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Ep3 十二神将隊(後編)

登場人物

橘右京・・・燕支国の王子。主人公。日本刀『水鏡』を所持。

霞・・・紺青の第一王女。『オンブラ』によって黒猫の姿に。

霧江・・・紺青の第二王女。


十二神将隊

騰蛇隊(都と四方の守護の監視)

伍長:草薙 龍介りょうすけ・・・右京の世話役。

隊士:三日月 らん・・・隊士頭。騰蛇隊隊長の幼馴染。五玉の一人。

朱雀隊(南方の守護)

隊長:浅倉愁・・・五玉の一人。

伍長:月岡風牙

六合隊(『神器』の鋳造や修理・隠密活動)

隊長:七枝蒼玉ななつえそうぎょく・・・碧玉の双子の兄。

   七枝碧玉ななつえへきぎょく・・・蒼玉の双子の弟。

勾陣隊(剣術に秀でる)

隊長:古泉一夜・・・五玉の一人。

伍長:片桐剣護・・・藍の士官学校時代の同級生。

青龍隊(東方の守護)

隊長:相馬 玲央れお・・・常盤の王子で右京の幼馴染。

伍長:井上 磨瑠まる・・・巨大な猫のような姿の獣人。


「待ってください!(らん)さん!!」

ずんずん先に歩いていく藍さんを小走りで追いかける。

またやっちゃったな・・・


今日は玲央(れお)が人と会う予定がある、というので、当初の予定通り藍さんに案内してもらうことになっていた。

「今日は私がお供ですからあんなおかしな真似はさせませんので、心配しないでくださいね!」

とにっこり微笑む藍さん。

「変な人ばっかりですけど・・・根はいい人たちですから」

「はぁ・・・」

「だって古泉隊長もだいぶあれですけど、浅倉隊長も相当でしょ?」

「そんな言い方してますけど・・・同級生なんですよね?」

「そうですよー、片桐伍長も含めてみーんな同期の桜です」

そういえば・・・と思い、軽い気持ちでつい聞いてしまったのだった。

「僕・・・藍さんのこと、三日月さんって呼んだほうがいいんですか?」

ぴきっ・・・と表情が凍る。

「それ・・・愁ですよね?」

「えっ・・・?」

「愁に言われたんでしょ?」

「え・・・っと・・・・・・その・・・・・・」

そして・・・現在に至る。

朱雀隊の隊舎に入ると月岡さんの静止も聞かず、隊長室のドアをいきなり勢いよく開いた。

ぽかんとした表情の浅倉隊長の前に進み出ると、思い切り机を叩く。

「浅倉隊長!お話があります!」

「・・・ど・・・・・・どうしたん???」

「自分は今までに一度でも!浅倉隊長に自分の呼び名について何かお願いしたことがありましたか!?」

はっとした顔をして、僕のほうを確認しようとする浅倉隊長の視線をさえぎって立ちはだかると、藍さんは続けて言う。

「他人がどんな風に呼ぼうと自分はまったく気には留めておりませんし、そのことについて誰かに干渉してもらおうなどと思ったことはございませんので!」

「ちょ・・・ちょっと待ってや、藍はん・・・僕はただ」

「勤務中ですので」

じろっと怖い目で浅倉隊長をにらむ。

「上司がそんなふうに部下を気安く呼ぶのは問題ではないでしょうか?」

「え・・・っと・・・・・・」

「とにかく、妙な評判が立つのは本当に迷惑なんですから!」

顔をぐっと浅倉隊長に近づけると、きっぱりと言う。

「そこんとこよろしく!おねがいしますね!!!」

そして、僕のほうを見ると、からっと表情を変えて言った。

「では右京さま、参りましょうか?」


天一(てんいつ)六番隊の隊舎は、隊士の育成機関である士官学校の中にある。

まだ講義中だということでそこは飛ばして天后(てんこう)七番隊へ先に行くことになった。

天后隊は王宮のみでなく、紺青(こんじょう)の都全体の医療を掌っているらしい。

隊舎も王宮から離れ都の中心部にある。

初めてちゃんと街を歩いてみて燕支(えんじ)との違いに驚く。

その規模、整備された街、歩く人々の服装や忙しそうな様子。

燕支だって活気のある都市ではあるが、こうやって見るとやはり見劣りする。

田舎者丸出しで周囲をきょろきょろする僕に、優しく微笑みかけながら藍さんが言う。

「驚かれましたか?」

「・・・正直」

「ですよね〜。私も最初すっごくびっくりしました」

藍さんはこの国の出身ではないのだろうか。意外だった。

百群(びゃくぐん)ってご存知ですか?」

「聞いたことあります。たしか西の・・・」

「そうなんです、小さな国なんですけどね」

「じゃあご家族はまだそちらに?」

「いえいえ、家族はおりません」

物心ついたときから一人でしたから、となんでもなさそうに言う。

「父親が私を置いていったんだそうです。私が食べていけるくらいのお金と、土地と、畑とか家畜とかを置いてね。多分血縁関係はないんですけどおばあちゃんがいて、面倒みてくれてたんですけど8歳のときに亡くなりまして。そこからはそのへんの地主の夫婦にちょいちょい面倒みてもらいながら、放牧とかして生計立ててました」

「・・・大変だったんですね」

「いえいえ、そんなでもないです。地主夫婦は意地悪なところありましたけど、娘はいい子で仲良くしてましたし。町の人たちも優しかったし」

「そうなんですか・・・」

「そうなんです」

孤独な少女だった藍さんが、どうやってこの国に来たのだろう。

端的に言うと遠征でやってきた都の人に連れられて来たんですよ、と言う。

藍さんが10歳になった頃、百群にも紺青が侵攻してきた。

相手は大国でかなう相手ではない、それに利益になることも多いと判断した百群の王はあっさりと属国になることを受け入れた。

そして紺青の軍が引き返す途中立ち寄った町が藍さんの町だったのだという。

そこで、藍さんは少し年上の少年と出会う。

それが、『孝志郎』。今の騰蛇(とうだ)隊の隊長、一ノ瀬孝志郎氏だった。

彼は『三公』と呼ばれる王の周囲の有力な貴族の嫡男。その頃すでに神童の呼び声が高く、父親である一ノ瀬公が遠征に同行させることについて周囲に反対するものはなかったという。

町を去る日、彼は父親に藍さんを養女として迎え入れることを提案する。

藍さんの『神力(ジンリョク)』の高さと、どこか自分の息子とも似た賢い意志の強い瞳を感じた一ノ瀬公は彼の意見を受け入れ、地主夫婦にこの子をゆずって欲しい、と願い出たそうだ。

「そんな会って間もない人についていくのって・・・怖くなかったんですか?」

「そういえば・・・・・・そうですよね」

苦笑する。

「それがね、全然怖いなんて思わなかったんですよ。おじ様はとても優しい方だし、孝志郎・・・じゃなくて、一ノ瀬隊長が『おいで』って言ってくれたとき」

なつかしそうに空を見上げる。

「すごく嬉しくて。そっか私はこの人と家族になるんだなってごく自然に思ってしまったんです。怖いなんてこれっぽっちも思わなかったなぁ」

照れて笑うと、着きましたよ右京さま、と言った。


そこは白い壁に囲まれた静謐(せいひつ)な空間だった。

多くの患者が診察を待っているが静かで、医師を信頼している様子がうかがえる。

隊長室は大理石の階段を上った先、5階にある。

ノックすると、まずメガネをかけた男性が出た。

白衣を着た細身の青年。金髪のやわらい髪で、深い青い目をしている。

「ああ、三日月か。ひさしぶり」

「宇治原伍長、お元気そうで」

「まあ、ぼちぼちやな」

低い関西弁でぼそっと話す。僕を見るとお客さんか?と聞く。

「橘右京と申します」

「あ〜、例の」

今日の集まり往診あって出てへんからなぁ、とつぶやいて隊長に来客を告げる。

「どうぞ」

聞こえてきたのは凛とした女性の声で、ちょっとびっくりした。

入ると中にいたのは、華奢な女性。腰くらいまである栗色の髪を後ろで一つに束ね、眼鏡をかけて沢山の書類に目を通していたが、僕が中に入ると立ち上がり、眼鏡をはずして微笑んだ。

「天后七番隊隊長の源咲良です。こちらは伍長の宇治原実継」

ども、と宇治原伍長が軽く頭をさげる。

「長旅でお疲れなのではないですか?わざわざ来ていただいて申し訳ありませんね」

「いえとんでもない!お忙しいんですね」

「この隊は医務方とも呼ばれていまして、患者さんの治療にあたるのが任務ですから」

知的で優しげなグリーンの瞳。

「ここは病人けが人の来るところやからな。めったに会わへんことがええことやから」

宇治原伍長がにっと笑う。

「気いつけてがんばりや、右京さん」

お暇して階段をおりる。

白衣姿の隊士たちも真面目で落ち着いていて、ここの隊はまとも・・・だな、と思っていると。

「まぁ・・・まともといえばまともですけど・・・」

頭をかきながら藍さん。

そのとき階下が騒然となった。

「北の地区で爆発事故です!重症の患者が多数出ています!!!」

騒動に気づいて2人が駆け下りてくる。

1階にはけが人が多数。

中には血まみれで担架に乗せられた患者も何人か。

ぎょっとして立ち尽くしていると、二人がやってきて患者のもとへかけよる。

「あらあら、これはひどいわねぇ」

「動脈切ってるなぁ・・・そっち輸血の用意して」

「気道確保出来てるかしら?」

「その患者はどないやの?」

さっきと同じ、穏やかな源隊長とぼそぼそぶっきらぼうな宇治原伍長。

しかしものすごい勢いで応急処置をしていく。

動作だけ倍速再生しているみたいだ。

血まみれ、大やけどの患者にも眉一つ動かさない。

「宇治原くん、こちらの方内臓損傷してるみたい」

「こらひっどいなあ、緊急手術せなあきませんね」

藍さんと顔を見合わせて隊舎を出た。


次は気を引き締めてくださいね、と藍さん。

「彼らになめられると大変ですから・・・」

「彼らって・・・」

そこは太陰(だいおん)八番隊の隊舎。

門の見張りに2人の巨漢の男。太い丸太棒を握り締めてにらみをきかせている。

「こんにちは〜」

手をあげて藍さんが言うと、藍さんと僕をにらみつけて、片方が言う。

「おう、三日月さんか。なんか用かい?」

「悪いけど、このまま二人で入るのこわいんで遠矢伍長呼んできてくれませんか?」

2人が一斉にすごい大声で笑う。

「三日月さんがこわいだってよ!?」

「そんなはずねえ!三日月さんにかかりゃ俺たちなんてひとたまりもねえからなあ!」

「いいから・・・お願いしますよ」

そこに現れたのは筋肉質な大男だった。

ごわごわした短いダークブラウンの髪、ただならぬ目つきの黒い瞳。

柔道着のような服装をしている。

じろっと僕らを見る。

「見張り台から報告があったので見に来たのだが」

ぱんっと手を叩いてにっこり笑うと、藍さんは言う。

「ちょうど良かった!遠矢伍長、私たち隊長にご挨拶に来たんですけど〜」

「太陰隊伍長の遠矢勝之進だ」

僕も深々とお辞儀をして名乗る。

顔を上げてみると、遠矢伍長の背後には腕っ節の強そうな大男ばかり二三十人こちらをうかがっている。

冷や汗が流れる。

「なんだ、すげえ剣豪って言うからどんな奴だろうと思ってたら、こんなガキなのか」

「遠矢さん、こんなにちっこいのが俺らの助っ人なんですかい!?」

好き勝手なことを言っている大男たちに黙ってろ、と言うと、遠矢伍長は僕らを中へいざなった。

中庭を通り、隊舎の中へ。

途中、隊士たちの獲物を狙うような目がずっと張り付いている感覚だった。

自分の力に自信がないわけではないが、昨日みたいに一斉にかかってこられたら・・・

ちょっと自信がない。

藍さんもちょっと緊張してるみたいだ。

中は石畳で、柔道の道場みたいな床になっているところもある。

両側には重そうな武器が沢山掲げられている。

その奥に一つ、大きな肘掛椅子。

そこに座っていたのは一人の少女だった。

印象的な黒い大きな瞳に長いまつげ。

大きな黒い薄い絹を巻いて、目元以外の顔を覆っている。

年は6、7歳くらいだろうか。

「遠矢、その者は?」

「昨朝姫からご紹介のあった・・・」

「ああ、燕支の皇子か」

よく通る声。

声はあどけない少女だが、たたずまいは僕や藍さんよりも落ち着いているくらいだ。

濃紺のローブを身にまとう。

信じられないが、彼女がこの隊の隊長のようだ。

「橘右京と申します」

「右京どの、こちら我々の隊長の十六夜(いざよい)舞さまだ」

そこへ隊士たちが大勢やってきて口々に言う。

「隊長ー、どうなんすかこいつ!?」

「本当に強いんすかねぇ!?」

「俺らにゃ全っ然そんな風にゃ見えねえ」

「一ひねりってかんじだもんなあ」

言いたい放題言う隊士たちに一瞥(いちべつ)

眼光の鋭さにみなが静まる。

ものすごい威圧感だ。

「強いかどうかは目を見れば分かろう」

立ち上がって僕の目の前で止まる。

「なるほど『水鏡』の選んだ皇子だけのことはある」

隊士たちに向かって言う。

「人を見た目で判断していてはいつか痛い目を見るぞ。そのことはお前たちが一番よくわかっておるだろう?」

「そりゃ・・・隊長は別格でしょうよ」

「なぁ・・・」

十六夜隊長は右手を差し出すと、仲良くやろう、と言った。


(げん)()九番隊。隊舎はお寺のような作りで、畳敷きだった。

隊士が左右に整列して座っており、一番正面には隊長らしき男。

スキンヘッドでかなりの筋肉質。隊長のローブの袖を切ってあるらしく、いかつい肩と腕を露出していて、腕組みして座布団に座っている。

日に焼けた褐色の肌に、グレーの瞳。

「おう、あんたが右京さんか?わざわざ出向いてくれてありがとな」

太い声で語りかけるが、その響きは穏やかだ。

「『水鏡』に選ばれた・・・っつったっけか。すげーじゃねえか」

左隣に立っていた青年が口を挟む。

「伝説の『神器』・・・一度じっくり見てみたいもんですねぇ」

「こらリキ。はしたねぇぞ」

「あ、こりゃ失礼しました」

藍さんが耳打ちする。

「スキンヘッドが宗谷(そうや)(ばく)隊長で、前髪長いのが平原力哉(りきや)伍長です」

「ご挨拶がまだでしたねぇ、失礼しました」

平原伍長がにやりと笑って言う。

前髪が目を覆っており、表情は口元でしか判断できない。

紫色の髪。黒い拳法の胴着のような服を身に着けている。

「右京さまってすごいらしいじゃないですか?初日に草薙隊長をやっつけたとか。そいでオンブラを撃退したんでしょ?しかも昨日は勾陣(こうちん)隊の一斉攻撃を退けたとかって」

平原伍長のおしゃべりは止まらない。

「強いんだなぁ、僕あこがれちゃいますよ〜。士官学校時代から剣術はもうからっきしだめでねぇ」

あきれたように目をつぶると宗谷隊長が平原伍長を制した。

「リキ。ちょっとだまってろ」

「はいはい、すいません」

宗谷隊長は優しい目でこちらを見る。

「俺たちは一年の大半を紺青を離れて過ごしてる。留守の間何があったか詳しくは知らねえが・・・・・・姫様たちをよろしく頼むぜ」


「少しお疲れになりました?」

「いえ・・・大丈夫です」

そういえば・・・と思い出して聞く。

「玲央のことなんですけど」

「・・・なんでしょうか?」

「今日の用事ってなんなんでしょうか?」

さぁ、お忙しい方ですからねえ、ととぼけた様子で藍さんが言う。

あいつが隊長張ってるなんて本当に驚きだ。

平和主義者で非力だった玲央。

「あの方は今でも穏やかな方だと思いますよ。基本的には尊敬してますけど・・・」

基本的には。

「あいつ霧江姫と仲いいんですね。こないだ思ったんですけど、すごい親密な感じで・・・ちょっと恥ずかしくなりました、僕」

「とぉんでもないです!」

ちょっと怖い顔をして藍さんが言う。

「右京さま、相馬隊長とお親しいみたいですけど・・・変なことまで覚えないでくださいね」

「変なことって・・・・・・???」

急に、隠れてください!と藍さんに言われて物陰に隠れる。

そこへやってきたのは玲央だった。

なんだかかわいらしい女の子と楽しげにしゃべっている。

見るからにデート。

え?

よくやるなあ全く・・・とつぶやく藍さん。

「基本的には尊敬しますけど私・・・あの人のああいう軽いところ、すごく苦手ですわ」

「・・・・・・その言い方は・・・ああいう人が何人かいるように聞こえますが?」

「・・・・・・・・・・いるんですよ。何人も」


次にやってきたのは石造りの塔のような建物。大裳(たいじょう)十番隊だ。

一階が隊士たちの詰め所になっているという。

隊士、というが、文官の色が濃い感じ。

天后隊の隊士とも違った印象だが、和装で眼鏡をかけてもくもくと何か書類を片付けている者が多い。

その一番奥の大きな机に座っている男性が、冷たい目つきでこちらを見た。

平安時代の衣冠のような衣装を身につけ、丸い帽子をかぶっている。

小さな丸縁の眼鏡。ダークグレイの髪に黒い瞳。

「三日月さん・・・何か御用でも?」

「今日は隊長に・・・」

にっこりする藍さんの横で頭を下げる。

通されたのは2階の部屋。

そこは外観とは異なり、畳敷きの小さな部屋で、茶室のような造りになっている。

隊長は今まで見た中で一番高齢だった。

やはり衣冠のような服装で、年齢のために灰色になってしまった髪、皺の深い顔。

前髪で表情が読み取りにくい。

僕たちにお茶をふるまってくれながら言う。

「隊長の高倉柳雲斎(りゅううんさい)じゃ」

少し間を置いて言う。

「下におったのが、伍長の橋下左右輔(そうすけ)

まず、僕の前に茶碗を差し出す。

「ここは他の隊とは趣が違っておりましょう?」

「そうですね・・・」

「他の隊は血気盛んな若いのが多いからのう・・・ここは都の様々の争いごとを裁く場。こういった場にはわしのような、年ばかりくった者が適任と・・・王が判断されたのでしょう」

「そんなことないですよー先生!」

藍さんがいきいきと言う。

「右京さま、高倉先生は私が士官生だった頃の『神道(ジンドウ)』の先生なんですよ」

『神器』の扱い方を『神道』と言うそうだ。

「引退された今でもすごく強くて」

「ふぉっふぉ・・・相変わらず三日月はおしゃべりじゃの」

丁寧な手つきで茶器を扱いながら言う。

「三日月は学年でも一・二を争う遣い手じゃったが・・・若い嬢さんはおしゃべりで気分屋での・・・手を焼いたものですわ」

もーそんなあ、と言いながら懐かしそうな藍さん。

そこに戸を勢いよく開けて入ってきたのは、橋下伍長だった。

「柳雲斎先生、お時間が」

「おお、左右輔。そうじゃったの」

橋下伍長は藍さんをじろっとにらんで言う。

「先生は大変ご多忙でいらっしゃるので・・・ご挨拶が済まれたらお引取り願えますかね?」

「相変わらず橋下伍長は冷たいなぁ」

甘えたように言う藍さんに、別に冷たくなんて、と言う橋下伍長。

「ここは沈黙を美徳として、人々の声に耳を傾け公正かつ適正な判断を行う場ですからね・・・あなたのような威勢のいい方に、この静寂を乱してほしくないだけですよ」

私ちょっとあの人苦手なんですよね・・・と後で藍さんに言われた。

「白虎隊はもう戻ったかなあ」

大裳隊舎を出て歩きながら藍さんがつぶやく。

「西は治安が難しいですからね、こうやって集いがあってもすぐ戻ってしまわれるんです」

紺青は北・東・南の統制はほぼ整い、西へと領地を伸ばしているところだ。

「ミカさん!!」

後ろから声。

走りよってきたのは若武者のような姿の青年。

黒髪をうしろで一つに束ね、前髪を真ん中でわけている。

青い瞳は生き生きとして強い存在感を感じさせる。

「あー!内海(うつみ)伍長!」

手を振って応える藍さん。

「内海伍長はやめてくださいよー!ミカさんに呼ばれるとなんかくすぐったいです」

にっこり笑って言う。

「右京さま、こちら白虎十一番隊伍長の内海蔵人(くろうど)さん・・・草薙伍長の大親友です」

「へえ・・・草薙さんの?」

龍介(りょうすけ)は同期なんですよ・・・で、ミカさんは僕らの一期先輩で」

ちょっとびっくりした。藍さんの方が草薙さんより年下なんだと思っていた。

「士官学校は16歳から18歳くらいで入学する慣わしで、特に入学年齢は決まってませんから。それにミカさんは異例の14歳で入学したんで・・・もう超有名人でした」

それにかわいいし、と付け加えてウインクする。

なんだか草薙さんとは印象が全然違う。

白虎隊の本陣は先に西の拠点に戻り、隊長・伍長は今日姫への報告を全て済ませ少数の隊士と共に西へ戻るところだと言う。

「そうそう!孝志郎さまが、右京さまに会いたがってました。一緒に行きしょうって言ったんですけど、誰も西陣にいなくなるのは危ないからって留守番してくださいました」

騰蛇隊は東西南北の陣を回る・・・と聞いていたが、今は西にいるってことか。

「本当はミカさんに会いたいんじゃないかなぁーって、思いましたけど」

嬉しそう笑う内海伍長に、あきれたようにそんなんじゃありませんよと藍さん。

「いつも無線でしゃべってますから・・・仕事のことばっかですけどね」

「・・・仕事熱心なんですね、お二人とも。幼馴染だったら話したいこと沢山ありそうなのに」

感心して言うと、藍さんはちょっと暗い顔でつぶやく。

「・・・あの人は仕事のことにしか関心ないですもん」

聞き返すと、慌ててなんでもないです、と言って笑う。

そこに大きな影。

「おお、三日月か、久しいなあ!」

藤堂(とうどう)(ごう)隊長だという。細面の顔を半分覆う真っ黒なサングラスをかけ、黒い長い髪をオールバックにして後ろで束ねている。袴姿の上に、隊長の濃紺のローブをまとう。

両方の腰に、大きな剣を一本ずつさしている。

藍さんが、『神器』コレクターの藤堂隊長です、と耳打ちする。

「右京さまって言ったか。『水鏡』を手にするなんてすごい強運だなぁ!?うらやましいことこの上ない!」

大きくよく響く低い声で言う。

「じっくり見せていただけると嬉しいのだが、今日は時間がなくてなぁ!またの機会に是非!!」

僕の右手を両手で握ってぶんぶん振って言った。


あと2つなんですけど・・・と藍さん。

涼風(すずかぜ)隊長のところは明日でもいいかも知れませんね。あの人はこの時間帯は籠もってますから・・・」

「籠もるって、どこに?」

「図書館です。書物方に任命されてて王立図書館長をやってるんですけど、色々調べもので広い図書館の奥の奥に籠もってるんです。私もよく行きますけど会えないこともしばしばで」

「藍さん本好きなんですか?」

藍さんがええ、とっても!と笑ったその時。

背後で人々の悲鳴。

走って向かうと、なにかわけの分からないものが暴れていた。

人間くらいの大きさの泥の塊のようなもの。うじゃうじゃと50体くらいいる。

家を壊し、人々を殴り倒しながら城に向かっているように見える。

周囲の人に低い声で何があったんですか?と藍さんが聞く。

「突然・・・井戸からあいつらが飛び出してきたんですよぉ・・・・・・私ら何がなんだか・・・」

「草薙伍長!三日月です!!」

無線を取り出して藍さんが報告をする。

裏道を走り、先回りした大通りでオンブラらしき一群の前に立ちはだかった。

藍さんは二つの脇差を抜くと、クロスさせて唱える。

『スノウイング』

すると交差させた所から雪吹雪が丸く集約されたようなものが浮き上がり、青白く光った。

狙いを定めて一群の真ん中に放つ。

あたったオンブラたちは一瞬にして凍りつき、粉々に砕けた。

それでもまだ一部。

僕も・・・と思い、『水鏡』を抜こうとすると藍さんに制止された。

「右京さまはまだ扱い方に慣れてらっしゃらないんですから!いたずらに命を吸われてしまうだけです!」

「・・・でも!!!」

そのとき。

「心配には及びませんよ、右京さま」

背後から声。

見るとおかっぱ頭の男性が立っていた。

青い髪に紺色の瞳、スタンドカラーのシャツの上に濃紺のローブ。

背後には17・8歳の少年たち。みな同じ濃紺の軍服に身を包み、サーベル・ダガー・日本刀など思い思いの武器を手にしている。

少年たちの中には十数人、黒い軍服の大人が混じっている。

「ここは我々にお任せを」

「高瀬隊長!右京さま、こちら天一(てんいつ)六番隊の高瀬聖(ひじり)隊長と、天一隊のみなさんです!それと・・・」

「今、『神器』の講義の演習の最中だったんです」

天一隊の脇から、三編みの女性が現れる。

紺色の髪に黒い瞳、おっとりした口調だが、真面目そうな印象を受ける。

「私、伍長の槌谷(つちのや)鈴音(すずね)と申します。ちょうどいい実戦練習になりそうですので、ここは士官生たちにお任せくださいませ。」

「よろしくお願いします!!!」

声をそろえて言う士官生に若干圧倒されて、藍さんと二人後ろに下がる。

「出撃!」

高瀬隊長の声に合わせて士官生達は雄たけびをあげながらオンブラに突進していく。

まだ士官生・・・と言っても選ばれた少年たちなのだろう。次々に倒していく。

はっとする場面もあるが、そこは隊士が的確にフォローしている。

そうしてものの30分ほどの間にオンブラを壊滅させた・・・と思ったその時。

今まで倒したオンブラの泥の残骸が突然一つに集合し、大きな塊になって襲い掛かかる。

その先には高瀬隊長。

『シルフィード』

手にしたレイピアの先から大きな風が巻き起こり、塊は瞬時に吹き飛んだ。

・・・これが、隊長の『神器』の力。

歓声を上げる士官生たちを横目に、服の乱れを直すと、高瀬隊長は僕らの前に立つ。

「相変わらず激しいですね、高瀬隊長・・・」

苦笑いする藍さんに、穏やかに微笑むと高瀬隊長は澄まして言う。

「何事も実戦第一。これが私のモットーだからね」


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