受容
完結回になります。
「俺は…、よくわからない」
そう答えてしまった。そう答えることしかできなかったから。
答えるとき、目をあわせられなかった。
「あはは。やっぱりか」
そんなおれを見て皐月は笑った。
その笑い声を聞いたとき、周囲の音が還ってきた。
蝉の鳴き声、木々のざわめき。
「え?」
俺は戸惑った。
皐月は微笑みながらこちらを見ている。
その視線を少しはずし、
「ホントはね、あたしもよくわからないんだ」
そう言った。
「好きとか、付き合いたいとか。ずっと一緒だったからかな?」
少し悲しそうな表情で、そう言う。
「でもね、そうだといいなと思うんだ」
外れた視線が戻ってきた。
その目がまっすぐに俺を捕らえる。
「あたしは、あたしが拓哉のこと好きだといいなと思うんだ」
柔らかな風が俺たちを包む。
「だからたぶん、拓哉もおんなじだよ。同じだと良いなと思う」
「同じ?」
また柔らかな香りが漂う。
「そう。あたしたち近すぎてわかんないんだ」
自然と、心が落ち着いた。
「でも、自惚れかも知れないけど、拓哉もあたしのこと、大切に思ってくれてるでしょ」
皐月の髪が、サラサラと揺れている。
「それは、あたしが拓哉に対して思ってるのと似てるんだ。だからその…」
最後のほうが聞こえづらくなった。
また視線が揺れている。
俺は思った。
今目の前にいる皐月を見て。
俺は気づいた。
今までの皐月と自分を考えて。
「そうかもな」
え、とこちらを見る皐月。
それを見ても思う。
俺はこんなに皐月のことを見ているのだ。
「俺もお前が大切だ。好きとかそうじゃないとかはわかんないけど」
変わってしまったように見えて、何も変わってない。
昔から自分の隣には皐月しかいなかった。
「でも、俺も俺が皐月を好きならいいなと思うよ」
近すぎて当然のように思っていた。
近すぎて、離れてもそれに気づかなかった。
「ほ、ほんとにっ?」
街に出て、足りないもの。
ここに来て、満ちたもの。
この町に帰ってきたからじゃない。
二人でここにいることが、そうだったんだ。
「ああ」
皐月の笑顔が俺の前にある。
今、とても幸せなのだと思う。
「ははっ」
「えへへ」
照れ隠しに二人で笑って、また手すりに体を預ける。
町を見下ろすその場所で、並んで空を見上げた。
さっきより、二人の距離が縮まっている。
変わってゆくもの。
変わらないもの。
空には大きな入道雲が浮いていた。
最初の風景描写に比べて後半のこの体たらく……
集中と体力って意外と持たないですね。
もしここまで読んで頂けたのなら幸いです。
可能なら評価も指摘もして頂ければうれしいです。
別シリーズもあげようと思います。
今度はノリのいいやつを。