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三十話 海に行こう



「……おぉ」


 今日から二泊三日の旅行が始まった訳だが、英一郎さんの運転でようやく海が見える場所までやって来た。

 有栖も、街中に居てはなかなか見る事のない海に目を輝かせている。


 そういう俺も幼少期の頃以来に見る海に少しワクワクしてしまっている。




「よし、ここのようじゃな。二人共荷物を忘れんように」

「長い運転お疲れ様でした、ありがとうございます」

「なに、儂達もこんないい宿の場所を確保して貰えたんじゃ、このくらいなんてことないわい」



 車から持ってきた荷物を全部出して忘れ物が無いかチェックして、問題無い事を確認してからホテルのエントランスに向かう。


 今日から泊まる部屋は海が一望できるかなりいい部屋らしく、本来なら何か月も前に予約しなければならないのだが、少し前にキャンセルが出たところをここのオーナーさんが俺の父さんに誰か泊まりたい人は居ないか、と連絡をして来たらしい。

 そこでならば、と俺達がそこに泊まる事になったという訳だ。


 

「…………凄いな」


 チェックインを済ませて部屋に入ると、窓からは真っ青な海と空が一望できた。


「有栖と優佑君は早速海に行ってくるか? 明日も昼に行くことは出来るが夜は花火を見に行くとなるとそこまで海に長居は出来んじゃろう?」

「そう、ですね。英一郎さんは海行かないんですか?」

「儂は見ているだけで十分じゃ、流石に海に行く体力は無い。その分有栖の事はちゃんと見とくんじゃぞ?」

「……分かりました、気を付けておきます」

「うむ、頼んじゃぞ」



 そんな訳で水着や日焼け止めを持って早速ホテルの裏側にある海に向かう。

 外はこれでもかというくらいの快晴で、肌に照りつける太陽は肌が一瞬にして真っ黒になってしまうのではないかと思うくらい強い。


 有栖とは更衣室を出た所で会う約束をしてから水着に着替えに行く。

 チラッと砂浜の方を見たところ思ったより海水浴客も多くなく、のびのびと遊べそうだ。


 水着に着替えた後、外に出る前に日焼け止めをしっかり塗っておく。有栖にも更衣室の中で塗っておくように言ってあるので、よくあるような日焼け止めを塗って欲しいなんてベタな展開は回避できるはずだ。

 俺は痛いほど学んだのだ、有栖は仲が良くなるとそういう事に警戒心が全く無いという事を……。



 有栖がナンパされる訳にもいかないので、出来るだけ女子更衣室の近くで待っているのだが他の女性客からの視線が突き刺さる。

 そろそろ然るべき誰かを呼ばれてもおかしくないので早く有栖が出てきて欲しいな……なんて思っていると、ようやく扉が開き中から有栖が出てきた。



「………………お待たせ、どう……かな………」

「……あ、ああ。似合ってる、可愛いと思う、よ」


 この前買った水着を着た有栖は思っていた以上に可愛かった。

 十分に心の準備はしていたつもりだったが、思わず見とれてしまうほどの破壊力がそれにはあった。


「……そっか、良かった。……あ、そういえば背中に日焼け止め塗れなかったから、塗って欲しい」

「……」


 前言撤回、回避したつもりが回避出来ていなかったらしい。


「……どうしても?」

「肌が痛くなっちゃうからお願い」

「……分かった」


 そんな事を言われて拒否が出来る訳も無く、しかしこの水着はそこまで肌が出てはいないのが救いだ。さっと手に日焼け止めを付けて、塗って欲しいと言われたそこに手を伸ばす。



「……ひゃっ」


(……)


 無心、無心……なにも考えずただ言われたことをやるだけだ……。


「……ありがとう。ちょっと冷たかった」

「じゃあ海に行こうか」

「ん、いこ」

「ちょ、まっ――」


 思っていたよりテンションが上がっていたようで、有栖は俺の腕を掴んで海に向かって小走りし始める。


 そしてそのまま海に――


「――ストップ」

「?」


 なんで入っちゃいけないの? といわんばかりに有栖は首をかしげる。


「ある程度ストレッチしとかないと、海の中で足攣ったら溺れるぞ?」

「……分かった」


 流石に命に関わる事なのでしっかりストレッチをして荷物を置いてから、ようやく海に入る事にする。



 有栖はさっきの勢いは何だったのかというくらい、まるで水を怖がる犬みたいに足を少し上げて海水にチョンチョンとしている。

 そんな姿が面白くて笑っていると、それが不服だったのか顔を少し膨らませてこっちを見てくる。それがまた面白くて笑ってしまい、今度は有栖もつられて笑みがこぼれた。


「――ほら、浅瀬なら波も全然強くないし大丈夫だから」


 先に海に入って手招きすると、有栖もようやく一歩を踏み出して海水に足を付けた。


「……気持ちいい」

「おおー、久しぶりの海だけどやっぱり冷たくて良いな」

「……えい」

「お? やったな?」


 有栖が水をかけてくるもんだから俺もやり返す。

 これをアニメやラノベで見た時はやってて何が楽しいんだと思っていたが、やられてやり返してをしているとなんだか自然と楽しくなってきた。




 その後は足がつく程度の場所で泳いだり、ビーチボールを買ってきて膨らますのに手間取ったり、有栖が海水を飲んでしまってしょっぱそうにしている顔が面白かったりと色々あったが、かなり充実した一日になった。


 





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