二八話 お化け屋敷
旅行に行く五日前、いくら旅行に行く事が決まっているとはいえ宿題も終わった今、俺は暇を持て余していた。
今日は有栖が家に来て一緒に本を読んでいるが、朝から夜まで本を読んでいるというのは流石の本好きでもしんどいものがある。
何か他にする事は無いものか……そう考えていた時、丁度面白い物が目に入った。
「なあ有栖、今からショッピングモールまで出掛けないか?」
「……? 何か買い物するの?」
「いや、そういう訳じゃなくてだな――これに行ってみないか?」
そう言って見せたのは、今朝ポストに入っていたお化け屋敷のチラシだった。
どうやら今週いっぱいまでこの前行ったショッピングモールでお化け屋敷をやっているらしく、丁度今の時期にもピッタリなのでどうかと思ったのだが……。
「怖いやつ?」
「まあそうだな」
「……行ったことない……けど、怖いのはちょっと苦手、かも?」
「んー、苦手ならやめとくか、無理して行くもんでもないし」
しかし有栖がお化け系が苦手だとは思わなかった。そういう理論で説明できない存在については全く信じないものだとばかり思っていたが、そうではないようだ。
「……行かないとは言ってない」
「え? でも苦手なんだろ?」
「一人で行くのは怖い……けど、優佑も一緒……でしょ?」
「そりゃあわざわざ一人にするつもりは無いけど……」
(でも無理させる訳にもいかないし……)
俺もすごく行きたいと思った訳でもないし、こういうのを無理させるのはあまり良くないと思ったのだが……。
「……別に無理してる訳じゃない。ちょっとだけ苦手なだけで優佑が一緒に居てくれたら大丈夫」
俺の気持ちを見透かしたのか、そんな事を言ってくる。
「……有栖がそう言うなら……行ってみるか」
「ん」
というわけで早速支度してショッピングモールへと向かった。
それにしても外は焼けるような日差しと蒸し暑さで、ショッピングモールに着くころには額に汗が滲んでいた。如何にエアコンが素晴らしい物かがよく分かる。いや、それにしても今年は暑すぎる気がするが……。
「……どこにあるの?」
「三階フロアの端っこにあるらしいんだが――お、ここみたいだな」
結構人気があるのか、入り口には4、5組くらい並んでおり、俺たちの順番になるまでは二十分程かかるそうだ。
「そういえば有栖は夏休みの宿題終わらせたか?」
「ん、旅行楽しみだったから早めにやった」
「もうすぐだもんな……あ、ショッピングモール来てるし後で日焼け止めとか買っとかないとな。有栖も足りない物があったらこの後買っとくか?」
「何が必要なの?」
旅行に必要な物はおそらく英一郎さんが揃えているだろうから……今回必要になるような物と言えば――。
「――海で着る水着は持ってるか?」
「学校のやつなら持ってる」
流石に砂浜にスクール水着で行くのはかなり浮いてしまうだろう。いや、水には浮いてくれていいんだけどね?
いやでも、上に何か水に濡れてもいいTシャツでも着ればあり、なのか? うーむ、そこは有栖の判断に任せることにしよう。
「有栖がそれでいいならいいんだけど、一応後で水着見に行ってみる?」
「分かった、でもその時は優佑も一緒に選んでね?」
「……え?」
水着コーナーに連れて行ったら外で待っていようと思っていたのだが、完全にそれを読まれていたようで一瞬にして逃げ場を奪われる。
どうにかそんな恥ずかしい事から回避できないだろうかと、言い返す言葉を探していると、お化け屋敷のスタッフであろう人から順番になった事を伝えられた。
「もしどうしても進めない場合はリタイア出来る場所がいくつかありますので、間違っても中で走らないようお願いします」
「分かりました、ありがとうございます」
「いえ、それではどうぞお楽しみ下さい」
しっかり説明も受けたところで、ゆっくりとお化け屋敷の中へと足を進める。
「おお、思ったより雰囲気が凄いな」
「……暗い」
言ってもショッピングモールに期間限定で置いてあるのでそこまでのクオリティーがあるとは思ってなかったが、思っていたよりも中の造りはしっかりしていた。
有栖は最初に言っていた通り少し怖いのか、俺の服の裾を遠慮がちにつまんでいる。
そろそろ何か来るかなぁ……と思っていると、予想通り急に真横の壁から大きな音がしたかと思うと、そちらからこっちを見ている血まみれの女の人が居た。
「……ひぅ」
「……」
有栖は大きな声を出さなかったものの、やはり驚いたのかいつの間にか服をつまんでいた手は俺の指を握っている。
なるほど、これは俺も大変かもしれないぞ?
その後もこちらを驚かすための仕掛けがどんどん発動する訳だが、その度にどんどんと有栖が俺にくっついてくる。
指を掴んでいた手は手をガッチリ掴んでいたかと思うと、最終的には俺の腕にしがみつくような形になっていた。
まさか俺もこんな事になるとは思っていなかったので、腕に当たる柔らかい感触と少し甘い香りに、正直お化け屋敷どころでは無くなっていた。
途中明らかに舌打ちをしてこちらを見ていた男性の霊らしき人が居たが、それは演出だったのか、それとも……。
結局ほとんどお化け屋敷の中の様子は覚えていないまま、俺たちはゴールまでたどり着いていた。
「…………あー……大丈夫、か?」
「……大丈夫」
そうは言いつつも、俺の手を握った手は絶対に離さないといわんばかりに強く握りしめられている。
「……有栖さん、ちなみに手は……」
「…………帰るまでだけ、ダメ?」
「……ハイ」
少し潤んだ目でこちらを見てそう言われてしまっては、拒否のしようが無かった。
結局この状態では水着の購入は今日は無理だろうということで明日行く事になったのだが、次から有栖と怖いものを見るのは有栖の為にもそして俺の為にも控えようと、そう心に誓った一日だった。
ちなみに私は怖いの超苦手な小心者なので、お化け屋敷とかに行くのは絶対無理です……。




