二六話 その感情は……
「――なるほど、隼人はこういうのが好きなんですね」
「そうだな、後はこっちのもいいかもしれない」
そう言って本のページをめくって指を差す。
「……こういうのはどうなんでしょうか」
「いいんじゃないか? というか川口さんのだったら何でも喜ぶと思うけどな」
「そういう問題じゃないんです、確かに隼人なら何でも好きだと言ってくれると思いますが、それでも好みに近づきたいじゃないですか」
「そういうもんか。相変わらず二人がラブラブそうで良かったよ」
昨日隼人に言われていた通り、俺は隼人の彼女である川口陽菜さんと会っていた。
偶に俺と話すことがある川口さんだが、それはすべて隼人に関しての話であり、そこからも二人の仲の良さが伝わってくる。
二人は一年生の頃から生徒会に入っており、そこで知り合ってからなんやかんやあって一年生の終わり頃に付き合い始めたらしい。
ちなみに今では隼人が生徒会長、川口さんは生徒会副会長として、二人で上手くやっているとのこと。
俺に隼人についての質問をしてくるのは、俺が隼人との関わりが長く、隼人も優佑の事を親友だと言っているのでよく知ってそうだったから、だそうだ。
「今日もありがとうございました、また教えて下さいね」
「もうそろそろ教える事も無くなりそうだけどな」
「いえ、まだまだ隼人の知らない所は沢山ありそうですから」
「そうは言っても、隼人のお昼のお弁当を作りたいって言って好みを聞いてくるくらいだから、そこまで来たらもうほとんど聞くような事も無いだろ」
今日、川口さんが聞いてきたのは隼人の食の好みだった。
放課後に図書館で料理本を開きながら、どういったものが好きなのかと聞かれたので、隼人がよく食べていた物を伝えていた。
「それでは失礼しますね」
「ああ」
用も済んだので、川口さんは俺に一礼してから図書館を出ていった。
俺も有栖が家に来るのを少し遅らせて待たせる事になっているので、早めに帰宅する事にしよう。
「……むぅ」
この時、俺と川口さんが会話していたのをジッと陰から見ていた人がいた事を俺は気付かなかった。
俺が家に着いて有栖に帰宅したことを伝える連絡をすると、直ぐに既読が付いた。
有栖も学校に残っていたらしく、ちょうど帰り道なので少ししたら着くと返信が返ってきた。
五分もしないうちにインタホンが鳴り玄関のドアを開くと、なんだかいつもよりむすっとした顔の有栖がいた。
「……お邪魔します」
「どうぞ」
普段通りアップルジュースと適当につまめるお菓子類をリビングに持ってくる。
やはり今日の有栖の表情は相変わらず無表情ではあるが、いつもよりも少し硬いような気がする。
「――なにか嫌な事でもあったのか?」
「……優佑に聞きたいことがある」
「なんだ?」
「今日話してた人って誰?」
今日話していた人……というと隼人――ではなく川口さんだろうか?
確かに図書館で話していたのだから、有栖に見られていてもおかしくはないだろう。
「ああ、川口さんの事か? ただの同級生だけど、どうかしたか?」
「……二人が楽しそうにお話してたのを見てたら、なんだかモヤモヤしたの」
つまりそれは、川口さんに対して嫉妬していたという事だろうか……
「あー、他言無用で頼むが、川口さんは隼人の彼女なんだ。それで偶に隼人の好みを聞かれてただけで別に俺と川口さんが仲が良い訳じゃないぞ?」
「……そう、なの?」
「頻繫に会話する事も無いし、ただの知り合いってだけだよ」
「そうだったんだ」
それを聞いて納得したのか、有栖の表情は普段通りに戻った。
(それにしてもまさか嫉妬されるなんて思わなかったな……)
有栖は長い間人と距離を置いていたからそういった事に全く耐性が無いのだろうか。
例え俺と川口さんが友達だったとしても、わざわざ俺が有栖から離れる訳ないというのに。
「優佑が取られちゃうかと思った」
「俺は取られる程人気が出る事は無いから心配する事ないよ」
「それはみんな気付いてないだけ、気づかれちゃったらみんな優佑に寄ってきちゃう」
「んな大袈裟な……」
俺はそんな大層な人間じゃない。というかそれを言うなら有栖の方が素を知ったらよっぽど人気が出そうなもんだ、なんなら今ですら校内ではかなりの有名人だし……
「大袈裟じゃない。優佑は優しいくてかっこいいもん」
「……お世辞でもそう言ってくれると嬉しいよ」
「お世辞じゃない、絶対鈴音も私と同じ事言う」
「……鈴音はノーカンだ」
「むぅ……優佑の分からず屋」
少し頬を膨らませて不服そうにしている有栖は、まるで自分の好きな物を親に分かってもらえなかった子供のように見える。
「まあまあ、それで今日は何する? いつも通り本を読むのもいいしゲームするってのもいいな」
「……じゃあ一緒にゲームする」
「オッケー、対戦系? それとも協力系?」
「優佑と対戦する。それで優佑は凄いって分かってもらえるまでぼこぼこにする」
「わぁ、それは大変だ」
ちなみに有栖はなかなか俺に勝つことが出来ず、有栖が家に帰る時間がいつもより三十分近く遅くなって、俺は英一郎さんにジトッとした目で見られた。




