五二話 初めてのボウリング
「今回も1位おめでとう」
「ん、ありがとう。優佑も前より順位伸ばしてて凄い」
前回は確か30位だったが今回は23位。1位の有栖からしたら微々たる差でしかないが、それでも勉強した分順位が上がったのは嬉しかった。
「最近みんなで勉強した甲斐があったかな」
というのも、今回はテスト前に有栖と俺だけでなく隼人や川口さん、豊谷さんも一緒に集まって勉強会をしたり、もちろん俺と有栖だけでも勉強をしたりしていた。
そのおかげか俺や有栖はもちろん、川口さんは不動の1位、隼人も前より順位を上げて4位、豊谷さんは13位と軒並み好成績を収めていた。
俺の周りには何故か優秀な人しかいないので俺の成績が霞んで見える……
「せっかくみんなテスト結果も良かった事だし帰りにどこか寄るか?」
「……じゃあ、この前行かなかったボウリングやってみたい」
「いいね、ならこの前勉強をしたメンバーと一緒に行こうか」
「ん」
と、有栖と話した所までは良かったのだが、隼人に放課後の予定を聞いてみたところ川口さん共々生徒会で文化祭に向けての用があるらしく、有栖も豊谷さんに聞いてみてくれたところ、先約があったとの事で、結局俺と有栖以外に行けるメンバーは居なかった。
かといわれて行くのを取りやめるかと言われればそうでもなく、放課後になればそのまま二人でボウリング場に向かう事になった。
「ちなみに有栖はボウリングやった事は?」
「ボール投げてピンを倒したらいいんだよね?」
と言いながらオーバースローのジェスチャーをする。
……なるほど、本格的に見たことすらないらしい。
「上からじゃなくて下から投げるんだよ、ボウリングの球はそこそこ重いし上から投げるのは危ないからね」
「……ごめん、やった事ないから全然分かんない」
「大丈夫、ルール難しくないしやってみたらすぐ分かるよ」
「優佑はよく来るの?」
高校生になってからは1度もやってない……いや、一度だけ鈴音がこちらに帰って来た時にやりに行ったが、最近は全くやっていない。
小さい頃に家族で偶にやりに行く事があった程度だろうか。
「そんなにやってたわけじゃないよ、偶に家族と来ることがあるかなって程度で実際そんな上手い訳じゃないからね」
「そうなの?」
「初心者に毛が生えたくらいなもんだし、難しい事は考えずとりあえず楽しんでやってみような」
「わかった」
という訳で受付で1レーンとシューズを借りて、自分が投げられそうなボウリングの球を持ってくる。
有栖は一番数字が大きいからという理由で重い球を持ってこようとしていたので、丁重にもう少し軽い球に変えさせた。
「――で、このまま腕を引いてピンに向かって投げればいいんだ」
「……なるほど?」
「まあやってみないと分からないだろうし、とりあえず俺が投げるよ」
そうして俺が投げた一投は見事真ん中のピンに命中しストライク! ……とはいかず、両端の2ピンが残ってしまった。スプリットってやつだ。
プロでも難しいであろう両端に割れたピンを俺が両方倒せる訳もなく、2投目は左の1ピンだけを倒して結果は9で終わった。
一応経験者として出来れば格好いい所を見せたかったが、現実はそう上手くはいかないものだ。
「っと、こんな感じなんだけど……どうだ?」
「ん、多分分かった」
「じゃあ早速投げてみようか」
ぎこちなくボウリングの球に指を入れ、ゆっくりと有栖が放った一投は、残念ながらピンにたどり着くことなく、ガコンッと音を立てながらガーターへと吸い込まれていった。
「ダメだった……」
「誰だって最初はそんなもんだよ。というか、一投目からピン倒されてたら中学生の頃の俺が報われないんだけど……」
というのも、小学生の頃偶にボウリングに来た時はガーターに球が落ちないように柵みたいなものが上がっていたので大丈夫だったが、初めてそれが無くなった時の俺のスコアはかなり悲惨なものだった。
それがショックであの頃はしばらく腕を鍛えていたなんていう過去が……
「まあそんな事は置いておいて……」
「?」
「と、とりあえず、もう一投残ってるんだしもう一回投げてみよう、難しかったら俺もそっちに上がって教えるけど?」
「……じゃあお願いする」
お願いされたので席を立って有栖の方へ向かう。
「えーっとだな、多分有栖はもう少し手を離すときに力を抜いて真っ直ぐピンに向かって投げれば……」
「……こう?」
「あー、いや、そうじゃなくて――こんな感じで――」
「……」
と言いながら教えている時、妙に有栖が静かになっている事に少ししてから気が付いた。
一体なぜ? と思い今の状況を鑑みてみるとすぐに分かった。
俺が有栖に投げ方を教えている過程で、後ろから有栖に抱き着いているかのような体勢になっていたのだ。
その状況に自分で気付いた瞬間、パッと有栖から飛びのくように離れる。
「ご、ごめんっ!」
「……大丈夫、ちょっと恥ずかしかったけど……」
少し頬を赤く染めて大丈夫だと言ってくれる有栖の顔は、バクバクと音を立てる心臓を鎮めようとするのに精いっぱいで、まともに見られなかった。




