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十二話 占いの本



「相変わらず暇だなぁ……」

「ん、こんなに人が来ないなんて思わなかった」


 この前ショッピングモールに行って以来、特に変わった事もなく次の週の図書当番の日を迎えた訳だが、相変わらず図書館には人はほとんどおらず頻繫に本を借りたり返したりしに来る人も居ないので暇を持て余していた。



「あ、そうだ。この前は俺が寝ちゃってこれ以外の仕事を伝えられてなかったな」

「何するの?」

「実際見た方が早いかな――こうやって元の位置が分からなくなった本が置いてある場所があるんだが、そこに本があったらそれを元の位置に戻すんだ。この学校は図書室じゃなくて図書館って言われるくらい広いし本の数が多いから、元の位置を忘れる人も偶に居るんだ。だからそれを元に戻すっていう作業」


 その割にこの図書館を利用する生徒はあまり多くないのは、かなり宝の持ち腐れだと思う。

 

「優佑は全部位置を覚えてるの?」

「まさか、本の種類ごとに置いてある場所は決まってるから、その場所まで行って頑張って探すんだ」

「もしかして面倒くさい?」

「……まあ、いい時間つぶしにはなるかな」


 ほとんど一人でやっていた去年の俺からすると、いい時間つぶしになった。

 だが、話し相手がいる今年は進んでやりたくはない仕事だ。


「幸い今日は一冊しか置かれてないからそんなに時間はかからないさ」

「私も手伝う」

「最初だしそうしようか。そしたらカウンターを離れる時はこれを置いといてな」


 そう言ってカウンターの横から取り出したのは、『ただいま席を空けております、少々お待ちください。』と書かれた立て看板だ。

 これを置いておき、本の元の位置を探している際も定期的にカウンターの方に気に掛けていれば、用がある人を長い間待たせる事は無い。

 基本的にその日1人で担当している人がトイレに行く際などに使われているが、こういう使い方もできる。


「今回のは――占いの本、か」

「占い?」

「ああ、生年月日で見たりとかタロットカードを使ったりとか他にも色々あるけど、この本は誕生日で見る簡単なものっぽいな」

「――面白そう」


 普段こういうものを見ないのだろう。だからか、氷室はいつもより少し目を輝かせてそれを見ている。


「あー、そんなに気になるならカウンターまで持って帰って見てみるか? 自分で借りれば特に問題ないだろ」

「いいの?」

「どちらにしても時間はまだあるしな、読み終わってから返しに行くのでも遅くないさ」


 どうせ人はほとんど来ないのだし何とかなるだろう。


(もし人が来ても直ぐに閉じればいいしな)


「早く行こ」

「はいはい」


 こんなにテンションが高い氷室はこの前家でライトノベルを読んでいた時以来だろうか。

 氷室は小説だけでなく本全般がが好きなのかもしれない。



「これどうやればいいの?」

「そうだな……氷室って何月何日生まれだ?」


 パッと見た感じ生まれ年は必要なく、単純に誕生日だけで見るもののようだ。


「6月27日」

「なるほど――ならこのページっぽいな」

「見せて」


 早く見たいのだろうが、本をのぞき込もうと近づいてきたせいで氷室の顔がとても近い。

 少し横に顔を動かせばぶつかってしまいそうな程の距離に来たことで、否応無しにドキドキしてしまう。


(氷室って良い匂いするんだな……ってバカか俺は)


 バカな事を考えてしまったせいで余計に意識がそっちに向かってしまいそうだったので、本を氷室の方にずらして顔の距離を離す。


「病気になりにくい……冷静で客観視できる……人と関わるのが苦手……当たってる」

「へぇ……結構色々書いてあるんだな」

「あっ、人間関係は狭く深くするのが良い……だって」

「確かに氷室はその方が向いてそうだな」


 下心で寄ってくる人も多いので、信頼できる人を作ったり今仲良くしてくれている人を大事にした方がいい……か。この本氷室向けに書いてあるんじゃないか? と思わせる程、氷室と合致している気がする。

 あながち占いも間違いではなさそうだ。


「じゃあもっと優佑と仲良くなりたい」

「……ん? どうしてそんな結論になったんだ」

「だって今仲の良い人を大事にしろって書いてる」

「……そう、だな」


 もし他の人がこれを聞いたらやっかみが凄そうだな。と思いつつも、そう言われて少し嬉しくなった自分がいる。


「じゃあ次は優佑の番ね」

「俺もやるのか?」

「もちろん、誕生日はいつ?」

「1月3日だけど……」


 そう言うと、氷室がページをめくって1月3日のところを開く。


「完璧主義で対人関係が苦手……当たってるな」

「優佑も人と関わるの苦手?」

「得意ではないな、じゃなかったら友達だって少しくらい居るはずさ」

「……そう」

「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」


 氷室はそれを聞くとクスッと少しだけ笑った。同じく友達がいない仲間として嬉しかったのだろうか。

 やはり氷室の考えている事はまだまだ分からないな……


(それにしても氷室って笑う事もあるんだな……)



 その後もしばらくその顔が頭から離れてくれなさそうである……







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