気付き
後半、どんどん文が薄くなっていく気がする……
気が付いた。
皐月もずいぶん女らしくなっていた。
大学生になって、それなりのお洒落もするようになったようだ。
服装も今までの大雑把な雰囲気を残しつつ、それでもおしゃれに見えるように気を使っているようだった。よく見れば、うっすら化粧のようなものも見える。
「お、気付いた」
俺が気付いたことに、気付かれた。
「ああ。なんか変わったな。お前も」
最初の感想と変わってくるが、気づかなかったのだ。
「ふふふっ。拓哉もね」
「ん? 俺も?」
あまり自分では気にしていなかった。
「そうだよ。体格とかもだけど、服装もちょっと変わった」
言われてみると、そうなのかもしれない。自分では変わっていないつもりだったが、なんだかんだで影響は受けるものだ。
「また一段と男らしくなっちゃって」
皐月がボソッと言った。
「……。お前だってずいぶんと女らしくなったな」
「えっ? そうかな」
「服装とか化粧とかもだけど、胸もな」
高校時代はそんなになかったと思うが、服装のせいだろうか?
「あ、そんなとこ見てるんだ。拓哉のくせにエロっ」
「うるさいな」
皐月はいつも通りの反応を返してくるが、その表情は少し赤くなり照れている。
言った自分もちょっと恥ずかしい。
そういえば、皐月とこんな話をしたのは初めてかもしれない。
互いに会わない時間が、気がつかなかったことに気づかせてくれたのかもしれない。
「そういえば…」
皐月がごまかすように話題を変えた。
「大学生になったんだし、彼女の一人や二人はできたの?」
「いやー、まったくだな。やっぱりサークルとか入ってないと、出会い自体がないもんなー」
多くの同年代の男女が集まる大学。しかしながら、実際に人と人との縁はあまりあるとは言えない。授業に出ていても、隣近所に座っているのは見ず知らずの他人だ。話しかける理由もない。田舎の狭い世間で育ったおれには、周囲に話しかけるのには少し勇気がいった。
同じ学部学科の奴ならいくらかは話はするが、それだけだ。
中には次々声をかけて、自らそういう出会いを作ってるやつもいるが、自分はそんなことできないし、しようとも思わない。
「お前こそどうなんだよ」
俺もそうだが、皐月も昔から色恋の話を聞かない。
「あたしもだめだなぁ」
あははと頭をかきながら答える皐月。
「なんだよ。お前性格はともかく、見た目はましなほうなんだから、黙ってれば少しは釣れるんじゃねえの」
皐月はスタイルも悪くないし、顔も整っているほうだ。
性格はちょっとザツだが、そういえばなんでそういう話を聞いたことが無いんだろう。
「そうかな」
俺の言い分にちょっと照れたようだ。今度は頬をかきながら赤くなっている。
ちょっとかわいいなと、思ってしまった。
「ま、性格がアレだから。釣れてもすぐに逃げられるんだろうけど」
適当にごまかしておくことにする。
「あ、なんだよそれー。あたしだってその気になれば…」
すぐにいつもの皐月に戻った。
「その気になればなんだよ?」
その反応にちょっと落ち着きつつこちらもからかいを続ける。
「え、いや、なんでもない」
困ったような反応。
なんだかやっぱりちょっと違う。
「やっぱり無理なんじゃないか」
いつもの反応が欲しくて、追い討ちをかけてみた。
「そだね。無理無理」
しかし皐月は、怒るでもなく納得してしまった。
「なんだよ。納得すんのかよ」
なんとなく、気になった。