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五六話 たこ焼きを作ろう



 料理は思っていた以上に順調に進んだ。

 包丁はほとんど握った事が無いと言っていたので安全面でかなり不安だったのだが、言うことは必ず守ってすぐに吸収してくれるし、何より手先が器用だったので危なっかしい事は全くといっていいほど無かった。



「じゃあ最後にたこ焼き器にこれを流し込んでいこうか」

「ん、でもここからが難しそう」

「確かに焦げちゃうから時間制限こそあるけど、有栖なら落ち着いてやれば簡単だよ」


 どうしても焦げてしまいそうなら横から手伝えるし、そう難しいものでもない。

 初心者からすれば包丁を持って具材を切る方が危ないし、何倍も難しいだろう。



「……こう?」

「そうそう、少しくらいなら横に溢れても大丈夫だから、全部にちゃんと入れて――」


 油を敷いたたこ焼き器に、有栖はそーっと生地を注いでいく。


 ここはもう少し適当にやっても特に問題はないのだが、初めてなのだから大雑把にやり過ぎるよりかは慎重な方が良い。



「よし、生地は一旦そんなもんで大丈夫だから、次に具材を入れて行こう。そうだな……じゃあ、左の方はお餅を入れて、それより右側に他の具材を入れてみるか」


 別にどれがどれだか分からなくなっても、それはそれで食べるまで分からなくなって楽しいが、今日はとりあえずは決まりを作ってその通りに入れていく。


 後はいい感じに焼けてきたら半分ひっくり返して、もう一度ひっくり返したら完成だ。






「……出来た」

「お疲れ様、後はお皿に取り分けるだけだから早速食べようか」

「ん、お腹すいた」


 こうして有栖の初めてのたこ焼き作りは、大きな失敗も無く成功で終わった。

 まだ食べてないので味は分からないが、俺がちゃんと見ていたし、変な事は全くしていないし入れてないので問題ないだろう。



「「いただきます」」


 ソースとマヨネーズをかけてから、パクリと口に運ぶ。

 思ったよりも熱くて少しびっくりしたが、それが治まってきて味の方に感覚を向ける。



「美味しい」

「……よかった」


 有栖は俺の顔を見た後、お世辞で言っている訳ではない事を確認して安堵の表情を浮かべる。

 俺の感想が気になっていたのだろう、有栖は俺が一つ食べきるまで口を付けていなかった。


 ちなみに俺が最初に食べてみたのはお餅入りのたこ焼きだったのだが、食感が新鮮で面白かったし美味しかった。次は家でもやってみようと思う。



「……自分が作った料理を食べるのってなんだか不思議」

「でも達成感はあるだろ?」

「ん、今度おじいちゃんが作るの手伝ってみる」

「おお、それはさぞかし喜んでくれそうだな」


 有栖の事を溺愛している英一郎さんの事だ、そんな事を言われたら両手を挙げて喜んでくれる事だろう。







 その後は二人ともパクパクとたこ焼きを食べ進め、あっという間に完食してしまった。


「「ごちそうさまでした」」


「……美味しかった」

「ああ、お餅入りもなかなか良かったな」

「――そういえばいつの間にこのスープ作ってたの?」


 というのもたこ焼き1品だけでは寂しいだろうし、有栖が一生懸命具材を切っている横で、俺は簡単な汁物を作っていた。

 たこ焼きとは関係ない具材を切っていたし、最初に許可を貰って鍋も使わせてもらっていたので気付いているかと思っていたが、それに気付かないほど集中して料理に取り組んでいたようだ。



「ほら、最初に鍋使っていいか聞いてただろ? 有栖が頑張って具材を切ってくれてる間に横で準備してたんだ」

「お鍋使わなかったから不思議だったの、そういう事だったんだ」


 疑問が解けたようで有栖はなるほど、といった表情になる。

 確かに器具を使わせてもらうのだから、先に何をするか言っておいても良かったかもしれない。


「よし、じゃあ食器は洗っておくよ」

「それはダメ、優佑はお客さんだから私が洗う」

「それを言うなら有栖は頑張って料理してくれただろ? 有栖は休んでていいからこのくらいは俺がやっとくよ」

「優佑は料理教えてくれたし、スープも作ってくれた。優祐の方こそ休んでて」

「……もちろん俺は引く気は無いが、有栖も引く気はないんだな?」

「ん」


 なるほど、なかなかの強敵のようだ。

 しかしここで二人ともで言い合って時間を浪費するのは得策ではない。ならば……





「――はい、これが最後」

「ん、……たこ焼き器は?」

「たこ焼き器はちゃんと鉄板の部分が冷えてからだな」

「わかった」


 結果、俺がお皿を洗ってその横で有栖がそれを拭くという事で収まった。

 本当のことを言うと有栖は少し納得してない感じで、俺が早々にお皿とスポンジを取って洗いそれを布巾と共に手渡したのでしぶしぶといった感じだったが。




「じゃあやる事も終わったし、遅くなってもよくないからそろそろ帰るよ」

「もう帰るの?」

「あんまり長居するのもあれだしな」


 もう少し二人で話していてもいいのだが、晩御飯が終わった後の時間にまで、女性の家に居座るのはよろしくないだろう。

 

「……ん、また今度料理教えて欲しい」

「分かった、じゃあその時はボードゲームも一緒にやろうな」

「やっても私が全部勝つのに?」

「おっと、それはどうか分からないけどな」


 先輩の意地として、1つくらいは勝たせてもらおう。

 果たして1つしか勝てず圧倒的に負け越していて、それで先輩の面目が保たれているかどうかは甚だ疑問ではあるが……












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