告白
ん~
ふふっ。
また、やさしく笑った。
その言葉に、ドクンと心臓が動いた気がした。
「そうなのか」
でもなんとなく、俺の表情は変わってない気がする。
「うん。そうなんです」
皐月の表情も変わってない気がする。見てないけど。
見れないだけかも知れないけど。
長い間、町を眺めていた気がする。
心地よい風が木々を揺らしながら通り抜け、夏のにおいを運んでくる。
蝉の鳴き声が遠くに響き、それ以外の音を掻き消していく。
二人とも何も言わず、ただ互いの存在を感じていた。
俺は何かを思案するでもなく、ただ景色を見ていた。
何も考えられなかっただけなのかも知れない。
ただ静かに、町を眺めていた。
たぶん、皐月も同じなのだと思った。そう感じだ。
真上にあった太陽が、少し傾いていた。
風が吹き、展望台を囲む木々を揺らす。
俺たちの周りにも夏の空気が流れ込み、二人の髪を揺らす。
皐月のほうから流れてきた風に、柔らかな香りを感じた。
風に押されるようにして皐月が振り向いた。
「あたしさ…ずっと前から拓哉が好きだったんだ」
俺も振り返る。
ドクン、ドクン
と、脈が大きく打つのを感じる。
「だから、男の人も引っ掛けないし、告白されても、全部断った」
蝉の鳴き声が、小さくなっていく。
「高校のときは自分でも理由がわからなかったけど、大学になって拓哉と離れて、気がついたんだ」
木々のざわめきも遠く、自分の鼓動だけが響いてくる。
でも皐月の言葉は強くはっきり聞こえてくる。
「ずっと拓哉のこと考えてた。会えないのがこんなにつらいなんて思わなかった」
鼓動と、皐月の声だけがこだまする。
今俺は、どんな顔をしているのだろうか?
今俺は、どう思っているのだろうか?
「拓哉は、どう…?」
俺は…
俺は…
俺は…
ん~……