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三一話 完全なミス



「――もうその辺にしといた方が……」

「いや、大丈夫じゃ」

「……でも」


 海から帰ってきて三人で夜ご飯を食べ始めたのはいいのだが、英一郎さんのお酒を飲むペースが明らかに早すぎる。

 先程から顔も段々赤くなってきており、呂律も少し怪しくなっている。


 俺も有栖もそろそろ止めてはどうかと提案してもまだ大丈夫の一点張りで、正直いつ酔いつぶれてもおかしく無い。



「……あ」



 ふとした瞬間、英一郎さんは机に突っ伏して寝始めてしまった。


「どう、する……?」

「……とりあえず横に寝かせてあげようか」


 幸い、部屋で飲んでいたので、敷布団を出してきて二人で頑張って運ぶ。



「まさかこんな事になるとは……」

「ん。いつもは全然飲まないのに今日はすごい飲んでた」


 こうなってはおそらく今日起きることは無さそうだ。



「英一郎さんは先に温泉入ってたらしいけど、俺らも入りに行くか?」

「うん、海の後シャワーは浴びたけどお風呂に入りたい」

「俺は大浴場行くけど有栖はどうする? 大浴場が嫌ならこの部屋にもお風呂付いてるけど――」

「大丈夫、私も大浴場行く」


 そんな訳で準備を済ませてから大浴場へと向かう。

 すぐ起きないとは思うが、一応英一郎さんが起きた時の為に温泉に向かうという書き置きだけ残しておいた。



「じゃあ鍵は俺が持っておくからまた後で会おう」

「ん、じゃあまた後で」



 そこで別れて、それぞれ男湯と女湯に入る。



「……広っ」


 脱衣所を抜けて扉を開くと、流石大きいホテルなだけあってかなり大きな浴槽が目に入った。

 更に向こうには露天風呂までありそうだ。


 シャワーでしっかり汚れを落としてから温泉にゆっくり浸かる。


「…………ふぅ……」



 今日は海で思いっきり遊んだのでかなり疲れた。

 もちろんその分楽しめたし、さっき食べた晩御飯も凄く美味しかった。



 まさか夏休みにこんな旅行に行けるなんて全く思ってもみなかったし、ましてや有栖と一緒に来るなんて、二年生になりたての頃の俺では想像も付かなかっただろう。




 今ですら、これは夢なんじゃないか。と思うくらいには現実味が無いような話だ。

 俺が有栖と仲良くなれたのは、運が良かったからだ。たまたま財布を拾ってもらって、たまたま同じ図書委員で、たまたま同じ日の当番になって、たまたまお互いの感性の相性が良かっただけ。


 正直なところ有栖の横に立っている人間が俺なんかで良いのか……と思う事は多々ある。

 あれだけ容姿が整っていて優しい女の子には、もっと違う素晴らしい人間が友達だった方が良いんじゃないか、と今でも思う。




 俺は小学生の頃、人間関係で大きな失敗をしてしまった事がある。

 それがトラウマとなり、中学、高校と仲良くする人を作る事は無くなった。それと同時に段々と家族さえいれば一人でも大丈夫だとそう思うようになり、人と関わるのが面倒だと考えるようになっていた。


 隼人は小学生の頃は少し話す程度の間柄だったが、俺が人間関係のミスを犯しても離れなかった唯一の人物だった。

 そんな事もあり、なんやかんや今まで良い関係を築けている。俺が人との関わりを完全に断たなかったのは偏に隼人のおかげだっただろう。



 言い方が悪くなってしまうが、有栖は俺にとっても丁度良い存在だった。

 人と関わる事が苦手で怖くなっていた少女と、人と関わるのが苦手で興味が無くなりかけていた少年。


 人と関わる、という点においてはお互いに初心者だったのだ、だからこそお互いに丁度良かった。

 


(……最低限、横に居ても有栖がバカにされない程度の人間でいないとな)


 俺が何か言われるのは仕方ないが、それで有栖に飛び火しないようにだけは気を付けなければならない。




 そんな事を考えていると、思ったより長風呂をしてしまっていたので、のぼせない為にも有栖を待たせない為にも温泉を出る。



 さっさと服を着て髪を乾かしてから脱衣所から外に出ると、有栖はもう外で座って待っていて、見知らぬ男の人に話しかけられていた。



「――お姉さん一人? 実は俺明日の花火大会が綺麗に見える場所知ってるんだけど、どう? 一緒に見に行かない?」

「……」

「……あれ、無視? それとも無言の肯定ってやつ? なら――」


 そう言って有栖の肩に触れそうになった時、俺はそいつと有栖の間に割って入った。


「――あの、何か用ですか?」



 俺が遅れたのが一番悪いが、だとしてもこの男に腹が立った。

 どう見ても有栖は急にそんな話をされて少し震えているというのに、そんなのお構いなしに勝手に話を進めてあまつさえ有栖の肩に触れようとした。


「なに、君。俺はその子とお話してるんだけど?」

「お話ですか? 花火大会の話でしたら申し訳ないですけど、彼女は自分と花火大会に行く予定がありますのでお引き取り願います」

「は? お前が? 俺はこの子と行く話をしてんの、そもそもお前に用無いから」



 話が通じないというのはこういう事を言うのだろう。

 なかなかその場を離れないこの男にどうしようかと頭を悩ませていると、騒ぎを聞きつけたのかホテルの従業員らしき人が駆けつけてきた。


「――そろそろそこどいてくんない? その子と話せなくて邪魔なんだけど」

「……お客様、それ以上問題行為をなさるようでしたら、問答無用でこのホテルから去ってもらう事になりますが……いかがなさいますか?」

「あ? 俺はただ話をしようとしただけ、で……」


 その男が振り向くと、そこにはオーナーという名札を付けた大きな男が立っていた。


「お二方は先に部屋へお戻りください、私はこの方とお話しておきますので」

「……ありがとうございます」


 腕っぷしの弱い俺ではあの男はどうしようもなかったので、カッコ悪いかもしれないがなんとかなった。


 先程から俺の服を掴んで震えている有栖の為にも、俺達は足早にその場を離れた。








中途半端ですが長くなりそうなので分けます。

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