十九話 誕生日
それは鈴音が帰ってから数日後の出来事だった。
スマホにメッセージが届いているので何事だろうかと開いてみると、鈴音からだった。
『そういえば兄さんは聞いてないだろうから言っておくけど、1週間後の6月27日が有栖ちゃんの誕生日だから忘れないようにね?』
なるほど確かに鈴音に教えて貰っていなければ、前に聞いていたとはいえ思い出せなかったかもしれない。
しかし女性へのプレゼントなんて何を買えばいいのだろうか。
生まれてこの方女友達にプレゼントなんて送った経験なんて無いので全く分からない。
「はて、どうしたものか」
隼人に聞くというのも一つの手ではあるが、この前ですらかなり勘ぐられたことも考えると、もし今回頼ろうものならほぼほぼ確信に至られるだろう。
となるとやはりインターネット大先生に力を借りるしかない。
しばらくスマホとにらめっこして、何がいいか考える。
色んなサイトを見てみると、ハンドクリームやリップクリームなどの化粧品や香水と書いてある所が多かったが俺はそういうのに全く詳しくない。
肌に合う合わないもあるので、そういったものは難しいのではないだろうか。
とするとハンカチやポーチなどが挙げられるが、自分のセンスは果たして大丈夫なものか……
などと考えていると既に1時間近く経ってしまっていた。
「氷室が貰って喜んでくれそうなもの……か」
彼女に何を渡したら喜んでもらえるだろうか。
ハンカチといえば、この前家に忘れて行ったハンカチはかなり大切に使っていた物のようだった。
ならばそれを使うだろうからハンカチは却下。
ポーチ……は、自分が使う事が無くてよく分からないので却下。
「全部却下にしたら決まらないじゃねーか……」
これは思っていたより大変かもしれない。
ハンカチは別に何枚あっても困る事は無いので無しではない。
ポーチだって変なデザインを選ばなければダメという事は無いだろう。
「ふむ、これだと最初に逆戻りか」
何かお店で買えて氷室が喜んでくれそうなもの……
「……あ、もしかしたらこれはありかもしれない」
善は急げ、男一人で持ち帰るには少々恥ずかしいがとりあえず行くことにしよう。
それから時は過ぎて6月27日。つまり氷室の誕生日だ。
今日も今日とて放課後はいつものように氷室は家に来る事になっている。
俺が氷室の誕生日を知っている事は伝えてないので、一応サプライズとしてプレゼントを送るつもりだ。
インターホンが鳴ったので普段通り氷室を家に招き入れる。
「お邪魔します」
「はいよ、前から読んでた本は今のところ昨日の12巻が最新巻だったけど、今日はどうする? 他のやつ見てみるか?」
「選んでもいいの?」
「勿論だとも……でもその前に」
とそこで話を切ってソファーの裏に置いておいた袋を取り出す。
「誕生日おめでとう」
「……え?」
まさか唐突に祝われると思っていなかったのか、珍しく氷室の表情が動きポカンとしている。
「何がいいか分かんなかったけど、貰ってくれると嬉しいかな」
「あり、がとう。開けてもいい?」
「ああ」
いきなりプレゼントを渡されて面食らっていた氷室だったが、包装されていた袋を恐る恐る開いていく。
そうして中から出てきたのは……
「ワンちゃんとネコちゃん?」
「氷室がどっち派か分かんなかったかったから、両方取ってきたんだ」
「嬉しい……絶対大切にするね」
そう言った氷室は普段とは違い、少しだけニコッと笑っていた。
そんな氷室に思わず視線が釘付けになってしまうのは不可抗力だった。
「そういえば取ってきたってどういう事?」
「……あ、ああ。それはクレーンゲームで取ってきたんだ、昔からそういうのはそこそこ得意だったから」
「クレーンゲーム……難しくて全然取れたことない」
「じゃあ今度一緒にやってみるか?」
氷室も少しコツをつかめばすぐに取れるようになるだろう。
「うん」
「じゃあその時はまたあのショッピングモールだな」
「確か優佑の誕生日は……」
「俺か? 俺は1月3日だよ」
今は6月なので丁度真逆の時期だ。
「むぅ……そうだった。もう今年は終わってるから、来年お祝いする」
来年も仲良くしてくれると、そう間接的に言ってくれている事がその時祝ってくれるよりも嬉しいかもしれない。なんて言ったら、怒られるかもしれないな。
「ありがとな、それはそうと今日は氷室の誕生日なんだから氷室がして欲しい事を言ってくれてもいいんだぞ」
「なんでも?」
「俺が出来る範囲でなら」
「じゃあ――」