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五話 ほら帰った帰った



「いくら迷惑をかけてもいいとは言っても流石に事前に氷室の保護者に連絡もなしで家に上がるのはちょっと……」

「大丈夫、今日は私しかいない」

「余計に問題大ありなんですが!?」

「……どうして?」


 冷静に考えてみよう。親のいない女子の家に恋人でもない高校生の男女が二人で――アウト。どう考えてもアウトだ。

 俺が絶対に何もしないとはいっても、状況が非常によろしくない。


「逆に氷室は何とも思わないのか? 今日知り合ったばかりの男を家に招き入れるって事だぞ?」

「む、でもこう見えて私は人を見る目はある。優佑が何か物を盗んだりするとは思えない」

「……あーっ、そうじゃなくてだな……俺がもしお前を襲ったらどうするんだって事だよ」

「どうして私を襲うの? 別に私は美味しくない」


 本気で分かってないのだろう。何を言っているのか分からないと言わんばかりに首を傾げている彼女を見て、思わずため息をついてしまう。


(……どれだけピュアなんだよ)


「……というかそもそもなんで家に入って欲しいんだ?」

「優佑は一人暮らしをしてるって言ってたよね。だからこれから家に帰ってご飯を作るとなると遅くなっちゃうから、私の家で食べて行って欲しい」

「ああ、それなら俺の家はここから歩いて5分も掛からない場所にあるからそれには及ばないよ」


 そう、実はここに来る前に一度俺の家の前を通っていた。

 なので氷室や当初俺が心配していた事にはならないし、なんなら次かも外が暗い場合送っていく事もできるという訳だ。


「……優佑は私の家に入るの嫌?」

「そういうわけじゃなくてだな……」


(嫌とかそういう問題じゃないんだよなぁ……)


 その後も少し氷室の家の前でグダグダ言い合いをしていると、唐突に目の前の玄関の扉が開いた。


「誰だ、私の家の前でごちゃごちゃうるさくしている奴は」


 家には誰もいないと言っていたはずの氷室の家からは、威厳のある少し目つきの鋭い60代くらいのおじいさんが出てきた。


 一体この人は……と俺が戸惑っていると、そのおじいさんは氷室が目に入ったのか、鋭かった目を和らげてこちらに向かってきた。


「おかえりなさい有栖。何があった?」

「ただいま、おじいちゃん。今日は遅くなるって言ってなかった?」

「実は今日やる予定だった用事が延期になってな、早めに帰ってこれたんだ」

「そうなんだ、ならおじいちゃんも優佑を説得してくれる?」


 そう氷室が言った瞬間、今の今まで視界に入ってすらいなかったであろう俺の方を鋭い目で捉えてくる。


「お前は何の用で儂の孫と一緒にいる」

「外も暗くなってしまったので家まで送り届けていました」

「……ふむ、まさか有栖をたぶらかそうとしている訳じゃあるまいな?」

「滅相もございません」


 俺が氷室と……なんて流石におこがましいにもほどがある。

 本来関わる事も無いような対極に位置する人間なのだ。友達になれただけでも奇跡といって差し支えない。そんな少し信頼をしてくれているであろう彼女を裏切るような事は絶対にしたくない。


 俺を値踏みするかの様な見定める様なそんな目で俺を見ていると、氷室が少し眉をしかめて俺と彼との間に入ってくる。

 

「おじいちゃん」

「ん? どうした」


 まるでさっきまでの俺への態度が噓かのような優しい声で氷室の方を見る。


「私は説得してほしいって言った」

「ん? だから有栖に寄ってくる悪い虫を追い払おうとだな……」

「そんなことして欲しいだなんて言ってない。私は優佑に家で晩御飯を食べて行って欲しいだけ」

「!?!?」


 氷室がそう言うと、まるで信じられない物を見たかのような表情で後退る。

 まさか俺が歓迎されていたなんて微塵も思っていなかったのだろう、口をパクパクとさせながら俺と氷室を交互に見る彼に少し申し訳ない気持ちになる。



 しかし彼も気を取り直したようで、コホンと咳払いをして再度喋り始める。


「有栖とこやつの関係は後で聞くとして、どちらにしても今からもう一人分のご飯は材料的に無いぞ」

「……そっか」

「そういう事だからおぬしも帰った帰った」


 言われずとも元よりそのつもりだったので、俺はペコリと頭を下げてからもと来た道を辿ろうと背を向ける。


「待って」


 ……がそうもいかず、氷室に呼び止められる。


「まだ何かあったか?」

「食べて行けないのは残念だけど、明日学校で会える?」

「……それは厳しいかもしれない」

「用事でもあるの?」


 片や噂で美少女の1年生、それに比べてもう片方は冴えない陰キャな2年生。もしそんな2人が学校で会っているところを見せようものなら、面倒くさい事になるのは間違いないだろう。

 委員会の当番が一緒になっただけでも他の人達から嫉妬の視線が凄かったのだ。それ以上の事なんて想像したくもない。



「そういう訳でもないが……来週の当番の時でもいいだろ」

「彼もそう言っているし、ご飯も冷めてしまうから家に入るぞ」


 おじいさんに便乗して俺も家に入るように言った結果、文句を言いたそうな表情をしながら氷室はおじいさんと一緒に渋々玄関の方に向かっていった。



(変なことにならないといいけどな)



 氷室は少し友達という物を特別視しているような節がある。

 今まで高校で誰ともあまり関わろうとしなかったところを見ると、寄ってくる人間が偶々悪意を持っていたのか、それとも過去に何かあったかのか、はたまた両方なのか……どれにしてもあまり良いことではないだろう。



「ま、俺が簡単に聞けるような事でもないしな」


 あくまで俺は氷室と今日友達になっただけの関係だ。

 俺が考えたところで何かが変わる訳でもないし、変えられるとも思わない。


 だが数少ない友達が出来たんだ、彼女から嫌われない限り俺から離れるような事はしないさ。




 






「さて、今日は時間もないしコンビニで何か買って帰るか」


 

 


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