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四十話 お出掛け



 夏休みもそろそろ終わりに近づいて来たある日のお昼過ぎ。

 お昼ご飯を食べた食器を洗い終えて今日は何をしようかと迷っていると、スマホから着信音が鳴り響いた。


「もしもし?」

「もしもし、今大丈夫?」

「丁度暇になったところだから大丈夫だけど……何かあったか?」


 俺に電話をかけてくる人なんて、鈴音か有栖、たまに隼人くらいだが、今日かけてきたのは有栖だった。

 といっても有栖から電話をかけてくる事は珍しく、普段ならメッセージで『かけていい?』と聞いてからかけてくる事が多いのだが。


「おじいちゃんが最近できた猫カフェのペアチケットくれたの、だから優佑はどうかなって……」

「もちろん行けるなら嬉しいけど……俺で良いのか?」

「うん、優佑と行きたい」

「ちなみにいつ行くんだ?」


 俺は家庭教師をする日以外に夏休みの予定は空いているいつでもいいのだが……いや、開いてるんじゃなくて開けてるんだけどね。

 ……と、まあ誰にしているのか分からない言い訳は置いておいて。


「……チケットの日付が明日までだから、今日か明日じゃないとダメなの」

「なら俺はどっちでも大丈夫、有栖が行ける方でいいよ」


 ほら、開けておいて良かったって事だよね。


「……じゃあ今日でもいい?」

「もちろん、なら今から有栖の家に行ったらいいか?」

「ん、お願い」

「了解、じゃあまた後で――」


 という訳で暇だった今日の予定が決定した。

 猫カフェに行くという事は服に毛が付いてしまうのは間違いないだろう、という事で毛が簡単にコロコロで取れやすそうなTシャツとズボンを選んで家を出る。


 外に出ると相変わらず蒸し暑い風が頬を撫でてくる。

 もうすぐ8月も終わろうとしているのに、一体いつになったら涼しくなってくれるのだろうか。


 歩いているだけで額から流れてくる汗を拭いながら、有栖の家のインターホンを押す。

 3秒も経たずに反応があり、その後有栖が出てくる。


「急だったのにありがとう」

「いやいや、暇だったし猫カフェなんて一人だと行く機会も無かったから嬉しいよ」


 流石に男一人で猫カフェに行く勇気なんて持ち合わせていないので、有栖が誘ってくれて嬉しかったというのはお世辞などではなく本心だ。


 有栖も猫と遊ぶのを楽しみにしているのか、普段は特に結んでいない髪の毛を綺麗に編んでお団子にしている。

 


 今回行こうとしている猫カフェは駅前のビルの中にあるようで、ここからそう遠くは無い。

 10分も歩けば目的地である猫カフェの前に着いた。






 エアコンの効いた建物の中に入ると、想像していたよりも広い空間が広がっていた。

 チケットを出して受付を済ませ手洗いや消毒をして中に入ると、そこかしこに様々な種類のネコが歩いていたり、丸まっていたりしている。


 ここのカフェはカフェの中にネコが居るというよりも、猫タワーだったり猫が好きそうな狭い箱だったりがたくさん置いてありと、ネコが住んでいる場所にこちらがお邪魔するような感じだ。


 先に居るお客さんもその場に腰を下ろして猫と戯れている人ばかりで、飲み物を飲んでいる人は1、2人程度しかいない。

 本当に猫が好きで猫と遊びたい人が来るような場所のようだ。



「おぉ……」


 ここに到着する前から有栖がワクワクしていたのは分かっていたが、ここに入ってからの有栖は目をキラキラさせて沢山の猫たちを見ている。

 聞いたことは無いが、おそらく猫や犬が好きなのだろう。待ちきれなさそうにしている有栖の為にも店員さんにとあるものを貰ってから行くことにしよう。



「優佑、ネコちゃんと遊びたい」

「そう言うと思って先に借りておいたよ」



 入り口の看板に受付にておもちゃ貸し出しとあったので、間違いなく使うだろうと思い先に借りておいた。



 いつもよりもテンションが高い有栖に服の裾をくいくいと引っ張られながら、例にならって俺と有栖もその場に腰を下ろすと、焦げ茶色の小柄な猫が近寄ってきた。


「この子はモカちゃんっていうらしいな」


 壁に貼ってある名前と写真の特徴をみるに、この子の名前はモカで間違いないだろう。



「モカちゃんはこれで遊ぶ?」

「試しに目の前で振ってみたらどうだ?」


 猫じゃらしを有栖に手渡してそれを有栖が小刻みに振り始めると、先程まで俺達の事をくんくんと嗅いでいたモカはそちらに興味が惹かれたのか、動きを止めてジッと猫じゃらしの方を見ている。

 少しすると狙いが定まったのか、有栖が持っている猫じゃらしに向かって飛び掛かった……のだが思ったよりも速度が出なかったのか、猫じゃらしをキャッチしようとした手は空を切り、そのまま地面にぺちょっと倒れた。


「……あっ」


 しかしこの子はまだ諦めていなかったようで、倒れたことで動きが止まった猫じゃらしにもう一度飛び掛かり、今度こそそれを掴んだ。

 有栖は少し驚いていたがこの子は満足なようで、嬉しそうに猫じゃらしを叩いたり嚙んだりしている。


「……猫って思ってたよりも自由ね」

「そうだな、ビックリしたのは俺達だけみたいだったな――って、おわっ!?」


 有栖とさっきのモカの事を話していると、どこからともなく何かを咥えた真っ白な猫がするりと俺の膝に飛び乗ってきた。

 どうやら他のお客さんと遊んでいたおもちゃだけを咥えて逃げてきたようで、その証拠におそらくこの子と遊んでいたであろう女性がこちらに近づいてきている。


「――すみません、おもちゃ咥えた子がこっちに来ませんでしたか?」

「ああ、それなら今自分の膝の上に……」

「なるほど、おもちゃだけでも返してもらえれば…………って、あれ? もしかして氷室さん?」











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