朝寝坊
「隆也!いい加減起きなさい!」
怒濤のごとくまくし立てては、ドアを意気よいよく開ける母さん。
「ん〜」
と寝ぼけて、また眠る。
「お母さん知りませんからね。ちゃんと起きるなら学校行って、無理なら自分で電話しなさい!わかったわね!」
イライラしながら、母さんは部屋をあとにする。
俺はというと、実は狸寝入りだったりもする。
俺は学校が嫌いだ。
だから無断で休んでる。
母さんが、パートで家出る頃を見計らい、俺は大きなあくびとともに伸びをする。
そして、決まってやるのがゲーム。
特にSwitchのRPGにハマってる。
ここには、俺の事情も知らないし何より居心地がよい。
俺はここ数ヶ月学校に通わず、Switchで知り合った人と話すのが一番の楽しみとなっている。
もはや、これはゲーム依存症に間違いあるまい。
『さやか』と言う子とは特に仲が良く、軽いプライベートをお互い知っている。
この子の家庭は母子家庭。
そのせいか、いじめを受けているらしい。
俺と境遇が似ていることもあり、親近感がわくなか長時間ゲームをする。
ーーー
夕方。
インターホンが鳴る。
母さんはまだ帰る時間帯ではない。
『また、あいつらだ』
重い腰を上げて、玄関に向かう。
ガチャ
と、開けるやいなや外へ引っ張り込む同級生。
いつものように五人いる。
その中のリーダー格に、
「おい、お前チクッてないよな?誰にも。」
そして取り巻きも、口を開く。
「そうそう、これ今日のプリント。」
そう言うと、腹に思いっきり殴りかけてくる。
俺はその場でうずくまる。
「おいおい、こんなんでへこたれてちゃちゃんとした学校ライフ楽しめませんよ!」
と、言いながら今度は顔面パンチ。
そう、俺はイジメられている。
数ヶ月まではクラスも違うし何事もなかったが、中三になり運悪くこんな奴らと同じクラスに。
噂では、ニ人いじめては転校させたのだとか。
理由はない。
ただただ、『いじめやすい』人をターゲットにしているのだ。
だが、先生の前や他の人とはまるで別人。
だから、言っても信じてくれないと思い誰にも言い出せない。
数十分たったであろう。いじめっ子たちは飽きたのか、はたまた遊びに行くのか知らないが口止めされて去っていった。
俺は行き場のない気持ちを、布団に潜り込んではまたSwitchでゲームをするのだった。
ーーー
母さんも父さんも俺には期待せず放任状態。
俺が何も喋らないので、しかたがないことではあるが。
ご飯も部屋で済ますし、最近親子で話もしていない。
そんなとき、REGで『さやか』がいつもより上機嫌
である。
理由を聞くと、友達が
できたのだとか。
『さやか』は俺よりも頼もしいし勇気もあるから、たまに学校に行くらしい。
そんな勇気俺にはない。
しかしながら、数ヶ月学校休んででいるということで、担任が家庭訪問してきた。
色々質問や場和ませてくれたりもするが、黙認している。
担任は疑問に思っていたのであろう、
「もしかして、桜井君は嫌がらせでも受けているのかな?」
と、問いかけてきた。
俺は平常心を保もとうと、
「別に」
と言いながら担任から目をそらす。
「私もね、桜井君と同じ歳の子がいるんだ。いじめられててね、でも最近、友達もできたんだ」
そして担任の話は続く。
「桜井君は佐藤君からプリントを渡してもらっているが、何か相談してみてはどうかな?」
と言う。
俺はつい鼻で笑い、また無表情に戻る。
当たり前だ。
佐藤がリーダー格のいじめっ子なんだから。
担任はこれ以上の説得は意味がないと感じたのであろう。
「では、また伺わせて頂くね」
俺の部屋に置かれた、ゲーム途中で放置しているのを一瞬見たかと思うと足早に去っていった。
ーーー
それから数日間。
いつものごとく、RPGをする俺。
今日は『さやか』がいないので寂しくグループメンバーとしていた。
夜。
晩飯を食べていた時だった。
インターホンが鳴り、担任の声が下から聞こえる。
そして、階段を登る音が聞こえる。
俺はため息をつき、布団に潜り狸寝入りを始めた。
トントン。
ノックする音が聞こえるが無視を決め込む。
担任が、
「悪いけど、入らせてもらうよ」
と言い部屋にそっと入ってくる。
足音が二人分。
母さんの足音でもない。
そっと布団の隙間から覗く。
すると、ショートヘアの似合う女の子も入ってきた。
あんな子俺のクラスにいたっけかな?
布団に潜り混んでいるのに気づかれ、担任の後ろから、
「……あ、あの間違ってたらすみません。『鷹』君かな?Switchのゲームしてませんか?私そこで『さやか』って名乗ってます。良ければお話できますか?」
と、述べた。
俺は驚き、
「え?」
と、布団の中から声を漏らしてしまう。
「クスクス、やっぱり狸寝入りなのね。よく聞かされてたし。『鷹』君で合ってるよね?」
と、優しく微笑みながらこちらを見ている。
どういう事なのかわからず混乱していると、担任が
「私の娘だよ。桜井君の話をしたら、もしかしてと娘が気にかけてね。一緒に来たんだ」
と話す。
確かに、『さやか』のログイン数は少なかったけれど、ログインしていたときにやけにプライベート聞いてきてた事を思い出す。
そっと狸寝入りをやめ布団から出るとそこには、
「『さやか』です。本名は里崎彩花だよ!改めてよろしくね、えっと……たかやくん?だっけ」
と、ショートヘアーの女の子が同じ目線にかがみ込んではにっこり微笑む。
「ホントに『さやか』??えっ、里崎先生の娘さん?えぇ!?」
とすっとんきょうな言い方をした。
今思い出すとなんとも恥ずかしい限りだ。
それから先生と話をし、今の中学から抜け出したい旨を伝えた。
それから数日後、校長の計らいにより特別に転校と言う形で、なんと『さやか』がいる学校に転校した。
当然、いじめていた奴らは罰としてお説教などされたのだとか。
母さんも安心してくれて、
「気づいてあげられなくてごめんね」
と、泣きながら言ってくれて俺は罪悪感が軽く感じた。
ーーー
時期は違えど転校先は隣町。
今度は狸寝入りをしている暇もなく、朝寝坊するかどうかのギリギリに起きては支度する。
でも、楽しい学園ライフが待っている。
俺も勇気を出して声をかけ、今では3人グループでゲームの話で盛り上がっていた。