Ep24 花蓮
「西の様子はどうや?」
無線で風牙に呼びかける。
『はい!万事順調です!!あんなことがあった後ですけど、白虎隊の人たちちゃんと仕事は滞りなくやってたみたいで、あとを引き継ぐような形でうまくいってます』
「そうか・・・」
ひとまず、よかった。
だが、あの反乱軍の構成を考えると、彼らは西に潜んでいる可能性が高いのではないかと、来斗と昨夜話したばかりだ。
「風牙、変わったことがあったらすぐ報告するんやで!」
『了解です!ご心配なさらず』
愁さん・・・と、呼びかけてくる。
『僕・・・愁さんがこっちに残ってくれて本当に良かったって思います!』
「何や急に・・・僕が寝返るなんて、お前そないなこと思ってたんか!?」
焦ったような声でそうじゃないですけど!と言う。
『でも、孝志郎様が行っちゃって・・・僕信じてましたけど、でも1%、いや、0.0001%くらい不安だったんですよ!だから・・・嬉しいんです!』
はっきりした声で言った。
『浅倉隊長!僕精一杯頑張りますから、一緒にこの国、守りましょうね!!!』
燕支の城門をくぐると、沢山の歓声に迎えられた。
不安が払拭されて、肩の力が抜ける。
色々あったし、これからなかなか戻れなくなるかもしれないからと、霞姫の配慮で一度燕支に帰らせてもらえることになったのだ。
出迎えてくれる父上と母上の笑顔。
兄貴達は若干難しい顔をしていたが・・・でも、笑顔には違いなかった。
「紺青は、大変だったようだな」
「・・・はい。しかし玲央もおりますし、なんとかやっております」
「・・・一ノ瀬総隊長の・・・・・・反乱とか」
こんな遠くの小さな国にも、そういう話題はもう伝わっているようだ。
「しかし、朱雀隊の浅倉隊長始め十二神将隊のほとんどの隊に欠員はありませんでしたし・・・問題はありません」
脳裏に一夜さんの笑顔が浮かんで、消えた。
「そうか・・・くれぐれも、体には留意してな」
「はい!父上。お気遣いありがとうございます」
町外れの庵に向かう。
戸をあけて、大きな声で呼びかける。
「師匠!!!」
遠くから、はあい、と言う間の抜けた声が聞こえる。
振り返ると、傍の川原から戻ってくる女性の姿が見えた。
長い栗色の髪を後ろで一つに束ね、薄緑色の着物に黒い袴姿。
腰には日本刀を差している。
僕だとわかるとびっくりした顔をして、嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。
「右京!右京じゃないの!!!」
僕の師匠・・・花蓮様だ。
「ひっさしぶりねぇ!・・・ちょっと痩せたんじゃない!?ちゃんと食べてる!?」
近所のおばさんのような反応。
年はおそらく40過ぎくらいなのだが30そこそこにも見える、若々しい人だ。
女性でありながら、剣術の腕前は並の男性など足元にも及ばない。
庵の中で色々な話をする。
紫苑兄様が亡くなってすぐ後この国にやってきた花蓮様とは、父や母や兄よりも長い時間を一緒に過ごしてきた。
すごく厳しかったが、本当に心から僕を思ってくれる人だった。
「花蓮様は・・・紺青のご出身でしたよね?」
「そうだけど・・・なんで?」
「ご結婚とか・・・されてたんですか?」
ただそれだと・・・若すぎるかな、と思いながら。
「う〜〜〜ん、そうだなぁ・・・・・・・・・」
ちょっと難しい顔をするが、はっきりと言う。
「右京ももう大人だし、言っちゃうけど・・・子供がいたの」
「え!?」
「勿論旦那さんて呼べるような人もいたんだけどさ・・・色々事情があってね」
「・・・別れちゃったんですか?」
「・・・まぁ、お互いのためとか言ってね」
深刻な話だというのに、花蓮様は何でもなさそうに言う。
「・・・娘さん、ですか?」
「そうだけど・・・あなた、何で分かるの?」
「その娘さんて・・・」
思い切って聞いてみる。
「『藍』って名前じゃなかったですか!?」
「藍?」
きょとんとした顔。
そう、僕が藍さんに会ったときから感じていたこと。
再会してみて実感した。
花蓮様と藍さんは・・・・・・よく似ている。
「藍・・・じゃないけど」
え?
「違うんですか!?」
「私の娘は・・・『舞』って名前だったよ?」
舞?
・・・それって、一体。
「今元気だったらそうねぇ・・・24とかじゃないかしら。右京の心当たりがある子が藍て名乗ってるのなら、もしかしたら・・・旦那さんが名前変えちゃってるのかも知れない、何か事情があったのかも」
「・・・そんなに、すらすら答えてもいいんですか?」
けらけら笑う。
「いいのいいの。どうせこんなおばちゃんに今更、誰も興味なんてないんだから」
「旦那さんの名前も・・・聞いてもいいんですか」
「『秋風』よ」
聞き覚えのない名前に、ちょっとだけほっとした時。
またも僕は・・・自分の耳を疑うことになる。
「下の名前は『秋風』。確かね・・・『朔月秋風』だったと思うわ」
朔月邸。
久々に訪れてみようと思ったのには、別に何の理由もないのだったが。
呼び鈴を鳴らすが返事が無い。
留守なんだろうか。
出直すか・・・と思っていると、庭から話し声が聞こえる。
「無事で・・・何よりだったな」
「ええ・・・お陰様で」
それは、師匠と藍の声。
どういうことだ?
「お前は・・・離反は考えなかったのか?」
「へぇ・・・いきなりそれ?」
冷たく言い放つ藍。
「私は一切聞いてなかったんだもの。様子がおかしいと思って探ってうろうろしてたら、疑われて閉じ込められて。えらい目にあったわよ、まったく!」
「そうか・・・安堵したよ」
師匠の優しげな声。
こんな声・・・珍しいことだ。
「安堵・・・じゃないでしょ!?」
「なぜだ?」
「あの人・・・十六夜舞は・・・・・・行ってしまったじゃない」
「ああ・・・そうだったな」
少し間が出来る。
「・・・いい加減」
藍が口を開く。
「教えてくれてもいいんじゃない?」
「何をだ?」
「とぼけないでよ!あの人・・・『十六夜舞』って・・・何者なの!?」
師匠は答えない。
「あの人・・・私が大学校の学生だった頃・・・孝志郎や愁が入隊した頃からいるけど、全く年を取らないじゃない」
「なぜそれを・・・私が知っていると思うんだ?」
「あの人・・・時々ここへ来てたわ」
それは意外な事実だった。
「あなたの・・・差し金なの?私ね・・・大裳隊の牢獄に閉じ込められてるとき・・・何回か見たのよ、あの人」
・・・何だって?
「窓もない部屋だったけど、外界と唯一接してる扉ののぞき窓ごしにね、あの人・・・・・・こっちをじっと見てた。感情の無い目で、何にも言わずに・・・」
「それは初耳だな・・・私もあずかり知らぬところだ」
「今も時々夢に見るわ、あの目・・・」
混乱したようにまくし立てる藍。
「ねえ、あの人は何者なの!?私をどうしようとしてるの!?」
「そのことはいずれ・・・話すときも来よう・・・・・・」
「お父さん!?」
え?
動揺して、がさっと物音を立ててしまう。
「何者だ!?」
息を潜め、気配を消す。
・・・なんとか、やりすごしたようだ。
「とにかく、今はゆっくり休め」
師匠は藍を抱きしめると、言った。
「いつか全て・・・分かる日が来るさ」
「花蓮様!僕ぜんっぜん意味が分かりません!!!」
「私だって、あなたが何をそんなに動揺してるのか全然意味分かんないわよ」
混乱して言う僕に、愉快そうに笑って言う花蓮さま。
都のこと、色々聞いた・・・とちょっとトーンを落として言う。
「孝志郎、だっけ。王の血を引いてたとか・・・」
「そんなこと・・・どこで!?」
紺青の人、十二神将隊の人間だってほとんど知らないことなのに・・・
「旦那さんから・・・聞いたんですね?」
「・・・まあね」
今でも連絡を取り合っている、ということか。
よく見ると、奥の道具箱の上に紺青でよく見かける無線機が置いてあった。
「・・・たく、あのエロおやじときたらふてえもんだわ」
「でも・・・亡くなったんですよ?」
「知ってる知ってる!でもさ・・・当然よね」
厳しい目つきで壁を見つめ、つぶやくように言った。
「私だってあいつに恨み、あるもの」
「何か・・・」
「私じゃなくて・・・私の義理の妹なんだけどね」
「その人って・・・今は」
「死んだ。あのお姫様が生まれたときにね、粛清にあって殺されちゃったの」
「霞姫が・・・生まれた時に・・・・・・?」
いつも笑顔で陽気な花蓮様が、こんなに暗い顔をしているのは初めて見た。
「ねえ、右京・・・」
厳しい目つきのまま、じっとこちらを見て言う。
「あの国にはね・・・あなたが思ってる以上に、深い深い闇があるのよ?」
久しぶりに城の中を歩く。
ちりん、と鈴の音がする。
黒いつややかな毛並みの、霞姫が中庭に佇んでいた。
横には・・・霧江姫も。
「藍は・・・知っていたの?父の・・・」
「ええと・・・あくまで噂として、ですけど」
「私が生まれたときに、関係があった女性やその人との間の子供を重臣達が一斉に粛清した・・・という話も?」
「・・・噂では」
そう、とつぶやく霞様。
その様子ではおそらく、彼女達も知っていたのだろう。
「私・・・父が大嫌いだった」
霧江様が言う。
「私達が生まれた後は、もうそういうことはなかったみたいだけど・・・それでも、家臣達が噂してるのとか嫌でも耳に入ってきたもの」
「私は・・・自分が生まれてきたこと・・・・・・呪ったこともあったわ」
霞様がつぶやく。
「でも・・・私はその人達の犠牲の上で生きてるんだもの。どんなに呪われた身であっても、生きるしかないのね」
「でも・・・なんていうか、代々そういうことは行われてきたんじゃないんですか!?確か先代の王にも何人か・・・て・・・噂ですけど」
あなたはいろんなことに明るいのね、と霞様が言う。
「血筋を絶やさないってこと、そして属系の一族を残さないってことに・・・ひどく神経質だったのではないのでしょうか?」
「王家には特別な『神力』があるんですって」
霞様が言う。
「昔母から聞かされたわ。それを守るために、仕方がなかったって」
「孝志郎は・・・何故、残ったのでしょうか?」
寂しそうに笑って言う。
「それは・・・わからないわね」
おそらく、生まれたのが女の子だったこと。それに粛清の対象とするには大きすぎたし、育った環境が目立ちすぎる。
孝志郎さえその真実を知らなければ、きっと、三公の一人として平和に暮らしていたに違いない。
一ノ瀬のおじ様は、本当に孝志郎をかわいがっていた。私にも分け隔てなく愛情を注いでくれた・・・とは言え、やっぱり孝志郎は特別なんだって子供心に思っていた。
「十二神将隊は・・・どうです?」
「総隊長の人選が・・・難航してます。草薙伍長ではちょっと・・・って言う声もあるし本人も嫌がってらっしゃいますし。ただでさえ今、人員不足ですからねぇ」
「あなたは・・・どうなの?」
「私!?」
びっくりして聞き返す。
「とぉんでもない!!!私は絶対絶っ対に無理です!!!」
庵を辞して城に戻る途中、色々と頭を整理した。
花蓮様と朔月公の娘が、藍さんだとすれば・・・
なぜ朔月公は自分の手元で育てなかったのか?それは勿論花蓮様もそうだ。
そして・・・『舞』という名。
20年前に一体、何があったんだろう?
林のほうから、悲鳴が聞こえた。
何だろう!?
走っていくと、そこには・・・オンブラの姿。
「う・・・右京様・・・・・・」
「ここは僕が!早く逃げるんだ!!」
村人を逃がすと、『水鏡』を抜く。
オンブラは、林の木々の姿をしており、数十体はいるかと思われた。
一人でどこまでやれるか・・・
いや、やらねば。
その時、背後から口笛の音が聞こえた。
「すっごーい、『水鏡』じゃない!?」
「花蓮様!?」
進み出てきて、僕の隣で止まる。
「花蓮様、危ないです!ここは僕に」
「まあまあ」
そういうと花蓮様は腰の刀を抜く。
不思議な水色の光を放つ刀身。
これは『神器』?
「『小狐丸』よ、右京・・・よろしくね」
刀を冷たい吹雪のような風が包み込む。
枝を鋭く尖らせてこちらへ勢いよく振りかざしてくる妖木に、花蓮様は狙いを定めると一太刀浴びせると共に唱えた。
『天花』!
凍てつく吹雪が木々を一斉に凍らせ、雪の塊がピストルの弾のように凍った木々に穴を開けていく。
たちまち前方の10本ほどが消えていった。
「さ、お次どうぞ、『水鏡』?」
『心得た』
花蓮様の呼びかけに答える、久しぶりに聞くその声。
「『水鏡』・・・お前」
『水鏡』が青い光を放つ。
「・・・行くよ!」
『水無月』!!!
一太刀。
さほど力は込めていないのに、いつもの倍以上の力で水の刃が木々を切り刻んだ。
満足そうに見つめる花蓮様。
「おっけ!どんどん行くわよ右京!!!」
すべてのオンブラを倒したとき、もう周囲は暗くなっていた。
肩で息をしながら聞く。
「花蓮様は・・・一体、何者なんです!?」
彼女はさっき、『水鏡』と話していた。
「そうねえ・・・通常『神器』とその遣い手は、波長がばっちり合った時に会話が出来たりするもんなんだけど・・・私の場合、相手を選ばないわね。いつでも、誰とでも」
「藍さんは・・・『神器』の扱いが飛びぬけてるんだって・・・聞いてます」
「それ、きっと私に似たのね」
嬉しそうな顔をする。
「でもね、右京。あなたにも同じ血が流れてるのよ?」
「え!?」
「あなたのおばあちゃんは私と同じ一族の出身だったの。たまたま兄弟の中であなたにだけその『神力』と力が濃く出たのね・・・だから『水鏡』もあなたを呼んだんだと思うわ」
「そう・・・だったんですか」
「ただね・・・私の一族っていうのは紺青の王族の血筋からするとなんだか厄介者らしくて、20年前のごたごたでそれがばれちゃったから紺青を出たの」
「藍さんを隠したのはそれを・・・隠蔽するため?」
「まあ、そういうことになるわね」
仕方ない、というような淡々とした口調。
気づいたら、僕は声を荒げていた。
「そんなの勝手じゃないですか!!!藍さんは今まで一人ぼっちで・・・一生懸命生きてきたんですよ!!!親だ親だって言ってますけど、藍さんの苦しみとか寂しさとか、これっぽっちもわかってないじゃないですか!?」
藍さんは父親の顔をぼんやりだが覚えている・・・と言っていた。
あの、藍さんの朔月公に対する鋭い視線。責めるような話し方。
すべて、心の奥底の寂しさから出たものなのだろう。
ちょっとびっくりしたような顔をして、初めてね、とつぶやいた。
「あなたがこんなに強く、私に何か言うなんて」
「だって・・・」
しばらく黙っていた花蓮さまは星が出始めた空を見上げて言う。
「私も・・・会ってみたいな」
懐から無線機を取り出す。
「もしもし、秋風?」
『花蓮か・・・どうした急に』
そこから聞こえてきたのは確かに・・・朔月公の声。
「右京が帰ってきてるの、知ってるでしょ?」
『・・・彼がそこにいるのか!?お前、一体何を考えている!?』
「うるさいなぁ・・・20年会ってない旦那よりもかわいい弟子のほうが大事だもの、私は」
こういう言い方も・・・聞けば聞くほど藍さんぽい。
「それより、私右京と一緒に紺青に行くから」
『馬鹿!何を言ってるんだ!?』
「人手足りないんでしょ?私も頭数くらいにはなるわよ。それに・・・」
愉快そうな声で言う。
「私も会いたいわ、『藍』ちゃんに」
『・・・・・・好きにしろ』
右京どのそこにいるな、と声がした。
『孝志郎のことといい、そろそろ潮時だと思っていたところだ。いずれみなきちんと話す、だから・・・このことはくれぐれも』
「分かりました・・・」
更に楽しそうに付け加える花蓮様。
「・・・夏月の子供にも会いたいなぁ、私」
『それは・・・・・・』
黙り込む朔月公。
「駄目なら駄目でもいいんだけどさ。でも楽しみだな!ね、右京!?」
「そうですね・・・」
朔月公は着いたらとにかく自分のところへ来るように・・・と言っていたのだが。
それは不可抗力だった。
「右京様じゃないですか!?」
ぎくっと立ち止まって、振り返ると・・・見回り中の藍さんが立っていたのだった。
「お帰りなさいませ!長旅お疲れ様でした・・・って、あれ?」
じっと花蓮様の顔を見る。怪訝そうな顔。
花蓮様の方をゆっくりと見ると・・・目を潤ませている。
「舞ちゃん!!!」
藍さんに駆け寄ると、ぎゅーっと思い切り抱きしめた。
「な・・・何なんですか!?一体」
「右京!?絶対間違いない!この子よ・・・舞ったらこんなに大きくなって・・・」
「ちょっと待って!私は舞じゃありませんてば!」
体を離すと、まじまじと藍さんの顔を見て聞く。
「もしかして・・・覚えてないの?」
「何をですか?」
「3つか4つくらいのときのこととか・・・」
うーん・・・と頭を抱えて考える藍さん。
「右京様この方どなたなんですか?」
「僕の・・・師匠の花蓮様です」
「では花蓮様?私、申し訳ないんですけど・・・5歳くらいの頃からの記憶しかないんです」
初めて聞く話だった。
「父が言うには事故に遭って強く頭を打ったらしいんですけど・・・もう綺麗さっぱり抜け落ちてるんです。ねえ・・・舞って一体、どういうことなんですか?」
「私がつけてたあだ名よ」
しれっと花蓮様は言う。
そして、満面の笑みを浮かべて言う。
「そして、なんと私は藍ちゃんのお母さんなのです!!!」
「・・・・・・・・・えええええーーーーー!!!???」
藍さんのものすごい叫び声が響き渡る。
朔月公に怒鳴られるのはもう・・・仕方がないとあきらめることにした。
西は愁さんの不安をよそに、非常に安定していた。
隊士達はあの騒ぎ以降の張り詰めた空気が少し緩んで、どっと疲れが出た様子。
体調を崩したりするものも出ている。
かく言う僕も・・・少し疲れていた。
「愁さん、どうしてるかなぁ・・・」
要塞の屋上で、手すりに頬杖をついてぼんやりつぶやくと無線がけたたましく鳴った。
『月岡伍長!大変です!!』
階下の隊士の声だった。
「どうした!?」
声の後にうめき声のようなものが聞こえた気がして、慌てて聞き返すが返事がない。
「おい!!!誰か応答しろ!!!」
「・・・無駄だよ」
背後にすごい殺気を感じ、全身をぞくっと寒気が襲う。
ゆっくり振り返る。
それは・・・
「風牙、久しぶりだね」
そう言ってにっこりと笑う、一夜さんの姿だった。