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Ep27 舞(後)

『氷花』とトンファーがぶつかり合い、鋭い金属音が響く。

一度後退して、再度仕掛ける。

彼女も構えなおして向かってくる。

激しい攻防の中、彼女は落ち着いた声で言う。

「全て、分かったのだな?」

「いいえ・・・でも、だいたいのあてはついたわ」

「そうか。それは話が早い」

急に獲物を大きく振りかぶると、叩きつけるように振り下ろす。

それと同時に先から炎の塊が飛び出し、ぶつかってきた。

「うっ・・・!」

腹部に直撃し、吹き飛ばされる。

背中から倒れ、起き上がった瞬間。

目の前に無数の炎の塊が飛んでくるのが見えた。

「あ!!!」

慌てて『氷花』を構えるが間に合わず、全身に炎の直撃を受ける。

服や髪の焦げる匂い・・・肌を焼かれ、激痛が全身を走る。

前のめりに倒れ、思わずうめき声を上げる。

十六夜舞は冷たい視線をこちらに向け、ゆっくりと近づいてくる。

「・・・もうおしまいか?」

「うう・・・・・・」

「舞・・・情けないぞ。お前はこんなものではないはずだ」

「あ・・・なた・・・は・・・・・・」

「この場所を・・・覚えているか?」

立ち止まると、彼女は訊いた。

「ここ・・・・・・?」

「覚えてはおるまいな。ここは・・・」

感情のない声で、はっきりと彼女は言う。

「『小春』の死んだ場所だ」

火傷とは別の、鈍痛が頭を走る。

「お前の中から消え去った過去の記憶。それが『神器』の力を借りて人の形を成したのが・・・この私だ」

『アンスラックス』がきらっと赤く光る。

痛みをこらえて立ち上がり、『氷花』を構えて彼女をじっと見据える。

「立ち上がったな。さすが・・・舞だ」

「教えて。あなたは一体どうするつもりなの?」

「長い間一人、各国を彷徨った」

つぶやくように彼女は言う。

「長い長い夢を見ていたようだったが・・・それもじき終わろう」

「どういう意味!?」

感情のない瞳でこちらを見つめる。

そして、肌を覆っていたベールを脱いだ。

その姿は、間違いなく・・・私だ。

「私はもう『アンスラックス』を制御することが出来なくなってきている。この意志もやがて消えてしまうだろう。その前に・・・この記憶」

「私に返す・・・って言うの?」

彼女の意志。

人為を超えた力、『オンブラ』の力を借りればもしや・・・存在し続けられるのではないかと彼女は考え、孝志郎に付き従った。しかしその望みも手遅れと知り、せめて私に自分の記憶だけでも託そう・・・と考えているのだろう。

「しかし、ただでと言うわけにはいかん!」

彼女が右手を高く掲げると、炎の渦が彼女の周りに集まる。

『氷花』を構え、『神力』を集中させる。

「お前が私の主となるべき力の持ち主か・・・試させてもらう!」

「・・・のぞむところよ!!!」


『圧』!!!

唱えると『蝉丸』の先端から放たれた風圧が大虎にぶつかっていく。

大虎は鋭く叫び声を上げ、四肢を強張らせたそのままの姿勢でずるずると後退する。

しかし、かっと口を開くと、そこから同じような空気圧の砲弾が放たれ、俺の力をはじき返し、その力もろとも俺に向かってきた。

「う!!!」

数十メートル後方の城壁に全身を叩きつけられる。

そして、地面に崩れ落ちる。

骨がきしむような感覚。

咆哮を上げ、上体を低くして飛び掛ってくる大虎。

まずい!

体を反転させて、その鋭い牙を薙刀で食い止める。

牙が薙刀の柄に食い込むがちんという大きな音と、鋭い衝撃。

虎はぐるぐるといううなり声を上げながら、ぐいぐいと押してくる。

その力は並大抵のものではない。

ダメージを受けた体ではなんとか食い止めるのが精一杯だ。

腕ががたがたと震えてくる。

その時。

『蝉丸』が鋭い金属音を立てて、真っ二つに折れた。

「何!?」

刃先のほうをかろうじて掴んだまま、噛み付いてくる虎の牙から寸でのところで逃れる。

そのまま全力で走り、距離をとる。

・・・信じられない。

『神器』が・・・折れるだと!?

虎は走る俺に急速に追いつくと、前肢を大きく振り上げて、一閃した。

「ぐうっ!!!」

ほとばしる血。

その爪は鋭く、ざっくりと俺の体を引き裂く。

倒れると同時にからん、と音を立てて手から転がり落ちる『蝉丸』。

全身を走る痛みをこらえ、手を伸ばす。

一声咆哮を上げると再び襲い掛かる虎。

『圧』!

なんとか手もとに『蝉丸』を引き寄せると、虎の腹部めがけて唱える。

不意をついた攻撃に、虎は叫び声をあげて後退する。

『蝉丸』を杖のようにして、なんとか立ち上がる。

「お前が何者かは・・・知らぬが」

自分を奮い立たせるように言う。

「俺は隊長を連れ帰るまで・・・倒れるわけにはいかんのだ!」

再度薙刀を振りかざすと、奴の右目を突く。

『ギャァァァ!!!』

わめき声を上げて大きく首を横に振る。

それに巻き込まれて、また地面に叩きつけられる。

「うっ・・・」

虎は目を真っ赤に光らせて、全身からずん、と圧力を放つ。

折れた『蝉丸』では回避することが出来ず壁に叩きつけられ、体を圧力に強く押し付けられる。

圧迫されて呼吸が出来ない。

なんとかうっすら目を開ける。

虎は真っ赤な目で俺のほうをじっと睨んでいる。

『グォォォ!!!』

ほえるとそれまで板のようになっていた空圧がふっと消える。

そして弾丸のように細かく分散して俺の体に突き刺さった。

防御の姿勢もとれず、全身に被弾する。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

骨が砕けるような痛み。

地面に倒れる。

背中にずん、と重みを感じ、虎の爪が深く食い込む。

うめき声を上げるが、そのまままた圧力の壁に、今度は上方から押しつぶされる。

・・・・・・苦しい。

意識がだんだん遠くなっていく。

このままでは・・・


『遠矢!!!』


隊長の怒鳴り声が聞こえたような気がして、はっと目を見開く。

その瞬間。

折れた『蝉丸』が白く光り輝き、一つになって俺の右手に飛び込んできた。

少しだけ体に力が戻ったような感覚。

そうか・・・一緒に戦ってくれるのか。

力を振り絞って、寝返りを打つように上方を向く。

そして『蝉丸』をぐっと突き上げると、渾身の一撃を放った。

『忠』!!!

白い光が鋭い砲弾となって虎の頭を吹き飛ばす。

叫び声を上げながら、『トウテツ』は散り散りになって消えていった。


遠矢さんのほうは決着がついたようだ。

こちらは、お互いの『神力』をぶつからせたままの均衡状態が続いていた。

氷のバリアで周囲と取り巻く業火を防ぎながら、じっと反撃のチャンスを待つ。

しかし・・・だんだん薄くなっていく、青白い光。

なんて強い力。

先ほどの炎に焼かれた体は、燃えるような痛み。

ズキン、と全身を激痛が走り、一瞬集中力が途切れる。

その瞬間、襲ってくる炎の渦。

取り巻かれ熱風に吹き飛ばされる。

「あ!!!」

地面に叩きつけられ、じゅうっという焼けるような音がして黒い煙が上がる。

体が燃えるように熱い。

深く突き刺すような痛みに全身を包まれる。

「『氷花』・・・」

呼ぶが、その青く美しい刀は輝きを失っているように見える。

「どうした・・・本当に・・・・・・そんなものなのか?」

十六夜舞の声。

「その程度の主ならば・・・要らぬわ!!!」

業火が全身を焼き尽くす。

熱い空気が肺まで焦がすようだ。

痛い・・・苦しい。

駄目だ・・・このままじゃ。

孝志郎を・・・止めるんだ。

私は・・・

「死ね!!!」

負けない。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

叫ぶと同時に、全身凍りつくような吹雪が周囲に巻き起こる。

視界が真っ白になる。


『・・・早く・・・逃げ』

『小春さん!!!』

真っ白な雪の上に横たわる、彼女の姿。胸から流れる、真っ赤な真っ赤な血。

薄暗い空。粉雪は降り続き、動かなくなった彼女の上に少しずつ降り積もっていく。

寒さと恐怖で、がたがたがたがたと全身が震えている。

『・・・よくも』

低い声。

振り返ると、うつむいて両の拳を握り締めた少年の姿。

『風・・・』

風の周りの雪がみるみる解けていく。

恐る恐る手を取って、びっくりして放す。

・・・熱い。

『よくも母さんを・・・・・・』

きっ、と兵士達を睨んだ風の目は、赤く光っていた。

『許さない!!!』

その時。

風の体を炎が包み、それが周囲に広がる。

のどが焼け付くような熱い風が舞う。

ジュっという音を立てて、一気に解けていく雪。

燃えてたちまち黒焦げになる兵士達。

恐ろしい光景の中、風は目を真っ赤に光らせて。

『風!!!』

真っ赤に燃える風を抱きしめて叫ぶ。

『もう止めてーーー!!!』

青く白い光が二人を包み込む。


はっと目を見開くと、炎の渦は消えていた。

周囲の地面は霜が降りたように凍り付いている。

そして、倒れている十六夜舞の姿があった。

がくっと膝の力が抜け、座り込んでしまう。

「隊長!!!」

遠矢さんが十六夜舞に駆け寄る。

『近・・・寄るな・・・』

普段とは確実に異質な声で、彼女はつぶやく。

「私の・・・勝ちだわ」

『そうだな・・・安心したよ』

勝ち?

・・・いや、何か違う。

『お前の記憶・・・確かに返した』

「ええ」

『・・・よかった・・・』

彼女はうっすらと目をあけ、つぶやいた。

その目は、真っ赤に光っている。

違う、まだだ!

『これで・・・やっと・・・・・・』

彼女の目よりもまぶしく輝く『アンスラックス』。

「遠矢さん!離れて!!!」

突如彼女の全身を包む、真っ赤な炎。

『アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

けたたましく笑う彼女にあわせ、その炎が燃え盛り、私と遠矢さんを吹き飛ばした。

ずん、と体を地面に打ちつける。

起き上がって見たものは・・・

『マダマダ遊ビ足リナイ!モット遊ボウ!!!』

焦点が定まらない目で、裂けた口で笑いながらこちらを見る十六夜舞の姿だった。

呆然とその姿を見つめる遠矢さん。

「どういう・・・ことだ!?」

彼女は・・・喰われた?

『アンスラックス』に?

「あれは・・・『妖器』です・・・おそらく」

『妖器』は契約者を時に喰らう。

そしてその体を乗っ取り、ああやって『踊る』のだ。

『アハハハハ!!!』

高らかに笑うと、彼女は高く浮上する。

そして、両手を高く掲げると、そこに彼女の身長の3倍はあろうかという巨大な炎の剣が現れる。燃えるような熱風が周囲を包む。

『死ネ死ネ死ネ死ネェェェーーー!!!』

大きく剣を振りかざす。

「『氷花』!!!」

呼びかけると、『氷花』が青く眩し光を放つ。

「たぁぁぁ!!!」

二つの力が大きくぶつかり合う。

じゅうっと氷の解ける音を立てながら、じりじりと押される。

さっきの後遺症もあって、全身が焼けるように痛む。

『シブトイジャナイ!?サッサト死ネバイイノニ!!!』

「十六夜隊長の仇の・・・あんたなんかに負けるわけにはいかないんだよ!!!」

全身からまた凍るようなエネルギーが放出される。

それが『氷花』に集まり。

すさまじい冷気が炎を一瞬ではじき返す。

『キャァァァァァァ!!!!!』

吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる彼女。

しかし、むくっと起き上がると、にやっと笑ってこっちを見た。

『アハハハハ!超楽シイ!!!』

「あんた頭おかしいんじゃないの!?」

彼女は炎を小さな剣の形に変えると、今度はそれを矢継ぎ早に放ってくる。

「ぬぅ!!!」

「うぅっ!!!」

炎の攻撃は私と遠矢さんの体に鋭く、何度も突き刺さる。

『マダマダマダマダ!!!』

今度は一回り大きな大砲の弾状の炎の塊が幾つも飛んでくる。

避けきれない!

「きゃあ!!!」

「三日月!!!」

直撃を受けた右足の感覚が無い・・・立ち上がろうとするが、激痛が走って崩れ落ちる。

『残念ダケドオシマイダネエ!』

けらけらと裂けた口で笑う彼女。

『トドメダ!!!』

業火が蛇の形を成し、うねりながら喰らいつくように襲い掛かる。

・・・させるか!

上体を起こして『氷花』をクロスさせる。

・・・まだ、やれるはず!

全身から『神力』が放出され、青白い閃光がほとばしる。

周囲が一瞬で白くなるほどの冷気。

『ダイヤモンドダスト』!!!

炎の蛇を凍らせ、その先にいる十六夜舞を凍りつかせた。

『ヒィッ!!!』

地面にどさっと倒れる。

動かない。

「・・・やったか?」

しかし、倒れた彼女は、またけたたましく笑い出した。

『マダマダマダマダマダ!』

むくっと起き上がる。

『モット遊ボウ!』

しかし、その炎は明らかにさっきよりも威力を失っている。

『ネエ、モット遊ボウヨ!!!』

ごおっと音をたてて燃え上がる彼女。

その時だ。

遠矢さんが駆け寄ると、燃え盛る彼女を抱きしめた。

炎の熱さに顔をゆがめる遠矢さん。

「うう・・・」

『何ヲスル!?』

炎が勢いを増す。

炎上する十六夜舞と、遠矢さんの姿。

「遠矢さん!!!」

「十六夜隊長!!!」

遠矢さんが叫ぶ。

「あなたの気持ちは十分に分かりました・・・」

『何ヲ言ッテルノ!?』

「遠矢さん!その人は十六夜舞では・・・」

「黙れ!三日月!!!この人は紛れもなく、十六夜隊長だ!!!」

私に怒鳴り返すと、遠矢さんは続けて言った。

「隊長・・・よくわかりました・・・あなたの・・・寂しさ」

!?

燃え盛る炎の中、苦しそうに、しかし一言一言大事に遠矢さんは呼びかける。

「だから・・・帰りましょう」

『意味ワカラナイ!ドコヘ帰ルッテイウノ!?』

「太陰隊へ・・・あなたの『居場所』へ」

『何!?』

「聞こえてるんでしょう?隊長・・・こんな化け物に負けるなんてあなたらしくありません」

『黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ!!!!!』

苦しそうに叫び狂う彼女。その混乱に合わせて炎は更に勢いを増す。

その小さな体を強く抱きしめて、遠矢さんは優しく言った。

「皆・・・あなたの帰りを待っています」

しゅうっと音を立てて、その炎が小さく小さくなっていく。

彼女が目を閉じると、最後の炎もふっと消えた。

『遠矢・・・』

弱々しい声・・・しかし、それは彼女“自身”の声だった。

パキン!

大きな金属音を響かせて、何かが砕ける。

それは彼女の耳の・・・『アンスラックス』。

右足を引きずりながら近づいて、そのかけらに触れる。

ビー玉くらいの大きさのかけらのいくつかに砕けたその『神器』。

触れて分かった。

この子もまた・・・『オンブラ』に支配されていたのだ。

かけらを集めてぎゅっと握り締める。

遠矢さんは十六夜舞に優しく笑いかけると、言った。

「お帰りなさい、隊長」

小さくなった彼女を背負う。

そして城門へ・・・太陰隊舎へ向かった。


遠矢さんの背中の小さな体は青白く光り、だんだん空気に透けていく。

駆け寄ってくる沢山の足音が聞こえる。

「隊長!!!」

「十六夜隊長!!!」

それは、太陰隊の隊士達だった。

皆に囲まれ、次第に透明になっていく十六夜舞は遠矢さんに微笑みかける。

『遠矢、ありがとう。私・・・すごく楽しかった』

「隊長!」

『あなたたちに会えて・・・生まれてきてよかったって、初めて思えた』

声なく涙を流す隊士たちは、彼女の言葉に神経を集中させている。

『幻みたいな存在だったけど・・・誰かに覚えていて欲しかったから』

「私達は・・・あなたのこと、絶対に忘れたりしません!」

彼女を抱きしめて涙を流しながら、遠矢さんはきっぱりと言った。

十六夜舞の頬を、涙が一筋流れた。

『・・・舞?』

呼ぶか細い声に答える。

『忘れないで・・・私のこと・・・小春さんのこと・・・』

「忘れないわ・・・あなたが持っていてくれた大事な思い出も、全部・・・」

『よかった』

微笑むと、彼女の体が更にまぶしく光り輝く。

そして、ふっと蝋燭の炎が風に吹き消されるように消えた。

「隊長ーーー!!!」

遠矢さんと隊士達の声が、彼女の姿の消えた太陰隊舎に響いた。


しかし、それだけで終わらなかったのだ。

駆けつけた僕たちの目の前に現れたのは、もう一体の『オンブラ』。

太陰隊舎の井戸から轟音と共に飛び出してきたのは、大きな魚の形の『ハカ』。

「あれは・・・孝志郎の連れていた・・・『竜生九子』の一体か!?」

来斗さんが言う。

目を青く光らせて空中で体をくねらせると、尾びれで隊士達を叩き飛ばした。

「ぐわぁ!!!」

体格のいい彼らもその力の前にひとたまりもなく、無抵抗に吹っ飛ばされる隊士達。

遠矢さんは『蝉丸』を構えようとするが、全身の怪我の痛みと疲労で、どさっと倒れる。

僕と草薙さんと来斗さんが『神器』を構えるが。

くるっとこちらに向き直ると、その大魚は口から大量の水を吐き出した。

「うっ!!!」

その水圧に、僕たちはズズズ・・・と後退する。

耐えかねて身をかわすと、僕らのいなくなった背後の木がその水圧に押し倒された。

その時、遠矢さん同じように全身に火傷を負い、傷だらけの藍さんがその大魚の前に立ちふさがる。

右足を・・・引きずりながら。

「三日月、さがれ!!!」

草薙さんが叫ぶが、藍さんはじっと大魚を睨む。

大魚は藍さん一人をめがけて大量の水を吐き出す。

しかし。

藍さんが右手を突き出すと、瞬時に炎のシールドが広がり大量の水を弾き飛ばした。

目が赤く光る。

『貴船』!

すると右手のひらからすさまじい炎が噴き出し、大魚を一瞬にして包む。

その炎の勢いはこちらまで熱風が吹き付けてくるほどだ。

『キィィィ!!!!!』

大魚はすさまじい声を上げて、その燃え盛る炎の中で灰になって消えた。

ぼんやりと大魚の消えた虚空を見つめる藍さん。

そして、ふらっと倒れた。

「藍さん!!!」

駆け寄って起こすと、その顔は真っ青だった。

「大丈夫か!?・・・どうやったんだよ今の!?」

草薙さんが駆け寄って言う。

これ・・・と言うと、藍さんは握り締めていた左手のひらを僕達に見せる。

「これは・・・?」

来斗さんが訊く。

「『アンスラックス』のかけら・・・ちょっと・・・疲れた」

ふらっと僕の腕の中に倒れながら、薄れていく意識の中で藍さんはつぶやいた。

「力の使い方覚えないと・・・まずいかも」


オンブラの報告に、藤堂隊長は青ざめて叫んだ。

「何だと!?あの・・・十六夜が」

周囲の隊士達も大きく動揺している様子。

孝志郎様は、冷たく言った。

「あいつ・・・このところおかしかったからな」

『ああ・・・仕方がなかろう』

『ベルゼブ』の声が大きな黒い水晶玉から聞こえる。

『しかし・・・城に近づくことも出来ぬとは、情けないこと』

「すまねえな。多分あいつは・・・最初からそのつもりだったんだろう」

「散り際の美学・・・だね」

一夜さんがつぶやく。

「うらやましい、とか言い出すんじゃねえだろうな?」

笑いを含んだ声で孝志郎様が聞く。

振り返って楽しそうに笑った後、少し真剣な目になって言う。

「その通りだって言ったら・・・どうする?」

ちっ、と舌打ちする孝志郎様。

その時、力哉さんが低い声で言った。

「僕にも、行かせてもらえませんかね?」

「お前に・・・やれんのかよ!?」

藤堂隊長が恐い顔で言う。

「そんな顔しないでくださいよ・・・まぁ、見ててください。ね、孝志郎様?」

「ああ。だが分かってるとは思うが・・・失敗は許されねえぞ!」

にやりと笑うと力哉さんはつぶやいた。

「・・・お任せください」


イメージBGMは『最終鬼畜妹フランドール・S』で・・・

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