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十四話 知らなかった事実



 あの日以来、氷室は毎日に家に来るようになった。

 大体1~2時間くらい一緒に本を読んで氷室を家に送るという習慣に慣れつつある事に自分でも少し驚いている程だ。


 家に上がらせてもらっているのだから、と最近ではお菓子や飲み物は氷室が持って来るようになり、かといって二人共そんなにお菓子を食べる訳でもないので、だんだん棚にお菓子が溜まってきている。

 後で次来るときはお菓子は持ってこなくていい。と連絡しておく予定だ。





 それはさておき、今日はこの前断っていた隼人と遊ぶことになった訳だが……


「……優佑、お前もしかして彼女出来たか?」

「……は?」

「いや、そんな怖い顔するなよ」

「それは隼人が急に意味分かんないこと言うからだろ?」


 唐突にそんな事を言われたら誰だってこんな反応をするに決まっている。

 というか何をどう見たら俺に彼女が出来たという事になるのだろうか。

 俺と関りがある女性なんて、母親と妹くらい……あと氷室もいるが、そういう関係では断じてない。



「じゃあ聞きたいんだが、この明らかに女性が使いそうなハンカチはなんだ? もちろん優佑の趣味がこういうのだったのなら謝るけど」


 そう言って隼人が指を指していたのは、昨日氷室が忘れて帰ったピンクのハンカチだった。

 次会った時に返そうと思って、洗った後台の上に置いていたのをすっかり忘れたままだったのをすっかり忘れていた。


「……それは妹のだよ、この前電話がかかってきてその色のハンカチが家にあるかって聞いてきたんだ」


 我ながらなかなかに酷い言い訳をしたもんだ。

 ならどうしてそれがリビングに置いてあるのか……と言われれば何も言えなくなってしまう。


「……そうか、まあ言いたくないなら深くは聞かないけどな。それはそうとゲームしようぜ」

「あ、ああ。そのために部屋からリビングに持って降りてるからな、それで何やる?」

「いつものあれで良いだろ」

「あれか……隼人は無茶ばっかりして俺が毎回尻拭いさせられるからな……」


 普段は頭がキレて冷静なのにゲームをやっている時だけ隼人はバカな事ばかりする傾向にある。

 それを毎回カバーしないといけない立場にもなって欲しいってもんだ。


「いいだろ? ゲームの中でくらい自由にやっても」

「それは良いけど今日こそはほどほどにしてくれよ?」

「善処はするさ」



 結局隼人のプレイングが改善されることは無く今日もカバーばかりさせられたのだが……



「そういや優佑最近いい顔するようになったよな」

「……ごめん俺そっちの気は無いんだ」

「そういう意味じゃねーよ、なんて言うか前みたいにやる気なさそうな顔じゃなくなったというか何というか……そんな感じ?」

「いや俺に聞かれても……」


 一度ゲームを中断して休憩をしていると、唐突に隼人がそう言い出した。


「ていうか別に普段からやる気なさそうな顔をしてるつもりは無いんだけど」

「実際学校に居る時とか顕著だったぞ? ボーっとしてるというか、面倒くさそうにしてるというか」

「……そうなのか?」

「そうそう、まあでも最近はそんな事はあんまり無くなってるって話よ」



 なかなか洗面所以外で自分の顔を見ることは無いので自覚はないし、やる気なさそうな顔をしていた覚えは無いが、まあ学校だしそんなもんだろう。

 かといってそれが最近改善されているのは原因は………………氷室のおかげ……なのだろうか?

 最近変わった事といえば氷室と関わるようになった事くらいで、それ以外は普段と何も違わない。

 ともなれば氷室が関係してくると考えるのも妥当だ。だとしてもそれを隼人に言うつもりは無いが……



「つまり何が言いたいかっていうと、良い出会いは大切にしろよって事だ」

「だからさっきのはそういうのじゃねーって言ったろ」

「へーい」


(隼人は茶化したいのか、それとも勘付いているのか全く読めないな)


 少なくとも俺が自信をもって氷室の友達だと言えるようになるまでは言うつもりは無いし、それまでこの関係が続いているかも分からない。

 隼人には最悪バレても言いふらすような事は無いだろうが、どうせしばらくからかわれる事になるので今後は片付けなどを気を付けるようにしなければ……




「あ、それとは全く別の話なんだが、図書委員の相方が氷室さんだったって話はホントか?」

「ッ、ゴホッゴホッ」


 唐突にそんな話を出すもんだから、飲んでいたジュースが気管に入りかけてむせてしまう。


「大丈夫かよ」

「ま、まあ……」

「ならいいけど、それで? 噂はホントなのか?」

「まあ噓ではないけど……てか噂になってんの?」


 流石に図書委員の当番が一緒になっただけで噂になっていたらたまったものでは無い。


「噂ってのはちょっと大袈裟だけど、隣のクラスの図書委員が俺の友達なんだよ。それで優佑が一緒にあの氷室さんと一緒に図書館に来たかと思ったらそのままくじ引きで当番まで一緒になってたーって話しててさ――あれマジだったんだな」

「図書館に行く途中で財布を拾ってもらったんだ、それでくじ引きはマジの偶然」

「まあそんな事だろうとは思ったけど、去年の先輩みたいに全く来ないって事は無いんだよな?」

「ああ、ちゃんと仕事してくれてるよ」



 その話の真意を確かめたかったって方が大きいだろうが、去年の話は度々隼人に愚痴をこぼしていたのでそれも気になっていたのだろう。


「ちなみに結構変わった人だって噂だけど実際はどうなんだ?」

「別に、普通の女子生徒だったよ」

「入学式の時のインパクトと整った容姿、そしてこの学校の理事長の孫って事が先行して噂に尾ひれがついてたって事か」

「そういうこと……ってちょっと待て今なんて言った?」


 どうにも聞き逃してはならない言葉が聞こえた気がするのだが……


「ん? 噂に尾ひれがついてたって話だろ?」

「そのひとつ前」

「理事長の孫って話か?」

「そう、それだよ。マジなのか?」

「……優佑、お前マジで友達居ないんだな、この話は入学初日に噂になってたやつだぞ?」


 ……一度俺に友達が居ないというところは置いといて、氷室がこの学校の理事長の孫? ……という事は? 英一郎さんがこの学校の理事長……という事で……


 もしかしなくとも、俺って結構失礼なことをしていたのでは?






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