Ep5 隕石(前編)
登場人物
橘右京・・・燕支国の王子。主人公。日本刀『水鏡』を所持。
紺青霞・・・紺青の第一王女。『オンブラ』によって黒猫の姿に。
紺青霧江・・・紺青の第二王女。
十二神将隊
騰蛇隊(都と四方の守護の監視)
隊長:一ノ瀬孝志郎・・・三公の一ノ瀬公の息子。五玉(金剛石)。
伍長:草薙龍介・・・サーベル『雷電』を所持。右京の世話役。
隊士:三日月藍・・・隊士頭。日本刀『氷花』を所持。孝志郎の幼馴染。五玉(青玉)。
朱雀隊(南方の守護)
隊長:浅倉愁・・・腕輪『螢惑』を所持。五玉(紅玉)。
伍長:月岡風牙
六合隊(『神器』の鋳造や修理・隠密活動)
隊長:七枝蒼玉
七枝碧玉
勾陣隊(剣術に秀でる)
隊長:古泉一夜・・・藍の士官学校の同級生。五玉(金緑石)。
伍長:片桐剣護・・・日本刀『蛍丸』を所持。一夜と同じ道場出身の幼馴染。
青龍隊(東方の守護)
隊長:相馬玲央・・・常盤の王子で右京の幼馴染。
伍長:井上磨瑠・・・巨大な猫のような姿の獣人。
天一隊(士官学校生の教育)
隊長:高瀬聖・・・士官学校の校長。
伍長:槌谷鈴音・・・龍介と士官学校の同期。
天后隊(都の医療の中心を担う)
隊長:源咲良・・・医務方という役職。ストール『蜂比礼』を所持。
伍長:宇治原実継
太陰隊(武力・格闘技に秀でる)
隊長:十六夜舞・・・少女の姿をしている。
伍長:遠矢勝之進・・・忠義に厚い人物。
玄武隊(北方の守護)
隊長:宗谷白・・・無骨だが心優しい人物。
伍長:平原力哉
大裳隊(司法機関)
隊長:高倉柳雲斎・・・司法方という役職。元士官学校教官。
伍長:橋下左右輔・・・生真面目で融通の利かない性質。
白虎隊(西方の守護)
隊長:藤堂剛・・・『神器』マニア。
伍長:内海蔵人・・・龍介の士官学校の同期。
天空隊(参謀)
隊長:涼風来斗・・・書物方。三公の涼風公の息子で孝志郎の幼馴染。五玉(緑柱石)。
伍長:桐嶋周平・・・博物方。頭脳明晰。
その夜。
僕は天文台の担当の隊士に呼び出され、夜風の冷たい天文台に立っていた。
天空隊の伍長になってから1年、こんなことは初めてだ。
「桐嶋伍長!」
かけよってくる、隊士たち。
「どうしたっての?一体」
「・・・とにかく見てください!これ」
望遠鏡をのぞく。
「・・・・・・これ」
ぞっと背筋が寒くなって、聞く。
「他には誰か?」
「はい・・・知らせておりません」
「じゃあ・・・・・・すぐに来斗さんに知らせなきゃ」
そこに見えたものは、何やら紺青に向かってくる大きな隕石だった。
それだけではない。
その上には無数の・・・オンブラと思しき、黒い塊がうごめいていた。
城下を歩いていると愁の姿が目に入ったので、思わず呼び止めた。
「怪我の具合はどうだ?」
じろっと睨むとぼそっとつぶやく。
「それ、嫌味で言うてんの?」
「・・・いや、そんなんじゃねえよ」
かなり複雑な気持ちではあった。右京に『神器』の扱いを教えたのは自分なのだし。
しかし、愁は同期の中では一番の『神力』の持ち主、一、二を争う『神器』の使い手だった。それをにわか仕込みの技で、やり込める寸前まで行くとは。
橘右京、恐るべし。
そんなことを思っていたら、察したのか言い訳を始めた。
「別に僕も本気でやってたわけやないし、あっちはなんたって『神器』の格が違うやろ?いやぁいい道具に恵まれるとええなぁ、素人でもあれだけのこと出来るわけやからねぇ。けど、別に負けたわけやないで、たまたま藍はんが入ってきたときちょっとばかしおされてたってだけで」
「でも、確かにおされていたんだろう?」
見ると近くに、一夜と藍も立っていた。
藍は愁を睨みつけている。
「すごいねぇ、あの青年は。剣の腕前だけじゃなくて、きっと強い『神力』の持ち主なんだろうな」
一夜が目を細めて言うので、近々調べてみるつもりだ、と報告しておいた。
「だってさ、『水鏡』が呼ぶ・・・なんてすごいことだよ?」
「でも、あれやん?・・・すごいピンチの時やったし、誰でもよかったんちゃうん?」
「じゃーあー、浅倉隊長はそうやっていつまでも右京さまの実力を疑ってらっしゃったらよろしいじゃありませんか?でもこの前みたいなことは金輪際困りますからねっ」
「ら・・・藍はん・・・・・・そんな言い方せんでも」
「まあ、せっかく昔の仲間が集まったのに、つまらないことで喧嘩しなくてもいいじゃない」
穏やかに笑いながら一夜が言う。
「孝志郎はんがおらへんけど」
「まあ、そうとも言うねえ」
こほん、と咳払いして業務用の声で藍が言う。
「1週間後、一時帰還されるご予定です」
「本当か!?急だな」
「王がその・・・お隠れになってからまだ一度も帰ってきてらっしゃらなかったから。それに右京さまにも会いたいんですって」
「なんや、孝志郎はんまで右京さまか・・・なんやモテモテやなあ、あのぼっちゃん」
「お前は孝志郎がからむとすぐそういうこと言うなあ」
言うと、愁は得意げに言った。
「だって、孝志郎はんは、僕の親友やから」
「ねぇ、私の、お・さ・な・な・じ・み、だけど?」
俺は一夜と顔を見合わせる。
「いいから行きますよ浅倉たいちょ、右京さまにちゃんと謝ってください」
「なんで僕が・・・」
怖い顔で藍が怒鳴る。
「いいかな!?私はタテマエ上ああいう言い方をしたけどね、本当は愁くんが右京さまにヤキモチ焼いてちょっかい出したんだって、ちゃあんとわかってるんだからね!とばっちり受けちゃったうちの伍長も可哀想に、結構傷ついてるんだから!」
一夜がまあまあ、となだめると、大きく一呼吸して、続けた。
「とにかく、騰蛇隊と朱雀隊の今後の関係性を考えても、しっかり詫び入れてもらわないと困りますから。よろしいですね!?」
「・・・・・・はい、わかりました」
愁は小さく返事をして、藍の後をついて去っていった。
一夜が楽しそうに笑う。
「いやぁ懐かしい、あのやり取りを見てたら10年若返ったような気分になったよ」
と言う。まったくだ、本当に懐かしい限り。だけど・・・
「俺、イライラするんだよな・・・あれ見てると」
一夜は笑いながら言う。
「わかるわかる、そうか俺だけじゃなかったんだな」
そして少し歩き出し、振り向いて言う。
「じゃあ剣護、隊舎に帰ろうか」
後味の悪い記憶がまだ消え去らない中、天象館に入るのは気が引けたが、藍さんの言いつけでは仕方がない。
まだ傷の完治しない草薙さんも、むっつり黙り込んでいる。
「お待たせしましたー!」
藍さんの声。
見るとその後ろには・・・浅倉隊長。ふてくされたような表情だ。
草薙さんがものすごくこわい顔でにらみつけると、藍さんに低い声で尋ねた。
「三日月、これは一体どういう趣向だ?」
藍さんは扉を閉めると、落ち着いた声で三人並んでください、と言う。
「この扉が閉まっている以上、内部の様子は外には漏れません。私・・・柳雲斎様にお願いして、今回の騒動の仲裁役を仰せつかりました。どうぞよろしく」
「何を始める気なんや?・・・今更僕、こいつらに話すことなんて無いで?」
「へえ〜!?よく言うぜこのコンプレックス野郎が」
「なんやて?」
「お二人ともやめてください!」
またももめようとしている二人に向かって、藍さんが怒鳴った。
「二人とも黙れーーー!!!」
ぴたっ・・・と動きを止め、二人は藍さんを注視する。
「愁!それに龍介!」
腰に手をあて、仁王立ちで藍さんがそのまま怒鳴り続ける。
「あなたたちって本っ当に・・・学生の頃から全く変わってないのね!?一体あの頃から何年経ったと思ってるの!?」
「三日月・・・?」
「ここで言ったこと・・・他言無用ですから、右京さま」
「・・・・・・はい」
「だいたい孝志郎が何だって言うのよ?愁は『五玉』で孝志郎の次に強かった、それで孝志郎も一目置いてた。龍介だって白虎隊の内海くんみたいな出来のいい子が同期にいたから次席に甘んじたけど、相当優秀で孝志郎にかわいがられてた。それじゃ駄目なの!?何で一番の『お気に入り』を決める必要があるのよ!?」
「そんな経緯があったんですかぁ・・・」
感心してつぶやく僕の言葉にはお構いなしに続ける藍さん。
「愁が一期先輩だけど、年が一緒なもんだから・・・昔っから本当に仲が悪くて!孝志郎と一夜は面白そうに見てるだけだし、来斗は興味なしだし、私本当にいつも大変だったんです!卒業してからは私・・・大学校進んで二人より長く学生やってましたから、その3年間は見て見ないふりしてたけど・・・今になってこんな大騒ぎ起こして」
大きく息を吸い込んで、再度怒鳴る。
「本っ当に、恥ずかしいったらありゃしない!!!」
「・・・悪かったよ」
ぼそっと草薙さんが言う。
「挑発されてまんまと乗っかってさ・・・あの時お前に言うべきだったんだよな」
「そうよ?・・・私はっきり言って、龍介は誰より頑張ってると思ってるよ!私の存在とか相当やりづらいんだろうに、しっかりやってくれてるから安心して任せてられるの」
草薙さんはちょっと赤くなる。
「愁もね、遠くに行って頑張ってると思うよ」
「藍はん・・・」
ちょっとためらって、言葉を選ぶように続ける。
「本当のところ・・・あなたを騰蛇隊じゃなく朱雀隊へって言ったのは、叔父様なの」
「叔父様って?」
「孝志郎のお父さん。三公の一人、一ノ瀬公です・・・・・・だから多分、それは孝志郎が言い出したことなんだと思うんだ」
「何故一ノ瀬隊長が?」
黙っている二人の代わりに藍さんに問いかける。
「あくまで私の考えだけど・・・孝志郎の意図は、多分『五玉』をばらばらに配置すること。そして十二神将隊を自分の意のままに操ること」
壁にもたれかかって続ける。
「騰蛇隊に孝志郎、それで全体の統制をする。南の朱雀隊に愁、四方の守護の中に一人もぐりこませる。勾陣隊に一夜、あの戦闘能力の一番高い隊を統制する。天空隊に来斗、全体を見渡せるポジション。そして私・・・本当は白虎隊か天一隊に置きたかったみたいね。最前線か、後の隊士に大きな影響を与える、そういうポジションに」
二人は驚いて言葉もないといった様子だ。
藍さんは続ける。
「でも私・・・トップに立つ仕事はやりたくなかったから」
「どうして?藍さんリーダーシップがあってみんなから好かれてて、適任なのに・・・」
「・・・やだったんです、単純に。今でも嫌ですけど」
だから、一隊士でいられるポジションを選んだのか。
一ノ瀬隊長がいる限り、隊長職に、と言われることはおそらくないのだろうから。
「私が思い通りに動かなかったから、孝志郎は別の案を思いついたんだと思う」
それは、四方の守護を回らなくてはならない自分以外の『五玉』を都に集めること。
藍さんは都の伍長付きの隊士にすればいい、問題は浅倉隊長。
だから、都に度々帰ってくるよう、仕向けるようなことを言ったのだろう。
「それって一ノ瀬隊長にとって・・・どんなメリットがあるんですか?」
「『三公』の監視、だろうな」
草薙さんがつぶやく。
「そこまで大げさじゃなくても、プレッシャーにくらいはなるだろうから・・・」
「そんなことする必要が、どうしてあるんですか?」
「・・・・・・・・・孝志郎はんは・・・自分が絶対ってとこ、あるからなぁ」
でも・・・
「そんな過激な人なのに・・・なんでそんなにみんなから慕われるんでしょうか」
ふっと脳裏をよぎる、昔の記憶。
兄さんの笑顔。
「そりゃ、会ってみりゃわかるぜ」
草薙さんが言って、慌てて会話に戻る。
「ちょっとばかしワンマンなところがあっても、部下想いだし、友達想いだし、頭もきれるからな。この人についていけば絶対大丈夫って思わせるような人だよ」
嬉しそうにうなずいている浅倉隊長。
後ろで聞いている藍さんは・・・ちょっと難しい顔をしている。
そして再び、草薙さんと浅倉隊長に向き直ると、言った。
「じゃあ、お二人とも仲直りってことで。愁くんは龍介と右京さまに謝って!」
浅倉隊長は藍さんの顔をぎょっとした顔で見つめる。
そして、視線を落として聞こえるか聞こえないかというくらいの声でぼそっとつぶやいた。
「・・・・・・・・・堪忍」
草薙さんと僕は顔を見合わせて、少し笑った。
騰蛇隊舎に戻ると、珍しいお客さんが来ていた。
来斗さんと、もう一人。
金髪の長い髪をオールバックにして、後ろで一つに束ねている、緑色の瞳の青年。
白衣を着て、ポケットに両手をつっこんでいる。
「龍介、藍、右京、話があるんだが・・・」
その前に、と青年を紹介した。
彼は、十二神将隊の役職者の中で唯一まだ会っていなかった人物だった。
「天空隊の伍長、桐嶋周平です。実は・・・」
隕石が迫っているという。
しかもその表面はオンブラに覆われている。
ぞっとした。
「おそらく到達するのは、明後日と思われます」
「ど・・・どうすんだ!?」
「とにかく、藍は孝志郎に連絡とってくれ」
「了解!」
無線をとって、藍さんは奥の部屋へ入っていった。
「霞さまにも知らせたほうがいいのでは?」
僕が聞くと、来斗さんがもう知らせてある、と言う。
「十二神将隊に全て任せると・・・そうおっしゃった」
「そうですか・・・」
しばらくして、奥の部屋の扉が開くと、藍さんが戻ってきて、言った。
「一ノ瀬隊長は今、他国との戦闘中で帰還できないそうです・・・」
みな、顔がこわばる。
「替わりに指示を頂きました」
四方の隊は各自の陣地を固める。統率は伍長。
西の戦闘に、一ノ瀬隊長と、連れている騰蛇隊士が加わって、藤堂隊長だけ都へ。
都の周囲は剣術の勾陣隊と武術の太陰隊が固め、
統率はそれぞれ伍長の剣護さんと遠矢伍長。
城下は騰蛇隊の草薙さん付の隊士と草薙さん、天一隊の隊士と士官学校生、槌谷伍長。
天空隊は二手に分かれる。天文台に桐嶋伍長と隊士がいて、隕石の状況を観察。
城下に本陣を構え、指令は来斗さんと、いろいろな情報分析の天空隊士。
六合隊士は城下と近辺の隊士たちに、作った『神器』や『神器』のかけらを埋め込んだ簡易のものである『半神器』を可能な限り供給するため、フル回転で作業を進める。
天后隊は宇治原伍長を中心に、城内外の負傷者の救護にあたる。
全体の様子は、大裳隊が情報収集し、本陣へ報告する。
「涼風隊長以外の隊長は・・・」
「『好きに動け』と言われました」
・・・大胆な作戦だ。
「僕はどうしましょうか?」
「右京さまは、霞さまたちのそばにいてお守りしてさしあげてください」
藍さんは他の隊に指示を出すため、また奥に戻っていった。
それにしても、この短時間でこれだけの陣形を敷くことが出来るなんて。
やっぱり一ノ瀬隊長はすごい人なのかもしれない。
翌日。
玉座の前に一同に介した、十二神将隊長の面々。
「よお、浅倉。どうしたんだその怪我?最近は南も物騒なんだなぁ」
楽しそうに言うのは、西の白虎隊の藤堂隊長だ。
藍さんは内々に収めたつもりらしいが、明らかに事情を知っている。
半分にらみつけるような笑顔を作って浅倉隊長が言う。
「まぁ・・・・・・色々ありましてな」
「色々!?そりゃあ大変だったなぁ。俺ぁその色々ってのが聞きたいぜ。なぁ、白」
北の玄武隊の宗谷隊長に振る。
「・・・そうだな。見苦しい話でないといいが」
「そんな天下の浅倉隊長に限って!ねえねえそんなこと!」
だんだん浅倉隊長の顔がひきつっていく。
そんな浅倉隊長の背中をぽんっと叩いたのは、小さな人影。
「身から出た錆だ、諦めろ」
太陰隊の十六夜隊長。
藤堂隊長は大笑いし始めた。
「いや〜すげえな浅倉!おじょうちゃんに慰められる気分はどうよ!?」
「そのおじょうちゃんっていうのは、私のことか?」
十六夜隊長が藤堂隊長の前に進み出て、にらみつける。
姿はやはり、10歳にも満たない少女だが、すごい威圧感。
藤堂隊長はおされ気味で、別に深い意味はねぇけど・・・とつぶやいて、引き下がる。
そんな険悪なムードの中、藍さんがお揃いですか?と現れる。
士官生の教育担当らしく、優等生風の高瀬隊長が答える。
「古泉の姿が見えないね」
「またですか・・・・・・」
げんなりした顔をして、藍さんは無線を持って奥に消えた。
しばらくして怒鳴り声。
高瀬隊長が笑って言う。
「三日月も大変だなぁ」
僕の隣に玲央がやってきて可笑しそうに言う。
「一夜さんマイペースだから、いっつもああなんだよ」
「剣護さんがきっちり管理してそうだけど・・・」
「へぇー、右京は勾陣隊のこと詳しいんだねぇ。そうそう、剣護さんは厳しいんだけどさ。一夜さんうま〜くかわして逃げちゃうからね」
「よくあいつに隊長が務まってるな・・・と時々思うよ」
来斗さんもやってきて言う。
「あいつはカリスマだけだからな」
「だけってことは・・・だって親切だし、部下思いじゃないですか?」
「いや!みんな騙されてるが、あいつはうわべだけだ」
来斗さんも藍さん同様、手厳しい。
「お前たちも奇襲にあったんだろ?」
そういえば・・・そんなこともあったな。
そんなこんなしていると、頭をかきながら古泉隊長が登場。
「すいません、遅くなりまして」
玲央がちゃちゃを入れる。
「一夜さんってば、どこ行ってたんですか!?・・・・・・誰のところにって意味ですけど」
「まぁまぁ、それは言わない約束」
ウインクする古泉隊長。
まったく最近の若いもんは・・・と柳雲斎先生がつぶやく。
そこに、二人の姫が現れた。
「みなさん、今回はご多忙の中ご苦労様です。総隊長不在の中、大変かとは思いますが・・・どうか紺青をよろしくお願いします」
猫の姿の霞さまが言う。
「一ノ瀬隊長の指示は既に聞いておられるかと思いますが、みなさんを厚く信頼してのお言葉なのでしょう。くれぐれもお気をつけて」
霧江さまも言う。
「落下予定はいつなんだ?」宗谷隊長。
「おそらく、今日の深夜から明朝だろう」来斗さん。
「早まったん!?」浅倉隊長。
「若干な。接近につれて、地上のオンブラが誘導されて出てくる可能性も高い」
「じゃあ、早いとこ配置につかなきゃな!」藤堂隊長。
「『神器』を支給って話はどうなってんだ!?」
「昨夜連絡を受けてから調達、作成できたのは50。『半神器』についてはなんとか城下配備の隊士全体に行渡るだろう」七枝蒼玉隊長。
「外の太陰隊と、勾陣隊にはどうなる?」十六夜隊長が訊く。
「時間との相談といったところだろう」七枝碧玉隊長。
「それはお粗末な話だな・・・」
「何?」
「化け物がどこに現れるか分からん状況で、城外は手薄というのは浅はかであろう。城下に侵入を許してしまった場合、中の部隊で食い止められなければどうする気だ?」
「・・・両隊、道具などに頼らんでも精鋭の揃った部隊ではないか。・・・それとも、自信がないのか?」
挑発しあうようなやり取りが続く中、ぼそっと古泉隊長がつぶやく。
「・・・俺としては、少なくとも隊士に余計な怪我はさせたくないなぁ」
二人は古泉隊長のほうを見る。
「だからさ」
今度は高瀬隊長のほうを向いて言う。
「半分こしませんか?」
「・・・そうだなぁ」
「中の人たちはさ、六合隊の人たちが一生懸命作った『神器』を随時調達すれば良いわけだし、悪い条件じゃないと思いますけど」
「では・・・そのようにするか」
決まり!と手を打つ古泉隊長。
「外6中4で良いよね舞ちゃん!?」
「・・・ちょっと待て一夜」
高瀬隊長が普段になくこわい顔でつっこむ。
「あれ?違いましたっけ」
「古泉、半々でよかろう」十六夜隊長。
「えぇいいの!?舞ちゃん自信満々だねぇ」
「どうでもいいが・・・“舞ちゃん”はやめてくれ」
集会が終わり、めいめい配置につく中、十六夜隊長に声をかけた。
「十六夜隊長って、部下思いなんですね」
「・・・当たり前のことを言ったまでだが」
玲央も話に乗ってくる。
「舞ちゃんも6:4で押し通せばよかったのに〜」
「だから“舞ちゃん”は・・・」
ため息をついてから、気を取り直して言う。
「古泉の適当な発言に乗って・・・高瀬の機嫌を損ねたら事だからな」
そんなやりとりに気づき、古泉隊長がやってくる。
「適当じゃなくて強気っていうんだぜ?」
「お前・・・部下がどうこう言っていたが・・・・・・本当は引っ掻き回したかっただけであろう」
え?
玲央と顔を見合わせる。
「古泉は勾陣隊の強さに絶対の自信を持っているからな。そんな風に言うはずがないと思ったんだ」
ちょっと上を見上げて笑う古泉隊長。
「いやぁ、お見通しか」
「そうなんですか一夜さん!?」
「だって、面白そうだったから」
唖然とする僕ら二人と、呆れた表情の十六夜隊長を尻目に、
「これもまた一興・・・“酔狂”ってもんさ」
言って、ひらひら手を振りながら玉座の間を出て行った。
「一夜さんて・・・」
同感・・・理解の範囲を超えている。
夕刻。
都の騰蛇隊士を全員集め、作戦について指示。
そして『半神器』を手渡す。
「士官学校の実習で使って以来かと思うが、くれぐれも扱いは慎重にな。お前たちの能力は当時よりずっと高くなっている。暴発すると厄介なことになるぞ」
ちょっとびっくりした顔で、まじまじと手元の獲物を見つめる隊士達。
「まぁ、ちょっと脅かしただけだ!お前らなら大丈夫!しっかりやれ!」
「はっ!!!」
敬礼して解散。
頭上の赤く大きくなる隕石を見上げながら、三日月がつぶやく。
「うまくいくでしょうか・・・」
「大丈夫だって!孝志郎さまの指示に間違いはない。今までだってそうだったろ?」
「そうですね」
にっこり笑って、じゃあ私はこれで、と城に向かって走る三日月。
「こらー三日月!どこへ行く!?」
「言い忘れてましたけど」
走りながら振り返って言う。
「私も『好きに動け』って隊長からご指示いただいてたんです!」
ではご無事で〜、と言いながら去っていった。
城の東の塔の上。
『状況はどうだ?』
孝志郎の声。
「各隊の配備は完璧です。隊長たちもそれぞれうまく散らばってます。
北門に古泉隊長。南門には『神器』を渡されてやる気満々の藤堂隊長。
七枝両隊長は六合隊の作業を取り仕切っています。
宗谷隊長は玄武隊が気になるっていうんで北に帰っちゃいましたが。平原伍長ではやや不安も残るので、正しいご判断だと思いますね。
高瀬隊長と源隊長は責任感がお強いですからね、自分の隊にいらっしゃるみたいです。
柳雲斎先生は涼風隊長と一緒に本陣におられます。あの方は何かと口を挟みたいタイプですから。
相馬隊長は右京さまと一緒に姫さま方のところにいらっしゃいます。
十六夜隊長は・・・城下の真ん中にある時計塔のてっぺんに。何かお考えがあるんでしょうけど」
『そうか・・・愁はどうしている?』
「あの方は・・・まあ大丈夫でしょう。いざってときには頼りになる方ですから」
『そうだな・・・』
少し微笑んだ様子。
『お前はどうする?』
「私は・・・ちょっと考えがあるので、しばらくここで」
『そうか』
「まぁ、お任せください」
『そうだな。ここまで十二天将隊をうまく操縦したお前なら、下手なことはしないだろう』
「操縦だなんて〜・・・」
『俺はお前に・・・何と指示した?』
「え〜?・・・何だったかしら」
少し沈黙が流れる。
『“藍の好きにしろ”と言ったはずだが』
「・・・そうでしたね」
『俺の名を使ったほうがうまくいく、という判断か』
「実際うまくいってるでしょ?今のところ」
『お前はいつも・・・俺の後ろに隠れてそうやって器用に立ち回るんだな』
「・・・だって、それが利口だわ」
『まぁいい』
しばし沈黙。
『帰還は少し延期になりそうだ。おそらく2週間後。それまで紺青をもたせておいてくれよな』
「了解です!大丈夫よ」
無線に向かって微笑む。
「お帰りをお待ちしております、一ノ瀬隊長」
影でため息をついて、ついつぶやく。
「藍はんも・・・相当な食わせもんやなぁ」