二九話 無自覚って怖い
今日は昨日なんやかんやあって見ることが出来なかった水着を、有栖と一緒に見に来ていた。
俺の水着はそんなに迷う事も無いので無難な色のサイズが合ったものを選び、次は有栖のを……となった訳だが。
女性の水着コーナーに着いた瞬間早く逃げ出したいという気持ちでいっぱいになる。
当たり前だが周りにはほとんど女性しかいないし、男性が居たとしてもそれはカップルで一緒に選んでいる人達ばかりで、そういう訳ではない俺としてはとても肩身が狭い。
「……優佑は何色が良いと思う?」
早速難問が飛んできた。
間違いなくそれは有栖が着る水着の色の話だろう。有栖に似合いそうな色……やはりパステル色よりも白などの落ち着いた色だと思うが……。
「んー、有栖の候補みたいなのは無いのか?」
……逃げた。
いや、でも許してほしい。なんだかここで何色と答えても良くない気がするのだ。
結局有栖が着るものなのだし、有栖の好みに合わせた方が良いんじゃないかというのも本音だが。
(いや、一体俺は誰に言い訳してるんだ……)
有栖は少し迷ってぐるっとエリアを一周してから一つの水着を掛けてある所から取り出した。
「……これ、とか?」
「良いんじゃないか? 似合うと思う」
有栖が持って来たのは、紺色のワンピースタイプの水着だった。
普通の服に比べて袖が短いくらいで露出が多い訳でもなく、有栖に似合いそうだなというのが第一印象だった。
「…………変じゃない? ここに売ってるのほとんど肌が出てるのばっかりで、ちょっと恥ずかしいからこれにしたんだけど……」
「逆に露出が多いのだと俺が止めてたよ」
「……そう?」
「ああ、海で浮かれた輩が変に寄ってきても困るしな――って言ってもたとえその水着だったとしても寄ってくる人が居そうなのは大変だけど……」
何度でもいうが、有栖は可愛い。俺から見て……という事ではなく客観的に見ても百人中百人が可愛いと答えるだろう程の容姿の持ち主だ。
そんな有栖がビキニなんて着てようものなら近くに居る海水浴客の視線を全て集めてしまうレベルだろう。
知らない人が苦手な有栖がそんな状況になるのは得策ではないし、何より露出が多い水着だと俺も困る。
有栖もこれに決めたようで二人で会計に向かった。
これで今日の用事も終了し、十五時という微妙な時間で特にこれからする事は無くなった訳だが――。
「時間も微妙で特にこれからする事も無いし、今日はもう解散にしとくか?」
「……帰る前にあれ、食べてみたい」
そう言って有栖が指を差した先にあったのは、外に止まっているクレープ屋の屋台だった。
「クレープか?」
「うん。食べた事無かったから気になった」
「ならせっかくだし食べてから帰るか――ストロベリーとかチョコとか色々あるけどどうする?」
このクレープの屋台は結構人気があるのかそこそこ人が並んでいるので、その間に注文する味を決める事にする。
種類も十種類近くあり、どれも美味しそうでなかなかすぐに決めるのは難しい。
有栖もどれにするか迷っているのか、うーんと言いながらどれが良いか選んでいる。
「……チョコバナナかイチゴホイップがいい……でも二個は食べれない」
「じゃあどっちかは俺が買って両方食べ比べてみるか?」
「いいの? ……でも優佑は自分が好きなやつ選んで」
「別に俺はどれも美味しそうで決めきれないから有栖に決めて貰えた方が助かるんだ」
有栖は遠慮していたが、俺が引かないと分かるとじゃあそれでお願いすると言ってクレープ選びは完了した。
そして丁度それと同じくらいのタイミングで自分達の注文する番になった。
「チョコバナナとイチゴホイップでお願いします」
「かしこまりました。数分で出来上がりますので少々お待ちください」
言われた通り少しワクワクしながら待っていると、出来上がったクレープを店員さんが手渡してくれた。
俺はチョコバナナを、有栖はイチゴホイップを受け取ってその場を離れる。
「じゃあそこのベンチで食べようか」
「ん、楽しみ」
とここまで来て気付いた。
そういえば半分こするなら前のケーキのような事になるのでは……と。
さらに言えばここは家ではなく外だ。ケーキのようにお皿に乗っていれば、先にフォークで切り分けてから食べられるかもしれないが、クレープは手で持っているだけでどう頑張っても先に分けようとしたらこぼれてしまうだろう。というかそもそも手でちぎるのはいささか無理がある。
…………つまり間接キスは避けられない訳で……。
そう考えると顔が熱くなってきた。
たかが間接キス程度で――なんて思うだろうが、俺は年齢イコール彼女いない歴の初心な男子高校生なのだ。
横を見るとかなり楽しみにしている有栖の顔が……うん、今更交換するのは無理なんて言える訳ない……。
とりあえずお互いに自分のを食べ進め……。
「じゃあ、交換しよ」
「……ああ」
(なにも考えず無心で食べればただのクレープじゃないか。変に意識するからダメなんだ、鈴音とはよく交換して食べてたし何もおかしい事なんて無い。無いったら無い……)
なにも考えず食べ進めると、味はほとんど分からなかったがどうやら食べ終わったらしい。
「美味しかったね」
「……そう、だな」
「――あ、ほっぺにクリーム付いてるよ?」
「え? どこ?」
左の頬を差していたのでそっちに指を持って行ったのだが特にクリームなんて付いている様子はない。
という事は右か? なんて思っていると有栖が右の頬に指を伸ばしてクリームを掬い取って……その指をペロッと舐めた。
「ん、美味しい」
(……っつ)
「?」
無自覚な有栖の行動に、俺はしばらく有栖の顔をまともに見れなかった……。
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