〈ミッション2日目③〉新たな契約
放課後編です。
-side 南条翼-
放課後。今日も運に助けられて呪い解除ミッションをクリアした俺はいつもの道を通り、いつものように歩いて帰ろうとしていた。
...だがしかし。なぜか普段は帰り道を共にしていない女が俺の後ろに1人。
「......なぁ、お前いつまで付いてくんの?」
「え、翼くんの家に着くまでだけど」
俺と帰路が逆方向のはずの柳愛佳が付いてきているのである。
「え、なんでお前がウチに来んの? ウチの両親に挨拶でもすんの? 俺ら結婚の約束とかしてたっけ?」
「いや、翼くんと結婚とかありえないし。ていうか翼くんって1人暮らしなんでしょ? だったら別に私が翼くんの家に行っても問題なくない?」
「ああ、それなら確かに問題な...くないわボケ。 は? お前なんで俺が1人暮らしってこと知ってんだよ」
「1年生の時に茜ちゃんから聞いた」
「...なるほど」
...いや、全然なるほどじゃねえよ。どんな会話してたら俺の1人暮らしの話題が出るんだよ。
「翼くんのご両親ってアメリカでゲーム作ってるんでしょ? すごいよね」
「随分詳しく聞いたみたいですね」
そう、ウチの両親は現在アメリカの企業でゲームを作る仕事をしているのである。最初は日本の企業に勤めていたのだが、俺が高校に入学すると同時に『日本の企業形態にウンザリした』というなかなかブッ飛んだ理由でアメリカへ職場を移したのだ。なんか2人同時にアメリカのゲーム会社にヘッドハンティングされたらしい。仕事内容はよく知らないが、父も母も結構デカい仕事をやっているらしく、稼ぎはかなり良い。
というわけで1人っ子の俺は現在高級マンションの最上階で1人暮らしをさせてもらっているのである。ああ、親のスネが旨い。もうずっと齧っときたい。
「よし、じゃあ翼ハウスにレッツゴー」
「なんだよその頭の悪い英語...つーかなんでお前がウチに来るんだよ」
「え、なんとなくだけど」
なんとなくとな。
「おい柳。冷静に考えてみろ。男女が同じ部屋に2人きりになるんだぞ? 仮に俺がオオカミになったらお前どうするわけ?」
「あ、そこは全然心配してないよ。翼くんヘタレだし。女の子を襲った後にお巡りさんに捕まるリスクを考えて結局何もしないタイプだし」
.....俺のことがよくお分かりのようで。
「ていうかお前スゴイな。昼休みにあんな事があったのによく普通に俺と話してられるよな」
「まあ翼くんが変態ってことは元々知ってたしね。変態な人に変態な目で見られても今さら大して驚かないよ。それに『昼休みのアレ』の言い出しっぺは私だったし」
いやお前メンタル強いな。
「ていうか私みたいなかわいい女の子が家に来るって言ってるんだよ? 普通ならもっと喜ぶところなんじゃないの? ほらほら、ドキドキしてもいいんだぞー?」
「お前との付き合いももう3年になるからな。今さら家に来る程度で緊張なんかせんわ」
「うっそだー。昼休みは緊張してたくせにー」
「......それはまた別の話だ」
そしてそんな生産性の無い会話を続けていた俺たちはとうとうマンションに辿り着いてしまった。
「はぁ...もうここまで来たしウチに入れよ。どうせ俺に何か話があるからここまで付いてきたんだろ?」
「うーん、やっぱり気づかれてたか。相変わらず翼くんは察しが良いねぇ」
「フン、お前が何の用もなく俺に付いてくるわけがないからな」
「えー、案外そうでも無いかもよ?」
「......勝手に言ってろ」
こうして結局俺はなんやかんやで柳愛佳を我が家に招くことになった。
----------------------
「ほら入れ」
マンションの最上階に到着した俺は部屋の鍵を開け、雑に柳を招き入れた。
「おっじゃましまーす! ってうわ広っ! え!? 翼くんこんなところに1人で住んでんの!?」
「中学の時まで家族3人で住んでたマンションにそのまま俺が住んでるだけだからな。まあ1人で暮らす分には広い」
「いや、3人で暮らすにしても広くない?」
「とりあえず今見えてるリビングが25畳だな」
「...え、なに? もしかして翼くんの家って金持ちなの?」
「まあ、金持ちだな」
「あ、なるほど...翼くんって金持ちの息子だから性格がちょっとアレなのかもね...」
お? 喧嘩売ってんのか?
「じゃあとりあえず私はそこのフカフカしてそうな大きいソファーを占領しちゃおうかな!!」
すると柳はリビング中央のソファに一直線で向かい、『とりゃっ!』という台詞とともにソファーにダイブした。
...うし、JKの残り香ゲット。
「翼くん、ニヤニヤしてるところ申し訳ないんだけどさ、ソファーは私が帰る前に消臭させてもらうね?」
チクショウ。思考がバレてやがる。
「...よし、とりあえず茶入れてくるからそこで座って待ってろ」
「え、なんか意外。翼くんって気遣いできるんだね」
「別にこんなの気遣いなんかじゃねぇよ。いいから座って待ってろ」
「わかったー。あ、そうだ。お茶のついでに何かお菓子も持ってきてくれない? どうせ翼くんの家って高いお菓子いっぱいあるんでしょ?」
「おいコラ。お前はもう少し俺に気を遣いなさい」
----------------------
緑茶が入ったコップをテーブルに置き、ソファに座っている柳とテーブル越しに向かい合う。ちなみに俺はカーペットの上に直で座ってるんですけどね。うん、この構図だと一体どっちが家主なのか分かんないね。
「ねぇねぇ、翼くん。テレビつけていい? 電気屋さん以外でこんなおっきいテレビ見たことないから1回見てみたくなっちゃった」
お前ホントフリーダムだな。
「テレビ付けたら話に集中できないだろ。まずは話が先だ。俺に話があるんだろ?」
「あ、そういえばそうだった。じゃあ早速翼くんに質問するね」
「お、おう」
「ねぇ、翼くんはどうして茜ちゃんのパンツを見ようとしてるの?」
いきなり直球で来やがった。
「確かに翼くんはお世辞にも人が良いとは言えないけどさ、人が嫌がることを進んでするタイプではないじゃん? そんな翼くんがどうして急に茜ちゃんのパンツを見ようとし始めたのかな?」
「そ、それは...」
----------------------
▶︎つばさはどうする?
①テキトーに嘘をつく
②話を逸らす
③正直に全部話す
----------------------
俺の脳内選択肢ゴミかよ。
①はダメだ。柳は無駄に勘が良い。嘘ついても多分バレる。
②もダメだ。この状況で話を逸らすのは難易度が高すぎる。
③もダメだ。『呪い解除のためにパンツ見なきゃいけないんだぜベイベー』とか言っても信じてもらえるワケがない。
...いや、ちょっと待て。今の状況をよく考えるんだ俺。
Q1. 今話している相手は? A. 柳愛佳
Q2. 柳ってどういう人間? A. なかなかのアホ
Q3. 今さら柳に不審に思われて何か困る事が
あるか?
A. 全く無い。マジでどうでもいい。
...コレ正直に話しても良いんじゃね?
.....というわけで俺は選択肢③を選ぶことにした。
「柳。実はな、今俺は命の危機に瀕している真っ最中なんだ」
「え!? 命の危機!? なにそれどういうこと!?」
え、なんか思ったより反応が良いんだけど。
「実は今俺は悪魔に呪いをかけられてしまっててな...高校卒業までに『ある条件』を満たさないと死ぬことになってるんだよ...」
「悪魔? 呪い? まあよく分かんないけどいいや。その『ある条件』って何なの?」
え、なんかノリが軽くない? 一応今の俺っちって命の危機なんだよ?
まあ良い。気を取り直して説明に戻ろう。
「...コホン。俺が生き残るための条件とは...」
「翼くんが生き残るための条件とは...?」
そして俺は宣言する。
「片桐茜のパンツを毎日見るということなんだ......」
「......」
「......」
「......え、なにそれ」
そして柳がガチ真顔になった。
......まあそういう反応になりますよね。
「え、なに? じゃあ翼くんは自分の命を守るために茜ちゃんのパンツを見ようとしているってことなの?」
「まったくもってその通りだ。100%真実だ。だがこんなことをお前は信じられないだろう。別にそれでも良い。だからせめて今聞いたことは忘れてくr」
「信じるよ」
「......え?」
彼女の返答は俺の耳を疑うようなものだった。
...信じる? 今コイツは俺のことを信じるって言ったのか? 俺の聞き間違いだよな? さすがにアホの柳でもこんな御伽話みたいな事を信じるわけが....
しかし疑う俺を気にすることもなく、彼女は最後にこう言い切った。
「私は翼くんを信じる。そして呪いの解除にも協力させてほしい」