第1話 アパート到着
アパートに到着した。
写真で見たとおり、ある程度大きくて清潔そうな建物だ。
(えっと、じゃあアパートの管理人さんにご挨拶をしなくちゃ・・・)
荷物を引っ張りながらアパートに入ろうとその場から動こうとしたとき・・・。
バイクのエンジン音と思わしき轟音と、その音とともに男性の叫び声が聞こえてきた。
「そこのアンタ、どけッッ!!」
「・・・ッ!?」
振り向くと、バイクにまたがった一人の男性がこちらに向かって突っ込んでくる。
「キャッ・・・!」
鈴が小さく悲鳴を上げると同時に、男性はバイクの車体を何とか斜めにした。
とりあえず衝突は免れたようだ。
「おい!アンタなんともねぇか?」
ヘルメットを脱ぎながら、男性が言う。
逆立った短めの金髪に、派手なピアス。
碧い目とその髪の色を見ると、彼は欧米人であることが察せられた。
「あ、だ、大丈夫です・・・」
「ちくしょう、あの馬鹿オヤジ!まだブレーキ直しきれてねぇじゃねぇか!!」
そう毒づきながら、彼はブツブツとハンドルやらブレーキやらを触り始めた。
「あ、あの、貴方もご無事ですか・・・?」
我ながら野暮な質問をしてしまったと後悔しながらも、鈴は彼を気遣う言葉をかけた。
「見ての通りピンピンしてらぁ」
彼は少々ぶっきらぼうにそう答えた。
「そ、そう・・・ですか。じゃあ、私はこれで・・・」
そういってアパートのロビーへの入り口に向かおうとした鈴をみた途端、彼はやや驚いたかのような顔をして鈴にたずねた。
「おい!アンタ、もしかしてこのアパートに越してきたのか?」
「は、はい、そうですが・・・」
正直彼のいでたちに距離を感じていた鈴は、オドオドと答える。
「奇遇だな」
彼はバイクを駐車場らしき場所に止めて言った。
「俺もこのアパートの住人だ」
え、と少し驚いた声を漏らした鈴に、彼は不満そうな目を向けた。
「なんだよその目は!別に俺は何も妙な事はしねぇよ」
そして、彼は新しい住人である鈴に、アパートの事を教えてくれた。
「あ〜、アパートメントNY、ここは住人全員が違う国から来てんだ、俺は地元のNY生まれのNY育ちだけどよ」
「え・・・全員、違うんですか?」
「ああ。ところでアンタ、名前は?」
「あ、鈴です。リン・マスダ。よろしくお願いします。
自己紹介をして、ペコリと頭を下げる。
「リン・マスダか・・・名前からしてアンタは日本人だな?」
「は、はい・・・」
「俺はデイビット・ブライアンってんだ。アンタはこのアパートで初の日本人だな・・・まぁ、住人同士お国が違うから色々苦労するかもだが、頑張れよ」
デイビットは鈴の不安を煽るような言葉を軽くかけると、鈴より先にアパート内に入っていった。
(・・・私のNY生活・・・これからどうなるのかしら・・・)
一人残された鈴は、なんだか言い様のない不安に立ち尽くしていた・・・。