で行けると思ってたんだけどな」
接客担当の人は当日までマニュアルを覚える以外にする事が無いので、今は装飾の下準備をしている。
「その横暴は通じなかったって訳だ、……でもその代わり見回りは風紀委員と共同になって自由時間も増えたからいいんじゃないのか?」
「いや、見回りしながら合法的にデートする時間が短くなった」
「……そういやそういうつもりだって言ってたな」
ちなみに隼人と川口さんが付き合っている事はもう周知の事実となっている。
誰か通りかかりそうな場所でもう一度告白をしたらしい。その結果、学年どころか校内中に知れ渡ったので目論見は大成功だった訳だ。
しかし少し予想外だったのは周りからの反応で、他学年の生徒はショックを受けたり驚いていたりと想像通りの反応だったが、同じクラスの人や学年の人からは、「まだ付き合ってなかったのか、付き合ってると思ってた」「遅くない?」等々、どうやら雰囲気で察していた人も多かったようだ。
もちろん驚愕していたり、それぞれに嫉妬している生徒もいたりしていたが、概ね二人が付き合っている事を歓迎する人が多く、想像していたような荒れるという事は無かった。
「そのぶん人の目を気にする必要が無くなったから自由時間ではっちゃけてこようかな」
「知れ渡ったからって人の目は気にしろ。っていうか生徒会長ではあるんだから生徒として模範的な行動をしろよ?」
「…………陽菜からも自重するようにって言われたんだよな……ちょっとくらいよくない?」
「よかねーよ、隼人に甘い川口さんが言うならよっぽどだぞ」
こそこそとせずによくなって嬉しいのは分かるが、限度は考えてほしいものだ。
「優佑も、俺が接客担当の時間が終わった後に執事服着てもいいんだぜ?」
「それは遠慮しとくよ、料理で手一杯だからな」
「頑なだな……優佑も道連れになってくれよ」
「それは嫌だね、せいぜい執事服姿になってちやほやされるんだな」
隼人は嫌々そうに言っているが、態度はそこまで嫌がってはいない。
というのも、川口さんからも執事服姿が見てみたいと言われたそうで、彼女に言われたら……と案外乗り気になっていた。
彼女に甘々なのはまあいいが、ついでとばかりに俺を道連れにしようとしてくるのはやめて欲しい……
「そういえば氷室さんの方はどうなんだ?」
「ああ、結構いい感じに進んでるらしい。なんでも女子の方がほとんどみんな友好に接してくれるらしくて、下心がありそうな男子は全部弾き返されてるんだってさ、文化祭の準備も順調だって言ってた」
最近の有栖は入学した頃に比べて雰囲気がかなり柔らかくなってきている。
もちろんそれは良い事なのだが、そのせいか話しかけづらそうな雰囲気も無くなりつつある為、話しかけてくる人も少しづつ出てきているようだ。ちなみにこれは豊谷さんから聞いた。
「やっぱり保護者兼彼氏としては心配か?」
「誰が保護者じゃ、それと彼氏じゃない」
「いてっ」
いちいちニヤニヤとしながら言ってくる隼人にチョップを入れる。
確かに少しは心配だが、有栖はそういうところはしっかりしているので肩肘張って心配するほどではない。
「こら、そこ! 喋るのはいいけど手も動かして」
「おっと、優祐言われてるぞ?」
「いやいや、隼人じゃないか?」
「どっちもだよ、そんなにお喋りしたいなら木戸君も遠藤君と仲良く接客担当にしてあげようか?」
ニコニコしながら恐ろしい事を言う文化祭実行委員のクラスメイトに、このままふざけていたら本気で執事服を着る羽目になりそうなので、隼人から距離を取って作業を再開することにした。
一方隼人はというと、これを好機と思ったのか何度も俺にちょっかいをかけて接客担当にしようとしてきた。
……が、俺はそれを無視して作業を続けた結果、もちろん一人でふざけていた隼人は連れていかれ……接客時に執事服ではなくメイド服を着る事が決定したそうだ。
……ご愁傷様である。




