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35. オデット ― 第二の試練

その翌日に第二の試練が発表されることになった。


説明を聞くために教室に入るとミシェルは既に席に着いていた。


ミシェルは視線で人を殺せるなら殺したいというような凄まじい目つきで私を睨みつけている。


・・・・正直、怖い・・・。私は少し離れた席に着席した。


学院長が額の汗を拭いながら発表した第二の試練は料理対決ということだった。


私は『やっぱり…』とアランと顔を見合わせた。


アランの眉間には深い皺が寄っている。


彼は王宮では第二の試練は剣術と体術でほぼ内定していると言っていた。


しかし、それだと預言書とは違っている。


預言書には何か強制的な力がある気がする、という話をしたらアランもジルベールも何となく分かってくれた。


だから、第二の試練も預言書の通りになるかもしれないと心のどこかで覚悟はしていた。


案の定、預言書の筋書き通りに現実も進んでいく。


アランが手を挙げて質問する。


「料理は聖女の能力と何か関係があるんですか?」


学院長の額からぶわっと汗が吹き出たのが見えた。


「・・・え~、あの試練の内容につきましては、王宮から指示が出ておりまして・・・。私では何とも申し上げられず・・・」


必死で言い募る学院長を責める訳にもいかず、アランはそれ以上何も言えなかった。


ミシェルは機嫌が良くなり、嬉しそうに鼻歌を口ずさんでいる。


学院長が引き続き審査方法と審査員を発表した。


食材は全て学院側が提供し、調理中は常時監視される。


安全面の配慮から異物が混入しないようにということだろう。


そして、審査員は学院長、ダミアン先生、アラン、クリスチャン、フランソワだと発表された。


やっぱり預言書の通りだと溜息をつく。


何か嫌な予感がするけど、私が異議を申し立てられるはずもない。


料理は得意な方だし最善を尽くすのみ!と気合を入れた。


***


第二の試練の日。


学院の食堂のキッチンを借りて勝負を行う。


メニューは審査員の一人一人に対して変えて良いことになっている。


審査員はどちらがどの料理を作ったか分からないように試食するらしい。


調理の制限時間は三時間だという。


私たちは学院が用意した山のような食材を前に仁王立ちになっていた。


ミシェルは余裕な態度で私を馬鹿にするようにせせら笑う。


合図の笛が鳴った。


私は彼女を無視して手早く籠に食材を入れていった。


預言書によると第一の試練は卑怯な手段を使い僅差で悪役令嬢オデットが勝利。


第二の試練は料理対決でミシェルが勝利すると書いてあった。


第三の試練もミシェルの勝利で、最後にミシェルが聖女に選ばれるという筋書きだった。


どこかで運命を変えられないかしら・・?と思考が寄り道しそうになる。


・・・ダメ!今は料理に集中しようと自分に言い聞かせた。


フランソワ、アラン、クリスチャンは私の味方だと思う。ダミアン先生も私のクルミのケーキを気に入ってくれた。


いつも食べている彼らは私の作った料理が分かるだろうし、私に票を入れてくれないかしら?


甘いかな?でも、美味しい美味しいと言いながら食べてくれているし・・・。


考え事をしながらも手は無駄なく動き、シャカシャカと卵を泡立てる。


私はやっぱりみんなの好物を作りたいなと思ったので、メニューはもう決まっている。


アラン ― チーズケーキ

フランソワ ― サワークリームケーキ

クリスチャン ― チェリーパイ

ダミアン先生 ― クルミのケーキ


学院長の好物だけは分からないが、預言書にはアップルパイと書いてあったのでアップルパイを作ることにした。


料理って言いながら結局甘いものばかりだよなぁ・・。


焼き時間を考えながら手早く準備を進める。



そして、制限時間が終了した。


気がつくと学院のお祭りみたいになっていて、生徒たちが集まって歓声をあげている。


何故か観衆を煽る司会の人までいる。


ミシェルが笑顔で手を振ると歓声が一段と大きくなった。


調理の結果を見ると、私とミシェルは全く同じものを作っていたことが分かった。


学院長 ― アップルパイ

アラン ― チーズケーキ

フランソワ ― サワークリームケーキ

クリスチャン ― チェリーパイ

ダミアン先生 ― クルミのケーキ


同じメニューが審査員のテーブルに並ぶ。


私が作ったものは黄色の旗、ミシェルが作ったものには赤い旗が立てられている。


審査員は私とミシェルのどちらがどの料理を作ったかを知らない。


美味しいと思った方の旗を取り、票が多い者が勝者となる。


私はドキドキしながら審査員が試食するのを見守った。


みんな真剣な面持ちで一口ずつ念入りに試食している。


観衆も固唾をのんで見守っている。


審査員は頷きながら旗に手を伸ばした。


私は心臓が跳ね上がりそうだった。


そして、審査員全員が笑顔で黄色い旗を上げた。


やった!!!私は両手をあげてピョンと飛び上がる。


見に来てくれていたソフィーたちは黄色の旗が私だと気づいたのだろう。私に駆け寄って口々に「おめでとう!」と言ってくれる。


生徒たちの歓声も一際大きくなった・・・と思ったが、不意に奇妙な沈黙が生じた。


・・・・・・・・・?


観衆がみんな審査員席に注目している。


なんだろうと私も観衆の視線の方向を見ると、審査員の様子がおかしい。


全員が首を横に振りながら、黄色い旗を元に戻す。


そして、五人全員が無表情で赤い旗を取り、高く掲げた。


司会が興奮して叫ぶ。


「赤い旗はミシェルの料理だあ~!!!ミシェル・ルロワ嬢の勝利です!!!」


それに応えて観衆がミシェルに大声援を送った。


大きな拍手の中、恥ずかしそうに笑顔で手を振るミシェル。


私は茫然とその姿を眺めることしか出来なかった。


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