プロローグ
空港に到着した国際便の出入り口から降りながら、その東洋人女性・・・増田鈴は、辺りを軽く見渡した。
新しい、自分の居場所。
新しい、スタート地点。
今まで自分が住んでいた日本の街とは、何もかもが違うと思われる大都市に憧れが募ると同時に、不安も後を追うようにしてまとわりついてきた。
ターミナルで荷物を受け取り、ガラガラと引っ張りながら歩き出す。
「今日からここで頑張らなくちゃ・・・まずは不動産会社で住居探しね」
これからの意気込みを声に出してみる。
その呟きは、たった一人のNY生活が始まろうとしている中で、不安と寂しさを打ち消すようにして無意識にでた呟きだったのかも知れない。
アメリカの大都市、NY。
人種の坩堝と異名をとるほど多数の人種が住むこの街に、鈴が引っ越してきたのには勿論理由があった。
日本で国際関連の勉強をしていた彼女は、大学2年になってからNYの大学に編入することになったのだ。
多くの人種が住むNYは、彼女のその勉強の意志にぴったりの土地だったのは言うまでもない。
ここで暮らしていれば、色々な国の人々との交流も期待できる・・・そう思って鈴は早速建物の立ち並ぶ都市内へと向かっていった。
まず最初にするべきことは住居探しである。
鈴には贅沢をいうつもりは無かったが、綺麗好きな性分ゆえある程度清潔なアパートが望ましかったのだ。
万が一、今日でいい物件が見つからなかったら安いカプセルホテルへ向かおうとも考えていた。
しかし不動産屋に入ったとたん、彼女の考えをいい方向に裏切るようにして話は進んでいった。
それもまさに、とんとん拍子に。
「あ、このアパート、家賃も手ごろだし、お部屋も綺麗ですし・・・ここがいいです」
鈴は案内書を手にしながら、“空き部屋あり”と表示されている一軒のアパートの写真を指差して言った。
「お客様、本当にここでよろしいんですね?」
相手の意味深な言葉に、鈴は怪訝そうに首をかしげてたずねた。
「え?それってどういう・・・」
「ああ、いえいえ!なんでもございません!お気になさらず・・・」
相手側の焦ったような笑い声を聞きながら、鈴は手続きを済ませ、礼を言ってその場から去った。