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二一話 勉強会



 そうして始まったテスト期間。一人暮らしをしている以上両親が心配するような点数を取ってしまうのは非常によろしくないので、毎回ある程度きちんと勉強をしている。

 もちろん今回も例に漏れず平均点以上は取れるように頑張るつもりだ。



 今は土曜日の夜、来たるテストは再来週の月曜日からなのでまだ一週間は猶予がある。

 今日やろうと考えていた分の勉強も終わったのでお風呂に入ろうとした時、スマホのメールが届いた音が鳴り響いた。


「鈴音か?」


 普段連絡をしてくるのはほとんど鈴音からなので今回もそうかな思いながらスマホを見てみると、鈴音ではなく有栖だった。



『明日のお昼から時間ある?』

『あるけど、何か用か?』

『この前言ってた勉強する話、明日家でしたい』


 おそらく平日の放課後もやるだろうが、明日もやりたいという事だろう。

 思っていたよりも有栖は勉強において天才というよりも努力家なのかもしれないな。


『じゃあお昼食べ終わってから迎えに行ったのでいいか?』

『そうじゃない。明日は私の家に来て欲しい』

『ん? だから迎えに行くって事じゃないのか?』

『優佑の家で勉強するんじゃなくて、私の家でやる』


 なるほど、道理で少し話が嚙み合ってなかったのか……


(それはそうと有栖の家で勉強する……ふむ)


『明日って英一郎さんは家に居るのか?』

『居るって言ってた』

『そうか……明日家に行ってる時だけ呼び方を氷室に戻すっていうのはダメか?』

『……なんで』


 「なんで」という言葉と一緒に普段滅多に使わない泣き顔の猫のスタンプが送られてきた。

 うん、名前呼びを変えるのは無理そうだ。


『ごめん、何でもない。普段通りにするよ』

『嫌いになった訳じゃない?』

『もちろんだよ、変に心配させてごめん』

『ならいいの』


 とりあえず言える事は明日は覚悟を決めてから有栖の家に向かう必要があるということだ。





「お邪魔します」

「ん、上がって」


 そして迎えた日曜日、俺は昨日話していた通り有栖の家に来ていた。

 家の前までは何度も来ているが、中に入った事はなかったのでなんだか新鮮な気持ちだ。


 玄関に上がると、そのままリビングに通された。

 部屋はとても綺麗にされていて、観葉植物やインテリアなどが置かれており、かなりおしゃれな空間が広がっている。

 

「そう言えば英一郎さんは?」

「勉強の邪魔にならないように部屋に居るって言ってた」

「そっか」


 ひとまず来て早々に大変なことにならなさそうでホッとする。

 だが有栖を溺愛している彼の事だ、結局名前で呼んでいるのがバレるのは時間の問題だろう。


「学年が違うから同じ内容の勉強は出来ないけどとりあえず始めようか」

「ん、もし分からないとこがあったら聞いていい?」

「もちろん」



 とりあえず俺は日本史から手を付けることにした。

 人の名前や年号など、完全に暗記科目なので教科書を見ながらテストに出てきそうな所をノートに書いていく。

 単体ごとに覚えていくのではなく、歴史系のものは流れで覚えていく方が頭に入ってきやすいので、これがあったからこの出来事が起きた――など、時系列順に覚えるようにしている。



 俺も有栖も勉強中に喋るタイプではないので、しばらく教科書のページをめくる音とシャーペンを走らせる音だけが部屋に響く。

 ようやくひと段落ついたので時計を見てみると、ここに来てから二時間も経っていた。


 体も固まってしまっているので一度立ち上がって伸びをしていると、丁度英一郎さんが部屋から出てきていた。



「お邪魔してます」

「うむ、捗っておるか?」

「ええ、かなり」

「ところで飲み物は珈琲と紅茶、麦茶、アップルジュースとあるがどれがいいかな?」

「ではアップルジュースでお願いします」


 そう言うと英一郎さんはキッチンの方に向かって行った。


 それと同じくらいのタイミングで有栖もキリが良い所まで終わったのか、顔を上げたところに丁度目が合った。


「丁度英一郎さんが飲み物を入れてきてくれてるから一旦休憩にするか?」

「うん。優佑は飲み物何にしたの?」

「甘い物が欲しくなったからアップルジュースにしたよ」

「じゃあ私と一緒」


 有栖と何の教科をやっていたかという会話をして英一郎さんが戻ってくるのを待っていると、ジュースとクッキーを持った英一郎さんが戻ってきた。


「「ありがとう(ございます)」」

「勉強し過ぎて疲れんようにな。ああそれと――優佑君は帰る前に少しだけ時間をくれるかの?」

「は、はい。分かりました」


 それだけ言うと英一郎さんは早々に部屋を去っていった。

 てっきりもう少し何かあると思っていたのだが、何もなかったことに拍子抜けする。とはいえ帰る前に何か用があるようだが……



「このクッキーかなり美味しいな」

「ん、美味しい。昨日おじいちゃんが作ってくれた」

「え? 英一郎さんってこういうのも作れるのか?」

「おじいちゃんは色々作ってくれる、この前も――」



 この後もしばらく休憩した後、再び勉強に戻った。

 ちなみに有栖から一度だけ問題の解き方が合っているか質問される事があったが、しっかりと答えられたのでおそらく先輩の面目は保たれただろう。







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