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三話 関係性



 結論から言おう。ちょっとした騒ぎになった。


 それもそうだろう、噂の氷室さんがパッとしない俺と一緒に図書館に入ったのだからこうなる予感はしていた。

 たまたま同時に着いただけと弁明はしてみたものの、その後俺が座った椅子の横に氷室さんも座ってきた事も相まってあらぬ疑いが晴れる事は無かった。


 結局ちらちらと視線がこっちに飛んでくるなんともやりずらい中、当番決めのくじ引きが始まった。


 くじ引きは1年生は全員曜日がバラバラになるように引いて、残りの2、3年生は完全にランダムに引くようになってある。

 各学年のクラスごとに一人ずつ計12人が居るので、2人のペアが3つと3人のグループが2つ出来上がる。

 そしてその出来上がったペアやグループの中で話し合って希望の曜日を決めていく――といった感じだ。


 1年間その人と一緒に毎週仕事をするのでくじに対するみんなの熱意も凄まじく、特に去年も図書委員だった3年生の先輩は少し目が怖い事になっている。

 かくいう俺も去年の大失敗をもとに今年こそはまともな人とペアになってやる、と意気込んではいるがよくよく考えたら誰がまともに仕事をやってくれるかなんてやってみるまで分からない。強いて言うなら氷室さんはなんやかんやまともにやってくれそうだよな……とは思ったが。





 そんなことを考えていたのがフラグになったのか、くじ引きの結果俺……いや俺達2人は今日から早速カウンターに並ぶことになった。


「こんな偶然ってあるもんなんだな」

「偶然?」

「だって今日たまたま財布拾ってくれた人が同じ委員会で更に同じ日の当番になるなんてなかなかの確率じゃないか?」


 しかもそれが噂の美少女な後輩だった……というのも付け加えると、とてつもない偶然――いや奇跡と言っても差し支えないだろう。

 それを鑑みるとくじ引きが終わった時から他の図書委員と人達に嫉妬の眼差しを食らったのも仕方のないことなのかもしれない。


「私は変な人と一緒にならなくて良かった」

「変な人?」

「私の事をジロジロ見てきたり、睨んできたりする人」

「あー……なるほど」


 氷室さんは美少女であまり人付き合いが良くない。それが良くも悪くも女子からの反感を買ったり、男子からの視線が多く飛んできたりするのだろう。

 実際俺だって美少女が真横に居ると思うと少しドキドキしてしまう。


「そういえば氷室さんは部活とかアルバイトとかってやってるのか?」

「特にはしてない。でもどうして?」

「去年図書委員をした時は一緒だった先輩が部活でほとんど委員会の方に来なかったから氷室さんはどうなんだろうと思ってさ」

「ならその心配はない。きちんと仕事はする」


 それを聞けてホッと胸を撫で下ろす。

 とりあえず今年は週一でボーッとして時間を浪費するような事はしなくて済んだようだ。


「……私からも1つ言いたいことがある」

「な、なんでしょうか」


 唐突にこちらを向いてそう言ってくるのでビックリして謎に敬語になってしまう。


「敬語はやめてくれたんだから、さんも付けなくていい」

「……どうしても?」

「嫌?」

「うぐっ……」


 少し顔を俯かせながらしゅんとした表情でそう言われてしまってはどうにも断りづらい。


「…………氷室、これでいいか?」

「ん。嬉しい」

「そっか、なら良かった」

「――ちなみに私はなんて呼んだらいい?」


 そう言われてふと思い出す。そう言えば自己紹介すらまだしてなかったな――と。

 俺は氷室の事を噂で知っていたが、彼女はそうでは無いのだ。


「俺は木戸優佑。あだ名とかは特にないから好きに呼んでもらって構わないよ」

「なら、優佑?」

「なんで疑問形なんだよ……」

「だって先輩を呼び捨てでもいいのかなって」


 一応そこの躊躇いはあったんだ……という謎の感心を覚えつつも、別に馬鹿にしたり見下す意味でそう呼ぼうとしている訳ではないと分かっているので嫌な気はしない。そもそも俺の事を名前で呼んでくれる人自体が少ないのでむしろ嬉しいかもしれない。


「別に問題ないよ。あ、でも他の人に見られてる時はなるべくやめといて欲しいかな」

「ん、分かった」

「なんか浮かれてる?」


 さっきに比べて少し声のトーンが上がって、ほとんど動いてないが少しだけ口角も上がっている気がする。


「……だって初めて友達っぽいことが出来たから」


 そう言った彼女の表情は少し寂しそうで、でも直ぐにそれが噓だったんじゃないかと思うくらいの無表情に戻った。


(人付き合いが苦手な美少女ってのも大変だよな……)


 顔が良いのはもちろんメリットになるが、その分デメリットにもなり得る可能性だって十分にある。

 彼女の場合はその結果寄ってきた人が悪かったという事なのだろう。


「……あー、そのなんだ、氷室さえよければ友達になるか?」


 普通は友達なんて気づいたらなっているような曖昧な存在だろう。

 それ以上に仲良くなる奴もいれば、やっぱり合わなくて離れていく奴だっている。おこがましい事かもしれないがそれでも俺はそう言いたくなった。


「……いい、の?」

「俺から言っといてダメとは言わない」

「迷惑をかけるかもしれない」

「友達には少しくらい迷惑をかけるもんだろ?」


 それを俺が言ったっきり彼女は黙ってしまった。

 その無表情な顔からは何を考えているのか全く分からないが、彼女が何か言ってくれるまで俺も黙って待つ。







 1分ほど経っただろうか、かなり悩んでいたであろう彼女の口がゆっくりと開いた。


「私で良かったら仲良くしてほしい」

「もちろん」


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