二七話 夏休みの始まり
なんだかんだ七月も終わりが近づき、学校も今日が終業式だ。
蒸し暑い体育館で校長先生のありがたい話を聞きながら、夏休みは何をするかボーっと考える。
夏休みの間に出される宿題は頑張って七月中には終わらせるとして、それでもそれ以降の予定は特に何もない。
去年は両親と鈴音に会いに海外旅行を楽しんできたが、今年は長時間フライトは疲れるし行く事は無いだろう。
そういえば有栖はどうするのだろうか? 平日はほぼ毎日俺の家に来ていたが、夏休みの間は全く来なくなるのかそれとも偶には来るのか……とりあえず後で聞いてみることにしよう。
「隼人は今年も向こうに行くのか?」
「ああ、来年は受験生だから流石にこっちに居るだろうが、今年は来て欲しいと言われたからな。優佑も遊びに来てくれてもいいんだぞ?」
「いや、遠慮しとくよ。子供の相手をする自信は無いからな」
「そうか、まあ気が向いたら連絡してくれ」
隼人達一家は毎年夏休みは母方の祖父母の家に行っている。
親戚も結構集まるらしく、毎年自分より年下の子供たちの相手をするのが恒例だそうだ。
一度だけ中学生の時に一日お邪魔させてもらった事があるが、赤ちゃんや幼稚園生が沢山いてどうすればいいのか対応に困った事を覚えている。
それに加えて俺の目つきが怖かったのか、何人かに逃げられた事もあり正直ちょっと子供が苦手になっている。おそらく俺が行ってもおろおろして帰ることになるだけなので、行く事は無いだろう。
担任の先生からは浮かれすぎて死なないように、と一言だけもらって夏休みは始まった。
生徒の大半は帰りにカラオケに寄ったりファミレスに寄ったりと少し寄り道してから帰る人が多かったが、特に俺はそういう事をする相手も居ないのでそのまま家に向かう。
「……優佑?」
「ん?」
帰り道の途中で名前を呼ばれた気がして後ろを振り返ると、有栖が居た。
「優佑は夏休み何するの?」
「いや、特にこれといって何も決まってないな。そういう有栖はどうなんだ?」
「私も何するか決まってない」
「どこか遊びに行くのもいいけど外だと暑いしな……」
今年はいつもに比べてかなり暑い気がするし、この炎天下の中外に居たら倒れてしまいそうだ。
「……夏休みも偶に優佑の家行ってもいい?」
「来たい日は前日までに連絡してくれたらいいよ」
「ありがとう――じゃあまた今度」
「うん、じゃあまたな」
ちょうど俺の家の前まで着いたので、そこで有栖とは別れて郵便物のチェックをしてそのまま家に入る。
いやしかし今年の夏はどうしたものか……。
やりたい事も思いつかないし、かといって家で無駄な時間を浪費するのも勿体無い。
とりあえずさっきポストに入っていた海外から届いたであろう封筒を確認することにする。
「……なんでわざわざスマホでメッセージを送らずに紙で送ってきたんだ?」
とりあえず中身を見ないことには判断のしようが無いので、封を開けて中身を出す。
入っていたのは手紙であろう紙一枚だけだった。
『優佑、どうせお前の事だから夏休みの間何もすることが無くて困ってるんだろう? って事で粋な計らいが出来る父さんが良いプレゼントをあげよう。英一郎さんとそのお孫さんも誘って是非とも旅行に行くと良い、もちろん向こうに断られたなら一人で行ってくれても構わないが、鈴音に聞いた感じかなり仲が良かったらしいから問題無いだろう? 行く事が決まったら父さんに連絡してくれ、こちらで宿や移動費は用意しようじゃないか。ちなみに紙で送ったのはなんかこっちの方が雰囲気がありそうだったからだぜ。 追伸 浮かれすぎて羽目は外し過ぎないようにな!』
なぜこの父親は毎回最後に余計な一言を添えるのだろうか……。
まあそれはさておき旅行か、確かに行くのはありかもしれない。
有栖もさっき何も決まってないと言っていたし、タイミングもバッチリだ。
もし断られたとしても一人旅っていうのも案外面白いかもしれないな。
早速有栖に連絡をしてみたところ、こちらが全部お金を出すのは流石に申し訳ないので自分達のは出すと言っていたが、旅行に関してはかなり乗り気なようだ。
予定が埋まっている日を聞いておいたので、後は父さんに行く事を伝える旨のメッセージを返しておけば大丈夫だろう。
「旅行のためにも尚更とっとと宿題終わらせとかないとな」
元より早めに終わらせる予定ではあったが、旅行中に勉強の事なんて気にしたくもないので今日から取り掛かることにしよう。
次の日になって父さんから送られてきた宿の場所は、海が真横にある老舗の旅館らしく父さんの幼馴染みが経営している場所らしい。
もちろん海水浴もできるとのことなので、水着は持って行った方が良いだろうと言われた。
丁度そこに泊まる中日に近くで花火大会もあるらしいので、2泊3日を存分に楽しめる事だろう。
思いがけないところから決まった旅行だが、これは思っていたよりも楽しい夏休みを過ごせそうだ。




