〈ミッション1日目①〉ミッション開始
パンツミッション開始です。
-side 南条翼-
片桐から顔面パンチを喰らってから1日が経過した。つまり、今日から俺は本格的に呪いとの戦いに挑まなければならなくなったというわけだ。
というわけで現在、俺は4限の数学の授業中であるものの、自分の席で窓の外を眺めながら片桐のパンツを見るための作戦を考えている。ちなみに俺の席は窓側の列の1番後ろだ。漫画とかアニメで言うところの『主人公席』ってやつだな。まあ漫画やアニメみたいにヒロインが近くに座ってるわけじゃないんだが。片桐の席は思いっきり俺の対角線上の1番遠いところにあるし。
まあ、作戦の詳細を考える前にまずはルールのおさらいだ。実は一昨日カフェでメフィストと話した時に俺はヤツから呪い解除についてのルールを5つほど聞かされたのである。
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1. 日付が変わるまでに片桐のその日のパンツの色をL◯NEでメフィストに送ること。間違えた色を送信したり、日付が変わるまでに送信できなかったらその時点で俺が死ぬ。
2. 呪いの内容は秘密にする必要は無く、他人と協力して片桐のパンツを見てもいい。
3. 今日から卒業式前日までの期間、学校がある日は毎日片桐のパンツの色をメフィストに報告しなければならない。ただし、休日は報告する必要はない。
4. 休日はパンツの色を報告しない代わりに片桐に最低1回は電話をかけなければならない。
5. 卒業式当日には呪い解除のための最終ミッションが待ち構えている。そのミッションをクリアできれば晴れて俺の呪いは解除となる。
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というのが俺が呪い解除のために守らなければならないルールだ。
いや、正直2番目のルールはいらないだろ...協力者を見つけるとか100パー無理だわ。
3番目のルールは正直助かった。高校に入って以来休日に片桐に会ったことなんてほとんど無いからな。そんな状況でパンツを見るとかさすがに無理ゲーだわ。
でも4番目のルールは解せないな...なんで休日に片桐に電話をかける必要があるんだよ。俺の呪い解除に必要なのはパンツを見ることだけじゃないのかよ。まあ別に電話をかけること自体はそんなに難しくないから別にいいんだけどさ。
それと5番目のルールの中にある最終ミッションってのは何なんだろうな。全く予想出来ねえ。『これまで片桐が履いてたパンツの色を全部言え』とかかな? よし、念のため片桐のパンツの色は毎日メモっておくとしよう。
...まあそもそもまだ一回も片桐のパンツを見られてないんですけどね。
いや、マジでどうしよう。昨日『お前昔から俺のこと好きだし毎日パンツみせてくれるだろ作戦』は失敗したしな...
もういっそのことスカートめくりでもするか? いや、小学生の頃ならまだしも今やるのはちょっとな...1回くらいなら大丈夫かもしれないけど何回もスカートめくったら痴漢で停学になりかねん。そしたら停学になった次の日から確実に片桐のパンツが見られなくなってしまう。スカートめくって停学くらって呪われて死ぬ、なんて末代までの恥になるじゃねえか。あ、その場合末代は俺になるのか。
「おい、南条」
うーん、どうすればいいんだ...
「おい、南条、この問題の答えを言えと言っているんだ」
大体パンツ見なきゃ死ぬとか頭おかしいだろ...
「おい南条! 授業中だぞ! 俺の話を聞け! さっきからこの問題の答えを言えと言っているだろう!!」
うわ、びっくりした。急に大声出すなよ。うるさい教師だな。人が授業中に必死にパンツ見るための作戦立ててる時に水刺すんじゃねえよ。
「で、なんすか先生?」
「この問題に答えろと言っているんだ!」
「x=π/3の時にk=√3-1です」
「な、なぜ授業中何もしてなかったはずのお前がこの問題に答えられるんだ...」
ったく無駄な時間とらせやがって。こちとら命懸けで片桐のパンツ見るための作戦考えてるんだっつーの。今は授業聞く余裕なんてねぇんだよ。
うーん、果たしてどうすれば俺は片桐のパンツが見られるのだろうか...
...あ、閃いた。閃いちゃったね。パンツ見るための作戦が急に閃いちゃった。なんか、こう突然頭に降りてきたわ。よし、この作戦ならきっと上手くいくばすだ。
はっはっは! 俺ってやっぱ天才だな! よーし! 早速昼休みに作戦決行だ!!
-side 片桐茜-
「翼くん相変わらず頭良いねー。全然話聞いてなさそうだったのに先生に当てたれたらすぐ問題に答えちゃうんだもん」
「いや、いくら南条の頭が良くてもあの性格で全て台無しよ。どうしてあんなに自信満々で人に向かって『お前俺のこと好きなんだろ?』なんて言えるのかしら」
つい先ほど数学の授業が終わって昼休みになった。そして今私はいつも通り隣の席の柳愛佳と一緒に昼食をとっている。
愛佳とは3年間クラスが一緒であり、私が最も親しくしている友人だ。元バレーボール部でボーイッシュな雰囲気のスポーツ女子で男子にも女子にも人気がある。
「ふふ、私も茜ちゃんと同じこと何回も言われたことあるよ。翼くんってほんとナルシストだよねぇー。頭良いし運動もできるから普通にしてれば絶対モテるのに。なんですぐ女の子に自分のことを好きか聞いちゃうんだろ」
「でも愛佳って1年生の時から結構南条と話してるわよね? なんでわざわざあんなヤツと話そうとするの?」
実は忌々しいことに南条も3年間私たちと同じクラスなのだ。そして他の女の子たちは皆南条を避けているのに愛佳だけはなぜか1年生の時から南条と話すことが多い。愛佳はどうしてあんな変態に自分から関わろうとするのかしら。
「翼くんには勉強を教えてもらってるだけだよ。確かに翼くんは性格に問題があるけどさ、意外と勉強は丁寧に分かりやすく教えてくれるんだよね。正直先生の説明より翼くんの説明の方が分かりやすいんだよ」
「なるほどね。要するに南条を頼ってるんじゃなくて南条の学力に頼ってるってわけなのね」
「まあそういうことになるかな」
ふふ、南条のやつ勉強面で愛佳に良いように利用されてるのね。
「ねえねえ茜ちゃん、携帯鳴ってるよ」
「あ、うっかりしてたわ。マナーモードにするの忘れてた」
「授業中に鳴らなくてよかったね」
「ごめん愛佳、今ちょっと携帯触ってもいい?」
「ふふ、長い付き合いなんだしわざわざそんなこと聞かなくても大丈夫だよ」
念のため愛佳に確認をとってから携帯画面を見る。すると私の携帯画面には想像の斜め上を行く通知が表示されていた。
『今から屋上に来ていただけませんか by南条翼』
...え? なんなのコイツ? 昨日私にあんなこと言っといてよく連絡してこれたわね。ていうか今同じ教室内にいるのになんでわざわざ携帯でメッセージ送ってくるのよ。
まあ気にすることでもないわ。無視すればいいだけだし。
しかし私が無視していても南条からのメッセージは止まらない。
『無視しないでくれ片桐』
『いや片桐ほんと頼むって』
『お願いします片桐様』
...無視よ、無視。私はもうアイツと関わらないと決めたんだから。
『俺、今日はちゃんと茜に誠意を見せるからさ』
「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」
「え!? 茜ちゃん急にどうしたの!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫よ愛佳...なんでもないから...」
最後の南条からのメッセージを見て驚きのあまり思わず咽せてしまった。なによアイツ。いきなり変なメッセージ送ってくるのやめなさいよ。
...ていうかなんで今になっていきなり名前呼びするのよ! 小学校卒業してからは1回も名前で呼んでこなかったくせに! ホント意味分かんないから!
それに誠意を見せるってどういうこと? 昨日のことを謝ってくれるってことなの? それとも今日こそアイツが私に告白を......って何考えてんのよ私ぃぃ!!! ありえないから!! いくら幼馴染でもそれだけはありえないから!!
「...ごめん愛佳、ちょっと用事ができて教室出なきゃいけなくなった」
「今日も昼休みに用事? へぇ、なんか珍しいね。うん、分かったよ。行ってらっしゃーい」
「うん、行ってくるね」
そして私は愛佳に一言告げて教室を出た。
......べ、別に変な期待とかしてないから。これ以上無視したら逆に面倒になりそうだから屋上に行くだけだから。