十七話 顔合わせ
「兄さんそろそろ時間じゃない?」
「そうだな、じゃあ迎えに行ってくるよ」
「早く帰ってきてねー」
「うい、鈴音も帰ってくるまでに部屋汚すなよ?」
そんな子供じゃないもん! という声を後ろに聞きながら、玄関を出る。
普段は氷室1人で家まで来ているが、今日は鈴音と会うということもあり緊張するので良ければ迎えに来て欲しいとのことだった。
家も近いし、そもそも今日は氷室が家に来る以外の用も無いので二つ返事で了承して迎えに行くことになった。
「そういえば氷室と鈴音は同い年か」
これを機に氷室にも俺以外に仲の良い人を作れるようになってくれるといいのだが……
氷室の家の前に着いたので、インターホンを押して反応があるのを待とうとした瞬間扉が開いた。
「っ、早かったな」
「今日楽しみだったから」
「それは良かった、妹も氷室と会えるの結構楽しみにしてたみたいだからな」
昨日来ても良かったのにと言っていたし、さっきもワクワクしていた。
俺も鈴音のようなコミュニケーション力を持っていれば、初めて会う人にもワクワクしていられるのだろうか。
「でもちゃんと喋れるかちょっと不安」
「大丈夫、妹はコミュ力高いし、氷室が人見知りだって事も伝えてる。もし苦手だと思ったとしたらそれは相性が悪かったってだけだから」
「……ん、できるだけ私も話してみることにする」
「その意気だ、じゃあ行こうか」
玄関前でずっと喋っている訳にもいかないので、家に向けて二人で歩き出した。
「さて、じゃあ準備は良いな?」
「ん、どんとこい」
「そこまで身構えなくてもいいけど……じゃあドアを開けるぞ」
鍵を開けてドアを開いた瞬間、鈴音が視界いっぱいに広がる。
「……何やってんだよ、鈴音」
「やっぱり兄さんは私のだって最初に知らしめとこうと思って」
「だからって抱き着くな、後俺は誰のものでもない」
「ていうか兄さん、この人可愛すぎない? 美人局じゃないよね、兄さんが騙されてましたとかいうオチは嫌だよ?」
「そんなわけないから」
俺のツッコミを完全に無視して氷室の方を見た鈴音がそんな言葉を漏らす。
でもまあ分かるよその気持ち、一緒にいてちょっと慣れてきた俺ですらやっぱりこれってホントに現実なのかな? って思うもん。
「えっと、氷室有栖です。よろしく?」
「ふむふむ、じゃあ有栖ちゃんって呼ぶね! 私は木戸鈴音、呼び方はなんでもいいよ、でも兄さんと紛らわしいから木戸って呼ぶのはやめて欲しいかな」
「じゃあ鈴音って呼んでいい?」
「もちろんだよ! ところで有栖ちゃんって――」
思っていた以上に二人の会話がスムーズに進んでいるところを見て安心する。
この様子なら、氷室が帰るまでにかなり仲良くなれそうで良かった。
そのまま二人でしばらく喋りたいだろうから、自分は自室に戻っていようとそっと動こうすると即座に両手を掴まれた。
「あのー、お二人さん? これじゃあ動けないんですが……」
「だって勝手にどっか行こうとしてた(もん)」
「おー、息がぴったりだ」
(お兄ちゃん、もう二人が仲良くなってくれたようで嬉しいよ……)
「鈴音と優佑の話が聞きたいからどっか行ったらダメ」
「私だって兄さんと有栖ちゃんの話が聞きたいんだからここに居てよ」
そんな二人の言うことを無視できるわけもなく、気持ち的に恥ずかしい話ばかりされそうだから先に逃げておこう作戦はあっけなく失敗した。
「じゃあ先に質問していい?」
「……まあいいよ」
「やったー! じゃあ出会ったきっかけはこの前聞いたから、兄さんと有栖ちゃんが仲良くなったきっかけを聞きたいな」
思っていたよりもまともな質問が来て少し驚いたが、俺としてはその方が助かる。
すると、俺が答えようとする前に、氷室が先に口を開いた。
「優佑は出会った時に他の人と違って私を特別扱いしたり、変な目で見てきたりしなかった。それに友達になってくれるって言ってくれた」
「それが兄さんの良いところだからね! でもたまーに人たらしになるところは良くないと思うけど」
「偶に?」
「そうそう、私なんか兄さんに何回も助けてもらったし、それに兄だからそのくらい当たり前だーって嫌がりもしなかったもん」
それは家族なのだから当たり前だろう。そう言おうとして、鈴音に止められる。
「家族だから――とか言おうとしてるだろうけど、私はそんなの関係なくホントに嬉しかったんだからね? ほら、私って何故か生まれつき白髪でしょ? だから小さい頃はよく周りから気味悪がられてた。悪口とかも言われることがあったけど兄さんがいつも守ってくれて、私の髪の毛は綺麗だって言ってくれた。そのおかげで今こんなに明るくいられるの。だから私は兄さんの事がずーっと大好き」
「なかなか恥ずかしい事を言ってくれるな」
「だって兄さんの良いところを有栖ちゃんにも知って欲しかったんだもん」
「だからって大好きまで言わなくてもいいだろ」
「そこが一番大事なところだよ!」
そんな言い合いをしていると、横で「ふふっ」っという笑い声が聞こえてきた。
その声につられてそちらを向くと、氷室が少し笑っていた。
今までほとんど表情を変えなかった氷室の笑っている顔は、思わず目がそっちに行ってしまうほど綺麗だった。
鈴音に少しジトッとした目で見られたが、流石にこれは不可抗力だと言いたい。
「じゃあ次は何聞こうかな――」
最初は少し不安だった二人の顔合わせはこの後も順調に進み、俺のSAN値と引き換えに二人はかなり仲良くなっていった。
今度は共通の話題が俺以外に出来ていて欲しいところだ……