Ep20 不穏
西から一ノ瀬隊長が帰ってくるという。
それを告げる隊士が数人、先に帰還した。
藍さんはその隊士達に色々指示があるらしく、最近彼らの世話ばかり焼いている。
ただでさえ、再び行われる総隊長会議の準備なんかで大忙しなのに・・・
本当に良く働く人だな、と思う。
騰蛇隊舎で草薙さんと話していたら藍さんが見廻りから戻ってきた。
なんだか顔色が優れない。
呼びかけると一瞬間があって、はい?と返事をした。
これは・・・すごく疲れてるんじゃないだろうか?
「何かお手伝い出来ること、ありませんか?」
また少し間があって、笑顔を浮かべると、
「ありがとうございます、でも大丈夫ですから」
と答える。
「見廻り当番・・・少し減らすか?」
草薙さんが言う。
この前の約束通り、今回は伍長隊から藍さんが出席する、ということになっており、草薙さんが前回やっていた報告資料作成までやらせていることを少し気にしているらしい。
「それとも・・・やっぱり会議は俺が出るか?」
「いえいえ、出てみたいのは確かですし。お気持ちだけで」
藍さんの淡々とした返答には、いつもの元気がない。
「三日月さん?」
外から隊士の呼ぶ声がする。
はあい、と返事をしてまた隊舎を出て行く。
感情のない、事務的な感じ。
本当に・・・らしくない。
「愁!」
呼ぶ声がして、振り返ると一夜が立っていた。
「久しぶり!元気そうじゃん」
「ああ。・・・お前少し痩せたんちゃうか?」
「そうかなぁ」
また、総隊長会議が執り行われる。
墨族の制圧という課題についてはほぼ達成と言っていいだろう。
この成果を、孝志郎はどう見るだろう。
ただ手厳しい彼のことなので・・・やや憂鬱だ。
「お前はええなぁ。ほんま気ままにやってそうで」
そうでもないぜ?と言うが、その笑顔が憎たらしい。
「でも、剣護がよくやってくれるからねぇ」
「あいつも、お前の下でようやってるよなぁ」
「ねぇ」
「・・・自分で言うな、自分で」
でも本当にそう思うんだもん、と笑顔で言う。
「本当のとこ、あいつが隊長さんでもいいんじゃないかってたまに思うもの」
「お前・・・何言うてるんや!?」
びっくりして聞き返すと、けらけらと楽しそうに笑って言う。
「冗談冗談!さすがにまだ隠居はないよ」
「この隊士の配置のことですが・・・」
隊士Aが言う。
「控え室の警護は我々騰蛇の隊長隊に一任していただけませんか?」
「・・・別に構いませんけど」
「そんなに、面白くない顔なさらないでください」
隊士Bも窓の外を見ながら言う。
「一ノ瀬総隊長が、毎回はあなた一人に負担をかけるのは心苦しいからと、我々を派遣したのですから・・・そんなにプレッシャーに思わないでいただきたいものです」
そんなこと言われてもさ・・・
隊士Cが書棚の場所を聞く声が隣の部屋から聞こえる。
はい!と思わず不機嫌な声で返事をしてしまって、言う。
「資料は慣例になっている作り方がありますから・・・任せていただけます?」
あなた達が下手に手を出すと却って時間がかかる・・・とはさすがに言わなかったが。
「今回は、随分急じゃないか」
『そうか?』
静かな図書館に響く、孝志郎の声。
『藍から聞いてなかったか?』
「いや・・・聞いたのはつい数日前だ」
『そうか。あいつにしては珍しいな、隊長連への報告が遅れるなんて』
そう言いながら、機嫌のよさそうな声が無線から聞こえている。
「あの隊士達は、一体何なんだ?」
『何って・・・藍の助手だよ』
助手だと?
「“監視”・・・じゃないのか?」
あの隊士達が時々見せる、鋭い視線。
ただ手伝うためだけなら、あんなに何人もの隊士は必要ないはずだ。
今までは藍がずっと一人でやってきたことなのだから。
『監視!?』
大笑いする声。
『何であいつを監視する必要があるんだ?』
それは・・・確かにそうなんだが。
「藍のやつ、最近ちょっと変なんだ」
やたらと考え込んでいることが多い。
それに・・・ここにもあまり立ち寄らなくなった。
『男でも出来たんじゃねえの?』
「それは・・・ないだろう」
戸を開けると、三日月さんの姿があった。
そして、少し離れた背後には5〜6人のいかつい男達の姿。
ちょっと身構える私にすまなそうに言う。
「突然ごめんね」
「どうなさったんですか?自宅に訪ねてらっしゃるなんて珍しい・・・」
「実は・・・孝志郎が帰ってくるんだ」
硬直する。
「会ってあげて・・・くれる?」
前回はお座敷で少し顔を合わせただけだった。
「勿論・・・先日の着物のお礼も言いたいですし」
「いや、そういうんじゃなくてさ・・・」
言いよどんでいるが、彼女の言いたいことはよく分かる。
でも・・・
黙っていると、真面目な顔で言う。
「あの子・・・本気なんだわ」
「・・・私なんかとても・・・身分が違いすぎます」
分かってる、とつぶやく。
三日月さんは本当に優しい人だ。
だから私にこんな話をすることは、きっと身を裂かれるような気持ちだろう。
・・・ひどい人。
「孝志郎に言わされてるわけではないのよ?」
私の気持ちを察してか、三日月さんが言う。
「あの子色々と無茶なことばっかりしてるからさ、あなたがいてくれたら・・・って思うんだ、最近特にね」
「孝志郎様には・・・三日月さんだっていらっしゃるじゃないですか?」
「私じゃ駄目なの」
即答する。
「でも・・・私の気持ちは・・・」
ささやくような声で・・・本音を言ってしまう。
彼女になら、聞いて欲しいと思ったのだ。
寂しそうに笑う、三日月さん。
「そうよね!白蓮には・・・・・・やっぱりそうよね。ごめんね無理言って」
そう言って立ち去ろうとする後姿に向かって言った。
「本当に、急にどうなさったんですか!?」
不安に駆られる。
くるっと振り向いて、明るい声で言った。
「別に、どうもしないよ?」
じゃあね、と言うその笑顔はなんだかすごく無理しているみたいだった。
その夜、城下を歩いていると、言い争う声が聞こえた。
「いい加減に、立場というものをわきまえてください!」
男の声。
「あなたの行動に目を配ること、それが一ノ瀬隊長から我々に与えられた任務なんです!どういうことか、お分かりになりますね!?」
「・・・わかりません」
藍の声。
「一ノ瀬隊長のご意向、全く分かりかねます」
「でしたら、何故我々をまくような行動をされるんですか!?これで3度目ですよ?」
「それは・・・うざいからです」
冷たく淡々と言う藍の声。
「ご自宅までお送りします・・・って、それの一体どこが!?あなたの身の安全を考えて、我々は・・・」
「あんたらよか、藍はんの方がずっと強いんちゃう?」
出て行って言うと、みな一斉にこちらを見た。
「浅倉・・・隊長」
驚いた顔をする藍。
前半は何も聞かなかったふりをして、何気なく言う。
「孝志郎はんが家まで送れって言わはったんなら、僕が送ろか?そのほうがええやろ」
「しかし・・・浅倉隊長のお手を煩わせるようなことは・・・」
しどろもどろに言う隊士に、ぴしゃりと言う。
「別にええよ、暇やったし。ほな行こか、藍はん」
うん、と頷く藍。
歩く間、彼女はずっと無言だった。
どこから僕が聞いていたのか、気にしている様子。
「あいつら・・・何なん?」
黙ったままの藍。
「なぁ、あんな奴ら、前から騰蛇におった?何か見かけん顔みたいやったけど」
無言。
「孝志郎はんも藍はんには優しいなぁ。うらやましいわ」
無言。
ため息をつく。
昔からこういう奴だ。しゃべらないとなったら頑としてしゃべらない。
やがて、彼女の自宅に着く。
ありがとうございました、と小さく言うと、家に入っていく。
「なあ、藍はん!?」
足が止まった。
「何か悩んでることとかあったら聞くから、いつでも言ってな!」
しかし、藍は黙ったままぱたん、と戸を閉めた。
「伍長、あの・・・」
「何だ?」
言いにくそうに隊士の一人が言う。
「三日月さん・・・最近、変じゃないですか?」
「・・・あいつはもともと変だろ?」
そうかもしれませんけど・・・とつぶやく。
確かに、何かあるなという気はしていた。
数人帰ってきた隊長隊の隊士は、三日月といつも行動を共にしている様子。
だが、あいつのめんどくさそうな表情は、いつもと大差ない。
きっと、孝志郎様に何か、考えがあるんだろう。
あいつの行動には深く追及しない。
前からそうやってきたじゃないか。
だけど何故か・・・今回は妙に気がかりだった。
「藍いる?」
人が悩んでるっつうのに・・・
「・・・いませんけど?」
サボり?と楽しそうに笑う、一夜さん。
「いえ、昨夜が夜勤だったので今日は非番で」
「そっか。じゃあ来斗んとこかな?」
「いや」
そう言うと、不思議そうな顔をされた。
・・・俺も、全く同感だ。
「今日は家にいるって・・・言ってましたけど」
朱雀隊舎のそばで、愁さんを見かけた。
手を挙げて挨拶してくれる。
最近はこの人との仲も・・・割と好調だ。
・・・だけど。
「なんか、顔色悪くないですか?」
「そうか?」
どことなく元気がない。・・・藍さんと同じ。
「ここんとこ忙しかったからかも知らんなぁ」
「そうですか・・・総隊長会議前ですもんね」
「右京はん・・・あの」
ちょっと迷って、そのまま続けて言う。
「藍はん・・・何か言ってへんか?」
「・・・何をです?」
「いや・・・何をってことはないねんけど」
「気になることでも、あるんですか?」
「いや・・・そういうわけやなくて」
「聞かせてください!実は僕も・・・気になってて」
ちょっと優しい顔つきになる。
「あんたが訊いたら・・・あの子も答えるかもしれんなぁ」
僕の肩をぽんっと叩いて、探してみよか、と言った。
自宅におります・・・なんて言っときながら、何時間ももたず、手持ち無沙汰な気分で近くの小高い丘に向かった。
小さい頃、よくここで本を読んだっけ。
本ばっかり読むな!って、孝志郎に取り上げられないように、こっそり一人で。
本を開くが、内容が全く入ってこない。
・・・困ったなぁ。
せっかくの一人きりの時間なのに。
「藍?」
背後から声。
一夜だった。
「なーんだ、こんなとこにいたんだ。家だって聞いて行ったら留守だしさぁ、どこに消えちゃったんだろうと思ってたよ」
「・・・何か用なの?」
冷たい言い方するなよ、と笑う。
「最近元気ないらしいじゃない?」
「元気・・・別になくないけど」
「そうなの?」
「仕事中頑張って元気いっぱいを演じてるからね。普段はこんなもんよ?」
「だいたい元気ないないて言うけどなぁ、右京はん」
林の中を歩く。
愁さんに藍さんに元気がない、と言うと、少し呆れたように言った。
「あの子、何も無いときはずーっと黙って本読んでるような子やで?」
「でも・・・僕の知る限りでは・・・」
「仕事モードの時が、あんな元気なだけや」
そっか、と背後にしゃがみこむ気配。
「なんかみんながそう言うからさ。そんな藍も珍しいなって思って」
ちょっといらっとして、強い調子で言う。
「で、古泉隊長は仕事ほったらかしてちょっかい出しに来たわけですか?」
笑いながら、そうじゃないけど、とつぶやく。
ふと、頭上に重みを感じる。
私の頭に両手を乗せて、顎を乗っけて体重をかけているようだ。
「・・・重いんだけど」
文句を言ってみるが、いいじゃない、と楽しそうに笑う。
「元気ない藍なんてめったにないから、沢山触っとこうかなと思って」
「・・・意味わからないんですけど?」
「なんかご利益あるかもしんないじゃん」
林を抜けると、そこは小高い丘になっていた。
藍さんだ。
それと、あれは・・・
「・・・ご利益なんかありませんから、それどけてくださいます?」
「もう、冷たいなぁ」
冷たいも何も・・・と反論しようとした、その時。
一夜の腕が、首に巻きつく。
気づいたら、後ろから抱きしめられていた。
・・・げ。
「し、愁さん!!!帰りましょう!」
「え!?どうしたん?」
よかった、まだこの人見てなかったみたいだ。
「いいから!こっちはいいんですって!」
何、と寄り切られてしまい。
・・・固まっている。
「・・・右京はん?」
「・・・・・・はい?」
「・・・そやね。あんたの言うとおり、出直そか?」
「・・・・・・そ、そうですね!!!」
二人でぎこちなく笑いながら、こそっとその場を立ち去った。
一瞬、動けなくなった。
ふっと目を閉じる。
そして。
ぐっと両肘に力を込めて、思い切り後ろに向けて突いた。
「!」
小さくうめき声が上がる。
・・・その反応には私もびっくりしてしまった。
エルボーが一夜のみぞおちに命中。
・・・絶対避けると思ってたんだけど・・・
「・・・藍???」
痛さをこらえて体を折り曲げたまま、ちょっと涙目になっている。
だけど、ここで甘い顔するわけにはいかない。
「レディーに突然、失礼なんじゃないの!?」
大きく動揺している気持ちを落ち着けるように、大きな声で言った。
一夜はまだうずくまっていて、小声でちょっと待って・・・とつぶやく。
これは見事に・・・“入っちゃった”みたいだ。
「セクハラって言うんですよ!こういうの!!」
「・・・・・・セクハラ・・・ねえ」
立ち上がって、腕組みに仁王立ちで、もう一度言う。
「もう・・・冗談でも二度としないでよね、こういうこと!」
大きな歩幅でその場を立ち去る。
「・・・ごめん」
後ろから、小さな声が聞こえる。
「・・・びっくりさせちゃって」
「・・・・・・知ってると思うけど、私こういうの・・・慣れてないんだから。・・・あなたと違って」
まだ心臓が・・・ばくばくいっている。
「どうしたんだ一体?」
深刻な顔をした二人を交互に見ながら、呆れて言う。
「来斗さん・・・・・・」
右京が言いかけて、はぁ、と大きなため息をつく。
「・・・やっぱりいいです」
・・・変な奴。
「藍はん・・・なんか最近変やない?」
愁がつぶやく。
「どう変なんだ?」
「どうて・・・」
みんなから心配されて、本当にあいつは果報者だ。
実は俺もそう思う、と言うと、二人は目を輝かせた。
「変な隊士も付きまとってるしな」
「でしょ!?どうしたんでしょう一体!?」
ちょっとためらうように、愁が言う。
「孝志郎はんの気に障るようなことでもしたんかな・・・」
はっとする。
「あの二人って・・・仲良いんですよね?」
右京が言う。
「ああ。実の兄妹のようにな」
その割には・・・と言う。
「最近一ノ瀬隊長の話すると藍さん、ちょっと恐い顔するんですよ」
「・・・やっぱり、何かあったんかな?」
その可能性は非常に高いと思う。
だが・・・それは一体何だ?
非番の日に隊舎に現れるなんて珍しいことがあるものだ。
「三日月お前、家にいるっつってなかったか?」
黙って隅の椅子に腰掛けると、持っていた鞄から本を取り出す。
「お前なぁ・・・別に非番だからいいけど、遊ぶんなら帰れよ」
ケチ、とつぶやく。
「そういや、一夜さんに会ったか?」
どさっと本を落とす音。
「どした?」
「・・・どうもしません」
会ってませんけど、と小声で言う。
「いや、別にいいんだけどよ」
しばらく無言で事務仕事をする。
隊士が皆出払って、二人になる。
「草薙伍長?」
急に強い口調で声をかけてきて、びっくりして顔を上げる。
目の前には深刻な顔で、今にも泣き出しそうな表情の三日月。
大いに動揺する俺。
「どうした!?」
「もし一ノ瀬隊長が私をどうかするって言ったら、伍長はどうします?」
「どうかってお前・・・どうだよ?」
「・・・・・・クビにするとか、処罰するとか」
ますます意味が分からない。
「何かしたのかお前!?」
「何もしないですけど・・・質問に答えてください」
一呼吸おいて、落ち着いた口調でなだめるように言う。
「まず、理由を聞く」
黙って俺を見つめている。
「納得のいく理由があるんなら、従う。だが、そうじゃないなら俺は・・・相手が孝志郎様だろうが三公だろうが、お前に味方するぜ」
はっとした顔をして、うつむく。
「お前だって・・・そうしてくれるだろ?」
「はい!」
「だったら、変な心配しねーで今日はゆっくり休め!数日中には孝志郎様も帰ってきて、忙しくなるだろうが!?」
「はい!」
にっこり笑う三日月。
それは久々に見る、心からの笑顔のように思えた。
それはその二日後の夜だった。
朱雀隊舎を出て、城のすぐ傍を通ったとき。
争う声が聞こえた。
「貴様!!!」
刀の触れ合う音。
「無駄な抵抗をするな!こちらは5人、1人ではかなうまい!!」
「黙れ!」
心臓が高鳴る。
・・・藍の声。
「貴様・・・隊長の意に背くというのか!?」
「知らないわね、そんなこと」
現場に近づこうとするが・・・
信じたくなくて、近づけない。
「孝志郎があんたたちに何を命じたのかは知らないけど・・・私は、私のやり方でやらせてもらいます!彼に・・・・・・」
きっぱりと言い放たれた言葉は信じられないものだった。
「孝志郎に従う意志はありません」
おのれ、と一斉に飛び掛る音。
『スノウイング』!!!
青白い光がほとばしる。
はっとして現場に駆け寄る。
そこには、血の海に倒れる騰蛇隊士達の姿。
そしてその真ん中に立っていたのは・・・・・・
返り血を浴びた藍の姿だった。
「藍!!!」
僕の声に、一瞬体を硬直させたが、意を決したように振り向く。
「・・・愁」
無表情につぶやく。
「あんた・・・どういうつもりや!?」
「・・・見ての通りよ」
絶句した。
「孝志郎はんに・・・従わないて」
黙って僕を見つめている、藍。
何がどうなっているのか。
何故何も言ってくれないのか。
ずっと一緒にいた。
友達だと思っていたし、何もかも理解しあえていると思っていた。
それなのに・・・・・・
さっぱり分からないが・・・でも・・・
『螢惑』を構える。
「孝志郎はんの敵は・・・僕の敵や」
『烈火』
炎が剣の形を成す。
『氷花』を構える藍。
何も弁解しないというのか。
ならば・・・・・・仕方がない。本当に・・・。
「覚悟!」
切りかかる。
赤い光と青白い光がぶつかり合う。
ぐっと力をこめると、一度退く。
そして雄たけびをあげながら、切りかかっていく。
連続して繰り出す攻撃は素早い刀さばきで止められてしまう。
右腕に鋭い痛み。
一瞬の隙を突いた、藍の刀だった。
すうっと一筋血が流れる。
無論たいした傷ではない、だが。
「本気・・・なんやな」
「・・・・・・」
体の奥で、何かが切れるような気がした。
『火柱』!
藍の周囲に上がる火柱。
藍は『氷花』をかざして、氷のバリアを作る。
しかし、不意のことで、彼女を包む青白い光は薄いようだ。
「燃えろぉぉぉー!!!」
火柱の勢いが増す。
その勢いで大きく吹き飛ばされる藍。
地面に叩きつけられる寸前、受身をとって転がるように着地する。
『氷花』をクロスさせる。
『スノウストーム』!!!
青く冷たい氷の嵐。
『螢惑』で防御。
『スノウイング』!
細かい氷の粒子が弾丸のように、矢継ぎ早に飛んでくる。
それを避けながら間合いを詰めようと走る。
「!」
急に目の前に走り出る彼女の姿。
そして氷の弾丸に大きく吹き飛ばされる。
背中を地面で強く打つ。
『火箭』!
跳躍して上から攻撃する体勢の藍に炎の矢を放つ。
それは彼女の腹部に命中。
「うっ!!!」
うずくまるように着地する。
『火群』!
『スノウストーム』!
二つの大きな光がぶつかり合う。
お互いに一歩も譲らない。
「焼き尽くせ!」
「・・・させない!!」
一層両者の光が強くなると、大きな音がして二人とも後方に吹っ飛ばされる。
地面に叩きつけられる僕。
城壁に体を打ち付ける藍。
・・・しかし、まだ動く。
ふらふらしながら、『氷花』を構える。
『烈火』
炎の剣を構えた。
そして体勢を低くして、一気に切りかかる。
両者の剣がまた、交わって音を立てる。
・・・と思った瞬間。
「そこまで!」
僕の炎の剣を鉄の篭手で受け止め。
藍の『氷花』を自身の刀である『村正』で受け止める。
二人の間に入ったのは・・・孝志郎だった。
「落ち着け・・・二人とも」