十話 ショッピングモール
今日は昨日から予定していた通り放課後にショッピングモールに行くのだが、その前に一度家に帰ってから現地集合したいと氷室から要望があったので、今は家に戻ってきている。
なぜそんな事をしたいのかと思い聞いてみたところ、一緒に行くのではなく現地に集合してから遊ぶというのをしてみたいとのことだった。
恐らく友達らしいことをしてみたいと考えたのだろうが、それはどちらかと恋人同士がするものではないか……と思ったのはグッと飲み込んで同意した結果、こうなった。
「絶妙にずれてるところがあるよな……」
今日のこれだったり、昨日なんの警戒もなく家に上がったり、逆に自分の家に入れようとしたり……
将来悪い人に騙されないか心配である。
「――よし、こんなもんで良いだろ」
相手に待たせる訳にもいかないのでパパっと制服から着替えて財布とそれを入れる手頃な鞄を持ってから家を出る。
ショッピングモールは電車で丁度一駅先にあるので、今日は歩きではなく電車を使う事にする。
結果早めに行こうとした甲斐あって、集合場所である時計の前に着いたのは集合時間の20分前だった。
「氷室がナンパされる訳にもいかないからな」
氷室がくるまで暇になるが用心するに越した事は無いだろう。
「ごめん、待った?」
「いや全然、俺もさっき着いたとこだよ」
実際、少し前に海外の人から道を聞かれてそれに対応していた事もあって、待ってないというのは半分噓じゃない。
しかしそんなことはどうでもいいと思えるほど、初めて見る氷室の私服は可愛かった。
真っ白なワンピースに、いつもはおろしているサラサラなロングヘアーの黒髪を今はポニーテールにしているのに思わず目を奪われてしまう。
こんな美少女と横に歩くのが冴えない俺で良いのかと思ってしまう。
周りからの視線も凄まじく、単純に目を奪われている者や、俺に嫉妬の視線を送ってくる者も少なからずいた。
「ちなみにショッピングモールで何がしたいとか決まってるのか?」
「……遊びに行くのが楽しみで全然考えてなかった」
「そんなことだろうとは思ってた――んー、そうだな……せっかくショッピングモールに来てるんだし何か買いたいものはあるか?」
「じゃあ、服を見に行きたい。私あんまり外に出ないから持ってる服のバリエーションが全然無くて」
「了解、なら2階に行くか」
正直、俺にはファッションセンス的なものは無いのでただついていくだけになるだろうが……
「あっ……」
「どうかしたか?」
「私が選ぶのは良いけど、そうしたらその間優佑が暇になっちゃう」
「ついてこられるのが嫌なら他で時間潰すけど、そうじゃなかったら一緒に喋りながら見て回るだけでも十分楽しいよ」
俺が離れると氷室がナンパされる未来が見えるので一人にはしたくないというのが本音だが、もし嫌と言うなら仕方がない。
「……なら一緒に来て欲しい」
「分かった、じゃあどこから回る?」
氷室のオーケーも頂けたので、一緒に服を見て回る事になった。
彼女は元がとても良いので何を着ても似合うだろうが、それでも色や形の好みがある。
どれにしようかと悩みながら色んな服を見る氷室と一緒に居るのは案外楽しかった。
「これとこれだとどっちの色が良い?」
そう言って見せてきたのは、同じ柄の緑の服と薄い水色の服だった。
正直なことを言うとどちらとも凄く似合っているので、どちらでも良いと思ってしまうのだが、それでは返答としてダメだろう。
こうなってしまっては延々と悩んでしまいそうなので直感で決めることにしよう。
「水色の方、かな?」
「ん、分かった。じゃあこっちにする」
「いいのか?」
「優佑が選んだ方にしようと思ってたから大丈夫」
すべての中から一つを選ぶのではなく、はずれが無い選択肢から選べたのはとても助かった。
(危うく俺のファッションセンスのなさが早々にして露見するところだったな)
「優佑は何か買いたいものは無いの?」
服を買い終えて店から出た俺達は、次にどこに行くかを考えていた。
「あー、ないことはないけど、そういえば氷室は晩御飯どうするんだ?」
時計を見てみれば、思っていたよりも時間が経っていたようで、針は18時30分を指していた。
もし氷室は帰って食べるのであれば、俺はここのフードコートで何か食べて帰ればいいのだが、そうじゃない場合はそろそろ考えた方がいい時間帯だ。
「おじいちゃんは、どうしてもと言うなら食べて帰ってきてもいい。だがその時は儂に連絡をするのと、20時までには帰りなさい。って言ってた」
「氷室はどうしたい?」
「……一緒に食べて帰ってみたい」
「分かった、なら連絡した後に食べたいものを探すか」
かくして俺達は外食してから帰ることになった。
ちなみに氷室が英一郎さんに連絡した時一度俺に電話を変わったのだが、外食するのはいいが絶対に変なまねはするなよ、と釘を刺された。