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三四話 屋台巡り



「……」

「……」

「……こっち」

「――また負けたー、透けて見えてるんじゃないかってくらい強いな」


 思っていたよりトランプだけでも楽しく過ごせるもので、現在はババ抜きで白熱していた。

 ……といっても有栖がほとんどトップで、俺と英一郎さんが毎回のように最下位争いをしていたが……。


「トランプもいいんじゃが、そろそろ行く時間じゃないかの?」

「あ、もうこんな時間ですね」



 時計はもう17時を指しており、そろそろ出ないと屋台を楽しむ時間が無くなってしまう頃だろう。


 浴衣などを持って来ている訳ではないので着替えの必要はない。スマホと財布が手元にある事を確認すれば準備バッチリだ。




「あれ、英一郎さんは行かないんですか?」


 俺と有栖が準備を済ませている中、英一郎さんは特に何も準備すること無くのんびりと本を取り出して読もうとしていた。


「こんな暑い中、人混みの中を四時間近く居られる自信が無いのでな、儂はここで花火を楽しませてもらう。それに、こういうものに保護者同伴というのも無粋じゃろ?」

「……分かりました、なら英一郎さんの分も楽しんできますね」

「ああ、気を付けてな」





 ホテルから外に出るとエアコンの効いた涼しい環境から一転、むわっとした空気が俺たちの頬を撫でる。


 屋台が並んでいる場所はホテルからそう遠くなく、少し歩けば段々と辺りも賑やかになってきた。



「――ん」

「?」

「……んっ」

「……?」


 有栖がこちらを見ながら「ん」と言ってくるが、それだけ言われても流石に分からない。

 何を言いたいのかさっぱり分からないので俺が首を傾げていると、有栖が少し不満そうに口を開く。


「……手、はぐれちゃダメだから」

「ああ、ごめん。そういう事だったのか」


 通りで体から少し手を横にずらしていた訳だ。

 有栖の言う通りに俺も左手を差し出せば、有栖が満足気にその手を掴む。


「じゃあ屋台を見て回ろうか、結構色々ありそうだし花火が始まるまでは楽しもう」

「ん」



 わたあめやりんご飴、焼きそばなどの食べ物の屋台だけでなく、定番の射的や金魚すくい、スーパーボールすくいに型抜きなど様々な屋台が並んでいる。


 目新しい物が沢山あるからか、有栖は目を輝かせてまずどれに行こうかと普段よりテンションが高い。

 そういう俺もこういった屋台を回るのは幼少期の頃以来なので、内心ワクワクしている。



「とりあえず何か食べ物を買う前に遊んだ方が良いと思うけど、有栖はやりたいのあるか?」

「――じゃあアレやってみたい」


 有栖が最初に選んだのは金魚すくいだった。



「いいけど……旅先だし、たとえすくえたとしても連れ帰る事は出来ないから返す事になるけどそれでもいいか?」

「ん、一回やってみたかった」

「了解、じゃあ屋台のおじさんにそれでもいいか聞いてみるよ」



 果たしてキャッチアンドリリースが問題無いかどうかは分からないが、有栖の為に交渉してみるとしよう。


「――おじさん」

「ん? 一回200円だぞ」

「はい、旅先で持って帰れないので、金魚が取れても元に戻していいですか?」

「あー……ちゃんと200円払ってくれるなら問題無い」


 少し考える素振りを見せる屋台のおじさんだったが、特に問題は無いと判断してくれたのか了承を得る事に成功した。


「良かったな、有栖」

「ん、ありがとうおじさん」


「あ、ああ。いいって事よ」


 普段よりテンションが上がっているからか、有栖は少しニコッとお礼を言ったものだから、おじさんは少しタジタジになりながらそう返した。



「…………どうやってすくうの?」


 200円と引き換えにポイとお椀を貰って金魚と対峙した有栖だったが、少し金魚を見つめた後にそんな事を言った。


「俺もあんまりやった事ないから何とも言えないけど、確かポイを水に対して斜めから入れてすくうと良いって聞いたことはあるな」

「こう?」

「多分そんな感じじゃないか?」

「分かった、やってみる」



 そうして金魚にめがけてポイを入れた有栖、しっかりポイの真ん中に金魚を捉えてそのまま水から上げて華麗にゲット……すること無くポイは破れて、金魚はそのまま元気に泳ぎ出した。



「……難しい」

「初めてなんだからそんなもんだよ、もう一回やってみるか?」

「ん、リベンジ」

「――おじさん、もう一回お願いできますか?」


 財布から200円を取り出しつつ、おじさんに話しかける。

 ちなみにこのお金は俺が持っているが、俺のお金という訳ではなく、ホテルを出発する前に英一郎さんから「気兼ねなく楽しめるように」と渡されたお金だ。



「ああ――それと、こっちを上にした方がすくいやすい、かもな」

「――ありがとうございます」

「別に、楽しんでな」


 どうやらこのおじさんは無愛想な割に優しい人だったようだ。



 早速おじさんが教えてくれた方を上にして有栖は金魚と対峙する。

 先程の失敗で学んだのか、有栖は小さめの金魚に狙いを定めて素早くポイを水の中に入れる。そして金魚を水の中からすくいだし――見事お椀の中に入れる事に成功した。


「優佑」

「ああ、よくやったな」

「ん、楽しかった」



 再び手を繋ぎなおして、おじさんにお礼を言ってから屋台を離れる。


「次は何する?」

「優佑が選んで」

「んー、そうだなじゃあ――」


 



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