表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の季節―夏―  作者: 銀輪。
9/10

告白

ん~

 ふふっ。

 また、やさしく笑った。

 その言葉に、ドクンと心臓が動いた気がした。

「そうなのか」

 でもなんとなく、俺の表情は変わってない気がする。

「うん。そうなんです」

 皐月の表情も変わってない気がする。見てないけど。

 見れないだけかも知れないけど。

 長い間、町を眺めていた気がする。

 心地よい風が木々を揺らしながら通り抜け、夏のにおいを運んでくる。

 蝉の鳴き声が遠くに響き、それ以外の音を掻き消していく。

 二人とも何も言わず、ただ互いの存在を感じていた。

 俺は何かを思案するでもなく、ただ景色を見ていた。

 何も考えられなかっただけなのかも知れない。

 ただ静かに、町を眺めていた。

 たぶん、皐月も同じなのだと思った。そう感じだ。

 真上にあった太陽が、少し傾いていた。

 風が吹き、展望台を囲む木々を揺らす。

 俺たちの周りにも夏の空気が流れ込み、二人の髪を揺らす。

 皐月のほうから流れてきた風に、柔らかな香りを感じた。

 風に押されるようにして皐月が振り向いた。

「あたしさ…ずっと前から拓哉が好きだったんだ」

 俺も振り返る。

 ドクン、ドクン

 と、脈が大きく打つのを感じる。

「だから、男の人も引っ掛けないし、告白されても、全部断った」

 蝉の鳴き声が、小さくなっていく。

「高校のときは自分でも理由がわからなかったけど、大学になって拓哉と離れて、気がついたんだ」

 木々のざわめきも遠く、自分の鼓動だけが響いてくる。

 でも皐月の言葉は強くはっきり聞こえてくる。

「ずっと拓哉のこと考えてた。会えないのがこんなにつらいなんて思わなかった」

 鼓動と、皐月の声だけがこだまする。

 今俺は、どんな顔をしているのだろうか?

 今俺は、どう思っているのだろうか?

「拓哉は、どう…?」

 俺は…

 俺は…

 俺は…

ん~……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ