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〈ミッション3日目①〉ボンバーヘッド

続きでごぜぇやす。

-side 南条翼-


 in2月のクソ寒い玄関の入口。


 俺の目の前になんだかよく分からんヤツが立ちはだかっている。メガネ、出っ歯、ヒョロヒョロの身体。しかしそんな弱そうな見た目とは裏腹に堂々とした態度で仁王立ちをしている学ラン姿の男。なお、俺はコイツの名前を知らない模様。


「えーっと...ゴメン、お前の名前なんだったっけ?」


「凡馬平次だ!!」


「ボンバーヘッド?」


「そんな爆発頭みたいな名前じゃないわ! 凡馬平次だ!」


 なんなんだよコイツ。朝からテンションたけぇな。


「で、ボンバーさんは俺に何か用でもあるの?」


「そうだ! 我には貴様に問いたださなければならないことがあるのだ!!」


「ねぇ、ボンバーさん。なんでそんなに高圧的な態度なの? 俺ら全然喋ったことないよね? 初対面の人にその態度はちょっと失礼なんじゃない?」


「うっ...そ、それは確かに...」


 あ、コイツ思ったより雑魚いかも。


「わ、我には南条翼に聞きたいことがあるのだ...」


 なんか突然弱ったボンバーさんは控えめに俺に声を掛けてきた。



「ん? 聞きたいこと?」


「昨日我は愛佳様と貴様が一緒に高層マンションに入るところを目撃したのだ。この出来事は親衛隊隊長としては看過できない」


 うわぁ...なんか面倒なことになってんな...


「な、南条翼! 貴様は愛佳様とどんな関係なんだ!! 詳しく教えろ!!」


「え、面倒だから嫌だけど」


「...え?」


「いや、だから説明するのがダルいから断るって言ってんの。別にボンバーさんに俺と柳の関係を説明する必要なんて無いし」


 俺はこういうやからが本当に嫌いだ。全く関係が無い第3者が他人の関係にとやかく言う必要なんて無いだろ。本当に虫酸が走る。


「わ、我には親衛隊長として貴様らの関係を聞く義務が...」


「親衛隊? じゃあボンバーさんは具体的に何をしてるの?」


「そ、それは...愛佳様に変な虫がつかないように監視を...」


「それは柳に頼まれたからやってるわけ?」


「い、いや、頼まれてはいないが...」


「だったら柳に迷惑だからそういう事をするのはやめろ」


「わ、我らは別に迷惑などかけていない!!」


「いや、どう考えても迷惑だろ。柳はただの高校生なんだぞ。アイドルじゃねえんだよ。親衛隊を名乗ってる変なヤツらに偶像崇拝されたら良い思いはしないだろ」


「...き、貴様に我らの何が分かる! 才能に恵まれ、何の努力もせずに彼女の隣に居られる貴様に我らの何が分かるというのだ!!」


 急になんなんだよコイツ...なんか腹立ってきたな...


「はぁ...人に嫉妬している暇があったら自分を磨けよ。そんなんだからお前は柳に近づけないんだよ」


「なんだと...!」


「想っている相手に認められたかったら自分を磨くしかないんだよ。想っている相手に振り向いて欲しかったら自分をアピールするしかないんだよ。思い焦がれるだけじゃ相手は振り向いてくれないからな」


「...き、貴様には才能があるからそんなことが言えるんだ! 自分をアピールしたところで相手が100%振り向いてくれるとは限らない!」


「いや、ボンバーさんに俺の何が分かるんだよ。口を開けば才能才能って。俺が何の努力もしてないとでも思ってるの? まあ確かに俺は成績トップだし部活でも全国大会に行ったよ。でもそれは毎日睡眠時間を削って勉強した日々があったからだ。娯楽に興じる時間を削って部活に打ち込んだ日々があったからだ。自分が何もしていないのを棚に上げて勝手に嫉妬してんじゃねぇよ」


「くっ...!!」


 結局ボンバーさんは俺を睨みつつも、それきり俺に反論してくることは無かった。


 ...ていうか完全に言い過ぎたな。なんでムキになってんだよ俺。ワケ分かんねぇよ。


「ごめん、ボンバーさん。ちょっと言い過ぎたわ...」


「......南条」


「は、はい」


「貴様はどうしてそこまでして自分を磨く? 貴様なら努力をせずとも凡人よりは色んなことを上手くやれるはずだ。なのにどうしてそこまでの努力をする?」

 

 ボンバーさんは先ほどとは打って変わって真剣な表情で俺に尋ねてきた。


 ...俺が自分を磨いてきた理由? 才能に甘えず努力をしてきた理由? いや、そんなの分かんねぇーんだけど。


 確かによくよく考えたら俺って別に頑張らなくても色々上手くやれるよな。あれ? なんで今まで学年主席にこだわってきたんだろ。別に1番じゃなくても困ることなんてないのにな。


 うーん、改めて聞かれると答えるの結構難しいなコレ...


 --でも、まあ...思い当たる理由が1つだけなくはないか...


 おそらく本来の俺ならこんな質問は無視しているところだ。だがボンバーさんには少し言い過ぎてしまったので、俺は謝罪の意味も込めて彼の質問に答えることにした。



「多分俺は『誰か』に忘れられたくなかったんだ。だから『1番』に拘って努力を続けてきたんだと思う」


 --月日を重ねるごとに距離が遠くなっていった彼女。きっと俺は彼女に忘れられたくなくて必死に自分を磨き続けてきたのだ。



----------------------



 玄関でのボンバーヘッドとの一悶着を終え、3年1組に到着。いつも通り『ガラガラガラ』と扉を開けて教室に入り、俺は自分の席へ向かおうとしたのだが...


「えぇ...なんでアイツ俺の席に座ってんだよ...」

 

 なぜか俺の席には柳が座っていた。


 ...まあ入口で立ち止まっていても仕方ない。どうせアイツは俺に何か話があるのだろう。とりあえず自分の席の方に行って柳に声をかけるとするか。


----------------------



 そして自分の席に到着。良いケツを俺の席の椅子に押し付けている女に声をかけることにする。

   

「南条参上」


「あ、おはよう翼くん」


「お前なんで俺の席に座ってんの」


「翼くんに話があるからだよー」


「だったら俺が来た後に俺の席に来ればいいだろ...」


「いやー、私って目が悪いからさ、後ろの席に憧れてたんだよね。良いよねぇ、この席。寝てても先生に怒られなさそうだもん」


「とりあえずそこを空けてくんない?」


「えー、やだよー。レディーファーストって言葉知らない? 予鈴が鳴るまでここに座らせてよ」


 都合が良い時だけ女子の特権使うのやめようね。


「今すぐどけろ。さもなくば俺がお前の膝の上に座る」


「いいよ別に。ほら、どうぞ」


 すると柳は椅子を少し後ろに引き、スカートの上から太ももを手でポンポンと叩きながらこちらを見つめてきた。


「......え、マジでいいの?」


「いいよ。ふふ、まあクラスメート全員の前でそんなことができるなら、の話だけどね」


 よし、今すぐクラスメート全員に睡眠薬を飲ませるか。


「さ、冗談はこれくらいにして本題に入ろうか。はい、翼くん。席どうぞ」


 すると柳は俺の席から立ち上がり、こちらに席を譲ってきた。


「よっこらせっと」


 そして柳とポジションをチェンジし、自分の席に座る。


 ...あ、なんか椅子があったけぇ。なるほど、これがJKの温もりというやつか。やばいなんか興奮してきた。


「...翼くん今いやらしいこと考えたでしょ」


「い、いや!? べ、別に!?」


「あ、嘘だ。鼻がピクってなった」


 なんか俺もうコイツには一生敵わない気がしてきた。


「で、話ってなんなんだよ」


「...翼くん、私今から結構大事なこと言うから注意して聞いてね」


 柳はそう言うと突然俺の耳元まで顔を近づけてきた。


「え!? ちょ!? 柳さん!?」


 そして柳は慌てふためく俺を無視し、耳元でたった一言だけささやく。






「今日の茜ちゃんのパンツは水色だったよ」


 生まれて初めて柳のことを天才だと思った瞬間であった。

次回、片桐茜登場

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