【最終話】最高の告白
最終話でございます。
-side 南条翼-
【成人式】
それは文字通り新成人を祝うための儀式であるが、実際は式の後に開かれる同窓会の方をメインと言った方が良いだろう。まあ要するに、大抵のヤツは『わ〜! 久しぶり〜!!』とテンションをアゲアゲさせながら、地元の友人達と久々の再会を果たすことを目的としているわけだ。
--しかし俺の場合は事情が、ちと違う。
まあ、いくら歳を重ねてハタチになろうが、卒業してから2年経っていようが、『南条翼は友達が少なかった』という純然たる事実が消え去ることは無いからな。そもそも久しぶりに会いたいヤツとかほとんどいないわけよ。
しかも茜とは遠距離恋愛だけど定期的にデートしてるし、柳とは時々だけど連絡取り合ってるからな。確かに地元に進学したのは俺だけだから物理的な距離自体は離れたかもしんねぇけど......別にメチャクチャ会いたいってわけでも無いんだよ。
まあ、そんなわけで本日1月5日。俺はいつの日かメフィストに『カミカゼ』を授けられた、例の喫茶店で2年振りに親友と会う約束をしているものの、別にそれをチョー楽しみにしているというわけでもないのである。
「はぁ......それにしても遅ぇな。まったく。なにしてんだよアイツは」
店内のテーブル席にて。1人で冬景色を眺めつつ、コーヒーを片手に溜息を1つ。待ち人を待つというのはやはり良い気分にはなれないものである。
しかし、それにしても遅過ぎやしないだろうか。集合時間は12時ジャストだってちゃんと伝えておいたはずなのに、もう30分も過ぎてるんだぞ。もう大人になるんだからせめて遅刻は5分〜10分くらいにしといてくれよ。ほんと頼むよ。
まあ......新年早々にアイツを呼び出したのは俺の方だし、あまり文句は言えないのかもしれないが。
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待ち人が慌てて店内に駆け込んできたのは、集合時間を40分ほど過ぎた頃だった。
「翼くん、ごっめーん! ファンの子にサインしてたら遅れちゃったよー!」
2年前と全く変わらない天真爛漫な様子で、しかし2年前より少し落ち着いた声色で。
髪色はあの時より少し明るくなっていて、それでいて頬には軽く化粧をのせていて。
「ふふ、久しぶりだね♪」
そして随分と洒落た服を纏った柳愛佳は、サングラスを外しながら俺の正面に座りつつ、明るい笑顔を振りまきながら俺に声を掛けてきた。
「......いや、ちょっと待て。情報量が多過ぎる」
「ん? どういうこと?」
「いや、なにキョトンとしてんだよ。垢抜け過ぎだろお前。一瞬誰か分かんなかったぞ」
「えへへ、そんなに褒めないでよー! 照れるじゃん、もうっ!!」
「いや、別に褒めてねぇから!!」
ねぇ、待って? ちょっと待って? なにがどうなったら純真無垢なスポーツ少女の柳愛佳が、こんなモデルみたいな女になるの? いや、まあそりゃ高校出たら女子は変わるって聞いたことはあるけどさ? こんなに印象が変わるとは思わないじゃん?
うーん、しかし茶髪になったり、グラサンしてたり、メイクをしてたりと印象はかなり変わったはずなんだが、なぜか柳自体はそんなに変わった気はしないんだよな。不思議なこともあるもんだ。
「つーかお前、さっきファンの子が〜、とか言ってなかった? え、なに? お前のファンが居るわけ?」
「え、翼くん知らない? 一応私、バレーの全日本代表に選ばれたてんだけどなぁ。去年は結構テレビに映りながら国際試合とかやったりしてたんだけど」
「......は? え、いや、あの......はぁ!?」
「まあ翼くんってテレビ見なさそうだし、世の中のことに興味なさそうだし、知らないのも無理はないかぁ」
【速報】なんか知らないうちに友人がビッグになってた件。
「そ、そうか......だからさっきまでお前はサングラスを掛けてたわけか......」
「ざっつらいと! しょっちゅう、ってわけじゃないけど、たまぁーに声を掛けられちゃうくらいには有名になっちゃったからねぇ」
「な、なるほど......」
まあ柳のルックスならファンが居るのも頷けるか。一応黙ってれば茜に負けないくらいの美人だからな。黙ってれば。
「ふふ、もし翼くんが私を振ったことが世間にバレちゃったら大変かもね」
「いや、大変どころの話じゃねえっつの。殺されちゃうから。マジでお前のファンに殺されかねないから」
つーか、その話題出すのやめて。普通の口論なら絶対勝てるけど、そこに関してはマジで俺なんも言えねぇから。
ていうかお前、いつのまにそんな強キャラみたいになったん? 振られた話を自分からするとかメンタル強過ぎない? いや、まあ変に引きずられるよりは全然良いんだけどね?
「......ところで翼くん? まあ、積もる話もあるし、雑談をするのは全然良いんだけどさ。こんな話をするためにわざわざ私を呼び出したわけでもないんでしょ?」
「あ、ああ、そうだったそうだった。じ、じゃあそろそろ本題に入るか」
いかんいかん、柳の先制パンチが強烈過ぎて今日の目的を見失うところだった。危ねぇ、危ねぇ、ギリギリセーフ。
というわけで、相変わらず察しの良い柳のおかげで落ち着きを取り戻した俺は、早急に今日の目的を彼女に話すことにした。
「なぁ、柳。女子的には婚約指輪ってやっぱ高いヤツの方が良いのか?」
-side 柳愛佳-
「え、いや、あの......え? 急にどうしたの、翼くん? こ、婚約指輪? ま、まさか茜ちゃんにプ、プロポーズするってわけじゃ......」
「ああ、そのまさかだ。今夜、俺は茜にプロポーズする」
「..........ええぇぇぇぇぇぇ!!!!????」
いや、わざわざ私を呼び出すくらいだから、まあ、なんとなく茜ちゃんの話かなーとは思ってたけどね!? でも、まさか結婚の話が出るなんて思わないじゃない!?
いや、なによそれ! ファンの子の話を出して翼くんを驚かせようとしてた私がアホみたいじゃない! 私の話なんて一瞬で霞むくらいのビッグニュースじゃない!!
「え、で、でも翼くんってまだ大学2年生だよね...? そ、そりゃあ結婚しちゃいたいくらい茜ちゃんのことが好きなのは知ってるけど......ちょっと早いんじゃないの?」
「ああ、それについては問題ないぞ。実は大学を中退して今年からアメリカで働くってのが急に決まってな。4月には向こうに行くことが決まってんだ。収入はちゃんと得られるようになる」
「え、いや、あの......え? ア、アメリカぁ!?」
「ああ、父さんと母さんが働いてるゲーム会社に就職することになってな。なんか父さんが新事業のチーフプロデューサーを任されたらしい。そんで『顎で使える部下が今すぐ欲しいから、お前もウチで働け』って言われてよ。はは、ひっでぇ理由だよな」
「つ、翼くんはそれでいいの......? まだ学生をやりたいとか、まだ遊んでいたいとか思ったりしないの......?」
「ああ。今まで自由にさせてもらってた分、親孝行しなきゃいけないしな。前々からゲーム作りに興味はあったし、プログラミングも得意だからな。それに会社自体も大企業だ。俺としてはこんなに良い話は無いと思ってるよ」
「......」
「あ、別にコネ入社ってわけじゃないからな? ちゃんとそれなりに倍率が高い試験を突破したから入社するんだからな? そこだけは勘違いするなよ? はっはっは、俺は今でも天才だからな!!」
「......」
寂しいよ。
と、少し無理をして笑いながら話している彼に言いかけた私だったけれど、2年間も会っていなかった自分がそんなことを言うのは何か違う気がして。
--結局この時、私はただ黙って彼の話を聞くことしか出来なかった。
「す、すまん、柳。ベラベラと話してしまったが、突然こんなことを言われても驚くだけだよな。そ、その......少し配慮が足りてなかったよ」
「いやいや、いいのよ、翼くん。でも、そっか......翼くんと茜ちゃんは3ヶ月後にはアメリカに行っちゃうのかぁ......」
「いや、茜はまだ分からないぞ? そ、その、なんだ。こんなことは言いたくないが、プロポーズが成功するとは限らないしな。それに成功したとしても、俺はアメリカ行きを茜に強制するつもりは無い。茜にも茜の人生があるからな。アイツがまだ日本に残ってやりたいことがあるって言うんなら、俺は1人でアメリカに行くさ」
「......ふふ、翼くんは相変わらず人の気持ちが分かってないみたいだね」
「は? どういうことだよ?」
「ふふ、それは自分で考えなさい♪」
「い、いや、急にそんなこと言われてもな......」
ふふふ、まったく。相変わらず翼くんは恋愛事になると鈍感なんだから。きっと茜ちゃんもこの2年間で色々大変だったんだろうなぁ。
はぁ......ほんっと。翼くんって頭は良いけどバカだよね。
--だって茜ちゃんが翼くんについて行かないわけがないじゃん。
茜ちゃんが翼くんのプロポーズを断るなんてありえないし、翼くんを1人でアメリカに行かせるわけもないじゃない。
また離れ離れになるなんて......そんなの、茜ちゃんが許すわけがないもの。
「......あのー、柳さん? 俺の方を見てニヤニヤするのやめてくんない?」
「あはは、ごめんね、翼くん。いやー、あまりにも翼くんが変わってなくてね......うふふ、なんかおかしくなっちゃった」
「なんだそれ。つーか、お前も見た目がちょっと変わっただけで中身は全然変わってねぇじゃねぇか」
「そりゃあそうでしょ。人って、そう簡単には変われないからねぇ」
「まあ、それは違いないな」
「ふふ、そうでしょそうでしょ」
「はは、まったくだ」
「......ふふ、ふふふふ.......」
「く、くくく.......」
「「あははははは!!!!」」
何がおかしくて笑ったのかは分からない。けれど、気づけば大人になっていた私たちは、まるで子供のように思いっきり笑い合っていた。
ああ、きっとこんなに笑えるのは私たちが全然変わっていないからなんだろう。
距離が離れていても、少し歳を重ねて大人になっても。そして......あの日抱いていた恋心が無くなってしまったとしても。
--私たちが築いてきた信頼や絆は、なに一つとして変わっていない。
だから、きっと私たちは今もこうして2年前と同じように心の底から笑えているし、これからもずっと笑っていけるんだろう。
「ねぇ、翼くん? 他の子がどうなのかは分からないけど、多分茜ちゃんは婚約指輪の値段なんか気にしないと思うよ」
笑い疲れるほどに笑った私は、ようやく話を戻して彼の問いかけに答えた。
「そ、そうか。や、やっぱそうだよな」
「うん、大事なのは指輪を渡すタイミングと場所だよ。そして何よりも翼くんの気持ちが大事。ふふ、頑張ってね。陰ながら私も応援してるよ」
まあ、どうせ上手くいくんだろうけど。
「あーあ、いいなぁ、アメリカ! 私も留学しちゃおっかなー!!」
「いや、なに言ってんだよ。お前全然英語できねぇじゃねぇか。絶対無理だっつの。やっぱアホだろ、お前」
「アホって言うなし! もうっ! 翼くんは相変わらず一言多いんだから!!」
そして、そんな懐かしいやりとりをしつつ、私は思った。
--ああ、ちょっぴり寂しくなってしまうけれど、やっぱり私たち3人はこれからも変わっていかないんだろうな、と。
2人が海の向こうに行ってしまったとしても、きっと私たちの繋がりが消えることは無いんだ。どれだけ離れてても......心の距離は離れていかない。
--だから、私はこれからも笑っていられる。
......あ、そうだ。翼くんがプロポーズするんなら、これだけは言っとかないと。
「ねぇ、翼くん。一つだけお願いがあるんだけど、良いかな?」
「お願い? まあ、よく分からんけど言ってみろよ」
そして2人を笑って送り出す覚悟が出来た私は、首を傾げている彼に向けて、胸を張って宣言する。
「結婚式の友人代表挨拶は絶対私がやるんだからねっ!!」
--ふふ、絶対これだけは他の誰にも譲らないんだから。
-side 南条翼-
高級タキシードを身に纏い、貯めに貯めた自費で婚約指輪を購入。綺麗な夜景が見える高層ビル内のレストランの、それも屋上テラス席を(親の財力で)貸し切り、ロケーションもバッチリ。
そして、式の友人代表挨拶の人材も確保、と。
うむ、文句なしだ。驚くほどに完璧なプロポーズ準備じゃないか。はっはっは、ここまでしておいて俺が失敗するはずなんてないぜ。もし失敗したら全裸で逆立ちして街を一周してやらぁ。
「うん、だから足が震えてるのなんて気のせいだ。俺は緊張なんてしてない。ダッテオレハテンサイナンダカラナ」
というわけで時刻は午後7時。別に心臓バックバクで吐きそうだとか、断られたらショックで死にそうだとか、ロケーション整え過ぎて逆にプレッシャーがやばいとか、そんなことを思っているわけではないが、現在俺は店の入り口前で深呼吸を繰り返しているところである。
「え、えぇい! 何を恐れているんだ俺! 男ならシャンとしやがれってんだ!!」
か、簡単な話じゃあないか。茜には先に店に入っておくように言ってある。ならばサクッと入店して『Will you marry me?』と言いながら、スマートに指輪を渡すだけじゃないか。それの何が難しいことだって言うんだ。
「イケる......俺は出来る......」
「......いや、何1人でブツブツ呟いてんのよ。さっさと中に入りなさいよ」
「ああ、分かった。今すぐ入る......って、うぇぇ!? あ、茜ぇ!?」
緊急事態発生。やせいの片桐茜が現れた。
「お、お前、なんでこんなとこに居るんだ!? 先に店に入ってろって言ったじゃん!!」
「いや、ドレスを着るのなんて初めてだから少し戸惑っちゃったのよ。それでちょっと予定より遅れて来ちゃったの。ていうか、なんでいきなり『ドレスを着ろ』なんて言うのよ。ワケわかんないわよ」
真紅のドレスを身に纏い、いつもより少しだけ濃い赤色の口紅を塗っている茜は、妖艶な甘い香りを漂わせながら隣で俺を見上げている。
「おい、茜。お前ふざけんなよ。似合い過ぎだろバカ野郎。綺麗すぎるわ。美しさの過剰摂取で死ぬわ」
「! な、なに言ってんのよ、もう!! バ、バカなこと言ってないでさっさと店に入るわよ!!」
「はっはっは。まったく、何年経ってもお前はずっと照れ屋のままだな。まあ、そういうところも好きなんだけどよ」
「い、いいから入るわよ!!! ほら、早く!!!」
「うおっ! ちょっと待てって!! 手ぇ引っ張んなって!!」
そして顔を真っ赤にさせて、さらに真紅のドレスを着た全身レッドな茜さんは、半ば強引に俺の手を引っ張って店の中へと引きずり込んだのであった。
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「......ねぇ、翼」
2人掛けのテーブル席に着くなり、コートを羽織って俺を睨み始めた茜。
「な、なんでしょうか、茜さん......」
そして、そんな彼女に対して思わず萎縮してしまう俺。
まあ、いつもなら茜を相手に萎縮することなんてありえないんだが......今回ばかりは俺が悪いので萎縮せざるを得ない。
なぜなら......
「ねぇ!! 超寒いんだけど!!!」
「大変申し訳ありませんでしたぁ!!!」
--俺が一月に野外のテラス席を用意してしまったからである。
「いや、マジですんません。夜景のことしか考えてなかったっす......」
失敗した。迂闊だった。ロマンチックな演出のことばかり考えてて、気温のことなんて全然考えてなかった。やべぇ、クッソ寒い。
「ま、まあ、いいわよ。確かに夜景は綺麗だし、今日は星も綺麗に見えるし。そ、それに、ほら、私たち以外は誰も居ないから人の目も気にしなくていいし」
「あー、うん。私はあなたにそう言ってもらえて、とても嬉しいです」
「いや、なんで教科書の例文を訳したような日本語になってんのよ......」
仕方ねぇだろ、緊張してんだよ。
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「こちら、前菜の『塩麹漬け豚のヒレロースト』でございます」
「おお、うまそう」
「ぜ、前菜ってお肉も出てくるのね......知らなかった......」
そんな『前菜は絶対野菜』という茜の可愛らしい勘違いとともに、なんかすげぇ旨そうな肉が登場。寒いことも忘れ、俺らの目線は完全にテーブル上に釘付けである。
「ええ、そうですよ。前菜でも意外としっかりした肉料理が出されることもあります」
「へ、へぇー......」
おい、そこの店員。どうやらテメェの視線は茜に釘付けになってるらしいじゃねぇか。ニヤニヤしてんじゃねぇよ。俺の目の前で良い度胸してんな、オイ。
「あのー、もう下がってもらって大丈夫ですよ」
鼻の下を伸ばしかけている店員に向けて、俺は少しドスを利かせて呼びかける。
「し、承知しました。で、では、ごゆっくり」
すると彼は少し焦った様子で、そそくさと裏の方へと戻っていってしまった。
「ち、ちょっと翼。今の何よ。なんか怖かったんだけど」
「......ごめん、茜を怖がらせるつもりは無かったんだ。さっきのはちょっとやり過ぎだったかもしれないな。すまなかった」
「え、えっと......まあ、よく分かんないけど悪気が無かったなら別に気にしないわよ。さあ、食べましょ。せっかくの料理が冷えちゃうわ」
「ああ、そうだな」
......クソ。何やってんだよ、俺。茜は誰の目から見ても美人なんだから、男が茜のことを意識するのは当たり前のことじゃないか。なのに、たったそれだけで頭に血が上っちまうなんて.....ほんと、何やってんだよ俺。少し落ち着けよ。
そして俺は、自分の独占欲の強さを改めて認識しつつ、料理に手をつけ始めた。
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「いやー、おいしかったわね。私、なんか今まで高級レストランって抵抗があったんだけど、偶に来るのは良いかもしれないわね。また来ましょうよ」
「あ、ああ、そうだな......」
やべぇ、結局何も出来ないままコース料理を全部食っちまった。
......いや、ホントどうしたんだよ俺。緊張して、それでなんも出来ねぇなんて俺らしくないだろ。いつもみたいにスマートにササっと決めちまえば良かっただけの話じゃねぇか。
アメリカ行きのことについて話して。それから茜の今後を一緒に考えて。そこから茜の反応を見ながらプロポーズする。ただそれだけの話じゃなかったのか?
.......いや、待て。
--そもそもどうして俺はスマートに決めよう、なんて思ったんだ?
わざわざ最高のロケーションを用意して。正装に着替えてまで高級レストランに来たりして。ただ自分の想いを伝えるだけなのに、俺はどうしてそこまでのことをしたんだ?
--失敗したくないから?
--間違えたくないから?
--自分に自信が無いから?
......クソ。どんだけ後ろ向きになってたんだよ。らしくない。らしくないぜ、俺。
--全然らしくないじゃねぇか!!!
よくよく考えてみれば、俺は決してスマートに決められる人間なんかじゃないじゃねぇか!! 色んなことが分かって色んなことが器用にこなせるくせに、大事なところではいつも不器用になっちまうのが南条翼だったはずだろ!?
【南条翼はな、今も昔も片桐茜のことが好きで好きでしょうがねぇんだよ!!】
2年前のあの時だってそうだった! 一晩中セリフを頭ん中で考えてたくせに、実際に伝えたのは不器用で全然綺麗じゃない、ありのままの俺の想いだったんだ!!
アメリカ行きとか、その後の茜の人生とか......とにかく今はそんなことは抜きだ。
スマートじゃなくてもいい。カッコよくなくてもいい。
--俺は俺らしく。不器用に泥臭く、等身大の想いを全力で伝えるだけだ。
「翼? なにボーッとしてんの? 帰るわよ?」
席から立ち上がって出口に向かおうとしている茜。
「......あのな、茜。俺はお前に伝えたいことがあって今日、ここに呼び出したんだよ」
俺はそんな彼女の目の前まで移動し、右膝をついて正面から彼女の美しい顔を見上げる。
「な、なによ。いきなり膝なんかついちゃって。そこまでして私に伝えたいことってなんなのよ」
「......茜。今から俺はお前に大切なことを伝える。お前の返答次第で俺のこれからの人生は大きく左右されることになるだろう。だから今から俺が言うことをよく聞いていてほしい」
そして俺はタキシードの胸ポケットに入れておいた婚約指輪を取り出し、ケースを開いて彼女に中の指輪を見せつける。
「え、え!? つ、翼!? そ、それってまさか......え、でもちょっと待って! まだ心の準備が!!」
よし、言うぞ! これから俺の人生史上最も大事なことを伝えるぞ!
--さあ! 俺の想いよ届け!!
「片桐茜! 今日から死ぬまでの間、毎日ずっと俺の隣に居てくれ!!!」
「......!」
流れる沈黙。彼女の左手を取り、薬指に指輪を嵌める俺。
そして......
「うっ、ぐすっ......! 急になんなのよ、もう......!!」
--両目一杯に涙を浮かべている茜。
そんな彼女に向けて、俺は穏やかに問いかける。
「なあ茜、返事を聞かせてくれないか?」
まあ......返事は大体分かりきってるんだけどな。
「返事なんて......ぐすっ、そんなの1つに決まってるじゃない.....!」
「はは、そうか。じゃあさ......その返事を聞かせてくれないか?」
指輪を嵌め終えて立ち上がった俺は、愛おしくてたまらない彼女の頭を、ポンポンと撫でながら問いかける。
--すると茜は俺の両肩をギュッと掴み、その大きな瞳で俺を捉えながら言い切った。
「YESに決まってるでしょ、このバカ!! 約束だからね! もう二度と私から離れないでよねっ!!」
「ああ、任せとけ。もう一生離さねぇよ」
そんな歯の浮くようなセリフを言いつつ、小さくて柔らかくて、愛おしくてたまらない彼女を抱き締めながら俺は考える。
--ああ、やっと言えた。
--成功して良かった。
--これでずっと茜と一緒に居られる。
そんな風に、茜が笑って返事をしてくれたのが嬉しすぎて、俺の胸には一瞬で様々な思いが去来して、なんだかワケが分からなくなってくるけれど。
ああ、だけど、きっと。色々な思いが混ざって頭がゴチャゴチャになってるけど......今確実に一つだけ言えることがあるとするのならば。
--その笑顔は世界で1番美しかった。




