四二話 カラオケ
猫カフェを出ると、まだ晩御飯を食べる時間には早く、かといって今から遠くへ行く時間は無さそうなそんな時間になっていた。
このまま解散して家に帰ってもいいのだが、それはそれで少し勿体ない。
しかしエアコンも無い室外に居続けるというのは暑さ的にも厳しいだろう。
「どうする? どこか近くで行きたい場所とかあるか?」
「この近くで二人で遊べる場所あるの?」
「そうだな……そこにあるゲームセンターかカラオケ、あとは……5分くらい歩いたところにボウリングがあったかな」
「……全部楽しそう」
どれもそこまで時間が掛からないか調整する事ができるし、俺としても近頃どれも全く行ってないので行きたいという気持ちがある。
有栖もかなり乗り気のようでどれに行こうかとうんうんと悩んでいる。
「もし全部行きたいならまた次に行けばいいし、有栖が好きなのを選んでくれていいよ」
「……優佑はやりたいの無いの?」
「どれも楽しいしどれでもいいってのが本音だけど…………そうだな、じゃあ……カラオケに行ってみないか?」
「ん、そうする」
という訳で、すぐ近くにあるカラオケに行く事にした。
ちなみにカラオケを選んだ理由としては、久しぶりに歌ってみたくなったという事もあるが、それ以上に有栖の歌声が気になったからだ。
透き通った綺麗な声をしている有栖がその声で歌っているところを聞いてみたいと思ってカラオケを選択した。
受付で2時間ほど部屋を取ってから早速当てられた部屋に向かう。
ドリンクは部屋の外にドリンクバーがあるらしく、食べ物は注文方式だそうだ。
「どっちが先に歌う?」
「……私全然歌った事無いから優佑が先に歌ってほしい」
「了解……っていっても何歌おうかな……」
特に十八番がある訳でもなく少し迷った結果、最近流行りの曲を手元にある機械で入れてマイクを手に取る。
有栖にキラキラとした目を向けられながら歌うのは少しやりずらかったが、なんとか一曲歌いきる。
自分で言うのもあれだが表示された点数は91点と悪くないし、1曲目にしてはそこそこ上手く歌えたと思う。
「こんな感じで最後には点数も出るんだ。そしたら次は有栖が歌ってみるか?」
「ん、頑張る」
そうしてマイクを手に取って歌い始めた有栖の歌い声は……お世辞にも上手いとは言えなかった。
おそらく今まであまり歌ってこなかったのだろう。下手……というよりは歌い慣れていない感じが大きく、リズムや音程がたどたどしい。
しかし決して音痴という訳でもなく、拙いながらも最後まで歌いきることが出来ていた。
「……難しい」
「初めてならそんなもんだよ。致命的な所は無いし、有栖の綺麗な声なら少し練習すればもっと上手くなるさ」
「ホント?」
「ああ、なんなら次も有栖が歌うか?」
「……そっちじゃない」
何かお気に召さなかったのか、有栖にぺちっと二の腕を叩かれる。
(一回歌って疲れたから連続はキツいという事だろうか? それとも他に理由があるのか……)
少しむすっとした表情の有栖からは不満があること以外に何も読み取れない。
「……交代で歌う。優佑の歌い方真似すれば上手くなる?」
「んー、多分今よりは上手くなれるとは思うけど」
「じゃあよく聞く」
そこからの有栖の成長は凄まじかった。
1回歌うごとに段々とミスが修正されていき6、7回も歌う頃には、俺と同じかそれ以上に上手くなっていた。
そもそも俺と違って元の声が良いし、何より確実に良い所だけを吸収している。
素人の俺ではあと少ししたら太刀打ち出来なくなるほどには有栖の飲み込んで吸収する力は凄かった。
「一緒に歌う事って出来ないの?」
「出来なくはないけど……なら有栖が歌詞知ってるならデュエットの曲歌ってみるか?」
「どんなの?」
「えーっと……これとかどうだ?」
俺が選んできたのは少し前に流行ったドラマの主題歌で、男性パートと女性パートそして一緒に歌う箇所のある曲だ。
さっきから有栖が選んで歌っている曲は流行りの曲が多かったので、おそらくこれも知っていると思ったのでチョイスした。
「知ってる」
「じゃあこれにするか――」
「――楽しかった」
「俺も初めて人と一緒に歌ったけど、思ったより楽しかった」
「じゃあ今日は終わり?」
「そうだな、残り10分の電話も来たし、そろそろ帰ろうか」
最後に歌ったデュエットも一緒に歌った箇所は、最初こそお互いに合わせようと少しもたついたところもあったが、最終的にはコツを掴んで息ぴったりで歌えたと思う。
本来なら暇な1日を過ごす事になりそうだったが、午後からはかなり充実した1日を過ごせた。




