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二三話 不安を払って



 今日は月曜日、つまり何があるかというと図書委員の当番がある日だ。

 昨日有栖の過去を英一郎さんから聞いたわけだが、今日の昼休みと放課後には有栖と会う事になる。


 正直言ってしまうとかなり気まずい。

 あれだけ悲しい過去を聞いておいて、軽く流せる訳がないし、かといって重い雰囲気にしたい訳でもない。



 昨日の内にどうするかある程度決めていたつもりだったが、それでも少し躊躇いが出てしまうのはどうしようもなかった。




 そんなこんなで昼休み、うじうじしていても仕方が無いので図書館に向かっている途中だった。

 唐突にスマホからメールの着信通知が届いた。


『今日の当番は私一人で大丈夫』


 それは有栖からの連絡だった。


『それは……どうしてだよ』

『…………無いと思ってるけど、もし優佑と会った時に拒絶されたら……私は……』



 ああ、俺はなんて馬鹿だったのだろうか。何が躊躇ってしまうだの、少し気まずいだの言っていたのだろうか。

 一番不安になっていたのは俺なんかではなく有栖なのだ。


 そう考えると俺は廊下を走っていた。

 今だけは廊下は走ってはいけない、なんていうかルールを守ってはいられなかった。



 少し息を切らせて図書館に到着すると、音を立てないで出せる出来るだけの速さでカウンターまで向かった。

 おそらく責任感のある有栖であれば、きっともうそこにいるだろうと確信を持って。



「……なんで」

「なんでって、そりゃあ今日は当番日なんでな」

「そうじゃない、来なくていいって言ったのに」

「俺は一人で大丈夫とは聞いたけど、来ないでくれとは言われてなかったからな」


 有栖は今にも消え入りそうな声を出しながら、俺と視線を合わせないように少し下を向いている。


「――俺は有栖から離れようなんて思ってない」

「……」

「有栖の過去がどれだけ辛かったは体験したことが無い俺には分からない。でも俺は有栖の事をバカにしたり、この話を聞いたからって離れようとしたりは絶対にしない」

「……ホント?」


 その時、今日初めて有栖と目が合った。

 有栖の表情は不安そのもので、こちらを見ている瞳は揺れていた。


「約束するよ」

「…………じゃあ私も優佑の事、信じる」


 有栖の不安な表情も大分やわらいできたので、俺もホッとする。


 これなら大丈夫そうだなと、有栖が座っているカウンターの横の席に座ると、なんだか有栖との距離がいつもよりかなり近い。

 これだと動くときにぶつかってしまいそうなので少し椅子を横にずらすと、それに合わせて有栖もこちらに椅子をずらしてくる。


「……あのー、有栖さん? 近くありませんか?」

「ダメ?」

「ダメというより……一つ前の授業体育だったから俺臭いかもしれないぞ?」

「大丈夫、全然臭くない」


 臭くなかったのは良かったのだが、だからといってくんくんと腕を嗅ぐのはやめて欲しい。

 おそらく俺がこのまま横にずらし続けても、壁際に追い詰められるだけなのでやめておく。


「でもホントに良かったのか? 俺にこの話をして……そんなに不安になってたんだったら――」

「確かにちょっと不安だったけど、後悔はしてない。だって優佑は受け入れてくれた。それに……ママとパパの命日は五日後だから」

「……そっか」


 そういう理由もあって昨日この話をしたという訳だったらしい。

 

「そうだ、優佑もお墓参り一緒に来て欲しい」

「いいのか? 俺が行っても」

「うん、ママとパパに友達が出来たよって報告したいの」

「有栖がそう言うなら俺も行かせてもらうよ」


(報告されて恥ずかしくないような友達でありたいな)


 少なくとも有栖の事が心配になるような事はしたくない。



「……っていうかやっぱり近すぎない?」

「そんなこと……ない」

「いや、近いってって思ってるよね? だってもう肩ぶつかってるし」


 だんだん近づいてきているな、とは思っていたが気づけばもう肩が俺の腕に当たっている。

 なんだかいい匂いがするし、友達にしては距離感が近すぎるので出来ればやめて欲しいのだが……



「っともう昼休みも終わりか、じゃあまた放課後で」

「……むぅ」



 気づけばもう昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り始めており、移動しなければならないので席を立つ。

 有栖は少し不服そうにしていたが、これは許してほしい。






 今はテスト期間なので、放課後の委員会終了時間もいつもより早い。

 図書館で勉強する人こそそこそこいたものの、本を借りる人はほとんど居なかったのでそこまで何かする訳でもなく、俺と有栖はいつものように下校してそのまま俺の家に来ていた。



「横だとやりずらく(やりづらく)ないか?」

「んーん、問題ない」


 またしても有栖は座る時にかなり俺に近い所を陣取っており、有栖は問題ないかもしれないが、俺としては普段とは違う状況になんだかムズムズする。

 友達として心を許してくれている……という事なのだろうか。有栖は両親にべったりだったと言っていたし、もしかしたら有栖は思った以上に甘えたがりなのかもしれないな……




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