三八話 休憩は大事
「疲れたぁー、……ちょっとだけ休憩してもいい?」
「……まだ途中だよ?」
開始してから約1時間半、ずっと文字と向き合っていた為か麗奈さんが音を上げた。
「まあ良いんじゃないか? 後3、40分は時間あるんだし、10分休憩してから残りをやろう」
「私も休憩です?」
「ああ、丁度切りのいい所まで終わってるし休憩しようか」
なんやかんやここまでよく集中して出来ていたと思うし、休憩を入れ忘れていたのはこちらの落ち度だ。
麗奈さんの方は見てないので分からないが、少なくとも瑠奈さんはかなり頑張っていた。
この調子なら半年後の受験も、焦る事は無いだろう。
「やったー! じゃあ私はジュース持ってきますね」
「待って、私も珈琲淹れる」
そう言って姉妹は両方とも部屋を出て下の階へと駆けて行った。
「そっちの調子はどうだ?」
「私、上手くできてるか分からない……でも麗奈は頑張ってた」
「そっか、俺も上手く教えられてるかは分からないけど、瑠奈さんも頑張ってた。だから来年から二人共後輩になってくれると嬉しいな」
「ん、だから頑張って教える」
二人の頑張りに触発されたのか、有栖も普段よりやる気に溢れている。
俺もそれに応えられるように頑張らないとな、と気合いを入れ直したところで階段の方から足音が聞こえてきた。
「お待たせしました! 有栖先輩と木戸先輩もオレンジジュースで良かったですか?」
「わざわざ持って来てくれてありがとう」「ありがとう」
麗奈さんはお盆の上にジュースを3つ載せて、瑠奈さんは珈琲を持ってやってきた。
麗奈さんからジュースを受け取って全員で一息つく。
「そういえば瑠奈さんは自分で珈琲を淹れてるの?」
「えっと、はい。珈琲好きだからいつも自分で淹れてるです」
「瑠奈は珈琲へのこだわり強いから、おじいちゃんか自分で淹れたやつしか飲まないもんね。有栖先輩達も今度瑠奈に淹れて貰ったらどうですか? 私は珈琲苦くて苦手なので飲まないですが、お客さんからはかなり好評ですよ」
俺は珈琲の味は結構好きで飲むこともあるが、有栖は確か……
と思い出して有栖の方を見てみると、表情が少しこわばっている。
「じゃあ瑠奈さんさえ良ければ今度淹れて貰ってもいいかな?」
「有栖先輩はどうする、ですか?」
「……私はジュースで大丈夫」
「分かりました、木戸先輩はどんな珈琲がいいです?」
珈琲は豆によっても味が結構変わるが、俺は酸味が薄い方が好みだ。
ちなみに有栖は苦いのが苦手というよりもカフェインが苦手なようで、珈琲のみならずエナジードリンク系も全く飲まない。
「じゃあ、酸味が薄いやつがいいな」
「木戸先輩も酸味が薄いやつが好きです?」
「酸味があるやつも嫌いではないけど、酸味が強いとどうしても後で口に残るというか……」
「分かるです、その点酸味が薄いやつは飲みやすくてぐびぐびいけちゃうのが――」
どうやら瑠奈さんは珈琲の事になると止まらなくなるタイプなようで、先程までの口数とは打って変わってめちゃめちゃ喋っている。
「……瑠奈、周りに珈琲の事を話せる人がおじいちゃんしかいなかったのは分かってるけど、急にそんな話したら有栖先輩も木戸先輩もビックリしちゃってるよ?」
「……ご、ごめんなさい」
そのことを指摘された瑠奈さんは、ハッとした表情を見せた後しょんぼりと謝ってくる。
「大丈夫、また時間あるときに聞かせて」
「は、はいです」
「――そろそろ10分くらい経ったし勉強再開しますか?」
麗奈さんにそう言われて時計を見れば、思っていたよりも時間が経つのは早いもので、最初に決めた10分を過ぎようとしていた。
このまま話していては本末転倒なので、勉強を再開する事にする。
休憩を挟んだからか、瑠奈さんは先程よりも集中力が上がって捗っているように思える。
その調子で勉強を教えていると、30分はあっという間に過ぎ去っていき……
「今日は本当にありがとうございました」「ありがとう、ございました」
そう言ってもらいながら俺と有栖は喫茶店を出る。
二人からは是非とも来週からも教えてもらいたいと言ってもらえたので、来週からは正式に家庭教師として二人に教えに行く事が決定した。
「――良かったな」
「ん、これから毎週頑張る」
「そうだな。ちなみに有栖は麗奈さんと仲良くなれたか?」
「……多分? 麗奈は元気で私が話す前にいっぱい喋ってくれるから凄い」
確かにその絵面はすぐに思い浮かぶ。
基本自分からあまり喋らない有栖と、元気でおしゃべりな麗奈さんが一緒だとそうなるだろう。というか実際なっていた。
「優佑は、瑠奈と仲良くなってた」
「そうだといいな」
でも、今日会った時よりかは仲良くなれた……と思う。
「……私も優佑の後輩」
「え?」
「私も優佑の後輩」
「お、おう」
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