昼食
おれたちは町内にあるお好み焼き屋に立ち寄った。
おれたちが高校生くらいの時に出来た、割と新しい店だ。町内にある小さな商店街からも外れた通りにあるのだが、高校の近くにあることもあり、地元の中ではそれなりに有名だ。おれたちも学校の帰りによく立ち寄ったものだ。
店内は薄暗く、壁にかけられた小さなテレビが昼間の適当な番組を放映している。
今は昼どきを過ぎていたため、待つことも無く席に着くことが出来た。
ボウルに入って出てきた具を混ぜ、自分たちで焼き始める。想い出話に花を咲かせていると、間もなく香ばしいにおいがし始め、お好み焼きが出来上がる。鉄板の上で切り分け、ソースをかけ、青海苔、鰹節をかける。
皐月は女のくせに、青海苔だの匂いだの細かいことを言わない性格だ。
そろってばくばくとお好み焼きを食べ終え、早々に店を出た。
「あーうまかったぁ」
欲張って大盛りを二枚も食べてしまった。割といいサイズになるので、腹がいっぱいいっぱいになっている。変わらない味に思わず食べ過ぎてしまった。
「そういえば、あたしも久々だったなぁ」
普通盛りを二枚食べた皐月も、満足そうにお腹をさすりながら言った。
お互い腹を満たしたところで、どこかに遊びに行こうかと考え始める。
ふと立ち止まってしまった。
「どしたの」
後に続いて出てきた皐月が首をかしげて聞いてきた。
「んー、なんか久しぶりに帰ってきたら、なんもすること思い浮かばなくてな」
岡山に出て、自分でも気付かないうちに街の生活が染み付いていたようだ。東京や大阪等に比べれば田舎だろうが、おれにとっては十分都会だった。
生活の範囲も田舎に比べてはるかに広くなり、移動にバスや路面電車を使うのも当たり前。遊びに行くのもゲームセンターやカラオケ、ボーリングなどがメインになっていた。
高校生から大学生になり、遊びの幅が変わったのもあるのだろうが、どれも田舎には馴染みの無いものばかりだ。
そういえば、昔は何をして遊んでいたんだったか。
「確かにね。あたしも最近は松山で遊んでたし」
松山も田舎ではあるが、それでも遊び場所はいろいろとある。皐月も同様のようだった。
どこか適当にお店を回ってふらふら歩くのも良いかと考えたが、そもそも内子にはふらふらと立ち寄れるような店は無い。
昔はもっと行くところがあった気がする。
「どうしよっか」
ここでじっとしていても楽しくはない。とりあえずどこでも良いから目的地が欲しかった。遊べなくても別にいい。それこそ皐月となら、適当な雑談でいくらでも時間は潰せるだろう。
そんな風に考えていると、ふと思いついた。
「そうだ。展望台行こうぜ」
それがある方向を指さしながら言った。
「展望台か。いいね、行こうっ」
この町の端にある公園にある展望台。ちょっとした山の上にあり、さほど高くはないものの町内を一望できる。帰ってきた日に行くには良い場所かもしれない。