五五話 有栖の部屋にて
スーパーで材料を買った後は、そのまま有栖の家に直行した。
「材料は冷蔵庫入れとく?」
「そうだな、タコとか傷んだらダメだし入れておこうか」
「全部冷蔵庫に入れていい?」
「あーいや、タコは冷蔵庫でいいけど、野菜は野菜室に入れて、他のは――」
今から作り出すと流石に晩御飯には早すぎる。
かといって、家に帰ってまたこちらに来るというのは時間的にも無駄だし、面倒だ。
「――だから時間になるまで私の家で遊ぼ」
「それはいいけど、何するんだ?」
いつも家に来たときはそれぞれ本を読む事が多く、他には宿題をやったり、テレビゲームをやったりもしている。
しかし残念ながら有栖が最近買い始めた本を俺は読破しているし、有栖は家でテレビゲームをしないそうなのでゲーム機も無い。
ならば今日は勉強を二人ですることになるだろう。
……と思ったのだが。
「私の部屋行こ」
「……へっ?」
料理をしに来たはずが、なぜか後輩の女子の部屋に入ることになっていた。
「えーっと、入って良いのか? ほら、女子の部屋ってあんまり男子が入るべきじゃ……」
「他の人なら嫌だけど、優佑だから言ってるの。早く入って」
「……あっ、はい」
基本的に放課後は毎日一緒に居て、偶に外に遊びに行ったり、旅行まで一緒に行ったりしておいて今更だが、有栖の部屋には入るような機会は無かった。
というよりこれまでの人生で女子の部屋なんて、鈴音の部屋くらいしか見たことがない。
……鈴音を女子カウントするべきかは置いておいて。
ほんっとうに今更だが、妙に緊張してきた。
というかそもそも何故俺は部屋に招き入れられようとしているのだろうか?
勉強をするのならリビングで出来るだろうし、ならわざわざ部屋に入る必要なんてないんじゃ? ……それとも部屋に入らないと出来ない事でも……
変な方向に思考がいってしまいそうだったので、ブンブンと頭を振って考える事を止める。
「……お、お邪魔します」
「ん、どうぞ」
中は綺麗に整頓されていて、そこまで家具は多くない。
部屋に入ってすぐそこにある勉強机の横には少し大きめの本棚があり、教科書や参考書のほかに、最近買ったであろう小説が並んであった。
机の上には写真立てが一つ置いてあり、そこには仲睦まじい親子の姿が写っている。
少し横に目を向けると、普段有栖が寝ているであろうベッドが置いてあり、布団が綺麗にかけられていた。
「……そんなにじろじろ見られるとちょっと恥ずかしい」
「ご、ごめん」
有栖は少し頬を赤く染めてうら恥ずかしそうにしている。
そんなじっくり見るつもりは無かったのだが、つい気になって視線が部屋にいってしまった。
「えっと、ここで何をするんだ?」
「ん、これ一緒にやりたいと思って――」
話題をそらすためにここに招き入れてくれた理由を問うと、有栖はクローゼットを開いて、中から大きめな箱を取り出した。
「なんだそれ?」
「いろんなボードゲームが入ってるの。小さい頃はやってたけど最近は全然しなくなったからやりたくて……」
箱を開けると中には、ジェンガだったり人生ゲームだったり、リバーシや折り畳みの将棋盤なんかも入っている。
「おお、確かに俺も最近はこういうの全くやってなかったから楽しそうだ」
「どれやる?」
「ん? そうだな……じゃあ最初は簡単なジェンガから――」
そこからはいろんなボードゲームを二人で楽しんだ。
ジェンガは俺の方がバランスを掴むのが上手かったのか、2回やって2回とも俺が勝った。
ならば次はと有栖が選んだオセロでは、最終的に全部を有栖の色にひっくり返されてしまい惨敗。
次に選ばれた人生ゲームでは、お互いにプラスのマスを多く踏み、子供もたくさん増え大接戦になった末に、僅かにリードしていた俺が最後の最後で宇宙旅行に行ってしまい決着した。
他にも、今まで知らなかったボードゲームを有栖とやっていると、あっという間に時間が過ぎていた。
「――もうこんな時間か、楽しいからもうちょっとやってたかったけど、そろそろたこ焼き作りにいかないとな」
「ん、楽しかった。……優佑が宇宙に行ったところとか」
よほど面白かったのだろう、有栖は思い出してふふっと笑みを浮かべている。
「あれは事故だった、なんで2以上を出せば勝てたのになんであの場面で1が出たんだか……」
「優佑は持ってるね」
「まあ確かに、あの勝ち確定盤面から負けたのはある意味持ってるかもしれないな」
実際面白い展開になったのは間違いなかったし、今日一盛り上がったのもその場面だ。
だとしたら有栖を笑わせる才能は持っているのかもしれない。
「また家に来てやってくれる?」
「もちろん、次は負けないからな?」
「それはダメ、今度は私が全部勝つ」
「負けず嫌いだなぁ、でも俺だってそう簡単に全敗はしないぞ」
とか言って、知らないルールのゲームは運が絡まない限り有栖に負けるので、そこは対策と運次第だろう。
「よし、じゃあ手も洗った事だし、早速具材を切っていこうか」
「お願いします、優佑先生」




