4 ユウの気持ち
-綺麗に洗ってある食器と道場へ向かう兄の背中を見て私は兄への感謝でいっぱいになった。
母が勇者だと知ったとき私はーー
幼いながらに母と周りの人を恨んだ。
どうしてママがやらなくちゃいけないの・・・
どうして周りの人はママにそんなことをお願いするの・・・
私はママとずっと一緒にいたかっただけなのに・・・
どうしてお兄ちゃんはママを止めてくれないの・・・?
お母さんがいなくなった日
幼い私はお兄ちゃんのことをきっと裏切り者のように考えていた。
ママをどこか遠いところへやった人の仲間。
私はお母さん子だったから、お兄ちゃんになんども責め立てた。
「お兄ちゃんなんてだいっきらい。」
そんなこと思ってなかったのに子供ながらに自然と出てしまう言葉。
お兄ちゃんの困ったような笑みをいまでも忘れられない。
その日の夜のことだった。
「ひぐ・・・ぐすっ・・・うぅぅ・・・」
私はずっと泣き続けていた。
それはママがいなくなってしまったこともあるけど。
お兄ちゃんに言った戻すことのできない言葉。
ひとりぼっちのように暗い部屋で泣き続けていること。
いろいろなことがぐちゃぐちゃになって溢れてくる。
ーーお腹すいた
泣くことしかできず・・・ごはんなんて作ったこともなかったし、どうしていいかわからなかった。
「ほら、もう泣かないで。」
そんな時だった、お兄ちゃんが私にやさしく声をかけてくれたのは。
「うぅ・・・だって・・・っ」
お兄ちゃんにごめんなさいしてないのに。
「お兄ちゃんが何か作ってあげるよ。何が食べたい?」
「・・・ホットケーキ」
ママがいつも作ってくれてたもの。私は少しでもママのこと思い出したかった。
「よっし、お兄ちゃんに任せろ!」
その時のお兄ちゃんの笑顔が私の胸をトクンと響かせた。
・
・・
・・・
・・・・。
「・・・。」
「・・・ごめん。」
お兄ちゃんの出してくれたそれはけしてホットケーキと呼べるようなものではなかった。
黒くなったなにか。
私のママとの思い出をこんな形で壊されるとは思わなかった。
そんなことを考え、また思ってもいないことを口に出しそうになったとき。
私は見てしまったのだ。
お兄ちゃんが必至に隠していたダメになった黒いなにかと無数のやけどの跡
お兄ちゃんは自分も作ったことのないものを私がお願いしたからと必死に作ってくれたのだ。
「・・・えへへ」
お兄ちゃんが照れて頬をぽりぽりする。
「・・・あは」
私はなぜかおかしくなってしまった。
でもなぜだかわからないけど涙が溢れてくる。
「ほんとごめんね・・・」
ふるふる
「ぱくっ」
私は絶対に口にしないと思っていた黒いなにかを自然と口に入れる。
もぐもぐと口を動かす。
お世辞にもおいしいとはいえないそれ。
でも、私はなぜかここでも思ってないことを言ってしまった。
「お、おいしい・・・よ?」
その時、自然と笑うことができたと思う。
*
私はどうしてもお兄ちゃんに言ってしまったことを謝りたかった。
「お兄ちゃんなんてだいっきらい。」
それはきっと言ってはいけない言葉だったのだと気が付いたから
お兄ちゃんはもう寝ているだろうか。
寝ているようなら起こさないようにとゆっくりお兄ちゃんの部屋に近づく
そこで私は気が付いてしまった。
「うぅ・・・母さん・・・うぁ・・・っ」
ベッドで一人泣いてるお兄ちゃんを。
こどもながらも理解してしまった。
ーあぁ、私はなんで自分ひとりぼっちだとおもったのだろう。
お兄ちゃんもつらいはずなのに、私には涙も見せず一人で泣いて。
慣れない料理で私を元気づけようとしてくれて。
私はこんなにもお兄ちゃんに守られてたんだ。
私は自然と涙が出てきた。
でもこれはママのときとは違い、すこし暖かい感じがした。
「お、お兄ちゃん・・・」
私は勇気を振り絞りお兄ちゃんに声をかける。
お兄ちゃんははっと私に振り替えると必死にゴシゴシと涙を隠した。
お兄ちゃんには私がいるよ・・・。
そう言いたかったけどお兄ちゃんは私が泣いてるのを見て。
「どうした・・・怖い夢でもみたの?」
必死に笑顔を作ってくれた。
「う、うん・・・」
私は何も言うことが出来なくなってしまった。
「おいで・・・安心できるまで一緒に寝よう。」
「う、うんっ!」
ドキドキしながら私はお兄ちゃんの布団に入る。
その時お兄ちゃんが少し震えているのが分かった。
安心できるまではたぶん自分のことも含まれているのかもしれない
ー私はいつかこの震えを止めることのできるぬくもりになりたい。
ーお兄ちゃんにおいしいと思えるご飯を作ってあげたい。
「お兄ちゃん・・・大好き・・・。」
あたたかなまどろみが私を包んで意識を手放した。
*
「さて、お兄ちゃんも出かけたし今日も一日お兄ちゃん成分を補充しなくっちゃ!」
私はお兄ちゃんの部屋に速足で入ると。
「ウェーーーーイ!!」
お兄ちゃんのベッドにダイブするのだった。
これが私の日課。
お兄ちゃんニウム(勝手に命名)を鼻いっぱいに吸い込む。
「はぁ・・・くふっ・・・お兄ちゃん♪」
自分でもおかしいっていうのはわかってるつもりだ。
外では自重してるつもりだし、お兄ちゃんの前ではできるだけ抑えてる・・・たぶん。
ただ、こうしてるとお兄ちゃんがずっとそばにいてくれるような気がしてくる。
私がベッドにもぐりこむ度お兄ちゃんの真っ赤になる顔。
ドキドキとかすかに聞こえてくる鼓動。
ーあぁ、可愛かったな・・・。
私ももう、15歳・・・
それは大人になったといえるんじゃないだろうか。
15になると決まった日に成人の証である儀式がある。
私の村での儀式も近いうちある予定だ。
私はかすかに高鳴る胸に触れる。
男性にはない、年齢の割に村の同い年の女の子の中でも少し大きくなった胸。
たぶんお母さんも大きかったから遺伝なのかな・・・?
きっと、お兄ちゃん私の胸好きだよね・・・?
だって、ずっとチラチラとみてたし・・・
私の気持ちは昔からそんなに変わってない。
ーお兄ちゃんのぬくもりになりたい。
たぶん、これはきっと・・・
「母性本能なのかなぁ・・・。」
そんなことを思っていると
コンコンーー。
家の扉をたたく音が聞こえた。
「あ、はーい・・・!」
扉の音に気持ちを切り替える。
扉を開けるとそこには、お兄ちゃんより背の大きな黒い立派な服を着た男性がいた。
私は少し怖くなり、2,3歩下がる。
大きな声で叫べば隣の家の人は気が付いてくれる。
そんなことを考えている時だった。
男性が言ったのだ。
「君のお兄さんが魔物に殺された。」
私の頭は真っ白になったーーーー。