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Ep6 隕石(後編)

異変はまず、城外で起きた。

「!」

「・・・なんだこりゃあ!?」

何もない地面が一瞬ぐらっと揺れた。

その次の瞬間。

そこから無数の土の塊が飛び出す。

そして次第に人の形を成し。

一斉に城めがけて走り出す。

その数およそ100〜200あまり。

「片桐伍長!!!」

悲痛な叫びをあげる隊士たち。

「ひるむな!一体ずつ片付けろ!!」

「はいっ!」

刀を抜き、めいめい近くの土人形に切りかかる。

剣術に関して勾陣(こうちん)隊の能力は他の追随を許さない。

それだけあって、一太刀、二太刀で見事に土人形を切り捨てていく。

しかし、その彼らにしても数が多すぎて、間に合わない。

「くそっ」

半数が北門に到達しようとしている。

その先に一人の男の影。

ゆっくりと腰の刀を抜くと、まっすぐに構える。

小さな声で何か唱える。

刀を大きく振り上げ、素早く振るった。

その瞬間、刀の残像の先に大きな地割れが起こり、その延長線上にいた多くの土人形は真っ二つになる。

そして、その刀を鞘に納めると、もう一本持っていた小太刀を抜きざまに、一太刀。

そこに竜巻が舞い上がり、残った土人形を吹き飛ばす。

かろうじて生き残った数体が襲い掛かるが、ものの数秒の間に切り捨てられていた。

落ちた土の塊に刀を突き立てる、さくっという音が響いた。

・・・一夜だ。

「剣護も使えば?」

「なんだ!?」

「『神器(ジンギ)』だよ」

いつもと変わらない、善も悪も超越したような綺麗な微笑。

それは最強部隊、勾陣隊の隊士達をも震え上がらせる表情。

「相手は人間じゃないもの。使い放題だぜ?」


「遠矢さーん!こいつらやばいっす!」

「やってもやっても起き上がってきやがる!!」

南方の土壌は北方よりもやわらかい。

泥人形のようなものが地面から次々と這い出てくる。

腕自慢の隊士達が力いっぱい叩き潰すが、いくらやっても這い上がってくる。

そのうちの一人が泥人形につかまる。

顔を覆われて、呼吸が出来ない。

じたばたしている隊士に駆け寄り、負い被さっている化け物をひっぱがす。

「・・・はぁ」

「大丈夫か!?」

真っ青な顔をしているが、頑丈な奴なので落ち着けば大丈夫だろう。

「平気っす。・・・・・・それより遠矢さん」

耳打ちされる。

そうか。

また他のところから隊士たちの悲鳴。

そこには5mはあろうかという泥の塊。

「どけ!!!」

隊士達を下がらせ、薙刀(なぎなた)の『蝉丸』を構える。

あいつが命からがら見たものが本当ならば。

人間で言えばへそのあたりに狙いを定め、唱える。

『圧!』

切っ先から空気の固まりが放出され、泥人形の腹に風穴があく。

そしてさっきまでと違うことは、何かが砕けるような音がしたこと。

泥人形はさらさらとした砂になり、風に散った。

振り返って皆に言う。

「反町が見つけた!あいつら腹に“核”がある、それを叩け!!!」

「おおーーー!!!」

意気揚々と隊士達は泥人形に向かっていく。

少し離れたところから藤堂隊長の声がする。

「おーいお前ら、こっちにも少し回せよー」


町中は異様な雰囲気だった。

町の人々には外出禁止を命じていたが、静まり返った道に、ふらふらと歩く影。

そう、まさしく物の影が動き出し、こちらに向かってくるのだ。

「草薙伍長・・・これは・・・・・・」

「これがオンブラだ・・・」

走ってくる人影。

天一(てんいつ)隊伍長で、同期の槌谷(つちのや)だ。

「草薙くーん!西で火の手が!」

「なんだって!?」

隊士達に影の相手を頼むと、槌谷の後を追った。

民家の一つが燃えている。

中の家族は辛うじて脱出していたが、影の集団に取り囲まれ、おびえている。

その中に飛び込み、『雷電』を抜く。

『タケミカヅチ』

電気を帯びる『雷電』

それを振りかざし、影の集団を切って捨てる。

龍介(りょうすけ)くんじゃないかー!?」

家族の父親らしき男性が声をかけてくる。

「おじさん怪我ない!?」

「助かったよぉ、ありがとう」

「龍介兄ちゃんかっこいい!!!」

この界隈は生まれた家に近いので、なにかと有名だったりする。

その時、やったと思った影たちがまた起き上がり、手の一部が刃物のようになり、切りかかってきた。

かろうじて、受け止める。

多勢に無勢、じりじりと押され始める。

『シルフィード』!

巻き起こる強い風。

影は吹き飛ばされる。

槌谷の槍型の『神器』である『隼風(はやかぜ)』の力だ。

「大丈夫!?」

「ああ・・・お前強いじゃねえか」

しかし、また浮かび上がってくる影。

隊士達みな、それを繰り返して疲労が募ってきている。

「おーい、みんな!!!」

高瀬隊長の声。

見ると、引っ張ってきたのは大裳(たいじょう)隊の橋下伍長だ。

・・・そうか。

左右輔(そうすけ)たのむ!!!」

「高瀬さんの頼みじゃ・・・仕方ないですねぇ」

橋下伍長は懐から鏡を取り出す。

浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)』だ。

『照らし出せ』!

唱えると、鏡から光があふれる。

まぶしさに目がくらむ。

目を細めてみると、予想通り。

光を浴びた影たちが、悲鳴を上げて消し飛んでいく。

「いいぞ左右輔!どんどんいけ!」

「僕の持ち場はここじゃないんですけど・・・」

そのとき遠くから隊士の声。

「草薙伍長!別の奴が!!!」

「よっし、今行く!」

まだまだ夜は長い。


隕石の落下はおそらく明日早朝。

大きさはそれほどではないが、問題は・・・

まっすぐに、城の中心に降ってくること。

まずいな。

「桐嶋伍長!!!」

隊士の悲鳴がして、外へ出る。

隕石のほうから、何かが降ってくる。

それは獣のような・・・おそらくオンブラだろう。

「こっちへ向かってきます!」

「ここで監視してることがわかるのかもしんないな・・・考えすぎかもしれないけど」

僕は中で待機するよう隊士たちに指示を出すと、『神器』を構えた。

クロスボウである、『雷上動(らいしょうどう)』だ。

静かに構え、唱える。

『トレノ』

雷鳴がとどろき『雷上動』に集まる。

そして、矢を降ってくる化け物目がけてぶっ放した。

この世のものとは思えない悲鳴を上げながら、黒焦げになって落ちてくる。

しかし、まだまだ。

「誰か来斗さんに報告!」

中に向かって叫んだ。


化け物が降ってくる。

・・・この忙しい時に。

隊士たちはいつも通り無口だが、動揺している様子。

「碧」

蒼玉が呼びかける。

「ああ、行くか」

すぐそばで作業していた隊士が声をかけてくる。

「碧玉さま、どこへ?」

「ちょっと化け物を始末してくる。お前たちは『神器』の鋳造を続けよ」

蒼玉と二人、瓦屋根の上に立つ。

蒼玉の雷の剣『干将(かんしょう)』。

私の風の剣『莫耶(ばくや)

二人で一対の『神器』

父上に与えられ、ついぞ最近までほとんど使用したことがなかったが。

蒼玉とうなづきあって、空に向かい、構える。

『雷公』

蒼玉が唱え、剣を振るうと雷がとどろいて、ばらばらと落下途中の化け物に命中する。

『風伯』

唱えて剣を振るう。

そこに旋風が起こり、雷に打たれそこなった化け物も一度に吹き飛ばした。

「まだまだ来るぞ碧」

「ああ、心得た」


来る。

耳もとの『アンスラックス』を確かめる。

やや熱い。

お前も興奮しているのか?

それもいいだろう。

今日は思い切り暴れるがいい。

隕石からは沢山の化け物が降ってくる。

(しゅ)()

唱えると、炎がトンファーの形をなす。

それを両手に握る。

『イカロス』

炎が翼となり、私を塔から浮上させる。

そして、化け物の一群の中に飛びこんだ。


「すごいなぁあの人、空飛んではるわ〜」

隣でのん気な愁の声。

見ると、時計塔の上にいた十六夜隊長は炎の翼を生やし、トンファーをふるって降ってくるオンブラの大群を次々になぎ払っている。

目を凝らしてみると、彼女笑っているようだ。

戦いの女神、そんな印象。

「やっぱり太陰隊の隊長さんやな、めっちゃ強い」

「それはいいけど・・・愁くんはここで何してんの?」

「藍はんこそ」

城の東の塔。

そこは私のお気に入りの場所であり、パトロールをサボりたい時によく使っている。

・・・というのは公然の秘密なのだが、今日はここで全体の成り行きを見守ろうと思っていた。

愁の邪魔さえ入らなければ。

「何か考えでもあるの?」

「藍はんこそ」

二人で隕石を眺める。

どんどん大きく、近づいてくる。

「あれが落ちてきたら・・・たまったもんやないな」

愁がつぶやく。

「・・・落ちてくる前に、何とかしたい?」

「さっすが藍はん。同じこと考えてはるわ」


空を見上げる。

桐嶋からの報告どおりだ。

「隕石から化けもんが降ってきているな」

「非戦闘員に怪我でもあったらたまらんのう」

静かに言うと、柳雲斎(りゅううんさい)先生は琵琶を取り出す。

先生の『神器』、『絃上(げんじょう)

かき鳴らすと、一瞬静まりかえり。

本陣に見えないシールドが貼られた。

どよめく隊士たち。

「先頭を切って『絃上』を使われるなんて、先生らしくありませんね・・・」

「ほう、涼風(すずかぜ)。どうしてそう思う?」

「はりきってらっしゃるように見えます」

先生はほほほ・・・とのん気に笑った。


普段あまり戦闘の場に出ない俺たちにとっては、これは結構ハードな仕事だった。

城の内外を救護のために走り回る。

「宇治原伍長!こっちへ!!」

見ると、太陰隊の隊士が大出血して倒れている。

「先生!こいつ助かるのか!?」

「先生ちゃうけど・・・まぁ待ち」

真っ青な顔の大男が嘆く。

「・・・先生、俺ぁもうだめだ・・・こいつらよろしく頼むぜ・・・・・・」

「おいしっかりしろよぉぉぉ!!!」

泣き喚くマッチョな大男たち。思わずため息をつく。

しかし、確かにこれは応急処置して城内に運ばないと危ないかもしれない。

懐から『ケリュケイオン』を取り出す。

男の『神力(ジンリョク)』を探る。

「なんだ先生、このちっこい杖みたいなの?」

泣いていた大男が聞く。

「・・・せやから先生ちゃうて」

唱える。

『ヒール』

男の『神力』が『ケリュケイオン』に一度集まり、そして

黄色い光となって傷口に集まる。

癒しの言葉を唱えながら念じるとそこに俺の『神力』も加わり。

傷は癒えていく。

男たちの歓声があがる。

「すげえ!!!すげえぞ!!!」

「これはあくまで応急処置・・・悪いけどあんた重そうやから、病院まで歩いてくれる?」


「源隊長!涼風隊長から伝言が!!」

病院で救護に勤しんでいると、天空隊の隊士が飛び込んできた。

「隕石から飛来するオンブラの防御壁を張って欲しいとのことです!」

「地上は地上で大変なのに・・・今度は空からも来るわけね」

外へ出て見上げると、赤い隕石からばらばらとなにか振ってきている。

時計塔の上で十六夜隊長が一人、応戦しているのが見える。

今のところ数も少ないからほぼ撃退しているようだが、これから先はわからない。

肩にかけた『蜂比礼(はちのひれ)』をはずすと、それを翻しながら唱えた

『アムレット』

白い暖かな光が放たれ、城の上空を包んだ。

これで大丈夫。

・・・少なくともしばらくの間は。


化け物の襲来がぴたりと止んだ。

見ると、空が白い光のバリアに覆われている。

「源の仕業か・・・」

もっと暴れてもよかったのだが。

仕方ないか。

地上に降り立つと、城外にいる遠矢たちのもとへ向かった。


玉座でも騒動が起こっていた。

城に飾られていた甲冑、鎧、それが人の形を成して襲い掛かってきたのだ。

悲鳴をあげる城の遣いの人たちを地下の部屋に押し込んで、玲央と顔を見合わせる。

「どうする?」

「どうって・・・戦うしかないね」

玲央(れお)は大丈夫なのか?」

胸をはって答える。

「僕を誰だと思ってるのさ!?」

甲冑は階段を上り、姫たちの控えている部屋へと近づいてくる。

「右京さま・・・」

霞さまがつぶやく。

「階段がチャンスかもしれないな!」

玲央が思いついたように言うと、部屋を出て行く。

あわてて後を追うと、階段を整列して上ってくる甲冑たちに向けて玲央は『神器』を構えた。雷の槍『ブリューナク』。

構えると玲央はスペルを唱える。

『ユリシーズ』

槍の先から雷が一直線に伸び。

階段を上っていた10余りの甲冑を貫いた。

胸部を失って、崩れ落ちる甲冑たち。

「・・・いいぞ、その調子!」

そう、玲央は近衛隊の隊長をしているくらいなんだ。

しかしその時、背後から霧江さまの悲鳴が聞こえた。

「右京頼む!!!」

「了解!」

走って戻る。

部屋の奥に立っていた武者の鎧。

さっきまでなぜ気づかなかったのか。

『久しぶりだな』

「その声は・・・」

この前の、火の玉だったオンブラ。

『十二神将隊めが・・・余計なことをしおって』

「黙れ!・・・今回もまた、姫が目的なのか!?」

『そうだ・・・それに』

大太刀を構える。

『この国も気に入らん・・・消してしまおうと思ったまでよ』

『水鏡』を抜く。

踏み込んで、切りかかる。

刀がぶつかり合って火花が散る。

そのまましばらく鍔迫り合いが続いて、急に上段から切り込んできた。

体勢を低くして、懐に入る。

『水無月』!

叫んで胴に一撃。

鎧は粉々に砕けた。

しかし、兜と刀を持った腕だけが飛んでいき、霞さまを捕らえる。

悲鳴をあげる霞さま。

『スティング』

兜が唱えると、刀が飛んできた。

「!」

速い。

避けきれず、わき腹から血が溢れる。

「右京さま!」

しかし、今度は右足に鈍い痛み。

後ろから飛んできた刀が太ももに刺さった。

「うっ・・・」

『いいざまだ、橘右京』

「まだだ!」

伊耶那岐(いざなぎ)』!

叫ぶと、『水鏡』から蛇の形の水柱が飛び出し、霞さまの背後の兜を砕いた。

「やったか!?」

『おのれ・・・』


愁が『螢惑(けいわく)』を頭上の隕石に向かってかざす。

「いつでも?」

うなずいて『氷花(ひょうか)』を抜くと、隕石に照準を合わせ、かざした。

「いくよ」

体中のありったけの力をこめる。

冷気が私の周りに集まってくる。

吹雪いて、冷たい風がうなり声を上げる。

目を閉じて集中する。

そして、冷たさに体が動かなくなる寸前。

目を見開いて唱えた。

『ブリザード』!

体を包んでいた冷気がただ一点、隕石に向かって放たれる。

直径十メートルほどの隕石は一瞬にして凍りつく。

おそらく、それを取り巻いていたオンブラたちと共に。

見ると愁は全身に炎をまとい。

燃え上がらせると、唱えた。

『朱雀』!

愁の体から炎の鳥が羽ばたいて、猛スピードで隕石へと向かう。

それが隕石にぶつかった瞬間。


粉々に砕け散った。


それは花火のようだった。

赤い炎がぶつかったかと思うと、粉々になった隕石はぱらぱらと落ちてくる。

きらきらと月の光を受けて、きらめきながら。

残っていたオンブラたちも、その瞬間悲鳴をあげて消えていった。

「藍の『ブリザード』で凍らせて、愁の『朱雀』で炎の塊をぶつけて破壊したってとこかな。温度差も決め手になったかもしれないね」

空を見上げながら一夜が言う。

「あいつら・・・ったく、いいとこもって行きやがって」

うっとりと空を見上げている一夜。

「綺麗・・・」

「なんだいきなり!?」

「氷の欠片だよ、剣護・・・素晴らしい眺めだね」


外が一瞬明るくなり、大きな音がした。

気づいたら、オンブラの姿はなくなっていた。

・・・また、取り逃がしたか。

「右京さま!」

霞さまが走ってくる。

「血が・・・こんなに」

「大丈夫です・・・かすっただけですから」

そう言いながら、緊張の糸が切れ、痛みに意識が遠くなる。

いつの間にか、かなり出血しているようだ。

『橘右京・・・我が名はベルゼブ』

声が遠く聞こえる。

『また会おう・・・・・・必ずや、(ぎょく)はいただくぞ』

玉?

答える間もなく、僕は気を失っていた。


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