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私の、オーディオ翻弄記。

作者: バイニク

 私はここ1年を通じて、体験した来たオーディオの世界の片りんを完全ノンフィクションの小説もとい、日記にして書きました。

 私はホラー小説を描き続けて20年以上経ちます。現在私は37歳で、発達障がい者の認定を受けて障害者作業所で働いております。

 私が音が好きです。そして惚れ込んだら一直線です。だからこそオーディオに染まったのだと思います。400字詰め原稿用紙換算で17枚の短編です。

 読んで頂いた方々に有意義な時間を過ごしていただければ幸いです。また、なにかしら作品に刺激を受けて、元気を与えることができたなら、それが私の何よりの本望であります。



 小さい頃から音楽は好きだった。

 37年の人生の大半を音楽と一緒に過ごしてきた、と言っても過言ではない。それほど私は音楽を好きだし、歌ったり口ずさんだりして常にそばにあるものとして触れ合ってきた。

 私の小説、16の頃から書き始めているが、初期の頃の小説は音楽性溢れるリズム小説と私個人は自称している。

 リズムのようにスピード感に溢れた書き方だ。ギャグとテンポを重視して、細かい雨のように読者をその心地よさにいざなう。小説のしょの字も知らない私が本能的に編み出した原点ともいうべき書き方だ。

 だが去年の春頃まで、音楽と深く向き合うことはしなかった。それは厳密な正しい言い方ではないが、オーディオとして音楽を楽しむという観念は、それまで持ち合わせていなかった。

 私は2か月に一度、障害年金を国から支給されている。障害年金が支給されて約一年は、ほとんど使わずに溜めてきた。貯金額は最高で88万ほどに達していた。

 2020年初頭、パソコンが壊れて買いかえることになった。私は16歳の頃からずっとパソコンを使い続けている。ネット依存症といってもいいだろう。だからすぐに発送できるところでパソコンを買うことにした。約20万の出費だった。

 7年ほど使ったパソコンなので、そこの決断は早かった。そろそろ買いかえる頃だろうと去年から準備してきたので、後悔も迷いもなく購入に至った。

 しかしここで大金を払ったことが、私の中で金銭感覚がマヒしたというか、崩れる結果になった。

 2020年夏、世はコロナが蔓延し、自粛を強いられる生活に突入した。私も毎日が暇だったし、なにか楽しめることはないかと毎日模索していた。

 そんなとき、私はテレビゲームをするのが趣味なので、テレビを22インチの小さなテレビから、大型のテレビに買い替えようと思った。ゲーム用モードを搭載している東芝のREGZA一択だった。

 丁度10万円の給付金も入った頃で、タイミングとしてはよかった。私はテレビの購入に約8万円ほど支払った。ゲームを大型のテレビでやりたいという夢は叶ったので、それをとてもいい買い物だったと今でも思っているが、テレビの音が、悪かった。

 最初は音が悪いことについて、そこまで深く考えなかった。だがテレビの裏側についたスピーカーから音声が聞こえるのでどうもこもって聞こえてしまう。抜けが悪い音というべきか。せっかくテレビを買い替えたのに、音が悪くて満足できないところがあった。

 そこで、衝動的な思い付きだったが、サウンドバーを買うことにした。テレビの下に置いて音を出すアンプ兼スピーカーのことである。

 最初はお試し感覚で安いサウンドバーを買うことにした。中国製のもので約7000円。

 正直、全く期待していなかったが、これが意外とよかった。少なくともテレビ付属のスピーカーに比べれば段違いにいい。

 これで満足していれば、オーディオの沼に浸かる人生を歩むことはなかったのだが、私は音が好きだったし、もっと音を良くしたいという願望を抱いてしまったのだ。 

 オーディオにお金がかかることは、漠然と知っていた。だから私はサウンドバーを変えることにした。

 今も私のテレビのサウンドバーとして大活躍しているが、DENON(デノン)という古くからあるオーディオメーカーのサウンドバーだ。購入価格は約2万円。

 デノンのサウンドは私に合った。新しいテレビはyoutubeを観れるアプリを搭載しているので、そこで音楽を聴いたりして楽しんだ。至福のひととときだった。

 それで満足していれば、それでよかったのだが、なぜ私はさらなる音を求めてしまったのだろう。今でも記憶が曖昧ではっきりとは思い出せない。だが私は音を良くすることに舵を切ってしまったのだ。

 ヤフオクに、何十万円単位のケーブルを取り扱っている出品者がいる。実際は偽物なんだが、当時の私は本当だと信じ込んでいた。オーディオのこともろくに知らない私をあざむくにはその大金が音の質につながると信じて疑わなかった。

 説明が抜けていたので補足する。オーディオにはいくつもオカルトがある。その一つがケーブルだ。ケーブルを高いものに変えればいい音が鳴るというオカルトがある。

 そのオカルトは半分本当で、半分は嘘だ。これは私の実体験だ。音自体は変わるが、必ずしもいい方向に変わるとは限らないが正解であり、ケーブルに高額の投資をすべきでない、が今の結論である。

 そのヤフオクの出品者は、何十万もするケーブルを数万円、高いもので3万円ぐらいで販売していた。私は飛びついてしまったのである。

 サウンドバーはいじるところが少ないし、変えるとすればHDMIケーブルか電源ケーブルしかない。オーディオの世界では電源ケーブルを変えると顕著な変化が見られるという話をネットで見ていたので、私はその出品者から電源ケーブルを中心に購入していった。

 そのどれもがぱっと見は、高級感があり普通の電源ケーブルとは違うなにかを秘めていた。だが実際に電源ケーブルを変えて試聴してみても、音違うかな?と思う程度で、その効果を実感することはできなかった。

 さらに私はその出品者から電源タップを買うことにした。これも約3万ほど。オーディオの世界では、オカルトがある。電気の通りを良くするとノイズが軽減されて、音がよくなるという話だ。

 これに関しては私は今でも実感したことがないので多分嘘だ。MY電柱を建てる人の話は、聞いたことがあるかもしれないが、オーディオと電気は切っても切り離せないほど密殺なオカルトが出来上がっている。効果は人によるし、ものにもよるので、科学ではまだ論理的な説明はできない分野なのだろう。

 ともあれ、私はその出品者から電源ケーブルやタップを購入しまくった。約2か月で20万円以上は恐らく支払ったと思う。本当にバカだと思う。実績のあるオーディオメーカーからならまだしも、安くてどこで作ったのかわからないようなケーブルに多額の投資をしてしまったのだ。

 結局、勝手に騙されたまま、ある一定の音が出来上がったような気がして、喜んでいた。それはそれで幸せなのかもしれないが、そんな幸せはある疑念によって、突然終わりを迎える。

 あれ? こんなに投資しても音は大して変わってないんじゃないか? という疑問である。当たり前であるが音は変わっていない。変わっていないものに大金を払い続けたのである。さすがに音に取りつかれた状態の私も魔法から解けてしまった。

 そこに気づいた私は、頭を抱えた。なんてことをしてしまったんだ。今までの投資は全て意味がなかったというのか。音に大してお金を払うことに金銭感覚のマヒした私にも、強烈な心の傷を負った。

 それから、音を変えるためにはどうしたらいいか考えた。考えながら、20万近く支払ったケーブル類をネットで売り払っていった。

 そんな日々が続く内に私はある結論に達した。オーディオメーカーの高級な電源タップやケーブルを実際に買ってみようと。

 それは重い決断だった。電源タップは吟味して16万円のもの、電源ケーブルも17万円のものを購入した。その二つだけで30万円以上も支払うことになるのである。

 だが……期待は裏切られた。まったく音は変わらなかったのである。それはサウンドバーを使っているから変わらなかったのかもしれないが、私にとってはそんなことは関係ない。また大金を支払って無駄にしたのである。

 だが私の目はまだ死んでいなかった。絶対に音を良くする。そんなときに私はあることに気づいた。テレビとサウンドバーを繋ぐHDMIケーブルである。

 今まで様々なケーブルを試してきたが、音の変化が起こりやすかったのはHDMIケーブルだった。もしかするとこれかもしれない。私はHDMIケーブルを試していくことにした。

 その予感は見事に的中した。HDMIケーブルを変えることで顕著に音が変わっていったのだ。元気に跳ねるような明るいものもあったし、フラットで聴きやすいものもあった。その音の変化が楽しかったし、私は究極のものを求めるようになった。

 それが現在も使用している、SONYのdlc-9150esである。ソニーの、かないまるという方が製作に携わったある意味伝説的な音の良さを誇るHDMIケーブルで、今は販売停止になっていて市場に出回っていない。

 私はその伝説のHDMIを手に入れるために、メルカリやヤフオクをずっと見張っていた。そしてついに5万円という高額ではあるが、dlc-9150esを手に入れたのである。

 その音はまさに求めていたサウンドだった。ナチュラルで低音の質が良くて、聴いているだけで心が癒される。私はようやくサウンドバーの頂点に達したのだと思った。

 2020年12月、88万もあった貯金は消えていた。いらないものは全て売り払っていったがそれでもギリギリだった。私はオーディオで溶かしたお金を後悔しつつも、サウンドバーが完成した喜びに浸っていた。だからそこまで後悔をしているというわけでもない。だがあまりにも危険な投資を繰り返してしまうこのオーディオの沼には、恐怖を覚える。

 しかもこの話には続きがある。次は、ヘッドホンだ。私はヘッドホンの世界にも足を踏み入れることにした。それは軽い気持ちだったが、またもやオーディオの泥沼へとはまることになるのだった。


 

 ヘッドホン編。



 2021年初頭、相変わらず世間はコロナ一色だった。むしろ感染者は増える一方で、退屈な時間も増えていた。

 その頃にはPS5が発売されて、新しいゲームへの期待もあったのだが、ゲーム開発も遅れているらしくなんにもソフトがない状態が続いた。私は完成したサウンドバーの音を聴いて、楽しんでいはいたがそれだけでは物足りなくなっていた。

 そんなとき、私はヘッドホンに注目した。オーディオの世界では、ピュアオーディオとヘッドホンは別物であり、ピュアオーディオを完成させるのは余裕で数千万単位のお金がかかるが、ヘッドホンはオーディオの世界の中ではコスパが良かった。

 丁度、昨年買った17万円の電源ケーブルと電源タップをオークションで売却し、ある程度お金ができていたので最初は1万円ぐらいのヘッドホンを購入した。メーカーは私の好きなデノンだ。

 しかし、うーん、どうにも音があまりよくない。サウンドバーの音と比較しているのもあるが、真面目にヘッドホンに向き合うとその音の質の悪さに驚いた。

 私はヘッドホンアンプというものを、買った。パソコンにUSBケーブルで接続できるDAC機能とアンプ機能を持ち合わせた複合機であったが、それも1万円ぐらいの安いところから始めた。

 さらに、ヘッドホンにはバランス接続なる、聞いたこともないワードが最近のトレンドらしかった。詳しい原理を私の口から説明するのは不可能であり、その点については各々調べてもらいたい。要するに普通の接続はアンバランス接続といって、あまりいい音はしないが、バランス接続だと音がよくなるといった話があるらしい。これもオーディオのオカルトの一つだと思う。

 その1万円ぐらいのアンプは、バランス接続が可能であり、私はバランス接続用にヘッドホンのケーブルを買って繋いでみた。たしかに音がよくなった。だが実際には音圧が上がっただけで、音は別に良くなっていなかったのだが、そのときは音がよくなったような気がした。

 そこで満足を覚えていればよかったのだが、また発作が起きた。新しい音、よりよい音を求めだしたのである。オーディオの沼がまた口を開けて私を出迎えてくれた。

 私は過去の反省を踏まえて、一気に高額なヘッドホンとアンプを購入した。二つ合わせて約13万ほどの買い物になる。正直、恐ろしく高い買い物をしたがその満足感は凄かった。音の次元が違ったのである。

 そこで満足していれば、本当によかったのだが、やはり私の音に対する情熱はより深いものを求めた。そのヘッドホンはデノンの高級機だったのだが、さらにそのワンランク上のフラグシップモデルを購入することにした。中古で約13万円であった。

 ずいぶんと高い買い物をしたが、その効果はさすがの一言だった。フラグシップモデルの名に恥じない高音質、高音の響きと抜けの良さ、バランスの取れた帯域、どれをとっても一級品であった。

 しかしそこで、私はある違和感を覚えた。アンプが弱い気がする。そのアンプは先代のヘッドホンに合わせて購入したアンプであって、このフラグシップモデルのヘッドホンを鳴らしきれていない気がしてならなかった。

 もうこの時点で私はお金がない状況であった。むしろカード払いを分割払いにして払わないと、3月分以降の返済はとてもじゃないが不可能であった。

 それでも私はアンプが欲しかった。どうしても、快適な音楽生活を楽しみたかった。だから、3月以降分のカードの支払いを細かく分割して、16万のアンプを購入した。

 それは海外メーカーの名の知れたアンプであった。純A級のアンプで、熱を持ちやすく扱いは難しかったが、音は本物だった。まさにフラグシップのヘッドホンにふさわしいアンプだった。

 だが、私はそこでお金の大切さに気付いてしまった。カードの返済額がとんでもないことになっている。去年の豊潤な貯金額ならなんとかできたが、今の状況ではどうにもならない。私はなんとかして、お金を作り出そうと、そのアンプを返品することにした。

 そのアンプはヨドバシカメラで購入したものだった。返品できるかはわからなかったが、力強くお願いしてなんとか願いを聞き届けてくれた。

 そこまではよかったのだが、私は返品したアンプの金額を当てにして、別のアンプを購入したのだ。今度は一括で払える身の丈にあったものにしようと約10万円の買い物をした。

 ところがである。ヨドバシカメラから電話で欠品があるから返金はできないと言われた。私は身震いして全身の毛が総毛だった。

 最悪である。返金をあてにして、追加でアンプを購入したのに、借金を重ねることに繋がるだけであった。私はなんとかヨドバシカメラがメーカーと交渉して、返品が上手くいくことを神に願った。

 その返事を待つ間は、地獄のような時間だった。またオーディオ沼でバカをやらかしたと自分を責めたが、もうどうしようもなかった。私にできるのはただひたすら待つことだけだった。

 そして、2021年3月5日金曜日。私にとって運命を決したその日、私の願いは叶えられた。メーカーとの交渉が上手くいき、返金が認められたのである。

 私は拳を突き上げてガッツポーズした。本当にうれしかった。ヨドバシカメラの担当の人に何度もをお礼を言った。ありがとうございます、助かりましたと。

 そして今、私はヨドバシカメラからの返金を待っている。本当は返金されてからこの話を書くつもりだったが、書きたいときが書き時であり、今ならこの話を上手く書けるような気がした。

 オーディオは恐ろしい。もしこの道を歩むというなら、多額のお金を支払うことを覚悟してください。色んな失敗や経験を積むことになると思いますが、それを全部覚悟できる方じゃないとこの道はあまりにも険しいです。

 だから時には振り返って、ゆっくり楽しくこの道を歩みましょう。音楽は聴くものじゃなくて、楽しいものなんだって、その本質を理解して歩めるように。

 今私は、新たなヘッドホンアンプ、LUXMANの30万円のアンプに興味があります。でももうバカはしないつもりです。もし今度そのアンプを買う機会があるとすれば一年以上先の話です。

 私は音楽が好きです。だから一緒にこれからも歩んでいきたい。オーディオという言葉に翻弄されず、真っすぐ進めていけるように。

 そう願いながら、オーディオ沼が大きな口を開けて、新たな人を惑わせないよう心より祈っております。 



 了

 いかがでしたでしょうか。現在もこの作品は私の人生として続いています。また進展あれば加筆するかもしれません。

 少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。なにかしら気になる点や批評、感想等あればなんでもご連絡ください。

 

 bainiku@gmail.com @bainiku081 Gメールやツイッターでも受け付けております。

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[一言] ケーブルから電源タップと行って、マイ柱上トランスへと逝くかと期待しました。 がっかりです(笑)
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