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Ep2 十二神将隊(前編)

登場人物

橘右京・・・燕支国の王子。主人公。日本刀『水鏡』を所持。

紺青霞・・・紺青の第一王女。『オンブラ』によって黒猫の姿に。

騰蛇隊(都と四方の守護の監視)

伍長:草薙 龍介りょうすけ・・・サーベル『雷電』を所持。右京の世話役。

隊士:三日月 らん・・・隊士頭。日本刀『氷花』を所持。


翌朝は十二神将隊を始め、都の全ての軍が王宮前広場に集められた。

遠くを見渡せば、同じ軍服に同じ甲冑(かっちゅう)をまとった者で埋め尽くされている。

そして・・・手前のほうがおそらく十二神将隊。

それぞれ思い思いの装備に身を包んでいるが、一様にぎらぎらした緊張感に包まれている。列の後ろは大抵が大男だが、どういうわけか最前列の人は様々。

(とう)()隊と同じ。

草薙さんは難しい顔をして一番前に立っているが、(らん)さんはこっそり辺りを見回している。

目が合うと『がんばってくださいね』と声は出さずに口だけ動かしてウィンクした。

草薙さんが気づいて振り返り、「こら三日月っ」と焦ってつっこんでいる。

少しほっとした。昨日と変わらない風景だ。

静粛(せいしゅく)に」

重臣の声に皆が静まり、一斉に姿勢を正した。

「姫様方のお成りである」

トランペットの音が鳴り響くと、奥から一人。

第二皇女の霧江姫。

ボブのショートカットにふんわりした着物をアレンジしたようなドレスをまとっている。

目が大きくて意志の強そうな少女だ。

こちらへ向かって会釈をすると、広場に面した玉座に座る。

『皆さん』

奥からマイクの声がする。霞姫だ。

十二神将隊の人間はだいたい霞姫に起こったことは知っているらしいが、さすがに兵士たち全員の前で姿を晒すことは出来ないらしい。王の死についても同様。

『昨夜はご心配をかけました。こちらにいらっしゃる右京様のおかげで、何事もなく今日皆さんの前でお話することが出来ます』

一瞬ざわざわして、静まる。

『父は今臥せっていて、皆さんの前に、さまざまの命令を下すことが出来ません。よって、私と霧江の二人で父の意思を申し上げます』

霧江姫は立ち上がると、マイクも使わずよく通る声で話し始めた。

「今この紺青(こんじょう)は、何か訳の分からぬもの・・・怨霊のような、物の怪のようなものに狙われている。今のところ昨夜のような小規模の騒ぎで済んでいるが、今後のことは予断ならない。そこで、私どもとしては、十二神将隊を中心に警備を強化してもらいたいと考えている」

霧江姫は僕を促し隣に立たせると、続けて言った。

「ここにいらっしゃる燕支(えんじ)の王子で剣の達人であられる橘右京様に、この国を守ることについて、手助けをいただけることになった。それに伴って王家に伝わる『神器(ジンギ)』である『水鏡(みずかがみ)』を右京様に託し、十二神将隊と共に働いてもらうこととする」

王宮前広場は騒然となった。それに負けじと声を張り上げる。

「橘右京です。僕はまだこの国のことを全く存知あげません。しかし、この国のおかれている状況については十分理解しているつもりです。全身全霊の力でお役に立ちたい所存です。よろしくお願いします」

深々と頭を下げると、依然として大騒ぎの兵士たちを尻目に、霧江姫と奥へ戻った。


「三日月はん!?ちょっと!!!藍はん!?」

解散になってめいめい戻っていく隊士たちの中から声がする。

「あー浅倉たいちょ、おはようございます」

笑顔でしれっと言うと、両肩を力いっぱいつかんでぐんぐんゆすりながら言う。

「さっきの!あれ何や!?『水鏡』をあのぼっちゃんにて!?」

やっぱり・・・そこが引っかかったか。

見ると隊長伍長格の面々が私と浅倉隊長のやりとりをうかがっている。

「『水鏡』が右京さまを選んだんですよ」

「『水鏡』が・・・?」

「呼ぶ声がしたんですって・・・で行ってみたら姫の一大事。お助けしなければってところで、『水鏡』自ら封印を解いて現れたんですって」

「せやかて・・・」

肩を掴む手は緩まない。わなわなと震えながらうつむいて浅倉隊長は言う。

「藍はん昨日はなーんも言うてなかったやないか・・・・・・」

「だって、あの騒ぎの中ではそういう、はっきりしたことわからなかったんですもの」

体をひねって浅倉隊長の手から抜け出すと、着物のしわを直してきっぱり言う。

「想像でお話できるような、簡単な話じゃありませんからね。せめて隊長方には先にお話するべきだったと思わないではないですけど。姫のご指示でもありましたし」

「・・・・・・・」

ゆっくりと少しだけ顔を上げると、恨めしげに私の顔を見た。

「すいませんねぇ浅倉隊長!うちの三日月が」

肩越しに機嫌のよさそうな草薙伍長の声。

「右京にも後で挨拶に行かせますんで。なんせ昨日到着したばっかでこの騒ぎでしょ、大目に見てやってくださいよ」

ぽんぽん私の肩を叩きつつ言う。

・・・・・・まずい。

「へぇ〜草薙はん、随分と上から目線なんやねぇ」

「いーやぁ、そんなつもりはないんすけどねぇ、お気に障りましたか?」

「いや〜やっぱり騰蛇隊は違うんやなぁ、何でも知ってはるもんなぁ」

「やーそんなことないっすよ、本っ当お気に障ったんならすいませんねぇ」

「でも聞いたで。右京はんに会って早々手痛くやられたらしいやないの?」

「へぇ〜・・・そんなこと誰から聞かれたんです?」

「騰蛇壱番隊伍長様でそうなんやから、相当な手練なんやろうなぁ、右京はんて」

「えー?それなら浅倉隊長も一度お手合わせ願ったらいかがです?いい経験になると思いますよ〜、完全に叩きのめされるって言うのも、隊長ともなるとなかなかないことでしょうからねぇ」

「言ってくれるやないの」

だんだん2人の距離が近くなって一触即発(いっしょくそくはつ)(てい)を成してきた。

間に割って入って大声で言う。

「さぁて、みなさんお忙しいでしょうからそろそろ参りましょうか伍長!?浅倉隊長も今日こそは右京さま連れてご挨拶に参りますんで、久々に隊士衆が揃って色々達し事項もあるでしょうし、隊舎でお待ちください」

まだガン飛ばしあっている二人を引き離すように、草薙伍長を引きずって隊舎へ向かった。

また地面に目を落として、つぶやくのが遠くに聞こえる。

「橘・・・右京・・・・・・」


廊下で霧江姫が立ち止まり、深々と頭を下げる。

「どうもありがとうございましたっ」

「い、いえいえ僕は・・・行きがかり上こういう立場になっただけで・・・」


あの『水鏡』という刀。

あのとき僕を呼び寄せ、霞姫を救うために戦わせた張本人。

『神器』というものらしい。

それは不思議な力を持つ道具全般を指す。

武器として使用すると、使う人間の秘めた力を引き出し己を通じて解放させることで未知数のダメージを相手に与えることができる。

特殊な力を持つ職人によって作り出されるものだが、優れた『神器』になるかどうかはその職人の腕だけではなく、月の満ち欠けや、色々な現象に左右されるのだそうだ。

本当に優れた『神器』は古代に作られ綿々と受け継がれているが、それは遣う人間を選ぶのだという。


僕は『水鏡』に選ばれたのだ、と、昨夜目が覚めたときに言われた。

「『水鏡』があんなところに封印されてたなんて・・・」

まだ眠っていた霞姫の様子を心配そうに見守りながら、藍さんが言う。

「姫さまはご存知だったんでしょうけど、私たち全然知りませんでした」

興奮状態の草薙さんが続ける。

「あれは王家に伝わるものだからな!すごいぜやっぱりお前って!!」

静かにっと、人差し指を立てて草薙さんを諭す藍さん。

「普通は『神器』って、訓練を積まないと持ち上げることすら出来なかったりするんです。ようやく一人前の遣い手になっても、自分を受け入れてくれる『神器』に出会えないと、『神器』遣いにはなれませんし・・・」

「でも、何で僕だったんでしょうか・・・・・」

「私・・・あんまり信じてなかったんですけど・・・・・」

天井を見つめて少し考えた後、藍さんはつぶやくように言った。

「前に霞さまがおっしゃっていたことがあって。王が右京さまをお召しになったのは・・・その・・・・・・」

「なんだよ三日月、はっきり話せ!」

草薙さんにせかされてしぶしぶ続ける。

「『水鏡』のお告げだって・・・そんなことを」

「じゃあ、最初からそう言ってくださればよかったのに」

「さすがに半信半疑だったんですもの」

霞姫の声だった。起き上がって僕のベッドのほうに飛び移ると、強い口調で言った。

「あなたはお父さまのおっしゃるとおりの方でした。右京様、どうか・・・お力を貸してください。紺青と、紺青の民を救うために共に戦ってください」

霞姫は目を伏せてつぶやく。

「紺青の為に要にならなければならない私が不甲斐ないばかりに・・・」

「霞様・・・」

ここで起こっていることは、何も紺青国に限ったことではないのだろう。

オンブラの脅威を食い止めなければ、他の国を危険に晒すことにもなり兼ねない。

自分の生まれ故郷だってそうだ。

王子として生まれたからには、たくさんの人を守らなければらない。

霞姫だってきっと同じ気持ちで、今まで歯がゆい思いをしてきたのだ。

ならば。

何が出来るのかまったくわからないけど・・・

『いざっていうときには戦わなきゃならない・・・』

やってみよう。

そう思った。


「本当に何が出来るのか皆目見当もつきませんけど、よろしくお願いします」

にっこり笑って霧江姫がこちらこそ、と言う。

「十二神将隊の方々にご挨拶に行かなければなりませんね」

思えば昨日、たくさんの十二神将隊士が集まっていた。その中には騰蛇隊以外の人間も大勢いたに違いない。

「藍に案内させましょう!あの子は顔が広いですから」

「それには及びませんよ!」

後ろから走りよってくる懐かしい声。

玲央(れお)じゃないか!!!」

それは隣国常盤(ときわ)の王子だった、幼馴染の相馬(そうま)玲央。

金髪の短く刈った髪に、黒っぽい肌。大きな緑色の目。

昔の面影そのままだった。

違っているのはその服装だ。

濃紺の長いローブのようなものを身に着けている。

「久しぶりだな右京!元気そうじゃん!!」

「お前、国を出て紺青に仕官してるって噂には聞いてたけど・・・十二神将隊だったのか」

暴力が大嫌いで、兄貴と喧嘩になっても絶対に手を出さなかった玲央が。

「お知り合いなんですか、相馬隊長!」

霧江姫が嬉しそうに言う。それににっこり笑って答える玲央。

隊長って・・・

「お前・・・隊長なのか!?」

「そう、青龍五番隊長!普段は東の警護に当たっているから、お前の兄さん達にはよく会ってたんだけど・・・」

こそっと耳打ちする。

「お前・・・青龍隊のこと、あんまりよく思ってなかったんだろ?」

「・・・・・・兄さん達がそう言ってたのか?」

「いやそうじゃないんだけどさ。会いたいなーって言ったら、あんまりいい返事がもらえない雰囲気だったから・・・そうなんだろうなって」

真面目な顔になって、更に小声で尋ねる。

「紫苑さんのことか?」

「・・・・・それはもう、こうなった以上しばらく忘れることにするよ」

「・・・そっか」

霧江姫に向かって最上級のスマイルで玲央が言う。

「霧江さま、右京はこの相馬が責任を持って案内しますからご心配なく」

霧江姫もにっこり笑う。

「そう・・・それなら安心してお任せします。よろしくね」

仕官の期限は2年だったのに、玲央は戻って来なかった。

年の離れた兄と家督を争う構図になっていたのに、嫌気がさしたのだと思っていたけど。

・・・・・・これも理由の一つかもしれない。

その時、玲央の背後から大きな影が近づいてきた。

「玲央様、おいらもご挨拶よろしいですかね?」

「ああ、磨瑠。右京、こちらうちの伍長の井上磨瑠(まる)

一瞬、目を疑ってしまった。

それは大きな・・・猫か狐のような生き物だった。

全身グレーのふわふわした毛に覆われ、ずんぐりむっくりした手足をしており、狐のようなもこもことボリュームのあるしっぽがふわふわ揺れている。

その大きさにも驚いた。

180cmくらいある長身の玲央よりも背丈にして一回り大きい。2mか3mくらいある。

「いわゆる獣人ってやつなんです。よろしくね」

ひげをぴんと伸ばしてにっこりした。


隊舎の前に掲げられた木製の板には“朱雀”の文字。

表は騰蛇隊の隊舎と変わらない様子だが、隊士の数が圧倒的に少ない。

「そりゃそうだよ、大半は南方の警護に行ってるからね」

玲央はそう言いながら扉を開けた。

「ごめんくださーい」

「ありゃ、相馬隊長じゃないですか!?」

小柄な中国風の服の青年が走ってきた。

肩まである茶色の髪、前髪をオールバックにしている。

そして、何か探るような目でじっと僕の顔を見た。

「橘右京さまですか、初めまして。僕は月岡風牙(ふうが)と申します」

「右京こちら、朱雀隊伍長の風牙くんだよ。若く見えるけど僕や君より年上だから」

「そうなんですか・・・」

月岡伍長はちょっと赤くなりながら反論した。

「年上ったって相馬隊長より1つ上なだけですから!そんなとっつぁん坊やみたいな言い方しないでくださいよー、もう」

玲央は面白そうに月岡伍長を見て、尋ねる。

「愁さん、いる?」

「はい!奥でお待ちかねですよ」

「・・・ご機嫌はどう?」

「なんですかーその言い方!?いつも通りですよ?」

玲央が僕に向かって小声で言う。

「隊長の浅倉愁さん。ちょっと変わった人だけど・・・悪い人じゃないから」

・・・なんだよそれ。

奥の部屋は書斎のような作りになっていた。

そういえば、騰蛇隊の隊舎にもこういった部屋があるのかも知れないけど、隊長が不在だからか草薙さんも藍さんも手前の詰め所のようなところで仕事をしているようだった。

そこに座っていたのは、いたって普通の男の人だった。

黒い髪に、赤い瞳。端正な顔立ちで、鍛えられた体格ながら、華奢(きゃしゃ)な印象を受ける。

普通というより、ハンサムなくらいの人だ。

僕たちが入ると書類に目を通していたのをやめ、視線を上げるとわずかに微笑んだ。

「やぁ、玲央がここに訪ねてくるなんてえらい珍しいなぁ」

よく通る、やや低い声。

「お久しぶりです愁さん。お互い南と東に持ち場が分かれてますからね、なかなか都でお会いする機会もないですし」

浅倉隊長はじっとこちらを見た。

さっきの月岡伍長と同じ、目が探るように光る。

何もかも見透かしてやろうという意志が見て取れて、ちょっと身構えてしまった。

それにこの気迫。

やはり弐番隊の隊長ともなるとすごい力の持ち主のようだ。

「橘右京と申します」 

けん制に負けじとはっきり名乗る。

浅倉隊長は立ち上がって僕に近づき、右手を差し出す。

「朱雀弐番隊長、浅倉愁です。よろしゅう」

玲央も浅倉隊長のプレッシャーを感じたのか、空気を和ませようと色々説明をしてくれる。

「右京、愁さんは三日月さんの士官学校時代の同期なんだよ」

「・・・そうなんですか」

「まあ、三日月はんは大学校に進学してもうて十二神将隊に入隊するの遅かったから、今んところはまだ隊士って身分やけど。仕事で上下関係があってもプライベートはまぁ、友人やしねぇ」

「へぇ、僕、藍さんにはすごくお世話になってまして・・・勿論草薙さんが上司ですし色々面倒見てくださるんですけど、色々と気にかけてくださるので助かってます」

やっと少し空気が緩んで、ほっとしながら言ったその時。

ぴりっ・・・とまた、空気が凍るのがわかった。

「藍さんて」

「はい、三日月藍さんですよね?」

ちょっと引きつったような笑顔で言う。

「へぇ〜・・・・・・右京はんて、随分騰蛇隊になじんではるみたいやねぇ。三日月はんのこと下の名前で呼ぶやなんて。隊士でもめったにいてへんのに」

・・・・・・そうなのか。

「えっと・・・ほら愁さん、右京は全然まだ十二神将隊のこととか〜、士官学校のこととかね、全然知らないんで」

「『藍』でええて・・・本人が言うたん?」

「・・・は・・・はぁ、確か」

月岡さんが慌てて浅倉隊長を僕から引き離すと言った。

「浅倉隊長!そろそろミーティングのお時間です!」

すかさず玲央も言う。

「右京、愁さんも忙しいみたいだしそろそろお暇しようぜ!まだあと9つは回んないといけないしさ」

「あ・・・ああ。そうだな」

なんだかピリピリしている浅倉隊長に深々とお辞儀をして、部屋を出た。


「よくわからないけど・・・まずかったかな」

僕が言うと、玲央はその瞬間にふきだした。

「いやぁお前たいしたもんだよ!」

肩をばしんと叩くので何だよ、と聞くと

「あのNGワードをいきなり愁さんに言っちゃうんだもの」

とげらげら笑いながら言う。

十二神将隊の隊士は士官学校の同期というものをとても大切にするらしい。

中でも71期の結束は非常に固い。

「騰蛇隊長の孝志郎さん、隊士のミカちゃん、朱雀隊長の愁さん、これから会う勾陣(こうちん)四番隊長の一夜(いちや)さん、天空十二番隊長の来斗(らいと)さんは『五玉』と言ってね、士官学校の最優秀卒業生の名誉を5人で貰っちゃった人たちなんだ」

「最優秀・・・?」

「王から『恩賜の短剣』ていうのをもらえるんだけどさ」

玲央は何気なく懐から短剣を取り出す。

王の紋章が鞘に刻まれ、重黒く光っている柄には5つの小さな宝石が光っている。

つまり玲央も最優秀卒業生だった・・・というわけか。

「該当者なしとされた年は誰も貰えないこともあるらしくて、なかなかの栄誉なんだけどね。まあこの71期生っていうのが相当優秀だったらしいんだわ。本当のトップは孝志郎さんだったんだけど、ほかの4人も例年であれば確実にそれに該当する成績だったから、とか言って」

5つの宝石を指さす。

「この5つを5つの短剣に一個ずつ分けて授与したんだと」

「藍さ・・・・・・三日月さんて、そんなにすごい人だったんだ」

「あっはっは、藍さんでいいと思うよ!愁さんの前でだけ気をつければいいって!」

短剣をしまって、また笑いながら肩をどつく。

「その5人、すごい仲良しだったらしくてね。基本仲の良かった同期しかミカちゃんのこと『藍』って呼ばないんだよ。いつのまにかそうなってて、ただなんとなくそうなんだけど・・・愁さん」

なかなか笑いが止まらないらしい。

「妙にそこにこだわっててさ・・・僕が三日月だからミカちゃんって、あだ名つけても何にも言わないんだけど、藍って言葉にはまあ・・・あのキレっぷりを発揮しちゃって」

やっと収まってきて、ちょっと近づいて小声で言う。

「な?変わった人だろ?」

「・・・・・・確かに」

そんな話をしていたら次の隊舎に辿り着いた。

入り口に忍者のような格好の見張りが2人。

玲央の顔を見るなりすばやく敬礼をする。

「ご苦労様。隊長たちはいる?」

中は石の床でがらんとしたところだった。

奥には沢山の武器が掲げてある。

そして、部屋の隅のほうで黙々と何かを作っている隊士たち。

「ここは六合(りくごう)参番隊。『神器』の職人がいて、新しい『神器』を生み出すために日夜、研究を重ねているんだ」

静かな空間に玲央の声と、二人の足音が響き渡る。

「ここの隊長は双子でね、父上が優れた忍びであると共に優れた『神器』職人だったんだ。『神器』は遣う人間も選ぶけど、創りだす人間もまた修行を積んだ選ばれた人なんだよ」

奥行きの広い隊舎の奥で何かきらっと光った。

おかっぱ頭の少年が二人、磨き上げられた武器を手にしている。

『神器』の出来を確かめているようだ。

二人とも同じような忍者風の格好をしているが、腰に巻いた布が左右対称。

全体的に紺色っぽい服装の少年と、深緑っぽい服装の少年。

蒼玉(そうぎょく)碧玉(へきぎょく)、お客さんをお連れしたんだけど」

作業の手を休めることなく、紺色のほうが言った。

「『水鏡』の王子様か」

「そうだよ、興味あるんじゃない?」

「興味があるのは『水鏡』だな」

深緑の方が言った。

「『水鏡』ですか?」

「そうだ。その『神器』は眠りについて50年と言われている。先々代の王が若かりし頃、紺青を統一するために使用したと言われているが・・・」

深緑の方がこっちを向いて言う。

「お前・・・体はなんともないか?」

「いえ・・・どういう意味でしょうか?」

「優れた『神器』を扱うには、それなりの『神力』が必要だ。一度振るう毎に少しずつ、命をそぎ落としていくようなものだ・・・という」

紺色の方も手を止めて言う。

「そんなに・・・危険なものを、なぜこの国の人たちはいとも簡単に扱っているんです?」

「『神力(ジンリョク)』を高め『神器』との同調性を高めれば、身の危険は少なくなるからな。しかし、優れた『神器』は『神力』の弱い持ち主だと時に暴走するぞ」

「波長が合わぬ場合もな。次に何か起こるまでに訓練しておいたほうがよかろう」

「なに、『神器』のほうから選んだというのだから取って食うようなことはするまい」

玲央が少し考えて言った。

「右京が『水鏡』を使った・・・って聞いて最初驚いたんだよね。契約するには名前を呼ばなきゃならないし、力を解放する言葉も右京はなぜわかったんだろうって」

「名前は・・・なぜか口をついて出た」

3人はじっと聞いている。

「呪文みたいなやつは・・・誰だったかな、傍にいた誰かが教えてくれたんだ」

双子は顔を見合わせる。

「おそらく、涼風(すずかぜ)であろうな」

「おそらくな」

「涼風・・・さん?」

「あやつは古文書に明るい。その場に居合わせたとしたら、『水鏡』であることを見抜き、スペルを唱えることも出来るだろう」

「へぇ、さすが来斗さんだ」

玲央が、例の五玉の一人だよ、と言う。

「後で会うからお礼言ったほうがいいかもな」

「申し遅れたが、私は七枝(ななつえ)蒼玉」

紺色の方が言う。

「私は七枝(ななつえ)碧玉」

深緑の方が言う。

色で区別できるとわかりやすいな、と思ってしまった。


次に向かった先は剣道の道場のようなところだった。

「もし、右京が誰かに『神器』の扱いを習うとしたら」

玲央が扉を開けながら言う。

「この勾陣四番隊が適任じゃないかな」

「剣の達人が揃ってるからってことか?」

「そう、それにここの伍長の剣護さんが持ってる『蛍丸』は、『水鏡』の兄弟分て言い伝えられてるやつだからね」

勿論『水鏡』のほうが力は強いんだけどね、と言いながら辺りを見回す。

誰もいない。

そのまま進んでいくと奥の部屋の一番奥に台座があり、赤い屏風(びょうぶ)が立っている。

綺麗な男性が座っていた。

真っ白な髪。透き通るような白い肌、紅をさしたような赤い唇。青い瞳。

真っ白に近い薄藍色の着流しに、藤色の袴姿。

脇息(きょうそく)にもたれ煙管(きせる)を手にして、微笑んでいる。

その色素の薄さ儚さに、幽霊じゃないかと思ってしまった。

「やあ、橘右京様だね」

静かな声が響く。

「・・・あなたは?」

玲央が耳打ちする。

「ここの隊長で、古泉一夜さんだよ」

「はは、玲央がご案内してるのか。同郷だったかな?」

「いえ、隣国でして」

「それはそれは、慣れない土地に既知(きち)の人間がいるっていうのは頼もしいことだね」

ふっと笑って言う。

この人は確か『五玉』の一人、とか言っていた。

でも・・・全然殺気が感じられない。

この人も剣を握るんだろうか。

「聞いたけど」

少し身を起こしながら言う。

龍介(りょうすけ)をのしちゃったそうじゃない?」

「いえ・・・のしたと言うほどは・・・」

「あいつ奇襲仕掛けて、返り討ちにされちゃったんだろ?」

「右京は昔から剣術強かったですから!」

玲央が嬉しそうな顔をする。

「・・・・・・ちょっと残念だったな」

前髪をかきあげながら笑う。さらさらと指から流れる白い髪。

「・・・・・・・・・先にそれをやられちゃうとは」

左右の畳がざっ、と上がり、揃いの羽織を着た男たちが一斉に襲いかかってくる。

「なんだ!?」

「玲央下がれ!!!」

腰の刀を抜くと一閃。まずは先鋒の5人の武器を飛ばす。

次に身を縮めて上段に構えていた大男の懐に飛び込んで、柄でみぞおちを打つ。

バランスを崩した男に何人か巻き添えになり、倒れた。

その調子で次々に襲い掛かってくる男たちをなぎ倒していく。

襲い来る男たちの間から、古泉隊長の様子が見えた。

・・・笑っている。

さも愉快そうにこちらを観察していた。

つまりこれはこの人が仕掛けたことで、この男たちは勾陣隊の隊士なのだろう。

であるとすれば・・・最初の勘は当たり、峰打ちがいいところ。

30人ほどの隊士をノックアウトしたところで、低い声が響き渡った。

「よい、そこまで!」

見ると、古泉隊長の横に一人男が腕組みして立っていた。

青い髪に黒い瞳。ライダー風のジャンパーに黒いジーンズ姿。

大きな刀を背中に背負っている。

ぱちぱちと拍手をしながら古泉隊長が笑って言う。

「いやぁ、見事見事」

「見ろ、二番煎じになるだけだっていったろうが」

「そう言うけどさ、圧巻だったなぁ。剣護(けんご)の反対押し切ってやってみてよかったよ」

玲央は最初に僕が突き飛ばしてしりもちをついた格好のまま、ひどいじゃないですか!と叫ぶ。

この人・・・本当にどうかしてる。

「まあ、これも一興だろう?」

古泉隊長は立ち上がると、僕の目の前に立った。

「申し訳なかったね。少しだけテストさせてもらったよ」

「草薙さんがやられた・・・っていう噂じゃ足りなかったわけですか?」

「まあねぇ、やっぱりこの目でちゃんと確かめなくちゃ」

にっこり笑って言う。

テストなんてよく言うぜ・・・とつぶやく声のほうを向いて続けて言う。

「あっちに立ってるのがうちの伍長張ってる片桐剣護っていうんだけどね。今後君に『水鏡』の扱い方をレクチャーするよう仰せつかったんだよ」

片桐伍長、と紹介された男も近寄ってきて、深々と頭を下げた。

「突然こんなことをして申し訳なかった」

警戒心の解けないまま、そんなことないですよ、と言う。

「俺のことは剣護でいい。一夜のようなおかしなことはしない主義だから」

古泉隊長をにらんで、こちらに向き直り、口の端を上げて笑うと右手を差し出した。

「よろしく頼む」

僕もようやく少し緊張を解いて、握手をした。

その時気づいた。

古泉隊長の触れると切れそうな気。

この人・・・只者じゃない。


「今日のところはこれでおしまいにしましょう!」

入り口から聞きなれた声。思わず体の力が抜けた。

藍さんだ。

「古泉隊長何やってるんですか!?もう・・・何かやるんじゃないかと思ってたけど・・・」

「いやぁ藍が一緒じゃなくてよかったよ。この罠にかける前に気づいちゃうだろ?」

「一夜、お前少しは反省しろ・・・」

古泉隊長、剣護さん、藍さんのする仲良さそうな会話を、今日の疲労も忘れて聞いていた。

ちょっと厄介そうだけどなんだか穏やかな、不思議なひとときだった。


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