〈ミッション7日目①〉決別
続きっす。
-side 南条翼-
さて、突然ですが問題です。
デデン!(クイズ番組的効果音)
ある日、いきなりワケも分からずに悪魔(自称)から呪いを付与され、毎日幼馴染のパンツの色を確認しなければならなくなったものの、最近はその役目を親友に丸投げしていた愚かな高校生は誰でしょう?
えぇ、そうです。答えはもちろん俺、南条翼君でございます。
「さて...これからどうしたものか...」
登校直後の朝。現在、俺は片桐茜のパンツを見る方法を模索するべく、久しぶりに自分の席で脳内作戦会議に没頭しているところである。昨日までは柳のおかげで茜のパンツの色を知ることができていたのだが、ついに柳マジックの効果が切れてしまったのだ。というわけで、今日からは再び自力で茜のスカートにズームインしなければならなくなってしまったのである。
こうして頭を抱えるのは随分懐かしいことのように思えてくるが、俺は決して感傷に浸ったり良い気分になったりしているというわけではない。バカなことを必死に考える、というのは意外と精神的にクるものなのだ。『え、何考えてんだろ俺...』という虚無感に突然襲われることも少なくない。
つーか今さらなんだけどさ、パンツを見るとか常識的に考えて無理なんだよ。
いや最初はカミカゼとラッキースケベに助けられたけどさ。マジで無理でしょコレ。ほんっと何も思いつかん。いくら俺が天才だとしてもな、解けるのは答えがある問題だけなんだよ。パンツを見る方法に正解なんてねぇだろ。だって『パンツを見ようとする』って行為自体が間違いなんだからよ。まず前提から間違いだらけなんですわ。
......うん、やめだ、やめ。もうこれ以上考えても無駄だ。
今まで色んな作戦を考えてきたが、結局上手くいった試しが無いからな。だったらもう作戦を考えるという行為自体が無駄なんだろう。つーか『ジャパニーズDOGEZA作戦』とか成功するわけなかったわ。あの時はマジで血迷ってたな、俺。
そう。今は結局何を考えても無駄なのだ。だったら考えるよりも先に行動。まずは茜と接触を図ってみるとしよう。細かいことはそれからだ。とりあえずアイツに話しかけないと何も始まらないからな。
......よし。じゃあ俺も柳を見習ってシンプルな思考で動いてみるとしますか。
-side 片桐茜-
昼休み。4限前にL◯NEで南条から『1人で屋上に来てくれ』って頼まれたから、私は言われた通り南条と一緒に屋上に来てみたんだけど...
「なぁ、片桐。今から俺のパンツを見てくれないか?」
2人で昨日と同じようにコンクリート壁に背中を預けた直後。隣に座っている男から私の人生で一二を争うほどの理解不能な台詞が飛んできた。
「......は?」
「やっぱりダメか?」
「いや、全然意味が分かんないんだけど」
「なるほど。意味は分からないけど俺の頼みを断るわけではないと」
「いや、どんだけポジティブ思考なのよ。え、なんなの? バカなの? 変態なの? アンタはなんで真顔でそんなことを私に言えるの?」
「あ、ごめん片桐。罵倒するのはやめて。うっかり興奮しちゃいそうだから」
この変態...!
「ね、ねぇ、とりあえず発言の意図を教えてよ。なんで私がアンタのパンツを見なきゃいけないのよ」
「そ、そりゃあ...アレだよ。俺が片桐のパンツを見たいからだよ」
「はぁ!?」
「えっと、だから! 等価交換だよ、等価交換! 『パンツを見ていいのはパンツを見られる覚悟があるヤツだけだ!』ってコードギ◯スの主人公も言ってたし!」
「いや、絶対言ってないでしょ! 私はそのアニメは知らないからよく分かんないけど!!」
「え? お前ってル◯ーシュ知らないの?」
「いや、今そこはどうでもいいでしょ! とりあえず私はアンタのパンツなんて見たくないから!! パンツを見られる覚悟なんて見せてもらわなくて結構!!」
「......え、それはつまり片桐が無償で俺にパンツを見せてくれるということか?」
「この変態!! そんなこと言ってないでしょ!!」
「ハァ...ハァ...」
「もう! 罵倒されて息荒くしてんじゃないわよ!!」
はぁ...ホントなんなのよコイツ...最近は変態発言をしてないと思った途端にコレって...もう、ワケわかんないわよ...
-side 南条翼-
ダメだ。やっぱりパンツを見るなんて無理なんだ。柳の話し方を参考にして茜に超ゴリ押しで頼んでみたけど、それも無駄に終わってしまった。まぁ、最初っからダメ元ではあったんだが。
「チクショウ。やっぱりダメか...」
「......ねぇ、南条はどうしてそこまでして私の...パ、パンツを見ようとするの?」
茜は少し恥じらいつつも、純粋に俺の行動を疑問に思っている様子で俺に声をかけてきた。今思えば彼女がこんな態度を見せるようになっただけでも大きな進歩と言えるだろう。最初は問答無用で俺の顔面に右ストレートだったからな。
「そ、その...別に嫌らしい目的ではないんでしょ? 無理矢理私のスカートを覗こうとしてるわけではなさそうだし」
「はは、随分と俺を信用してくれてるようになったじゃないか。最初はあんなにバイオレンスだったのに」
「う、うるさいわね...今はそんなこと関係ないでしょ。私が今聞いてるのはどうしてアンタがパンツに拘ってるのかってことよ。いいからさっさと答えなさい」
「...」
隣に居る茜の凛とした表情を見た瞬間。なぜか急に肩の力が抜けた俺は彼女に何も言葉を返すことができなかった。
もう、話していいのではないのだろうか。
今までのことを包み隠さず、何もかもを彼女に伝えるべきなのではないだろうか。
そもそも、呪いのことを隠して茜と関わり続けるというのも無理な話だったのだ。理由も分からずにある日突然、今まで距離を置いていた幼馴染が『パンツを見せてくれ』なんて言ってきたら俺だってそりゃ疑問に思う。明らかに不自然だからな。
ああ、もしかしたら茜には最初から全てを話すべきだったのかもしれない。信じてもらえるかどうかとか、そんなことを気にせずに全てを彼女に伝えるべきだったのかもしれない。そうすれば少なくとも、今彼女が感じている俺への違和感は解消できたはずだ。
でも......俺はちっぽけなプライドがあったせいで今日まで本当のことを茜に言えなかった。
--そう。俺は『呪いがあるから自分に近づいてきた』と彼女に思わせたくなかったのだ。
確かに最初は呪い解除のために茜に近づいた。柳には『ラブラブカップルになりゃパンツを見放題だ!』と言ったこともあった。
でも......きっとそれは言い訳に過ぎないのだろう。
ミッションクリアのために茜と親睦を深めるとか、自分の命を守るために茜と恋仲になるとか、卒業が近いからさっさと想いを伝えなきゃいけないとか......結局そんなのは全部茜に近づくための口実に過ぎない。
--そう。俺はただ純粋に彼女の隣に居たいだけなのだ。
何年もの間、人格を変えてまで心の奥底に押し留めていた茜への想いが。拗らせに拗らせまくった茜への恋心が。それがとめどなく胸の内側から溢れ出しているだけなのだ。
ああ、そうだとも。
--俺はどうしようもないくらい茜のことが好きなだけなんだ。
だから俺は茜の側に居る理由を探した。そして...無意識のうちに呪いという存在をアイツの隣に居る理由にしたのだろう。
呪いのことを最初に全部話せば、スマホのメッセージ機能とかで毎日パンツの色を教えてもらうことも、もしかしたら可能だったかもしれない。でも、俺はそうはしなかった。だってそんなことをしてしまえば俺が茜に近づく正当な理由が無くなってしまうからだ。
--だがそれも今日で終わりにしよう。
理由が無かったら好きな子にも近づけない、なんてのがそもそもおかしかったんだ。マジでどんだけビビってんだよ俺。そんなんでビビってたら告白なんて一生できるわけねぇだろ。どんだけ臆病者だったんだっつー話だよ。
はは、こんなことを考えられるようになったのは昨日ウチで柳が勇気をくれたおかげかもしれないな。ほんっと、お前の言葉にはなんか不思議な力がある気がするよ。
--あばよ、臆病な俺。そろそろ俺は前に進むから。そうしねぇと好きな子に想いも伝えられないみたいだからさ。
俺は過去の自分に別れを告げて前を向いて歩き始める。親友に背中を押され、今までは重くてたまらなかった一歩目をようやく踏み出す。
--そして長い間止まっていた時計の針を進めるために、俺は覚悟を決めて彼女に問いかける。
「なぁ、茜。お前は呪いって言葉を信じるか?」




