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42. オデット ― 神龍の赤子

*少し時間が戻ります。オデットが暗号を解いて修道院に行くところからです。

私が息を切らしながら向かったのは以前ジルベールのいた修道院だ。


ドンドンとドアを叩くとジルベールが顔を出した。


「っ・・あの、あの、神龍の卵が、その、ここにある箱の中に・・・」

「はい。お待ちしていましたよ」


頭が混乱してまともな言葉が出て来ないのにジルベールは穏やかな笑みを浮かべている。


「へ・・・?」


戸惑っている間にジルベールが私をテラスにある例の箱に案内してくれた。


「あ、あの。どうして私がここに来るって・・・?」

「それよりも神龍の卵を確認した方が良いのでは?」


あ、そうだ!


急いで箱を開けようとするけど、気持ちが焦ってなかなか上手くいかない。


ジルベールがクスッと笑う。


「魔法を使っていいんですよ」


恥ずかしながらそれまで魔法が使えることを忘れていた。


魔法を調整して箱の蓋を持ち上げると、そこには大きな金色の卵が入っていた。


やった!神龍の卵だ!


慎重に箱から取り出すと、背後から聞き覚えのある声がした。


「オデット。良くやったわ!」




・・・・・・うそ


自分の耳が信じられなかった。


卵を落とさないように慎重に力を入れる。そうしないと手が震えて落としてしまいそうだったから。


ああ、涙が溢れて止まらない。


サットン先生・・・・。


ゆっくり振り返ると黒い忍者装束のサットン先生が笑顔で手を振っていた。


「・・・ざっどんぜんぜい・・・」


涙と鼻水でちゃんと言葉が出てこない。


先生は私からそっと卵を受け取るとジルベールに預けた。


そして、ギューッと強く私を抱きしめてくれる。


「偉いわ。オデット。良く頑張ったわね」


私はただ先生の腕の中で頷くだけで何も言えなかった。


会いたかった。ずっと心細かったって言いたかったけど、こうして会えたから、もうどうでも良かった。


先生はもう一度ギュッと腕に力を入れると


「ごめんね。あまり時間がないの。イザベルがバカなことをしそうなのよ。そのせいで魔王の復活が早まるかもしれないの」


「・・・えっ?!」


それは確かに泣いているヒマはない。

慌てて両手の甲で目をゴシゴシ擦って涙を拭う。


サットン先生はそんな私を見て懐かしそうに笑った。


「あなたは全然変わらない。オデット、大好きよ!」


そういう先生の目は少し潤んでいた。


でも、すぐに目は乾いてテキパキと指示を出し始める。


このあたりも全然変わらないな。


「オデット、あなたは召喚の魔法陣が描けるわね。ダミアンに習ってきたでしょ?」

「はい!」


何で先生がそれを知ってるんだろうと思ったけど、今質問できる雰囲気ではない。


「魔法陣を描いて神龍を召喚して頂戴」


神龍?出来るかな・・・?


でも、魔法陣を使った召喚魔法は詳しくダミアン先生から習ったから大丈夫なはず。


私は神龍を思い描きながら召喚の魔法陣を描いた。


中庭一杯に魔法陣が浮かび上がり、そこから強い光が生じる。


その中に白い影が少しずつ形を現した。


絵画で見た神龍はもっと大きかったので、実寸大ではないのだろう。


魔法陣の光が徐々に消えていくと、三メートルくらいの白い龍が中庭に横たわっていた。


頭を上げた神龍は私達をじっと見つめている。まるで値踏みしているかのようだ。


神龍がサットン先生の方を向いて「・・久しいな。娘」と野太い声を掛けた。


サットン先生は神龍と知り合いなの?!


口をポカンと開けて先生を見ると、先生から卵を神龍に渡すように指示される。


私は跪いて金色の卵を神龍に捧げた。


神龍は満足気に私を見ると全身を発光させた。


神龍から発生した光が卵を包むと卵が空中に浮く。


空中で輝く卵からかすかな音がして、ふるふると振動している。


ピシピシという音と共に卵にひびが入った。


少しずつ卵に穴が開いて、中に小さな龍の姿が見えた。一生懸命、殻を破っているように見える。


そして、殻を完全に破ると小さな神龍の赤子が現れた。


ぷかぷかと宙を浮いている。はっきり言って可愛い。


神龍が口から息を吐く。


するとそれが一輪の竜胆のような花になり、花びらの先端から一滴の雫が赤子の龍の口の中に落ちる。


あれが甘露に違いない。


甘露を受けた神龍の赤子は眩い光を発し、ものすごい速さで私目掛けて飛んできた。


「ぶつかる!」と思った瞬間に赤子は止まり、ご機嫌で私の周囲をぷかぷか回り始める。


はっきり言って可愛い!(二度目)


「これで神龍の赤子はあなたの守り役になったのよ」


サットン先生に言われて、赤子を見ると嬉しそうに口をパクパクさせている。


「まだ幼いから話せないけど、次第に話も出来るようになるそうよ。他の人には見えないから気をつけてね」


私にずっと付いてきてくれるんだ。嬉しい!可愛い!


「娘たちよ」


突然の神龍の太い声にびっくりして飛び上がってしまった。


「魔王が甦った。扉は破壊された。魔王は今、森を焼き払おうとしている。人里に被害が及ぶ前にそなたたちが止めてくれるか?」


サットン先生が毅然として胸を張った。


「分かりました。魔王を異次元に封じ込めて見せます!」


きっぱり言う。


「分かった。我も力を貸す。武運を祈る」


そう言いながら神龍は少しずつ消えていった。


ちょっと待って・・でも、あの・・・


「先生。まず神龍の神子を探さないと・・・」


慌てる私に先生は悪戯っぽく笑いながらウィンクした。


「私が神子なのよ!」


ええええええええ!?


私は大パニックになり胸をおさえた。


「パニックになる時間はないわよ。ついていらっしゃい!」


相変わらずの先生の言葉に気を取り直して、先生の後についていく。


ええと・・・先生が神子ってことは・・・どういうこと・・・?


頭は混乱していたけど、心は不思議と落ち着いていた。


先生と一緒だからだよね。私の先生に対する信頼は絶対的で揺らがない。先生と一緒というだけで心が安定する。


先生の目にも私に対する絶対の信頼が見える。


私たち二人なら大丈夫。魔王を封じ込めることが出来る!


そう思いながら、先生に付いていった先には一つのドアが立っていた。


・・・ちょっとだけボロッちいドアが・・・何?

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