〈ミッション2日目⑤〉作戦会議
続きでございます。
-side 南条翼-
柳がとんでもないこと言いやがった。やはりアホの思考は俺には理解できない。
「おい柳。お前は一体何を言っているんだ」
「いや、だから翼くんが茜ちゃんと恋人同士になればいいって言ってるのよ」
「なぜそうなる」
「いや、付き合っちゃえば今よりはパンツを見るハードル下がるかなーと思って。どうせ翼くんって茜ちゃんのこと好きなんでしょ? さっさと告っちゃいなよ」
「は、はぁ!? べ、べ、別に俺は片桐のことなんてなんとも思ってねーし! か、片桐が俺のことを好きなだけだろーがよ!」
「うっわ、拗らせてるなー。こりゃ重症ですわ」
「つーかお前って本当に今の俺と片桐の関係分かっててそんなこと言ってんのか? まあ確かに幼馴染ではあるけどよ。今まで全然仲良くなんてしてこなかったんだぞ?」
「うん。確かに2人の距離って今までずっと遠かったよね。それも不自然なくらいに。どう見ても翼くんが茜ちゃんを遠ざけているようにしか見えなかったよ。まあ茜ちゃんが自分から翼くんに近づこうとしなかったのもあるけど」
まったく。本当に柳は勉強面以外では色々と察しが良いな。多分コイツは過去に俺と片桐の間に『何か』があったことに気づき始めているんだろう。本当に厄介な奴だ。
「茜ちゃんが翼くんに怒るのも当然だよ。だって今までずっと自分を遠ざけてきた幼馴染からいきなり屋上に呼び出されて『パンツ見せろ』って言われたんだもん。そりゃ怒るよ」
「...クソ、ぐうの音も出ねぇ」
「だからまずは茜ちゃんと仲良くなることから始めた方が良いんじゃない? だって仲良くならなかったら物理的な距離も縮めにくいじゃん」
「おお、お前って意外と頼りになるのな。まあその思考力を勉強に活かせていないのが残念極まれりなんだが」
「つ・ば・さ・く・ん? 私が翼くんの秘密を握ってるってこと忘れてなぁい?」
怖いよ柳さん。目が笑ってないよ。ちょっと冗談を言っただけじゃないか。
「......すみませんでした。柳閣下」
「ごめん、その呼ばれ方は抵抗あるからやめて」
「じゃあ柳さんよ。確かに片桐と仲良くならなければならないということはよく分かった。だが明日のミッションはどうするんだ? さすがに片桐とすぐ仲良くなるのなんて無理だぞ? 親睦を深めつつパンツを見るのって無理ゲーだと思うんだが」
「ああ、それは心配しなくていいよ。2日...いや、3日間くらいは私がパンツの色を確認してあげるから。翼くんはどうにかして3日間のうちに茜ちゃんと仲良くなっといて」
「おいおい。簡単に言ってくれるけどな、パンツ見るのってメッチャ難しいんだぞ?」
「大丈夫大丈夫。絶対なんとかなるから」
「えぇ...自信に満ちているお前を見てると逆に心配になってくるんだが...」
「一応スカートめくりも辞さない覚悟なんだけどなぁ」
「OK、お前を信用しよう」
それはお手本のような掌返しだった。
「フッ、3日間もあれば片桐をオトすのなんて楽勝だろ。これは呪い解除達成も視野に入ってきたな」
「凄い自信だね。仲良くなるだけじゃなくて恋人関係までいっちゃおうとするなんて。何か告白する時のための作戦とかあるの?」
「は? 告白? 俺が片桐に? そんなことするわけないだろ。向こうに告白させるんだよ。あくまで俺は求められる側だ。『自分から告白』なんて俺のプライドが許さん」
「うっわ、もうそれ病気だよ。病気。自分の命が関わってるのにプライドを優先するって相当ヤバイよ。もうアレだね。粘土と自尊心を混ぜたら翼くんが生まれてきそうだよね」
誰が泥人形じゃボケ。
「とにかく。俺は色々な都合があって片桐に告白はできないんだ」
「もうそれ半分茜ちゃんのことが好きって言ってるようなもんだよね」
「まあ嫌いではないとだけ言っておこう」
「翼くんは頑固だなぁ」
「いずれにせよ片桐との関係を修復する努力は全力でやるつもりだ。お前を巻き込んじまったからな。俺が手を抜くわけにはいかないだろ」
「...別に巻き込まれたわけじゃないよ。私から巻き込まれにいったんだよ」
「言っとくけど無理はするなよ? お前はあくまで第三者なんだからな。お前と片桐の友人関係にヒビが入るようなことはするんじゃないぞ」
「ふふ、相変わらず翼くんは優しいね」
「フン、別に俺は優しい人間なんかじゃねぇよ。お前と片桐の仲が悪くなったらミッションに影響が出そうだから無理はするなと言っているだけだ」
「ふふ、素直じゃないんだから」
「と、とりあえず作戦会議はこの辺で終了だ。今日はもう帰れ。外も結構暗くなってきたしな」
「えぇー、夜道を女の子1人で帰らせるのぉー?」
「......分かったよ。送るよ。送ればいいんだろ。コート取ってくるからちょっと待ってろ」
「なんだ。やっぱ優しいんじゃん」
「うるせぇ。お前が変な事件に巻き込まれたら面倒だから送るだけだ。勘違いするんじゃねぇぞ」
「はーい。分かりましたぁー」
「クソ...なんか調子狂うな...」
コイツは出会った時からずっとこんな感じだ。過去に色々あった事情で『近づくなオーラ』を常に出している俺に近づいてきた唯一の人物。それが柳愛佳という女子だ。最初のうちは正直ウザったいと思い、柳には『離れろ』と言い続けていたのだが、付き合いが長くなるにつれてそれも面倒だと思うようになった結果、今の柳と俺の関係が出来上がったのである。まあ柳は俺が唯一友人と呼べる存在と言っていいだろう。
そして普段は冗談で『お前俺のこと好きだろ?』なんて言ってたりしているが、おそらく柳は俺のことを『そういう対象』として見てはいない。なんせ俺は他人の気持ちの変化に敏感だからな。もし柳が俺を恋愛対象として見始めたならその時点で気づくのだが、コイツの態度に変化なんてものは3年間全く見られなかったのだ。まあそれが柳を俺から遠ざけなかった1つの理由といえるな。
--もう他人の気持ちが醜く変化するのを見るなんてウンザリだからな。
「ねぇねぇ、翼くーん。この部屋何? なんか鍵かかってるんだけど」
柳の声を聞いてハッと我に帰る。どうやら物思いに耽ってしまっていたようだ。
...つーか何してんだよあのバカ。勝手に人の家を散策するんじゃねぇよ。
気がつくと柳はリビングを出てすぐ隣にある鍵付きの部屋の前に立っていた。どうやらウチの『開かずの間』が気になっているらしい。
「その扉は俺以外は開けることができないぞ。パスワードが必要だからな」
「え、パスワード? もしかしてこの扉についてるキーボードみたいな奴ってそのためにあるの?」
「そういうことだ」
「わ、わざわざ1つの部屋にそこまでするなんて...お金もったいないよ...」
「まあどうしても隠したいものがあるからな」
「あ! 分かった! エッチな本とかDVDでしょ!! 翼くんってやっぱり変態!!」
「フン、何とでも言うがいい。つーかお前はさっさと家を出る準備をしろ」
「あ、そうだね。まだ翼くんが出してくれたお茶を飲み干してなかったよ」
いや、そこは別にどうでもいいんですけどね。
----------------------
「お、南条くん久しぶりー。どしたの? 急に私に電話するなんて。パンツの色の報告なら昨日みたいにメッセージで済ませればいいよね?」
柳を家に送り届け、帰宅した俺は例の『悪魔』に電話を掛けていた。L◯NEを追加しただけなので半分ダメ元だったのだが、どうやら無事電話は繋がったようだ。
「今日は1つお前に確認したいことがあってな」
「私に確認? なんのこと?」
「呪い解除ミッションのルールについてだ。第2項の『呪いの内容は秘密にする必要は無く、他人と協力して片桐のパンツを見てもいい』というルールについてなんだが、これって協力した人間にも俺みたいに呪いがかかるってことはないよな?」
「うん、それは心配しなくて大丈夫だよ。今回のミッションに関して呪いを受けている人物は南条くんただ1人。それは絶対に変わらないよ」
「そ、そうか。ならいいんだ」
「え、もしかして南条くんって協力者を見つけたの?」
「...まあな」
「ふーん、じゃあ君はその子のことを案じてわざわざ私に電話をかけてきたってことか。なんだ。優しいじゃん。へぇ、南条くんにも性欲以外の感情があるんだね」
誰が性欲魔人じゃボケ。
「フン、別に優しさなんかじゃねぇよ。俺以外のやつに呪いがかかったらミッションが増えるかもしれないじゃねぇか。その可能性を考慮しただけの話だ」
「え、なんか...君って面倒な性格してるね」
「黙れ。お前は存在自体が面倒だろ。気まぐれで変な呪い押しつけやがって。マジで許さねぇからな」
「はは、これは一本とられたな」
「もう切るぞ。なんかお前と話してたら腹立ってきたわ」
「おっけーい。まあまた何かあったら電話してきなよ。24時間いつでもOKだからさ」
「一応頭に入れておく。じゃあ切るぞ」
「おっけー。バイバーイ」
そして俺はメフィストとの通話を終えた。
----------------------
そして翌日。俺は登校して速攻で面倒な事態に巻き込まれた。
そう、いつも通りの道を歩いて登校したはずの俺にはいつも通りではない朝が待ち受けていたのだ。
「そこで止まれ! 南条翼!!」
3年用玄関の入口で何やら仁王立ちをしている細身のメガネ男が1人。ワケが分からなかったのでソイツの脇を素通りしようとしたのだが、なんかデカイ声で呼び止められた。
そして素通りできなかった俺は身を反転させ、とりあえず男と向かい合って話すことにしてみた。
「えーっと...何すか?」
「我は柳愛佳親衛隊隊長の凡馬平次である! 南条翼!! 我は貴様を絶対に許さない!!」
「......」
いや、お前誰だよ。
次回、3日目開始。
感想等、お待ちしております。